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異世界恋愛(短編作品)

初恋メビウス~先に好きになったのは私です~

掲載日:2026/10/05

今作はカクヨムの公式企画のお題「祝い」用に書きおろしたものになります。

本当は去年のハロウィーン用として出したかったんですけど、一年越しになっちゃいました。

 失くした記憶が戻ったのは突然だった。


(エヴェリー様……)


 それは、リアラが「ハザマ」と呼ばれるこの村に迷い込む直前の光景。四年間思い続けていた男性が、副団長からからかわれていた姿だ。


 逢魔が森の守護者、白狼騎士団団長であるケイラン・ソーン・エヴェリー。長い鳶色の髪。意志の強そうな眉と唇。骨折した影響で少しだけゆがんだ鼻でさえ彼の魅力を損なうことはなく、左頬に走る傷跡ですら彼の男らしさを強調しているに過ぎない。

 勇猛果敢な騎士でありながら、書類仕事をしている時の眼鏡姿は知的で近寄りがたく、遠くから眺めているだけで、うっとりとため息をこぼす令嬢も少なくない。


 三十代に入っても独身で、数多の縁談をことごとく断っているのは、長年想い続けている女性がいるとのもっぱらの噂。

 かの女性は二度と会えない場所にいるらしい。エヴェリーはその人だけを思い続けているから結婚しないのだという話はロマンティックでもあり、令嬢たちの間では公然の秘密であった。


 だからそっと憧れるだけ。

 苦しくても切なくても、彼は誰のものにもならないのだという安心感が自分の中にあったのだろう。


「ついに身を固めるのか」「待ち続けててよかったなぁ」


 風に乗って切れ切れに聞こえた声はそんな祝福とからかいの混じった言葉で、リアラは目の前が真っ暗になった。


 エヴェリーに初めて会ったのは十五歳も終わりの頃。それから四年間、憧れの人だと自分に言い聞かせていた気持ちが嘘だったことを、この時はじめて思い知った。


 はじめは憧れ。ほんのり淡い初恋だった。

 相手は十三歳も年上の大人の男だ。子どもの自分など相手にされるはずもない。


 そのことを十分に理解したうえで、リアラも周りの令嬢と同じように、素敵な男性であるエヴェリーを見て心をときめかせた。物語のヒーローに憧れるような、淡い想いだった。そのはずだった。


 でもそれは彼の人柄を知るうちにつれ、いつしか愛に代わっていたのだ。


 友人との他愛ない会話で求婚をしてくれる男性について想像しあったとき、本当はエヴェリーのことが思い浮かんだことは誰にも内緒だった。恋に夢を見すぎているお子様みたいだと思ったから。

 でも違う。

 夢でもなんでもなく、リアラは本当に、心の底から彼を慕っていたのだ。


(こんなこと、気づきたくなかったわ)


 漏れ聞こえた声から察するに、エヴェリーの想い人は生きていて、ようやく求婚する機会を得たのだろう。もしかしたら、想い人を忘れるくらい魅力的な女性に出会ったのか。


(どちらにせよ、綺麗な大人の女性よね)


 彼の隣に立つ美しい女性を思い浮かべるだけで、全身がばらばらに砕け散りそうな思いがした。きっと大勢の人から祝福されるだろう。


(でも今は、嘘でもおめでとうと言えそうにない)


 なんて情けない。

 己の心の醜さにショックを受け、鏡さえみたくなくなった。きっとひどい顔をしてるから。


 この国では、長女以外は婚姻可能な年齢が二十歳以上と決まっている。その昔、政略結婚に利用され、不幸になった少女たちがたくさんいたかららしい。

 でも今はその法律が恨めしかった。


(もし私が長女だったなら、十八歳になったその日にエヴェリー様に求婚したのに)


 冗談だと思われてもいい。はしたないと呆れられても、笑い飛ばされても構わない。

 それでも気持ちの区切りはつけられただろうから。

 でもリアラは三女で、年が明けなければ二十歳にならない。



 誰にもばれないようにこっそり泣いて泣いて泣き続け、リアラがやっと失恋を受け入れる決意をしたのは五日後のこと。

 エヴェリーの求婚は必ず成功するだろう。彼の愛を拒む女性なんているはずがない。

 だから自分は笑顔でそれを祝おうと決めた。

 愛しているからこそ、誰よりも彼の幸せを祝福するのだと。


(でも、どんな女性(ひと)なのかは、まだ見たくないな……)


