Another side:再会
エヴァリューに無理を言ってサロンに参加した日から彼女はよくサロンに参加するようになった。彼女と共にいれることが嬉しい。
しかし、その反面何と無く違和感を覚える。何かの案を求められると決まって「家でじっくり考えてきますわ」と言い、その日に答えることはない。あの彼女ならその日にこういうのはどうだ?と答えそうなものだが。まぁ、真剣に考えようとしているのだろう。またそれも彼女の良き点ではある。
それからサロンには彼女が参加する度、自分も毎回参加するようにしたのだが、サロンに参加して何回目かして彼女はクリスティーナに呼び出された。それを目にすると彼女を自分が守りたいという思いが湧き出てくる。しかし、自分には立場がある。おいそれと側にいることはできない。ならば困っている時に手を差し伸べるだけならいいだろう、と考えた。
それからと言うものクリスティーナから直接苦言を強いられることは無くなったようで一安心した。
しかし、安心したのも束の間、彼女の物が無くなる事件が起きる。それでも大方注意を受けたクリスティーナの粗末な嫌がらせだろうと軽視していた。
初めは筆箱だった。よくある革の万年筆入れで紐で縛るタイプのものだそうだ。もしかしたら何処かで落としただけかもしれないと彼女がよく行く場所を探してみると図書室のテーブルで呆気なく見つかった。しかし、よく見ると筆箱の下に紙が挟まっており、それを見ると『代筆』の文字。意味がわからないがやっぱり嫌がらせだったのか、とその紙を何となくポケットに押し込んだ。
次は教科書が無くなった。またも嫌がらせの可能性が高いがもしかしたら置き忘れただけかもしれないと授業を受けた教室を探したがなかった。筆箱があった図書室か?と行ってみると筆箱のあったテーブルにはなく、部屋中をうろうろしていたら植物図鑑や農業専門書の並んである棚に不自然に飛び出て置かれてあったのを見つけた。やっぱり嫌がらせか、と思ったらまたも教科書に紙が挟まっていた。見ると彼女が手がけた数々の論文の一つ『硝子細工による資産形成と国益について』が挟まっていた。昨日のようなメッセージは何もない。クリスティーナは何をしたいのか、この論文はこの国では有名で彼女の才能が脚光を浴びるきっかけとなったものだ。知識ある者ならば知らない者はいないほどだ。疑問は残るが取り敢えずポケットに入れておくことにした。
その日の夜、自分の執務室で彼女の無くし物から見つけたメモ紙と論文を何となく並べて眺めていた。
なんだ?何かがおかしい。あの直情的なクリスティーナがするにしては意味あり気な気もする。自分が感じる違和感の正体を確かめようとじっくりと見つめていると、あることに気が付いた。
字体が同じなのだ。
そんな馬鹿な…。彼女がこのメモを書いたのか?筆箱を無くしたと言うのは嘘だったということか?ならば教科書も?…自作自演していたと?いやいや待て。仮に自作自演だとしてもそれを明かすようなことをしないだろう。もっと何か、何か重大なことが隠れているのではないか?
クリスティーナが犯人だと思っていた自分の浅はかな考えが覆る瞬間だった。
その日の夜はなかなか寝付けなかった。
それから何日か後、今度は鞄が無くなった。これはあまりにも目に余る。あの違和感といい、早々に犯人を見つけ真相を確かめるべきだろうと決断すると同時に図書室へ向かう。
「あら、殿下。最近よく図書室へ来られますね。」
図書室の管理をしているミセス・コンセイユが扉を開くや否や眼前に現れ、そう声を掛けてくる。
「あぁ。少し調べ物をと思ってな。」
「そうですか。殿下は昔は頻繁に図書室に来られていたのに、とんと姿を見なくなってしまいましたからね。何年ぶりでしょう。」
「そうだな。昔は本を読む時間も意欲もあまりにもあったからな…。」
そう言いながら彼女と過ごした遠い記憶を思い起こす。
ここ、王立学園の図書室は国一番の蔵書数を誇り貴重な専門書も取り扱っている。学園内には研究機関も付随しているため、より高度な知識を得ることのできる蔵書もあり、一般市民も利用できる施設となっている。さすがに一般開放されているのは一般閲覧用の図書室のみだが。先程のミセス・コンセイユはその最高責任者でもあり、その任に就いて長い。幼かったあの時はよくここに珍しい本を探しに来たものだからミセス・コンセイユはあんなにも親しくしてくるのだろう。まぁ、図書室に通う子どもなど俺か彼女くらいだから嫌でも知っているだろうしな。
そういえば彼女も同じでここに足繁く通っていたそうだが、それぞれがここによく来るのに、彼女とはここで会ったためしがない。
「あの頃はルシフェル嬢もここで良く調べ物をなさっていましたわね。」
ミセス・コンセイユも遠い昔を思い出しているようで視線を遠くにやっている。
「…ん?待ってくれ。確かアナ…んんっ!
ルシフェル嬢は今もここに良く通っているはずでは?」
「そうですねぇ…。良く来るは良く来るんですがねぇ…。何せ昔のようにここで調べ物をしたりお勉強なさったりは全く無くなってしまわれて。確か6歳の頃だったか、ルシフェル伯爵婦人がなくなってからぱったりと。今は本を借りるだけで私と話すことも殆ど無くなってしまいましたわ。」
どういうことだ?てっきり昔のようにここで勉強をしているのだと思っていたが。母であるルシフェル夫人が亡くなってから、とのことだから心変わりがあったのかもしれない。幼い頃に最愛の母を亡くした彼女の心情を思うと胸が痛む。
少しばかり彼女のことを慈しんでいたが、それとは別にここには彼女の探し物を見つけに来たのだ。物思いに耽っていないでさっさと無くし物を見つけるとしよう。