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ゼクス魔導工房の異世界ギャンブル配信 ―異世界をギャンブル漬けにする救済の物語―  作者: ituswa


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第4話:拒絶された銀貨

王都の喧騒を遠くに臨む、静寂に包まれたゼクスの工房。その内部は、壁一面を埋め尽くす大小様々な水晶板が放つ淡い青光に満たされていた。部屋の中央に据えられた椅子に深く腰掛けたゼクスは、身を乗り出すようにして、広場に設置した運命分配機から送られてくる映像に釘付けになっていた。


「さあ、見せてよ。自分の実力や血筋に絶対の自信を持っている魔導師たちが、不確定な要素にどこまで振り回されるのかをね」


ゼクスの声は、熱を帯びていた。そこには対象を突き放すような冷淡さはない。むしろ、自ら作り上げた運命の揺らぎが、この王都の既存の秩序をいかに浸食していくのかを見届けようとする、純粋で危うい好奇心が溢れている。


水晶板が映し出す中央広場は、昨日エリクサーが排出されたという衝撃が尾を引いており、異様な熱気に包まれていた。今日の主役は、高価なローブを纏い、余裕の表情で銀貨の袋を揺らす魔導師たちだ。彼らは共通して、金さえ積めばこの世の全てを制御できると信じて疑わない、特権階級特有の傲慢さをその立ち居振る舞いに滲ませていた。


ゼクスは、運命分配機の正面に陣取った一人の若手魔導師に注目した。男は周囲の平民たちを遮るようにして一歩前に出ると、最初の一枚となる銀貨をスロットへ叩き込み、迷いなくレバーを回した。


ガコン、という重い金属の駆動音が、広場に響き渡る。


取り出し口から転がり出たのは、何の魔力も宿っていない、ただの乾燥してひび割れた枯れ枝だった。周囲から漏れる失笑。男の頬が屈辱で赤く染まるのが、高精細な映像越しでもはっきりと見て取れた。男はすぐに次の銀貨を、より強い力でスロットにねじ込んだ。


「運の良し悪しなんて、その程度のプライドじゃどうにもならないんだ。でも、確率は嘘をつかないよ」


ゼクスはモニターに顔を寄せた。次に男が引き当てたのは、透き通るような青色の液体が満たされた小瓶だった。高品質マナポーション。3等の当たりだ。銀貨1枚の投資に対して、市場価値で銀貨2枚分。この確かな利益が、魔導師の理性を急速に蝕んでいく。


男はそれから、取り憑かれたようにレバーを回し続けた。


ゼクスの手元に流れてくる排出ログには、男が積み上げた試行の残骸が淡々と記録されていく。銀貨10枚、20枚……。男の足元には、24パーセントという設定された確率を証明するかのように、24本に及ぶマナポーションの瓶が並んでいた。同時に、その3倍近い数のゴミも足元に築かれている。商売として見れば、彼は手元の資産を倍に増やしている計算だ。だが、彼の目的はそんな端金ではない。彼は2等以上の装備品を、あるいはその先の伝説を求め、血走った目で金入れの底を掻き回した。


「そう、もっと熱くなってよ。君たちのプライドが、たかが銀の箱に否定される瞬間が見たいんだ」


やがて、その男が100枚目の銀貨を使い切った時、広場全体の空気が一変した。


男は苛立ちを露わにしながら、予備の金入れから101枚目の銀貨を取り出し、投入口へ押し込もうとした。だが、その瞬間、運命分配機からこれまで一度も聞いたことがないような、鋭く不快な警告音が鳴り響いた。


投入口のシャッターが物理的にロックされ、男の指を激しく弾き飛ばす。


「なんだ、どうした! 故障か!? 金ならまだあるぞ、このクソ箱め!」


男の怒声が広場に響き渡るが、分配機の反応は無慈悲だった。上部の水晶板に、これまで一度も告知されていなかった、初めて目にする無機質なメッセージが浮かび上がる。


個人の運命選別は一日につき100回までを上限とする


「おっと……。そこでおしまいだ」


ゼクスは椅子を回転させ、画面に向かって満足げな笑みを浮かべた。

100回。それは、富裕層が資本の暴力に任せて、当たりが出るまで強引に試行回数を稼ぎ続けることを封じるための、シンプルで残酷な境界線だ。


「24本のポーションと、76個のゴミ。銀貨100枚を溶かして手に入れたのは、結局のところ、君たちエリートにとってはあってもなくても困らない薬だけだったね。ねえ、魔導師先生。君たちの誇る魔力で、その上限という名の壁を突破してみせてよ」


ゼクスはモニターを見つめ、広場に漂う重苦しい沈黙を、全身の毛穴で吸い込むようにして味わっていた。100回の壁に阻まれた金持ち。その絶望が波及し、広場は異様な静寂に包まれている。


ゼクスの瞳は、その静寂の先に必ず現れるであろう真の運命の予兆を捉えようとして、爛々と輝いていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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