表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母は、異世界で天下を取る   作者: 松本 蛇
二章 エマ 「魔術学院と黒い指輪」編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/48

3日 銀星祭と黒い指輪


魔術学院ルミナリアは今、年に一度のビッグイベントの話題で持ちきりだ。

銀星祭ぎんせいさい』。

魔術学院の生徒が、一対一で魔術の技と美しさを競う年に一度の祭典だ。


ルールは三分。

魔法で相手を場外へ落とせば勝ち。決着がつかなければ、術の精度と美しさ――技術点で裁かれる。


「去年は僕が優勝したんだ。相手を一瞬で氷の彫刻に変えてね」

「……容赦ないね、フラン」


隣を歩くフランが、まるで昨日の夕飯の話でもするかのように涼しい顔で言う。

アスガルド王国唯一の『虹色魔法使い』である彼は、その規格外の実力ゆえに今年は出場停止……ではなく、特別審査員として参加することになったらしい。


「で、なんでわたしが出場することになってるの?」

「だって、面白いじゃないか」


フランが悪びれもせずに笑う。

銀星祭に出場するには教師の推薦が必要だが、昨年優勝者であるフランにも一人分の推薦枠があるらしい。

私は基礎魔法(火や水など)が一切使えない。使えるのは身体強化の『無垢(白)』だけ。魔法戦なんて、どう考えても不利だ。


「無理だよ。わたし、魔法飛ばせないし」

「大丈夫さ。白も立派な魔法の一つだよ。それに、エマならきっとなんとかする」

「買いかぶりすぎだよ……」


私がため息をついた、その時だった。


「おい! そこにいるのは落ちこぼれのエマだな!」


前方から、やけに装飾過多な制服を着た男子生徒が、取り巻きを連れて現れた。

見覚えがある。以前、食堂で絡んできたモブ貴族だ。


「わたしだけど。何か用?」

「用ならあるさ! 俺様、ナルシス・ド・カマセーヌ様が貴様に果たし状を突きつけに来たのだ!」


……すごい名前だ。どこからどう突っ込めばいいのかわからない。

彼は私の鼻先に羊皮紙を突きつけた。


「銀星祭の一回戦、対戦相手は俺様だ! そこで決着をつけてやる! もし貴様が負けたら、即刻この学院から出ていけ!」

「それに――“白”なんて魔法じゃない。お前はただの“無色”だろ?」


その言葉を聞いた瞬間。

私の中で、カチリとスイッチが切り替わる音がした。

十一歳の少女エマの意識が奥へ引っ込み、滋賀県最強の主婦、千尋が表に出る。


スゥッと息を吸い込む。

自然と目つきが鋭くなり、全身から放つ空気がピリリと変わる。

それに気圧されたのか、ナルシスが一歩後ずさった。


「……何故そんなリスクを背負って戦う必要がある?」


私は低い声で問い返した。


「わたしになんのメリットがあるんだ? 時間の無駄だろう」

「なっ、なんだと!? この名門カマセーヌ家の嫡男と戦えるだけで十分なメリットだろうが!」

「興味ないな」

「ぬぐぐ……!」


顔を真っ赤にする彼を見て、私はあることを思いついた。

ルナフィールの復興には、莫大なお金がかかる。


「そうだ。もしわたしが勝ったら、ルナフィールの復興資金を出してもらおうか。――金貨三十枚。学院の前で、家名で誓約書を書け」

「ふ、復興資金だと?」

「ああ。君の家はお金持ちなんだろう? 負けたら潔く寄付してもらおう。できないとは言わせないぞ」

「……いいだろう! その代わり、負けたら絶対に退学だぞ!」


ナルシスはニヤリと笑い、右手を掲げた。

その指には、禍々しい輝きを放つ『黒い指輪』が嵌められていた。


指輪の表面が、心臓みたいに一度だけ脈打った。

――黒い靄が、彼の指の皮膚へ染み込むように消える。


「この前と同じだと思うなよ! 今の俺様は、既に赤色相当の魔力があるんだからな! はーっはっはっ!」


高笑いと共に去っていくナルシス。

私はその後ろ姿を見送りながら呟いた。


