米太郎還るー寿司太郎の全てー
テレビのバラエティ番組でブレイクし、文字通り多忙を極めるようになった米太郎は、ついに付き人を雇う決断をした。
現れたのは、寿司太郎という名の純朴そうな青年。
「ぼ…僕、米太郎さんに憧れて…!きっと僕も米太郎さんみたいなスターになります!」
その言葉に、米太郎は自嘲的な笑みを浮かべた。
「スターか」彼の目には、過去の苦い記憶が滲んでいた。
アシスタントディレクターに出番を告げられ、米太郎は楽屋から出ていく。
米太郎が去った静寂の中、寿司太郎は、部屋のフックに吊るされていたセクシービニール袋を手に取った。
それを自分の身体に当てて、鏡の前でほくそ笑む寿司太郎。その笑顔は、邪悪な野心に満ち溢れていた。
「寿司太郎さん、本当に純朴で良い青年ですね。米太郎さんも助かるでしょう」
周囲の人間がそう評するたび、寿司太郎はにこやかに会釈する。
だが、その裏で彼は虎視眈々と米太郎の地位を狙っていた。
「あいつ、この前まで米太郎さんのことを『笑いの引き出しが少ない』『芸人じゃねえからな』って酷評していたんですよ。それが今や、米太郎さんの前では「師匠!」「憧れです!」って。この手のひら返し、見てるこっちが引くわ」
米太郎が少しでも疲労を見せれば、すぐに「休まれたほうが」と気遣うふりをして、楽屋の差し入れにオートミールを勧める。
その巧妙な手口で、心身が徐々に疲弊していった。
そんな中、年末の『桃黒歌合戦』への初出場が決定する。
しかも、トリとしてだ。
「復活 日本を元気に!」それが、某国営放送のコンセプトだった。
仕事の忙しさに加え、桃黒のリハーサル。米太郎の疲労は限界を迎えていた。
12月31日。
『桃黒歌合戦』が始まる。午後8時55分、某国営放送の朝ドラマ『おにぎりコロリ』の主題歌を担当した超レジェンド A'zが『電飾』を歌う。
事前録画だ。
誰もがそう思った瞬間、録画画像の二人が動き始めた。
A'z、サポートメンバーと共に会場に降臨!
会場のボルテージは最大、テレビの前の視聴者のボルテージも鰻登り。
今年の桃黒の話題はA'zが持っていったと、誰もがそう思った。
そして、ついにトリとしてステージに立つ米太郎。
『米太郎サンバ』。
米太郎ダンサーズと共に歌い踊る。
友情出演としてマイマイ倶楽部も出演した。
2番に差し掛かると、『桃黒歌合戦』の出演者、そして自分達の出番を終えて帰ったと思われていたA'zの2人も参加し、ステージは最高の盛り上がりを見せる。
米太郎サンバを歌い踊れば、あとはもう全て収まるはずだった。
歌が終了し、米太郎が突然マイクを握りしめた。
「あの……私、米太郎は、普通の備蓄米に戻ります」
そしてマイクをステージに置くと、後ろ向きに歩き出した。
突然の「備蓄米に戻ります」宣言。
世間は突然のことに驚くが、米太郎は楽屋を通り抜け、そのまま備蓄倉庫へと戻っていった。
人知れず静かにセクシービニール袋に包まれて倉庫で寝るのだった。
それから間もなく、売り出し中の若手タレント、寿司太郎は忙しい日々を送っていた。
「寿司太郎さん、出番です!」
CM撮影である。
「♫ちょっと寿司二郎♫で、その寿司二郎のパッケージ持って、最高の笑顔でお願いします!」
「いやあ、これからは寿司太郎さんの時代ですね!」
誰もがそう口にする、寿司太郎の活躍。
その陰で、長年、『寿司二郎』のCMタレントとしてやってきた、東山サブちゃん、米太郎をよく知る関係者や特に米太郎を見出し、復活の手助けをした親方ヒロキは、苦々しい思いでそれを見ていた。