 そんなことを考えていたからだろうか。祭りが始まるとほぼ同時に、リアラはハザマに引きずり込まれたのだった。


  ***


「リリ、どうした?」


 一緒に祭りを見ていたランが、急に黙り込んでしまったリアラの顔を訝し気にのぞき込んだ。リリとは、記憶喪失だったリアラにつけられた名前だ。違和感がなかったのは、本名と少し響きが似ていたからだったのかもしれない。


 ハザマと呼ばれるこの村は、この世でもあの世でもない世界だと言われている。


 秋の実りの月が終わり、空の月が一度満ちて欠けると年が明ける。その時死者の国も生者の国も、それどころか過去も未来も、すべての世界の境界が曖昧になるといわれている。

 そのため新年を祝う祭り(リッカリア)では、生きている人間が他の世界に連れ去られないよう守りの装束を着て篝火をたく。そうして一年の実りと無事を感謝すると同時に新年を祝うのだが、それでもまれに異界に迷い込むものがいる。


 ハザマはそんな迷い人が集まった村だった。


 どこにも所属しない、小さな小さな世界。

 帰れないまま子孫を残していくものもいれば、いつの間にか消えるものがいたりと様々で、リアラのように記憶を失った少女が迷い込むことくらい珍しくもなかった。


 リアラを見つけてくれたのは婆様と呼ばれる年配女性だ。その孫であるこの少年は、ここで生きていくために様々なことを教えてくれた恩人の一人だった。


「あのね、ラン」


 リアラは湧き出す記憶と胸の痛みに急いで蓋をして、弟のように思って来た少年にあえていたずらっぽい笑みを向ける。するとランが、今度は何を言い出すのだろう?とでも言うように少し身構えたのが分かり、ちょっと吹き出しそうになった。


 たとえ記憶があっても迷惑をかけたであろうお嬢様育ちのリアラは、火をつけることひとつできないくせに、なんでも自分でしようとしては迷惑をかけていた。その一番の被害者がランなのだ。


「なに? 祭りのダンスなら、あとで俺がちゃんと踊ってあげるけど?」


 だからいい子にしていなさいと言わんばかりの口調に、ふき出そうか膨れて見せるか一瞬迷い、リアラはあえて気取って鼻を鳴らしてみせた。


 年が明けたら十四歳になる少年は、この一年でぐんと背が伸びた。今ではリリと目線の高さがほとんど変わらないくらいだ。

 そんなことに気づいて、リアラの胸は言い知れぬ感情に満たされ、一瞬だけ失恋の痛みを忘れた。


(ランはいつだって私を救ってくれるのよね)


 そのありがたさを改めて考え、リアラはあえておどけた調子で口を開いた。


「ラン。私ね、年が明けたら二十一歳になるみたい」


 年が明けたら全員が同時にひとつ年をとる。

 しかし、突然自分は十七歳ではなく二十一歳になるのだと言ったリリに、ランは一瞬不思議そうな顔をした。


「何か思い出したのか?」


 ハッとしたように目をまんまるにするラン可愛くて、リアラはクスッと笑った。

 出会ってからずっとそばにいてくれたランは、リアラを絶対年上扱いしない。いつも、

「年がわからないから婆様は十六歳くらいだろうって言ってたけどさ、実は老けた十二歳だろ? いや。三歳児より手間がかかるから、実は図体だけ育った十歳かもしれないな」

 なんて、常々リアラに言い続けていたのだ。

 口は悪いけれど、面倒見がいいラン。リアラにとってランが、時折兄のようでもあったのは否定できなかった。


(でも、三歳どころか七歳も年上だったなんて。さすがに申し訳ない気持ちでいっぱいだわ)


