涙坐奪還
〈寒くつて人生ズルけてしまひたい 涙次〉
(前回・前々回參照。)
【ⅰ】
「ニュー・タイプ【魔】」の中にはスマホを持つてゐる者もゐる。テオがweb上を逍遥する情報を調べてゐたのは、そんな者らから何か出石軍に関する事象が漏れ出してゐるのではないか、と云ふ期待があつたからなのだが、特にこれと云ふ書き込みはなかつた。魔界には微視佐馬ノ介に依つて言論統制が敷かれてゐるやうだ。テオ(あの微視と云ふ男、思はぬ機轉の利く者のやうだ...)。で、テオ、アナログ思考に切り替へざるを得なかつた譯だが、結果としてはそれが、カンテラ一味にとつて吉と出たのは、運命の皮肉と云へた。
【ⅱ】
テオは出石が「親ルシフェル派」の殘党である事に着目した。(出石とルシフェルを引き合はせてみやう。出石はまだルシフェルに未練があり、彼の姿を見る事に戀々としてゐる筈だ)-それにはまづ昏睡狀態にあるルシフェルを、目醒めさせる必要がある。テオ、ちと乱暴だが、安保さん製作の* 加圧式電気ショック装置を使つてみたらだうだらう、とカンテラに提案した。ルシフェルの肉體はご存知の通り、骨のみとなつてゐる。その骨に上記の装置で圧力を掛ける事は、一つの賭けであつた。もしも、装置の圧力で骨が砕けたら- と思ふとぞつとしたが、カンテラ一味には他に道は殘されてゐない。
* 前シリーズ第117話參照。
【ⅲ】
ルシフェルの骨は、持ち堪へた。彼は見えない心臟に電気ショックを受け、永遠の眠りから醒めた。「儂、だうしてたんだ?」-カンテラ「その説明は後でする。その前に、會つて慾しい者がゐる。魔界まで同道してくれ」。
※※※※
〈日野啓三『抱擁』と云ふ小説に触發されて『Hug』なる曲書く 平手みき〉
【ⅳ】
さて、カンテラ・じろさん・ルシフェル・テオの4名で魔界に降りた譯だが、要件があるのは出石だけだ。「魔界健全育成プロジェクト」の仲本とは、「余計な死者を出さない」との約束がある。今回の件でカネが下りないとなると、一味にとつては死活問題である。なるだけ出石軍とは交戰したくなかつた。出石軍は、衛生兵が飛び回り、前回の白虎・「龍」の攻撃で傷付いた者らの手当てをしてゐる最中であつた。じろさん、大胆にも「出石はゐるか!?」と大音聲を上げた。出石が進み出る。「俺に何か用か?」-カンテラ「ルシフェルを連れて來た。懐舊談でもしてくれ」-「おゝルシフェル様、おいたはしいお姿を-」-だうやらルシフェルに引き合はせた事が、出石の心を少しく變へたやうだつた。ルシフェル「出石か。ご苦勞であつた。お前の役目はこれにて終はりぢや」-出石「御意」。
【ⅴ】
出石「俺は本懐を遂げた。カンテラよ、斯くなる上は、* あの時、俺を斬首したやうに...」-カンテラ「あんたは殺すにや惜しい漢だ。生きてりやまた相まみえる事もあらう」-こゝで微視、(しくじつたか)と云ふ顔を一瞬見せ、どろん、と姿を消した。殘るは鷹林・塙のコンビだけだ。
* 當該シリーズ第3話參照。
【ⅵ】
「塙、行け」と鷹林が云ふや否や、塙は「魔的空間」を展開した。が、*「魔術止め」のピンを躰に刺した一味面々には、さしもの塙の(パワーアップしてゐる)「魔的空間」も効果を表さない。じろさん、塙に裸絞めを仕掛け、塙は意識を喪つた。じろさん塙を捕縛。そして、Turbo!! Charged by 白虎 influence!!の掛け聲と共に、カンテラの剣が鷹林に襲ひ掛かる- これには流石の出石軍「鬼軍曹」も敵はなかつた。「しええええええいつ!!」鷹林・塙コンビの片は付いた。
* 前シリーズ第155話參照。
【ⅶ】
「ほら、この女」と出石は云ひ、人質になつてゐた涙坐(塙の術で眠らされてゐた)の身柄は確保、カンテラ一味は魔界を後にした。殘された出石は「みんな良くやつてくれた。だが、出石軍は本日を以て解散だ」-然し一番隊の隊長、「いや、俺逹は何処までも副長殿に着いて參る處存であります! なあ、諸君?」-出石「さうか。皆の総意なら仕方がない。共に行軍して行かう。地獄まで、な」
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〈午后2時の付け焼き刃的日射し哉 涙次〉
【ⅷ】
と云ふ譯で、出石の私設軍隊として、出石軍は名目を保つ事になつた。一味は報酬を「プロジェクト」から得、このお話は一應の終焉を迎へる。が、出石軍がだう動くか、それに、消えた微視の行く方、となると、それはまた別日の談である。ぢやまた。アデュー!




