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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔女と炎

作者: 小雨川蛙



 棒っきれ。

 その下に積まれた藁。

 漂う油の臭いに、煌々と燃える松明。

 響くは罵声に怒声。


「魔女め!」

「我らをたぶらかしやがって!」


 言葉が音になる。

 音に意味はない。

 脳を通り過ぎるだけ。


 背後から音がして左足を鋭い棒で貫かれた。

 振り返ればひげ面の兵士の口が忙しなく動き、音が波となって私の顔を打つ。


 歩け、という意味だろう。

 きっとそうなのだろう。


 昨日まで釘で何度も貫かれた足の傷は未だ治らない。

 不格好。

 だけど、炭になれば目立たないか。


 小さな救いだ。

 そう思おう。

 そう思ってしまおう。


 ふらふら歩く。

 歩きたくないから最短の距離を狙う。

 滞りなく括り付けられる。

 棒っきれに。


 被せられる。

 追加の油。

 複数人から次々に。


 様々な音の中で考える。

 どうすれば良かったのかを。

 そして結論が出る。


 どうしようもなかったのか。


 火が迫る。

 藁には油。

 棒には私。


 あぁ。

 もうおしまいだ。


 だから、私は最期に決める。


『炎を』


 火では足りない。

 火では私を焼き切るので精一杯だ。


 けれど、炎なら。

 集まった馬鹿どもを燃やすことができる。


 魔法の言葉を呟く。

 藁に添えようとした松明が不意に燃え上がる。

 火が松明を持つ兵士の肌へ這いずる。


 慌てた兵士は逃げようとして転ぶ。

 先程まで油をまいていた兵士の身体は一瞬の内に全身が炎に包まれる。


 音が聞こえる。

 もしかしたら言葉かもしれない。

 きっと愉快な言葉だろう。


 火達磨になった兵士が助けを求めて暴れる。

 愚かにも近くにいた兵士が近づく。

 先程まで共に油をまいた兵士だ。


 音が聞こえる。

 見つめながら言葉を想像する。

 広がる炎を見つめる。

 暴れる兵士の数が増え、助けを求めて蠢く。


 その様を見て集まった人々が逃げようとする。

 混沌と化した世界で人が転ぶ。

 まるで立ててあった藁が崩れたみたい。


 藁は人。

 油は恐怖。

 炎は兵士達。


 こうなれば未来は一つ。

 見届けられないのが残念だ。


 火の中で私は笑った。




 ***



 魔女の炎と称された絵画は不慮の事故により数百人が命を落とした光景が描かれている。

 実在したこの事件は魔女狩りという人類の愚行に対する神の裁きだったと後世の学者は結んでいる。

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