 見知らぬ土地で、十六歳のリリとして過ごした一年。

 赤子のように周りに手を焼かせながら、炊事も洗濯はもちろん、掃除や畑仕事など様々なことをした。

 年の近い女の子たちとはコイバナにだって花を咲かせた。

 記憶がないリアラの答えはいつも同じ。


「絶対年上! がっちりしてて強くて、眼鏡をかけてて、あとは一人称は俺じゃなくて私ね」


 夢の中に出てくるのは、夢の世界にしかいないであろう程完璧な理想の男性。

 それが分かっているから女の子たちは、好き勝手に夢の王子様像を言ってはキャッキャと盛り上がっていた。男の子達には白い目で見られたが、向こうは向こうでセクシーでかわいい女の子像を語っていたのでお互い様だ。


 でも夢は夢。

 現実の中でちらほらと恋人になるものが増え、結婚して家庭を築いた友もいる。

 誰もがいつ消えるか分からないから、一瞬一瞬が大事な世界なのだ。


「うん、思い出した。やっぱり理想の人は年上だったわ」


 実際に恋をしていたとは言わない。話したらまだ泣いてしまいそうだから。


 しかしそう言ったリアラに、今度はランが「フン」と鼻を鳴らした。


「嫁が年上のほうが夫婦はうまくいくって婆様も言ってたぜ?」


 ランは年上の女の子の誰かが好きなのだろう。あえて誰とは聞かないが、彼の好みとリアラの理想は別だ。


「別にいいじゃない。私の好みはそうだってだけなんだもの」


 そう言ってケラケラ笑う姿は、リアラ・ウィンスという令嬢だったころにはありえないものだ。


「は? リリが令嬢?」


 ほらね、ランだってびっくりしてる。


 過去をすべて笑い話にしながら祭りを冷かして歩いていると、ふいにリアラの足元に生ぬるい風がまとわりついた。

 その瞬間、自分が元の場所に戻るのだと本能的に悟って焦る。


「ラン! 私、戻るみたい」


 思わず半泣きになったのは、何もかもが突然だったせいだ。

 いずれそういう日が来るかもとは聞いていた。わかったつもりでもいた。でも実際にそうなるのとは気持ちが全然違う。


 一歩も動けなくなったリアラに、ランが混乱した表情を浮かべた後、意を決したようにギュッと抱きしめてくる。


「リリみたいなおっちょこちょい、令嬢なんて難しいことが出来るわけないだろ。ここにいればいい。どこにも行くな!」


「それはさすがにひどくない?」


 行くなと言ってくれたことが嬉しくて、そっと彼を抱き返そうとした腕は空をかいた。


 篝火に照らされた明るい夜は、一瞬にして青空に変わったのだ。


  ***


「リアラ嬢、もうお身体は大丈夫ですか?」

「はい、エヴェリー様。おかげさまで良好ですわ」


 元の世界に戻って三日がたった。

 逢魔が森のほとりで見つけてくれたのは、一番会いたくて、でも会いたくなかった騎士団長その人だ。


 リアラが消えて七日がたっていたが、大騒ぎにならなかったのは、彼が「一年以内に絶対戻ってくる」と、周りを説得したからだという。


 そう。リアラの一年は、元の世界ではたった七日でしかなかった。


 守護者である彼は、時空の歪みに気づきやすい。リアラが戻るためのほころびを必死に探してくれたのだと聞き、今日はその礼を言いに来たのだった。


(私が消えて十日しかたってないなんて変な感じ)


 一年たったなら、彼はすでに既婚だと思っていた。結婚式を見ずに済んでよかったと、卑怯なことも考えてしまった。

 でも使用人たちの噂では、彼はまだ求婚もしてないらしい。



「私……エヴェリー様のことがずっと好きでした」


 一通り礼と、どこで過ごしていたかを話していたリアラの口から、ふいに気持ちが零れた。自分でも驚いたが、彼も虚を突かれたように目を丸くする。

 普段の冷静な姿とは違う素の姿がおかしくて苦しくて愛おしくて、リアラは涙をこらえて静かに微笑んだ。


 こことは違う世界ですべての記憶をなくしていた一年間でさえ、理想の男性として語っていた。目の前にいるのは、空想の中にしかいないと思っていた男性(ひと)。

 記憶喪失だった名残からだろうか。理想そのものの姿が目の前にあることが不思議にすら感じてしまう。


 十三歳も年上で、結婚も控えているはずの男性。

 今日はなぜか眼鏡をかけているが、この後すぐ書類仕事が控えているのだろう。

 後ろでくくられた鳶色の髪。意志の強そうな眉が今は少し下がり、唇が少し開いている。骨折した影響で少しだけゆがんだ鼻も左頬に走る傷跡ですら素敵に思い、手を伸ばして指で触れてみたいと思ってしまう。


