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リロード・フロム・ゼロ   第1話 ――終わりの始まり

この物語は、

「やり直したい」と願った者が、

本当に“最初から”やり直す話ではない。


失ったものは戻らない。

選ばなかった未来も、選んでしまった過去も消えない。

それでも、人は立ち止まり、振り返り、

「もしも」を考えてしまう。


主人公は英雄ではない。

勇気も、覚悟も、最初から持っていない。

現実から逃げ、画面の向こう側だけが居場所だった、

ごく普通の、弱い人間だ。


だが――

弱さを知っているからこそ、

彼は何度も選び続ける。


正解ではないかもしれない選択を。

救えないと分かっている未来を。

それでも、前に進むという決断を。


この物語は、

「世界を救う話」ではない。


世界の歪みの中で、

自分自身がどこまで壊れていくのか、

そして、それでもなお――

“歩き続ける理由”を見つけられるのか。


これは、

ゼロからの再生ではない。


ゼロに戻れない者の、再起動の記録だ。

勝った!

「よし!今日も世界の平和を守ってしまったな。」


誰もいない部屋で俺は一人で拍手をした。

もちろん、誰からの反応は無い。


画面の向こうには、《VICTORY》の文字。

ランクは上がり、ポイントも増える。


まあ、現実の俺には、何一つ増えるものなんてないんだけどな。


「まあ、人生なんて、ゲームのように簡単にいくわけがないからあきらめてるけど・・・」

パソコンの機械音と、エアコンの風の音だけが聞こえる。


神原 凌央、高校二年生。


出席日数は、今年の夏の時点で「ゼロ」。

友達も「ゼロ」。

もちろん、人生における伴侶なんているわけがない。未来なんて見えるわけもなく、現実を見ると絶望する。


ただし、FPSのゲームの実力については、世界のトップランカーに匹敵する。


「現実とのギャップがありすぎだろ!!」

「この世界を作った神様はたちが悪い。パラメーター調整ミスってるだろ。」


椅子にもたれて、天井を見上げる。


「この才能、現実世界にもっていくことができたらよかったのに。」

「そうすれば、地位も名誉もなんでも手に入るのに・・・。」


その瞬間。


パソコンの画面

が、「ふっ」と暗転した。


「ん?サーバーでもおちたか?」


いつものメンテナンス告知――

そう思って、俺は、何気なく画面を見た。


《再構築中》


「あれ・・・。」


文字が滲んで見える。


「は?再構築??」

「何を??」


訳が分からないまま、画面を見ていると、まるで画面の向こう側が揺れているみたいに見えた。


「あー、、、ついにゲームのやりすぎで、文字も画面も化けて見えるようになったかーー。」


そんなことを一人でぶつぶつ言いながら、俺は笑おうとした。

実際、口角はすでに上がり始めていた。


――なのに・・・

なぜか、背中にだけ、冷たい汗が流れた。


「なんだ・・・この汗・・・」


素直にそう思って、肩をすくめた。

ただの錯覚。

徹夜続きの目が、やっぱりバグっているだけだ。

そう結論付けて、キーボードに触れた。


触れたはずだった。


「・・・・・!?」

「感覚が・・・無い・・・!?」


キーボードは、確かにそこにあるはずなのに、触ることができない。


それなのに、指先から伝わるはずの硬い感触が全て消えている。


「え・・・ちょっ・・・!?」


次の瞬間・

視界が、ひっくり返った。


椅子が倒れる感覚。

床にたたきつけられる!――と、思ったその途中で。


重力が消えた。


「うわ!?」

「ちょっ!!待っ!!――」

声が途中で途切れる。


音が吸われていく。


暗転した画面の奥から、こちらを引きずり込むようなーー。

その瞬間、“何か”を感じた。


《再構築中》


その文字が今度は、はっきりと見えた。


いや、というよりも、その文字は、表示というよりーー俺の存在を確認しているように見えた。


「冗談だろ・・・?」


最後に浮かんだのは、そんな言葉だった


次の瞬間、急に世界が切り替わる。

ゲームのログアウトも、パソコンの終了画面も、何一つとして表示されないまま。


――俺の意識は、そこで途切れた。


「・・・・・・。」


最初に戻ってきたのは、痛覚だった。

次に冷たさ。

最後に、耳鳴りのような静寂。


「いてて・・・」


声は、ちゃんと出た。

少しかすれてはいたが、意識は、はっきりとしている。


「生きてるよな・・・これ・・・?」

目を開ける。

視界いっぱいに広がったのは、空。・・・・・んん!?・・・空!?!?

