世界の滅び
西暦 xxxxx年
世界もしくは宇宙そのものが熱を失い滅びつつあった。
輝きを失い、暗く冷たく何もない空間が徐々に宇宙を覆う。
人類はこの宇宙の現象への手段を何も持ち合わせていない。
人類が宇宙に飛び出し何千年と経っているが、宇宙規模のこの現象をどうにかできる科学技術はなにも持っていなかった。
どれだけ物理法則を自由にいじれる技術と能力を持っていようと、どれだけ体を改造して超能力を持たせようとも、もはや対処のしようがなかった。
人類は絶望の淵にある。誰もがそう感じている。
だが、だれも慌てる者はいない。科学技術の頂点を極め、従来の人の枠を超越した人類は嘗ての神話に登場した神々のような能力をもち、精神も卓越した存在で、争いのない完璧な世界。
神の力を持ち、卓越した精神をも持ち合わせいる科学者や技術者は滅びゆく宇宙に対して残された手段として、突拍子もないことを思いついた。
異世界への避難だ。
最初は反対する人々がいたが時間が経ち、他に手段がなくなると否応でも異世界への避難を考える人々が増えていった。
人類の望みをかけて、時間の限り実験を行い、次元の先にある別の世界の観測を行う。
懸命に観測を行った結果、人類が適応できる世界は九つ発見された。
しかし、異世界に送ることができる次元開口を通れるのは、赤子一人ということが分かった。
人類すべてを異世界に送ることはできない。だが、同時に人類の存続は可能であることが確定した。
人類は長い熟考の末に、人類すべての技術をつぎ込み9人の赤子を作ることにした。
より生存確率を上げるために、それぞれ違う特性を発揮するように赤子をつくる。
つまり、超人的な人造人間の作成である。
一人には、何の特徴もないが万能の力を。
一人には、優れた容姿に、コミュニケーション能力が極めて高い力を。
一人には、武に優れ、運動脳力が極めて高い力を。
一人には、文に優れ、芸術や感性が極めて高い力を。
一人には、世界の神秘を求める技術者としての力を。
一人には、身を守るために引きこもる思考と引きこもるために必要な力を。
一人には、人外と仲良くできる動物に愛される力を。
一人には、無常な世界を生き抜くために肉体を修復する力を。
一人には、異世界の住人を排除するための思考能力を。
9人の赤子は、そのほとんどが万能といっていい能力を備えている。
ただ、それぞれには特徴となる思考パターンと最も得意とする分野や能力が別れている。
あえて言えば、人類すべての能力を9人の赤子に託すため、外道な能力を含めてすべてをつぎ込んだと言える。
次に考えるのは、赤子のまま送り出した際の現地での生存方法の確立だ。
人類は、9人の赤子それぞれに教育係となる自立型支援機器と生活拠点を築くための資材が格納されている物質復元電子記録装置を持たせる。
自立型支援機器といっても赤子と同じ大きさにしなければいけないため、多彩な機能をもたせることはできなかかったが、耐久性と移動能力、食料の確保といった赤子を生き残らせるための機能。赤子が子どもになり、知識が必要になったときに脳内に情報を直接注ぎ込むための直脳情報送信機能。
そして時が来た。宇宙の大半がすでに暗闇に飲み込まれている。
人類は、次元開口を開き、球体の形をした自立型支援機器の中に赤子と物質復元電子記録装置を格納する。
『それでは行って参ります。』
9機の自立型支援機器たちが、それぞれ同じ言葉を人類むけて発し、次元開口の中に入り異世界を目指す。
そして、程なくして宇宙は完全に暗闇に包まれた。
地球が存在した世界は明確に滅んだ。
そして人類の命脈を繋ぐのは9人の赤子。
赤子たちがどのような生命を紡いで行くのか、それはまだ誰にも分からない。