米太郎侍ー絶頂から転落ー
一世を風靡した時代劇『米太郎侍』。その主役、米太郎は押しも押されぬスター街道をひた走っていました。
スター街道をひた走っていたのは、ひとえに彼の努力の賜物でしたが、それをいいことに、ある日、二人の老人が米太郎の元にやってきます。
「米太郎や、覚えているかえ。わしらはお前の…故郷の老夫婦じゃ」
現れたのは、かつて川から流れてきた米太郎を拾ったおじいさんとおばあさんだった。
米太郎の出世を知った二人は、妙に上等な着物を着込み、世慣れない笑顔を浮かべながら、「今や茶の間の英雄、お前ならヒーローになれると信じてたワシの目に狂いはなかった」と得意げに語る。
しかし、米太郎は内心冷笑する。
「故郷に錦を飾れない」と家から叩き出したくせに。
「そのなんだね。故郷の皆にもお土産を渡したいので…そのなんだ…」
米太郎は冷たい目で、角に置いてあったセクシービニールの大とセクシービニール袋の小を指差した。
「どちらでも好きな方をお持ち帰りください」
お伽噺の教訓を思い出した老夫婦は、迷うことなく小を持ち帰った。
里に帰ったおじいさんとおばあさんは、意気揚々と広場に村人たちを集めました。
「米太郎がくれた、とっておきの土産じゃ!」と声を弾ませ、大勢が見守る中、セクシービニール袋をゆっくりと開けます。
しかし、袋の中から現れたのは、色褪せた「米太郎侍」のイラストが入った湯呑み、折れ曲がった手ぬぐい、そして埃をかぶったキーホルダーといった、見るからに売れ残りのグッズでした。
「なんだ、これ…」
「売れ残りじゃないか」
村人たちの間には、失望と嘲笑の声が広がります。
おじいさんとおばあさんの顔はみるみるうちに赤くなり、ワナワナと震え始めました。自分たちの期待が打ち砕かれただけでなく、里の皆の前で恥をかかされた屈辱が、二人の老体に重くのしかかります。
その頃、米太郎は自身の部屋で冷え切った酒を飲みながら、久しぶりに心の底から笑っていました。過去の自分を嘲笑し、現在の絶対的な地位を再確認したつもりでした。
しかし、その「絶対的な栄光」の陰には、長年続くシリーズゆえのマンネリという弊害が忍び寄っていました。
「またこの展開か」「斬られ役がかわいそうになる」――そんな視聴者の声が囁かれ始めた頃、致命的な事態が起こります。
夕方の再放送で過去の『米太郎侍』が流れるようになり、視聴者から「あれ?この話、夕方の再放送と同じじゃねぇか?」との指摘が相次いだのです。ついに、1日前の夕飯すら忘れがちなシニア世代にまで、物語の焼き回しがバレてしまいました。
『米太郎侍』のイメージがあまりにも強烈だったため、米太郎が新しいジャンルに挑戦しても、その役柄が邪魔をしました。
メロドラマに出れば、「そんなに寂しそうな顔をなされては…」と泣くヒーローに、視聴者は「米太郎侍が斬られる前の顔だ」と錯覚。
ファミリードラマに出れば、温かい一家団欒のシーンでも、「このあと悪人を斬るんだろう」と緊張感が漂う始末。
サスペンスに出ようものなら、「犯人は米太郎侍の宿敵に違いない」とミスリードすら起こらない。
さらに悪いことに、ネット上では「米太郎って演技下手じゃねぇ?」という辛辣な意見が拡散し始めました。殺陣は完璧でも、繊細な心情表現はからっきし。米太郎は、一気に落ちぶれていきました。
さらにトドメは、あのおじいさんとおばあさんです。
あの日の屈辱から、二人は金銭による報復を決意し、米太郎の知らない所で、米太郎の名を使い返すあてのない借金を重ねる詐欺を働いていたのです。
その上、自分達が詐欺を働いて捕まったのにも関わらず、全部米太郎が悪いと嘘八百を並べて週刊誌に暴露したのです。
仕事は激減し、やがて彼は「あの人は今」というテレビ番組のオファーを受けます。撮影当日、かつての煌びやかな着流し姿ではなく、古びたジャンパー姿で寂れたアパートから出てきた米太郎に、視聴者は哀れみの視線を向けました。




