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三題噺もどき4

図書館にて

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくごじゅうに。

 



 開けた視界に映るのは、壁いっぱいに並べられた本。

 背の高さが均等に揃えられて並んでいる。

 こちらに見せている背表紙の色は、様々。

「……」

 上を見上げると、どこまでも続いているように見える。

 聳え立つ山のようにも見えて、少し恐ろしくも思えてしまう。

 今にも倒れてきそうな、覆いかぶさってきそうな。

「……」

 無意識に肩にかけられていた紐を、両手でぎゅうと握っていた。

 紐の先には、小さなポーチがついており、ちょっとした鞄になっている。

 たいしたものは入らないが、大切なモノは入る。

「……」

 何かから逃げるようにして、ここに来た。

 何かは分からないが、とにかく逃げたいと言う一心でここに来た。

 ここがどこかは分からないが、何かで見た図書館のようなものだと思った。

「……」

 どこまでも続く本の羅列。背の高さで揃えているのは、この図書館の持ち主のこだわりだろうか。見た限り、作者名で並べられているような感じはない。

 永遠に続いているように見えるうえ、背の高い本棚は、少々恐ろしいが、追ってくる何かに比べたら全く怖くもない。

「……」

 紐を握っていた手を片方放し、そろりと本に手を伸ばす。

 ―視界に入った手は、あまりにも小さく、細く、簡単に手折れそうなものだった。指先も、手首も細々として、枝だろうかと見紛う程だ。自分の手のはずなのに。

「……」

 背表紙に手を添えると、ざらりとした布の感触が返ってきた。

 それも少し気味が悪く思えて、一瞬ひるんだがもう一度手を伸ばした。

「……」

 ほんの少しだけ飛び出た背表紙の上の部分に指をひっかける。

 この小さな掌一つだけでは、引っ張ることはできなさそうだった。

 かなりきっちりと本が詰まっているのだろうか、全く、びくともしない。

「……」

 両手で引っ張ればとれるだろうかと、もう片方の手も伸ばしてみる。

 今度は少しだけ、動いた。

 けれど、それ以上はどうあがいてもびくともしなかった。少しでも動けば取れると思ったのだけど、そんな簡単にはいかないようだ。

「……」

 そもそも、こんな所でこんなにのんびりとしている余裕はないはずなのに。

 本に対する興味は確かにあるが、何を書いているのかも分からないような本ではなく。

 私の知らない、世界をたくさん知れるような本が読みたいだけで。

「……」

 背表紙にも何も文字の書かれていない。

 作者の題名も分からないような本に興味はないわけで。

 ―それでもどうしてか、目の前にあるこの一冊を手に取りたいと思ってしまっていて。

「……」

 逃げていたはずなのに。

 隠れていたはずなのに。

「……」

 ここに居たままでは、いずれ見つかるのが分かるのに。

 ここから離れないといけないと言うのは、分かっているのに。

「……」

 なぜだか足は動かず。

 手は必死に本を取りだそうとしている。

 なぜか分からないままに、体だけが勝手に動いているようで、思考がどうにも追い付かない。

 追い付いてはいるはずなのに、体がどうにも言うことを聞かない。

 まるで幼子が自分の表現の仕方も分からないままにがむしゃらに動くように。


「―これが読みたいんですか」


「―――!!」

 ふいに頭上から降った声に体が飛び跳ねた。追いつかれたかと思い、どうしたものかと逡巡したが。

 見上げると、そこにあったのは見慣れた青年の顔だった。

 私と揃いの色の瞳に、すうっと通った鼻筋、どこに出しても恥ずかしくないような美しい顔立ちの青年。こちらを覗きこむように腰を折り、私が伸ばしていた本に手を添えていた。

「――うん」

「どうぞ」

 そういいながら、本を棚からあっさりと抜き出し、手渡す。

 そのまま伸ばされてきた掌を握り、連れられる。

 どこに行くのだろうと思ったが、共に行けば何も問題はないと分かっていた。

「……」

 道の先にはスカートのようにふわりと広がったカーテンがあった。

 その先に広がるのは、天国か地獄か。

 まぁ、何かに追われていても、コイツが居ればどこでもいいか。






「……変な夢を見た」

「……そうですか」

「家の中でもあの格好していいんだぞ」

「……疲れるのでしません」











 お題:ポーチ・図書館・スカート

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