24日 予知夢と七つの大罪
白い百合が咲き乱れる大通りの先に、彼は立っていた。
ユノリア城の正門前。
護衛の兵士も、従者もいない。
ただ一人、ジュリアンだけが、まるで私たちを歓迎するかのように微笑んで立っていた。
『護衛も付けずに一人かよ……ずいぶんと余裕だな』
カインがぶっきらぼうに言い捨て、腰の大剣に手をかける。
ジュリアンは眉一つ動かさず、穏やかな口調で答えた。
『護衛? 必要無いよ。……これから始まり、そして全てが終わるからね』
『終わる? お偉いさんの考えは昔からよくわかんねーな』
カインはあえて挑発するように、小指で耳をほじりながら言った。
『分からなくていいよ……どうせ君達下級種族は理解出来ないからね』
ジュリアンは満面の笑みでそう言った。
その紫色の瞳には、私やカインの姿は映っていない。
彼が見ているのは――私の首元。
アルクのネックレスだけだ。
『僕はね……今日この日をずっと夢見ていたんだよ……産まれた時からずっとね』
ジュリアンがネックレスに向かって語りかける。
まるで、そこに親しい友人がいるかのように。
ドクン。
ネックレスが、不快そうに強く脈打った。
『僕の始まりの固有魔法は「予知夢」。ずっとその予知夢の通りに、全て従ってきた』
彼は自分の頭を指差した。
『君達にはわからないだろうね……。未来を知る絶望が。与えられた運命からは誰も逃れる事が出来ないという、無力感が』
ジュリアンはネックレスを指差し、恍惚とした表情を浮かべる。
『今日、僕達は一つになる……それは決められた事なんだよ。足掻いても無駄だよ……ねぇ、アルク』
その名前が呼ばれた瞬間。
キィィィィィン!!
私の脳内に、金属を擦り合わせたような耳鳴りが走った。
そして、声が響く。
『――アイツを殺せ』
それは、いつものアルクの優しい声ではなかった。
地獄の底から響くような、怨嗟と激しい怒りに満ちた声。
(あ、ぐ……ッ!)
激しい頭痛。
アルクの憎悪が直接脳に流れ込み、視界が赤く点滅する。
『君にも聞こえた? その声だよ! その声に僕はずっと従ってきた!』
苦しむ私の表情を見て、ジュリアンは嬉しそうに手を叩いた。
『僕に聞こえる天啓はこう言っている。「7つの固有を一つに」』
ジュリアンの体から、どす黒い、けれど神々しいほどの魔力が溢れ出す。
空気がビリビリと振動し、白い百合の花びらが舞い上がる。
『そして……すべてを“無に返せ”』
彼がスッと手を空にかざした。
パリン。
空の一部が、ガラスのように砕け割れた。
異次元の空間から、巨大な物体が滑り落ちてくる。
ズドォォォン!!
地面を揺らして落下したのは、巨大な氷の塊だった。
その中心に、人が閉じ込められている。
金髪のツインテールをした、あどけない少女。
氷の中で時が止まったように眠っている。
ジュリアンが静かに氷に触れる。
パキ、パキパキ……。
氷に亀裂が走り、砕け散った。
支えを失った少女が、濡れた地面に崩れ落ちる。
「ゲホッ、ゲホッ……ハァ、ハァ……」
少女は苦しそうに咳き込み、顔を上げた。
そして、目の前に立つ男――ジュリアンを見て、その顔が恐怖に歪む。
『ジュ……』
少女が何かを言いかけた瞬間。
ジュリアンは無造作に彼女の口を掌で塞いだ。
『んぐっ!? んーッ!!』
少女が苦しそうに悶える。
だが、逃げられない。
彼女の体から、虹色の光の粒子が吸い出され、ジュリアンの掌へと吸収されていく。
知っている。
フランの時と同じだ。
彼は今、彼女の固有魔法を喰らっているんだ。
数秒後。
少女の体から力が抜け、人形のように動かなくなった。
ジュリアンは用済みとばかりに、彼女を雑に投げ捨てた。
まるで、ゴミのように。
『これで六つ……』
ジュリアンは掌に残った光の余韻を楽しみ、そしてゆっくりと私を指差した。
その笑顔は、どこまでも優しく、どこまでも残酷だった。
『あと一つ』
彼は両手を広げ、舞台の幕を開けるように宣言した。
『さぁ、始めよう。世界を終わらせるための儀式を』




