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Until we meet

作者: Seven Solon

おはよう。


桜の花びらが雪のように僕たちのまわりに舞い降りていた。薄桃色の花びらがリナの黒髪にひらひらと絡まり、僕の心臓はまるで胸を打ち破りそうなほど高鳴っていた。この瞬間のために何週間も準備してきた。退屈な数学の授業中や眠れぬ夜に、何度も何度も告白の言葉を繰り返してきた。


桜の木の下、僕はついに勇気を振り絞って愛を告白した。


「リナさん……」僕は囁くような声で言い始めた。喉を鳴らして、もう一度しっかり言った。「ずっと考えてたんだけど……君のことが、好きだと思う。」


その言葉は僕たちの間に静かに漂っていた。しばらくの間、桜の葉が揺れる音だけが聞こえる。僕は息を止めて、返事を待っていた。


彼女は笑った。


「冗談でしょ、マジで? ブロって感じなんだけど」と、携帯から顔を上げることなく言った。


……え? 冗談? ブロ?


その言葉は平手打ちのように僕に突き刺さった。大切に準備してきた告白が、冗談扱いされた。想像していたロマンチックな場面は、桜の花びらのように音を立てて崩れていった。


人生でこんなに恥ずかしい気持ちになったのは初めてだった。


教室に戻る頃には、すでに噂が広まっていた。もちろんそうだよな。中学では何も秘密にできない。でも、近くで見ていた友達くらいは秘密を守ってくれると思っていたんだ。


「ははは、マジでそんなこと言ったの?」


「うわー、今年一番のジョークじゃん!」


教室に戻って席に着くまで、嘲笑の声が僕の後を追いかけてきた。顔が熱くなるのを感じていた。


「お兄ちゃんみたいにしか見えなかったし、気づいてたと思ったけど」と、リナは友達に言っていた。まだその話で笑っていた。「だって、明らかじゃん!」


その無神経な声に、僕の中で何かがぷつんと切れた。


怒りに満ちた僕は、教室の向こう側に向かって叫んだ。


「うるさい! 告白なんてしなきゃよかった!」


教室が静まり返った。全員が僕の方を見ていた。


「うわ、泣いちゃったよ」


「なに? お姉ちゃんにでも言いつけるの?」


何が起こっているのかわからなかったが、視界がぼやけていた。僕は本当にみんなの前で泣きそうになっていた。屈辱感が押し寄せてきて、まるで大勢の前で溺れているようだった。


ちょうどその時、サオリ先生が教室に入ってきた。空気が一変し、全員が席に戻ったけど、視線だけは僕に注がれたままだった。くすくす笑いも止まなかった。


僕は本当に友達を選ぶべきだ。いや、そもそもこの人たちは友達なのか?


椅子に沈み込んで、他のことを考えようとした。サオリ先生は9年生の担任で、数学を教えてくれている。22歳にして博士号を目指している天才だ。知的で、僕みたいな浮いている生徒にも優しい。もしかして、彼女に告白した方がよかったのかも……少なくとも人として扱ってくれるから。


あ、ちゃんと自己紹介してなかったね。


僕の名前はショナ・トゥラニ。14歳。父はカメルーンの外交官、オバシ・トゥラニ。母はドイツ出身の通訳者、ニア・トゥラニ。二人は東京で行われた国際会議で出会い、文化や言語について夜遅くまで語り合って恋に落ちた。父は日本文化の大ファンで、僕が話し始めた頃から日本語を学ばせた。


今では、日本国籍を持ち、3年間日本に住んでいる。でも、決して楽しいことばかりじゃなかった。サクラ国際学園に転校してからというもの、どこか「間」にいるような感覚が抜けない。異文化の狭間で、自分の居場所を探している。


最近、女の子に惹かれるようになってきた。ただ見るだけじゃなく、もっと深く関わりたい。母と一緒に見ていた恋愛ドラマの影響かもしれないけど、現実の恋愛がしてみたい。手をつないだり、真面目な会話をしたり、できれば初キスもしてみたい。あと……禁断の果実ってやつも。正直それが何なのかよくわかっていないけど、なんとなく惹かれる。