 十五歳の時、一目で恋に落ちた。

 たくましい体躯、低い声。なのに無骨に見えない優雅な所作。


 出会ったときから大人の男だった。年の離れた娘など絶対相手にしてくれない。

 でもそれがよくて、なのに苦しくて。遠くから見つめただ思ってるだけでいいと決めていた人。


 その強すぎる初恋を、ただ一度だと思える愛を今、何も考えずにぽろりとこぼしてしまったのだ。

 とはいえ、これくらいのことは彼も簡単にいなしてしまうだろう。それでいい。いや、そうして欲しい。冗談だと笑ってくれたらそれでいい。


(だって私は、この恋を終わらせるために帰って来たんだから)


 ここへ戻ってきたことに意味があるのなら、最愛の人を心から祝福するためだと信じたい。もうお相手を見るのがつらいなんて思わない。


(見ててね、ラン。おっちょこちょいでも、それくらいはちゃんとやってみせるわ)


 遠い世界にいる家族にそう語りかけると、目の前でエヴェリーは落ち着かなげに顎を撫でるので、リアラは首をかしげる。すると口を開いた彼が不思議なことを言うので驚いた。


「それは、過去形ですか?」

「はい?」


 どういう意味だろう?


 意味が分からず後ろに控えていた侍女に視線を向けても、さっきまで焦ったような雰囲気だった彼女も不思議そうだ。次いでなぜか団長の後ろに控えている副団長に視線を向けると、なぜかそっぽを向かれてしまった。意味が分からない。


 戸惑いつつも暇を告げようとしたリアラを、エヴェリーは焦ったように引き留めた。


「リアラ嬢は二十歳ではなく、ハザマで二十一になった。それで間違いないですね?」

「……はい」


 一年を飛び越えてしまったことを母は嘆いたが、エヴェリーはとても肯定的に受け入れてくれた。その経験は得難いものだと、傷物令嬢になんてなっていないのだと両親に言ってくれたのも彼だ。おかげで父は納得し満足そうだったが、母は今日も泣きそうな顔だった。


(二十歳になったら進める予定の婚約話があったらしいけど、今はそんな気になれないしね)


「それが、何か?」


 母の顔を思い出しながら問うと、エヴェリーは意を決したような顔をして小さく唇を動かした。


「……ってたんです」

「え?」


 何かつぶやいた声が聞こえず戸惑うと、ふいにエヴェリーが立ち上がりリアラのそばに跪くのでギョッとする。


「え、エヴェリー様?」

「ランだ」

「え?」


 たしかに彼の名前はケイラン・ソーン・エヴェリーで、副団長だけは彼をランと呼んでいる。リアラにもそう呼べと言ってるのだろうかと戸惑ったのは、リアラにとってのランは一人だけだからだ。


 しかし、リアラの顔を覗き込むエヴェリーの顔があまりにも真剣で、なにがなんだか分からないまでも、彼の希望を叶えたい気持ちが沸き上がる。リアラは胸の痛みをこらえながら、「ラン様?」と囁いた。


 なぜ今なのかわからない。

 何も知らなかったら、自分が求婚されるものだと思い込んだだろう。


 村娘の時とは違い、異性と二人きりにはなれないから、侍女も副団長もそばにいる。にもかかわらず、急に世界に二人だけになったような気持ちになって、リアラの目に涙が浮かんだ。


 揶揄(からか)われているのだと思った。

 これは、気持ちを打ち明けた罰だろうか。

 それとも不思議な経験をしたリアラの気持ちを楽にするための冗談なのだろうか。


 こちらを見上げる美しい騎士の姿。それは夢にまで見た光景だが、正直なところ残酷だと思った。


 それでもありったけの矜持をかき集めて零れかけた涙を止めると、エヴェリーがリアラの手を取り薬指にそっと口づけるので心臓が止まりそうになる。


 そこは求婚者のみが口づける場所だ!


