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主人公の一人である香月が出てきます。
次の章で、もう一人の神龍が出る予定になっていますので、いきなり場面がかわります。
心に刻まれた約束。
どれ程の時間がたとうとも色あせることのない想い。
どんなに姿形が変わろうとも分かるから、だからその時はどうか幸せに……。
第一章
日が傾き、薄らと夕闇が広がる森は不気味なほど静まり返っていた。三月に入り、日中は寒さも和らぎ暖かくなってきたが、夕闇に包まれた森の空気は肌に射すほどに冷たい。その森を青年が一人静かに歩いていた。
歳は十七か十八と言ったところだろうか。薄闇に浮かぶ顔は、人懐っこそうな顔立ちをしていたが、一目で人間ではないと解る黄金色に輝く瞳と、月の光を切り取ったかのような銀色の髪を持っていた。風に銀色の髪が揺れる。その風にのって胸が悪くなりそうな悪臭が鼻をつき、青年が顔をしかめた。
臭いの元を探ろうと首を巡らせると、巨木の根元に紺色のブレザーの制服を来た茶髪の女子高生が横たわっていた。虚ろに開かれた瞳は瞳孔が分からなくなるほど混濁し、制服の間から垣間見える肌には樹枝状に暗赤褐色の筋が走っていた。一目で生きていないと分かる。死後どれくらいたっているのかは分からないが、木の根が絡まった部分は白骨化さえしていた。
青年は顔を背けると巨木に目を向け、いつもは枝の上に静かに座っている友人の姿を探した。
「真樹、どこだ?」
膝を軽く曲げ、溜めを作った後に地面を蹴り高く跳躍すると、枝を蹴ってさらに高く跳躍する。巨木の頂上近くまで跳躍した青年は、癖のある長い白髪を風に揺らしながら枝の上に座る友人の姿を見つけ、ほっと胸を撫で下ろした。
もともと線が細く、儚げな友人の横顔が白い着流しを身にまとっている為に、今にも消えてしまいそうだ。
青年の胸に一瞬言い知れぬ不安がよぎる。
「真樹」
真樹と呼ばれた白髪の青年がゆっくりと振り返る。何の感情も読み取れない無表情な顔に、声をかけた青年が一瞬たじろいだように息を詰める。
「……真樹……何があったんだ?」
「香月……」
真樹が、何があったのか分からないと言うように、小さく首を傾げて白い自分の手を見下ろす。ゆっくりと目を瞬かせ、ぼんやりとした目が正気に戻り始めた頃、何かを思い出したのか手を強く握りしめ、身を丸めて小さく震えだした。
「真樹どうしたんだ?」
香月が真樹に手を伸ばした瞬間、目の前で震えていた青年の姿が木の葉になって掻き消えた。今まであった巨木も真樹と共に姿を消し、足場を失った香月が舞う木の葉と共に地面に落下していく。
「真樹?」
香月の呟きは誰にも届くことはなく、日没が迫る夕闇に儚く消えた。
次は、神龍が出てくる予定です。
場面が変わります。




