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ゼクス魔導工房の異世界ギャンブル配信 ―異世界をギャンブル漬けにする救済の物語―  作者: ituswa


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第14話:境界なき運命と連動する銀の箱

アステリア王都の港は、かつてないほど多国籍な色に染まっていた。

停泊しているのは略奪を目論む海賊船ではない。ヴァルガ帝国の紋章を刻んだ魔導戦艦、セレスティア教皇国の清廉な巡礼船、そしてフェルディナ商盟の巨大な商船。いずれもアステリアとは長年友好関係にある国々の使節団だ。


表向きは友好を深めるための親善訪問。だが、彼らが上陸と同時に真っ先に向かったのは、王宮でも迎賓館でもなく、人々の欲望が渦巻く中央広場だった。


王宮の謁見の間は、重苦しい沈黙に支配されている。

上座に座るアステリア王と、その傍らに控えるシルヴェルド公爵。彼らの前には、三カ国の特使たちがそれぞれの正論を携えて立ちはだかっていた。


「アステリア王よ。我がヴァルガ帝国は長年、貴国の魔導技術の発展を支えてきた。今こそ、その恩恵を大陸全土の安定のために分かつ時ではないか」


帝国の将軍が、重厚な鎧を鳴らして一歩前に出る。


「美と若さは神から与えられた恩恵です。それを一国で独占するのは教義に反します。我が教皇国が正しく管理すべきなのです」


教皇国の枢機卿が、慈愛に満ちた微笑みの裏に冷徹な支配欲を隠して告げる。


「フェルディナ商盟は、この技術を適正な市場価格で世界へ流通させる準備があります。独占は共倒れを招くだけですよ」


商盟の執政官が、算盤を弾くような冷たい視線で指摘した。


彼らは友好国として、条約と交渉という名の包囲網を築き、ゼクスの技術を供出させようとしている。アステリアの王家にとっては、武力行使よりも質が悪い。断れば国際的な孤立を招き、受け入れれば国益を根こそぎ奪われる。


その膠着した場に、場違いなほどの軽やかさで一人の男が現れた。


「随分と賑やかな国際会議ですね。私の工房に、これほど多くの顧客が押し寄せるとは」


ゼクスだ。彼は王や特使たちを恐れる様子もなく、部屋の中心へと歩み出た。


「無礼者! ここをどこだと思っている!」


帝国の武官が叫ぶが、ゼクスは鼻で笑い、特使たちの顔を一人ずつ眺めた。


「皆さんの要求は理解しました。ですが、技術の提供は不可能です。レシピはすでに公開しましたが、商会の結果を見れば明白でしょう。私が直接練り上げなければ、あの奇跡は再現できない。そして、私の体は一つしかない。各国の要望に物理的に応える術はありません」


「ならば、お前自身を我が帝国へ迎えよう。それ相応の待遇を約束する」


将軍の提案に、教皇国と商盟の特使が同時に鋭い視線を向けた。ゼクスという資産がどこか一国に渡る。それは、残りの国々にとって敗北を意味する。一国がゼクスを独占しようとすれば、翌日には残りの二カ国が連合を組んでその国の国境を叩くだろう。


ゼクスという存在は、もはや単なる魔導具師ではなく、各国のパワーバランスを保つための技術的な核へと変貌していた。


「私がどこかの国へ行けば、世界は火の海になる。それは皆さんも望んでいないはずだ。だからこそ、公平な方法を提案しましょう」


ゼクスは懐から一枚の銀貨を取り出し、高く放り投げた。


「私の技術を欲するなら、国境も権威も一度忘れてください。各国の帝都や商都など、指定した土地の一部を私に譲渡する意思があるならば、そこへガチャ屋を設置しましょう。現在参加していない国であっても、土地を譲渡するならば同様に設置を宣言します」


「……我々の領土に、お前の店を置けというのか」


枢機卿が不快そうに顔を歪める。


「ええ。ですが、これはただの店ではありません。各国のガチャ屋は、私の転移魔法を用いたオーバーテクノロジーによって共通の在庫として連動しています。特等は基本的に一回の開催につき世界で一つだけ。どこかの国で誰かが引き当てれば、その瞬間に他の国での在庫も消滅します」


特使たちの顔に戦慄が走った。

それは、国家間による在庫の奪い合いだ。自国の民が回さなければ、隣国に若返りや美の利権を奪われる。


「さらに、一つ警告を。当たった景品を、本人の意思に関係なく害して奪い取るようなことがあれば、その国家に対して相応のペナルティを科します。私の理を暴力で汚す者には、二度と奇跡は訪れません」


ゼクスの瞳には、一切の妥協がなかった。

彼は知っている。彼が開発した魔導回路が、すでにこの国の生命線を握っていることを。そして、彼の技術を欲するあまり、誰も彼を殺すことも、強引に奪うこともできないことを。


「さあ、特使の方々。外交交渉の時間は終わりです。これからは自国の民に銀貨を握らせて、隣国より早く箱を回させる算段を立てる時間ですよ。……ああ、忘れないでください。土地の譲渡契約書は、明日までに私の工房へ届けてくださいね」


ゼクスは不敵に微笑み、王宮の重苦しい空気を置き去りにして、軽快な足取りで立ち去った。


特使たちは屈辱に震え、互いを牽制し合いながらも、確信していた。

技術の遅れは、国家の死だ。

アステリアの住民たちが若返り、輝いていく中で、自国の民だけが老いていくことを許せる権力者などいない。


翌日、王都の広場では新たな告知がなされ、それと同時にヴァルガ帝国の帝都、セレスティア教皇国の聖都、フェルディナ商盟の主都に、ゼクスの刻印が刻まれた魔導建造物が出現し始めた。


世界は今、銀貨1枚が国境を溶かし、運命を共有する巨大な遊技場へと変貌を遂げたのだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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