プロローグ
10年以上読み専でしたが、AIに任せながら書いてみました。
稚拙な内容ではありますが、是非読んでみてください!
王都の喧騒から隔絶されたゼクス魔導工房の最深部で、ゼクスは壁一面を埋め尽くす映写水晶の群れを眺めていた。青白い光が彼の整った顔を冷たく照らし、その瞳には王都の広場に設営された極彩色の三色縞天幕――いまや「人生逆転の聖地」とまで称されるガチャ屋の内部が克明に映し出されている。
天幕の中は、人々の吐息と、こびり付いた汗の臭い、そして狂気にも似た期待感で濁りきっていた。
「おい、また石ころかよ! 冗談じゃねえ、俺の三日分の稼ぎがこんなもんか!」
「静かにしろ。次は俺の番だ。今日こそ、あの魔剣を……」
銀の箱、運命分配機の前に並ぶ冒険者たちは、一様に血走った目をしている。装置から吐き出されるのは、その多くが路傍に転がっているような小石や、効き目の薄い下級の薬草に過ぎない。大銀貨一枚を投じ、レバーを引くという一瞬の儀式のために、彼らは日々の糧を、あるいは命を懸けて持ち帰った魔石の代金を惜しげもなく注ぎ込んでいた。
ゼクスは椅子に深く腰掛け、手元のモニターを指先でなぞりながら、その様子を冷めた笑みで見つめていた。画面の端では、リアルタイムで計上される収益が、目も眩むような桁数で更新され続けている。彼にとって、この数字そのものに大きな価値はない。この冷徹な装置が、目の前の人間たちの運命をどれほど無慈悲に、そして劇的に弄ぶのか。その瞬間に生まれる熱こそが、彼を突き動かす唯一の報酬だった。
その時、一人の少年が震える足取りで銀の箱の前へと進み出た。
革鎧はあちこちが擦り切れ、背負った剣の柄は手垢と脂で黒ずんでいる。少年の顔は幽霊のように蒼白で、握りしめられた布袋からは、かき集められた最後の大銀貨十枚が重苦しい金属音を立てていた。
「……これ、で……。もし外れたら、もう……」
少年の唇は小刻みに震え、祈るように、あるいは呪うように銀の箱を見つめていた。その瞳には、もはや論理的な思考など残っていない。ただ、この絶望的な日常から自分を救い出してくれる「何か」への、妄信的な渇望だけが宿っている。
ゼクスは無意識に身を乗り出していた。少年の額から流れる脂汗が、水晶の光を反射して不気味に輝く。少年が全財産を投入口へと流し込み、折れそうなほど細い腕でレバーを力任せに引き下ろした。
装置の内部で、複雑に噛み合った魔導の機構が低い唸りを上げ始めた。
一回目、吐き出されたのは乾燥した薬草の屑。
二回目、空き瓶。
三回目、石ころ。
回数を重ねるごとに、少年の顔からは急速に生気が失われていった。周囲の野次馬たちが「またか」「死に損ないめ」と冷笑を浴びせる中、少年はもう泣くことすら忘れたような顔で、ただ無心にレバーを叩き続けていた。
そして、最後の一回。
装置の天面にある魔導ランプが、それまでとは明らかに異なる、目に焼き付くような鮮烈な真紅の光を放った。天幕の中を支配していた嘲笑が、一瞬にして凍りついたような静寂へと変わる。
装置の排出口から滑り出してきたのは、金糸で縁取られた豪奢な引換券。そこに刻まれた文字が、周囲の冒険者たちの視線を釘付けにした。
『一等:炎の魔剣・レーヴァテイン』
直後、天幕の奥に設えられた転送台から、周囲の空気を焼き焦がさんばかりの熱波が噴き出した。揺らめく炎の刀身を持つ、神話の断片のような一振りの長剣が、実体を持ってそこに出現したのだ。
「あ……あ、あ……」
少年は、言葉にならない声を漏らしてその場にへたり込んだ。あまりの衝撃に、指先一つ動かすことができない。一方、周囲の静寂はすぐさま爆発的な怒号へと変貌した。
「嘘だろ……本当に一等が出やがった!」
「あのガキ、あのボロ布一枚分で、城が建つほどの魔剣を……!」
嫉妬、羨望、そして自分も次こそはという狂おしいほどの希望。人々の欲望が限界まで膨れ上がり、天幕の中が暴力的なまでの熱気に包まれる。
その光景を工房の椅子から眺めながら、ゼクスは満足げに細い目を細めた。
