第15話:価値の再定義
「皆さん、前回の美容品祭りは少々、趣味に寄り添いすぎたと反省しておりましてね。綺麗になるのも素敵ですが、今回はもっと、こう……生存に直結する生々しい実益をご用意しました。今回から新たに参加される国の方々もいらっしゃるようですし、挨拶代わりのスペシャルな内容ですよ」
世界各地に設置された受像水晶の群れ。その中心に映るゼクスは、優雅に脚を組み、レンズの向こう側にいる数百万の観衆を挑発するように微笑んだ。
「まずは二等、魔導ろ過機。泥水、下水、魔獣の体液に至るまで、この回路を通せば聖水に勝る純度へと変換されます。……まあ、元が汚れているほど生成に時間がかかるのが玉に瑕ですが、それでも水不足に悩む辺境の村が潤いの都に変わるには十分な性能でしょう?」
ゼクスが指を鳴らすと、二等景品の映像が切り替わり、次なる「劇薬」が提示された。
「続いて一等、魔獣肉解毒装置。……とは言っても、文明的な皆さんは魔物なんて野蛮な生き物、食べられるなんて思ってもいないでしょうが」
ゼクスは手元のテーブルに置かれた、黄金色に焼き上がった分厚い肉塊をフォークで突き刺した。滴り落ちる肉汁が受像水晶越しにも鮮明に映し出される。
「オークのような種族は、本来なら強烈な毒素のせいで口にすることすら叶いませんが、実は身そのものは至高の食材なんですよ。私の装置を通せば、ほら」
ゼクスは一切の躊躇なく、その肉を口へと運んだ。咀嚼するたびに溢れる脂、鼻に抜ける香ばしい薫り。彼が至福の表情で喉を鳴らすと、世界中の広場で「食」への根源的な渇望が爆発した。この装置が設置された場所は、もはや単なる広場ではない。無限の食糧を生産する「聖域」へと変貌するのだ。
「そして、今回の目玉。特等、魔石再充填機です」
その単語が出た瞬間、ヴァルガ帝国の軍部、アステリアの王宮、フェルディナの商館――知性ある指導者たちの心臓が、揃って跳ね上がった。
「皆さんは、空になった魔石をどうしていますか? 重いだけのゴミとして捨てているでしょう? ですが、この装置は人間の魔力を魔石へと流し込み、再び動力として固定化します。魔石の品質によって最大容量は変動しますが、これまで空になれば廃棄するしかなかった魔石が、何度でも再利用可能になる。……資源の有限性という鎖から、皆さんを解放してあげましょう」
ゼクスの配信が終了した瞬間、世界は静寂を置き去りにして発狂した。
アステリア王宮では、シルヴェルド公爵が国王から投げつけられた命令書を眺め、頭を抱えていた。
「公爵、何を呆けている! 今すぐあの装置を、特に一等と特等を我が国で確保せよ! 魔獣肉が食糧になり、魔石が再利用可能になるだと!? それを他国に独占されれば、我が国の国力は数日で相対的に地に落ちるぞ!」
一方、ヴァルガ帝国では。
「銀貨をかき集めろ! これは軍事予算の全額投入だ! 帝都の広場に設置されたあの筐体から特等が出るまで、一秒たりとも列を絶やすな!」
将軍たちが血走った眼で叫び、軍団規模の行列が形成されつつあった。
これまでは「個人の幸運」を競う余興だった。
だが、ゼクスが提示した景品は、もはや一個人の手に余る。
水、食糧、そしてエネルギー。国家を形作る三つの理を、彼は「確率」という戦場に放り出したのだ。
ゼクスは工房のモニターに映し出される、各国の混乱と熱狂を眺めながら、満足げに背を向けた。
「ああ、いい。実にいいですよ。国を挙げてのギャンブル。自分たちの運命を銀貨一枚に委ねて、必死に汗を流している。……さあ、世界を富ませる機械を手にするのは、慈悲深き賢王でしょうか。それとも、小銭を握りしめた名もなき浮浪者でしょうか。結果が楽しみで、脳が震えます」
工房の外では、最初の銀貨が投入される鈍い音が響き始めた。
世界が昨日までの形を失い、ゼクスの引いた新たな乱数へと書き換えられていく。
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