雲一つない、清々しいほど澄んだ青空だった。


「は・・・!?」

反射的に声が漏れた。


天井じゃない。蛍光灯でも、見慣れたLEDの灯りでもない。

俺のシミだらけの汚い壁でもない。


「・・・夢だよな・・・。」

「俺って、こんなきれいな夢を見ることができるほど、心が澄んでいたんだな。」

いや、そんなわけがない!!

そう思って、自分の頬を力いっぱい抓る。


「いだ!!!」

普通に痛い。というより、むしろ激痛。

「・・・いや、夢にしては、リアルすぎるだろ!!」


身体を起こす。

体は、ちゃんと動いた。


手。 足。 指先。

全部しっかりとついている。 欠損は何一つない。


その事実に、少しだけ安心してからーー

ようやく、周囲を見る余裕ができた。


俺が倒れていたのは、石畳の上だった。

きれいに整備された道。


道のわきには、見たことのない形の建物。


「・・・この景色。この風景。・・・セット、凝りすぎじゃね?」


ゲームのイベントにしては、作り込みが異常だ。

というよりも、俺なんかに“ドッキリ”を仕掛ける意味が全く無い。


ふと、視界の端で影が動いた。


「おい。起きたぞ!!」

「本当だ!!生きてる!!」

「なんだ・・・死体じゃなかったのか」


――声。

俺以外の人間の声。


「・・・えぇ??」


顔を上げると、数人の男女がこちらを見下ろしていた。

服装はバラバラだが、“共通”して、現代の洋服ではなかった。


マント。 鎧。 剣。―――剣!?!?


「ちょっと待って!!」

頭が急激に追いつかなくなる。


やっぱりこれは・・・ドッキリ??

はたまた、VR??

それとも・・・


「なあ、兄ちゃん。こんなところに倒れて、大丈夫か?」


年上らしい男が手を差し伸べてきた。


反射的にその手を取る。

暖かい。

人の体温だ。


「触れるよな・・・」

「そりゃそうだろ。幽霊じゃあるまいし」


俺の困惑とは裏腹に、笑い声が上がる。


軽い。

妙に、日常的な反応。


だからこそ。


胸に、じわりと嫌な感覚が広がった。


「・・・ここ・・・どこですか?


俺の質問に、一瞬の間が空いた


男は、首をかしげる。

「どこって、兄ちゃん」

「ここは、王都ノルンヴィルだぜ?飲みすぎて頭でも打ってるんじゃねえのか?」


――王都・・・王都!?


いや待て、そんな・・・王都なんて言葉は、アニメや漫画で聞いたことがあっても、現実で口に出す奴なんて聞いたことがないぞ!?


と、内心聞きなれないセリフを聞き、その単語が鮮明に耳に残った。


「あの・・・」


喉が少し乾く。

「ここ、日本じゃないですよね?


今度は、はっきりと沈黙が流れた。

そのあと、周囲の視線が、一斉に集まる。


「兄ちゃん・・・どこの国のことを言ってるんだ?」


男の声が少しだけ低くなった。


冗談じゃない。

確認のための問い。


俺は、笑おうとした。

いつもゲームをしている時と変わらぬ調子で、軽口を叩こうとした。


「いや・・・あの・・・」

でも。


――ここで初めて、はっきりと理解する。


――ここは俺のいた世界じゃない。そして、戻ることができない・・・。


さっきまでいた、あの部屋には。

画面の向こう側には。


心臓が、ドクンと跳ね上がる。

意識がなくなる前より、さらに嫌な汗が背筋を流れた。


「冗談だよな・・・?」

「冗談だって、誰か言ってくれよ」

「なぁ!! おい!!」


誰に向けた言葉か、自分でも分からない。


その時、人込みの向こうから、ひと際落ち着いた声が響き渡った。


「――どいて。私が彼と話しをします。」


人々が、自然と道を開ける。


そこに立っていたのは、琥珀のようなきれいな目をした、金色の髪の少女だった。

冷静に俺を観察するようにまっすぐとこちらを見つめる。


「あなたーー」

一拍置いて、俺に話しかけてきた。


「この世界の人間じゃないわね」


その彼女の一言で、俺は、俺の中の“現実”が完全に壊れた。



――^こうして俺は、この“帰りのない世界”にログインした。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

これから更新していきますので、是非是非読んでいただけたらと思います。

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