「おめでとうございます、名もなき冒険者さん。あなたのその一瞬の幸運が、また何千もの人間をこの絶望の淵へと誘い込む。これこそが、最高の娯楽だと思いませんか?」
モニターの向こう側で、魔剣を抱きかかえて咽び泣く少年と、彼を殺さんばかりの目で見つめる群衆。その歪な構図こそが、ゼクスの作り上げた新たな世界の縮図であった。
ゼクス魔導工房の特等席で、ゼクスは指先を軽く合わせながら、目の前の特大映写水晶を見つめていた。
水晶が映し出しているのは、薄暗い森の奥深く。
そこには、数日前まで天幕の隅で震えていたあの少年が立っている。
少年の手には、抜身のまま赤々と熱を放つ炎の魔剣が握られていた。
少年の周囲を、三つの浮遊水晶が旋回している。
それらが捉える少年の「初陣」は、王都の至る所に設置された街頭モニターへ、そして富裕層の手元にある個人用水晶へと同時配信されていた。
「さあ、見せてください。あなたが掴み取ったその『幸運』が、次にどんな景色を見せてくれるのか。……私を、そして観客を、最高にワクワクさせてくださいよ」
ゼクスの呟きに合わせるように、森の奥から唸り声が響いた。
姿を現したのは、この辺りの新米冒険者にとっては死神に等しい魔物、ファングウルフの群れだ。
普段の少年であれば、一頭を相手にするだけでも命を削るような苦戦を強いられただろう。
だが、今の彼には背後で自分を見つめる「数万人の視線」という、何よりも強力な加護が宿っている。
少年の視界の端には、ゼクスが構築した魔導回路によって、視聴者たちの声が光の文字となって流れていた。
『本当に一等賞の魔剣か?』
『ただ光ってるだけの飾りじゃないのか』
『おいおい、あんな震えてて大丈夫かよ』
懐疑的な言葉が並ぶ中、ファングウルフの先陣が少年に向かって躍り出た。
少年は恐怖を振り払うように、魔剣を真横に薙ぎ払う。
直後、森の湿った空気が一瞬で沸騰した。
刀身から溢れ出した猛烈な火炎が、飛びかかった魔物のみならず、その背後の木々までをも一気に焼き焦がす。
かつては数分間の死闘を必要としたはずの脅威が、たった一振りの、それも洗練すらされていない一撃で消し炭に変わった。
一瞬の静寂。
そして、映写水晶に流れる文字の速度が、爆発的に跳ね上がった。
『嘘だろ、一撃かよ!』
『なんだあの火力、並の魔剣じゃねえぞ』
『ガチだ……あのガチャ、本当に本物が入ってたんだ!』
文字の奔流に混じって、硬貨がぶつかり合うような清らかな音が工房に響き渡る。
視聴者たちが「応援」として投じた金貨や銀貨が、転送術式を通じて少年の所有権へと書き換えられていく。
画面の端に表示された「投げ銭」の合計金額は、少年がこれまで一生をかけても稼げなかったであろう額を、ものの数分で超えてみせた。
「ははっ、最高ですね! ほら、見なさい。この金貨の雨が、視聴者の熱狂が、あなたの価値を秒刻みで書き換えている。やっぱり人生、こうでなくてはいけません」
ゼクスは手元の端末を操作し、王都内のガチャ屋への人流データを確認した。
画面の中の少年が無双すればするほど、天幕へと向かう群衆の数は増え、装置に投入される硬貨の音は激しさを増していく。
少年の成功は、もはや彼一人のものではない。
それは、誰もが夢見ることができる「現実的な奇跡」としての証明だった。
映写水晶の中で、少年は返り血と煤を拭いながら、浮遊する水晶に向かってぎこちなく、だが誇らしげに剣を掲げた。
その姿を見て、さらに多くの金貨が虚空に舞い、少年の懐へと吸い込まれていく。
「さあ、祭りの幕開けですよ。誰もが明日の希望を銀の箱に託し、射幸心という名の最高の熱に浮かされている。……ああ、これほど脳が震える景色は、他にありません」
ゼクスは椅子に深くもたれかかり、熱狂の渦の中心で輝く少年を、まるで同じ高揚感を共有する共犯者のような、悦びに満ちた目で見つめ続けていた。
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