「……あいつ、名前あったんだな」

「そこ?」


フランが呆れたように言いかけて――途中で言葉を切った。

その視線が、ナルシスの指に吸い寄せられている。

笑みが消えた。


あの指輪……最近、貴族の生徒たちの間で流行しているらしい。

なんでも、着けるだけで魔力量の底上げができるとか。そんな便利な道具がある事すら信じ難いが、どうやら事実らしい。



その後、私とフランは『魔法史』の講義に出席した。

担当教官は、ラノック先生。

優男でいつも笑顔を絶やさない、生徒に大人気の先生だ。


「――はい、では今日の授業はここまで。銀星祭も近いですが、怪我のないように準備してくださいね」


授業が終わり、私たちが教室を出ようとすると、ラノック先生が声をかけてきた。


「やあ、エマ君にフラン君。調子はどうだい?」

「ラノック先生、こんにちは」

「聞いたよ。フラン君の推薦枠でエマ君が出場するそうだね。楽しみにしているよ」


ラノック先生はにこやかに笑うと、ふと思い出したように言った。


「僕も一人、推薦を出したんだ。ニエル君だよ」


その瞬間だけ、ラノック先生の笑顔が“止まった”ように見えた。

――気のせいだろうか。


「……ニエル?」

フランが首を傾げる。


「ニエルって誰だい? 聞いたことがない名前だね」

「わたしの女子寮のルームメイトだよ」


私が答えると、フランは少し驚いた顔をした。

それも無理はない。ニエルは極度の人見知りで、いつも部屋の隅で本ばかり読んでいる大人しい子だ。目立つことが嫌いで、フランのような有名人とは接点がない。


「へえ、あの子が……。でも、どうしてラノック先生は彼女を推薦したんですか?」


私が尋ねると、ラノック先生は眼鏡の奥の目を細めて答えた。


「彼女は優秀だよ。普段は目立たないが、彼女の使う『風魔法』は……そう、芸術だ」

「芸術……?」

「ああ。銀星祭は美しさを競う場でもあるからね。彼女の才能は、きっと会場を驚かせるはずさ」


そう言って、ラノック先生は爽やかに去っていった。

あの大人しいニエルが、芸術的な魔法を使う?

私には少し想像がつかなかったが、ラノック先生がそこまで言うなら、何か秘めた才能があるのかもしれない。

 教室を出たあとも、私の頭から“黒い指輪”が離れなかった。


 ナルシスが指輪を見せた瞬間‥嫌な感じがした‥


 あれは、ただの「嫌な感じ」じゃない。

 鼻の奥に、焦げた肉の臭いが蘇るような錯覚。

 古傷――オルバに焼かれ、千切られ、再生された右腕と左足‥幻痛のようにズキズキと疼いている。

(……似ている)

 あの指輪から漂うのは、オルバが纏っていたのと同質の、粘着質で底知れない闇の気配。

 あれは便利な道具なんかじゃない。持ち主の精神を食い荒らす、呪いの類だ。


 そしてその夜。


 女子寮の窓辺で、ニエルが一人きりで風を撫でているのを見た。


 月明かりの下、彼女の指には黒い指輪が嵌められている。


 彼女が操る風は、息を呑むほど美しく、複雑な軌道を描いていた。

その風が作る絵は私の知っている薔薇の花に似ていた‥色は真っ赤な赤い色では無く‥黄色い‥美しい黄色の色をしていた。

 けれど、それを見た瞬間。


 私の身体は、本能的な拒絶反応で震えた。


 美しい風の中に、あのヘドロのような悪意が混じっているのが、私には見えてしまったからだ。

次回「柔よく剛を制す」

挿絵(By みてみん)


読んでくださってありがとうございます。


感想・レビュー・ブクマ、いつも本当に励みになっています。


スピンオフ作品

『ほのかの孤高の異世界グルメ 』も合わせて読んでいただけたら幸いです、

https://ncode.syosetu.com/n3966ln/


XやInstagramも初めました。

小説の挿絵や裏話など呟いてますのでお時間があれば是非!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