まあ、最近の子どもたちは下品だとか言うけど、僕も例外じゃないかもな。


そんなことを考えながら、僕は窓の外を見つめていた。そこには、たった今夢が散った桜の木が揺れていた。


「トゥラニ!」


名前を呼ばれた瞬間、僕の額に何か固いものがぶつかった。サオリ先生が投げたチョークだった。


「うわっ、マジかよ、痛ぇ……」と、額をさすりながらつぶやいた。


顔を上げると、先生の顔が怒りに染まっていた。普段は優しい彼女が、今はきっぱりとした厳しさを見せていた。


「授業中にぼんやりするのはやめてくださいね」と、教室中に響く声で言われた。


またクラスの視線が僕に集まった。今日だけでどれだけ注目を浴びているんだろう。失恋に続いて、今度は公開叱責。僕の存在がどんどん笑い者になっていくのがわかる。


僕は頭を下げて、反省しているふりをしながら先生が授業を続けられるようにした。もうこれ以上、面倒なことはゴメンだった。


先生が二次方程式の説明に戻る中、僕は「なぜ恋愛を追いかけることでここまで現実逃避してしまうのか」を考えていた。僕はそんなに人とのつながりに飢えているのか? 愛情を求めすぎているのか?


数学の世界に集中しようとしたその時、隣に座るトノが小声で話しかけてきた。


「なぁ……まだリナのこと引きずってんの?」


「授業に集中してくれよ、これ以上怒られたくないんだよ……」と僕は懇願するように言った。サオリ先生の殺気を感じていた。


でも彼は全く気にしていなかった。


「おい、切り替えていこうぜ。忘れさせてやるってばよ。いいもん見せてやるよ」


「え?」


トノ・ヒガリ。東京生まれ東京育ち、地元の言葉も空気も完全に染み込んでる。僕とは正反対の人間。でもこの学校で唯一、まともに話してくれる存在でもある。だからこそ、僕は彼の悪ふざけにも付き合ってしまうのかもしれない。


でも今日はさすがに、これ以上笑い者になりたくなかった。


「昼休みに校舎の西裏、園芸部の近くで待ってろ」と彼は言い、ニヤリと笑った。


昼休み


校舎のカフェテリアは騒がしく、人だらけで、朝の屈辱を知っている連中ばかりだった。一瞬で「有名人」になったような気分だった。だからこそ、僕は指定された場所に向かった。誰にも見られたくなかった。


西裏の庭は、園芸部が手入れしている静かな場所だった。温室と野菜畑があり、学校の喧騒から離れた平和な空間だった。


そこには、茂みの陰にしゃがんで何かスパイのようなことをしているトノの姿があった。僕が近づくと、目が合い、彼はいきなり僕の腕を引っ張って茂みに引き込んできた。


「おい、何してるんだよ!」と僕は小声で怒鳴った。


「静かに、よく見ろ」と彼は葉の隙間から指をさした。


そこには、野菜畑の中を丁寧に手入れしている人影があった。帽子とマスクを着けていて、性別すら分からなかった。


「なんだよ、これ」


「彼女は天城サヤカ、クラスDの子だ」


「聞いたことないな」


「だろうな。お前が知ってる人間なんて何人いるんだよ?」


言い返せなかった。学年末が近いのに、僕はまだ周囲の人間をほとんど知らなかった。


「……からかってるなら、帰るぞ」


「バカ言うな、今回はマジだって」


僕が引き返そうとすると、トノは彼女のもとへ近づいて行った。


「おーい、これ何? 美味しそうじゃん!」


仕方なく僕も後に続いた。心臓がバクバクしていた。


その人は顔を上げ、マスク越しに答えた。


「こんにちは……これは私たちのクラブで育ててる野菜です。無農薬で、学校の食堂でも使ってるんです」


その声は、はっきりとした、そして心地よく響く女の子の声だった。


信じられなかった。これは……もしかして、チャンスなのか?


「こんにちは、えっと……ここで何してるんですか?」僕はなんとか普通の声で答えた。


彼女はゆっくりと立ち上がり、マスクを外した。


その瞬間、僕は息をのんだ。


黄金色の髪が午後の光を受けて絹のように輝いていた。繊細で整った顔立ち、滑らかな肌。だが、何より目がすごかった。新緑のような優しい色で、僕をまっすぐに見つめていた。


目と目が合い、そのまま一瞬、時が止まった。


彼女はやがて微笑みながら言った。


「こんにちは。私は天城サヤカです。園芸部に興味ありますか? 会えて嬉しいです」


その笑顔は、嵐の後に差し込む太陽のようだった。



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