「エヴェリー様、なにを……」

「ランだよ、リアラ」


 バクバクと心臓の音しか聞こえない世界で、小さく口笛が聞こえた気がする。

 その音をきっかけにエヴェリーが眼鏡を取り、くしゃっと髪を乱した。その顔をリアラは戸惑ったまま見つめる。

 その顔は誰かに似ているような気がするが、それが誰なのか分からない。というより、口づけられた薬指が熱くて心臓がうるさくて、何かを考えるなんて無理だった。


「あの、ラン、様?」


 とりあえず彼希望の呼び方をあえぐように口にするが、彼はそうじゃないと首を振って苦笑した。


「分からないよな。うん。リリがすぐに気づくなんて有り得ないって知ってたさ」


(今、リリって呼んだ?)


 その名前だけは誰にも話していなかったはず!

 でも普段とは違う口調で「リリ」と言ったエヴェリーを見てみると、つい数日前まで一緒に過ごしていた少年の姿が重なった。


「うそ……。まさかラン、なの?」

「そうだよ、リリ!」

「でも髪の色が違うわ」


 ランは金髪だった。


「年を経るごとに濃くなっていっただけ。珍しいことじゃないだろ」


 たしかにそうだ。


「ランは私より七つも年下だったわ」

「俺も元の世界に帰ったら、リリが生まれて間もない世界だっただけ」

「元の世界?」


 彼は婆様の孫だったはず。


「俺もリリと同じ。十歳の時に、記憶をなくした状態で婆様に拾われたんだ」


 混乱するリアラに、エヴェリー、いやランは、何度も何度も説明を繰り返した。


 リリが消えた後、同じように元の世界に帰ったこと。それがリアラと同じ世界だとは知らなかったこと。


 初めて会ったときからリリのことが好きで、世界を超えても忘れられなかったこと。


 しかし大人になり、さすがに初恋をあきらめ縁談を受けようかと考えていたころ、まだ十五歳だったリアラと出会ったこと。


「実はすぐ、リリの御父上に婚約の打診をしたんだ」

「っ!」


 しかし、今は自分のほうがはるかに年上であることや、法律の問題で三女であるリアラには二十歳になるまで求婚はできないこともあり、気持ちを確認できる年になるまでずっと待っていたこと。

 でも歴史を変えたくなくて、知っている秘密をリアラには内緒にし続けたこと。


「そして、リリの理想に合うよう、ずっと頑張ってきたんだけど……」


 小さな声で、実はリリは違う男を思っていたのではと不安だったと言われ、今度こそリアラは泣き崩れた。

 彼が長年想ってきた相手は、他の誰でもなくリアラだったのだ。


「ラン。ラン!」


 それしか言えなくなったリアラの肩をエヴェリーが撫で続ける。それが、彼がランだった時と同じで、どうにも涙が止まらなくない。

 「急に消えてごめんなさい」と謝ると、「ちょっと迷子になっただけだろ?」と、昔のように言われ、リアラはにっこり微笑んだ。


「ラン、大好きよ」


 そう言ったリアラに真っ赤になるエヴェリーは、確かにランだった。

 弟のように兄のように思っていた男の子が、一瞬にして理想の男性の姿になり、胸の奥がぎゅっと痛む。


「好き……好きです。過去形なんかじゃない。エヴェリー様。ずっとずっと好きでした」

「う、うん。分かったから。俺も好きだから泣かないでくれ」

「俺じゃなくて私って言ってぇ」

「――お嬢様の仰せのままに」


 少し困ったようなエヴェリーの低い声と、子どもの頃と同じ温かいまなざしにふれ、リリの気持ちとリアラの気持ちがぴったり重なる。エヴェリーからハザマで別れたときのように抱きしめられ、リアラは今度こそきつく彼を抱き返した。



 その後、どちらが先に好きになったのかで少しだけ喧嘩になったが、どちらでもいいかということで落ち着く。

 どちらが先でも、二人が結ばれる運命だったことには変わりはないのだから。


終

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― 新着の感想 ―
最終的に、兄のような弟のような理想の男性ってことですね! まさに恋の最終形態……!(どういうことだ) おかしな感想を書いてしまいましたが、なんていうか凄く良かったんだけど上手く言葉になりませんでした…
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