不穏な匂い
拝啓 お母さん様。
今日は洗濯物を部屋干しにしました。父は靴下を片方だけ失くし、新品で購入したはずの靴下には穴があいてました。
こんな我が家ですが、私はなんとか元気です。
ところで、“あなたによく似た小さい母”ですが――
「帰れない」と言った次の日、平和堂での買い物の途中に、ふっといなくなりました。
野良猫みたいに、急に現れて、急に消える。嬉しいのか、寂しいのか、もう分かりません。
追伸。
いなくなってから、もう二ヶ月。
母がいない生活にも、少しずつ慣れてきたころ。
だいたい事件は“日曜日の雨の日”に起こるんです。
――ドガシャーーン!!。
家全体が揺れた。雷が落ちたような音。
「なんだ!? 地震か!? 天変地異か!?」
取り乱す父。
(違う。これは……)
ガシャーン。ガラスの割れる音。
「父さんの寝室!」
二人で駆け出す。
夏休みにはまだ少し早いけど、話したい事たくさんあるんだ。
私、まだちゃんと言えてないから
「"お母さんおかえり"って」
私と父は寝室の扉を開けた。
そこに立っていたのは、私のお下がりの服にエプロン姿の――
――母じゃなかった。
びしょ濡れの少年が、雨の音を背負ってこちらを見ていた。
「だ、誰ぇぇぇぇ!?」
私と父は、驚愕のあまりその場に凍りついた。
――つづく。
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次回17話「ていうかWho are you?」
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