証拠
アナベルは今日もあのバレッタを付けていた。ライオネスから貰った日から欠かさず毎日付けているため少し止めが緩くなっている気もしていたがそんなに気にしていなかった。
いつも通りライオネスと共に校舎へ向かい、授業を受ける。そしていつも通りライオネスに誘われ昼食を共にする。今日は天気がいいのでテラスは人が多いだろうと人気の少ない温室で食事をし、食事が終われば共にゆっくり過ごしていた。
「そのバレッタ、毎日付けてくれているんだな。」
「えぇ。とても気に入っていますもの。」
「そうか。」
ライオネスは自分が贈った物をアナベルが毎日身につけ、大切に使ってくれていることに喜びを感じ、嬉しそうに頬を緩める。それを見るアナベルも嬉しそうにライオネスに笑いかけており、そこには二人だけの世界ができていた。そんな中、もうすぐ始業することを知らせる鐘がなり、二人は共に温室を出て行く。会話が弾んでいたため二人は気が付かなかった。
アナベルの髪からバレッタが無くなっていることに。
しばらくしてエミリアからバレッタが付いていないことを教えられ、アナベルは慌てて探した。アナベルを教室まで送り届けてくれたライオネスもエミリアも一緒に探してくれる。きっと何処かに落としてしまったのだ。留め具がやっぱり緩くなっていたのだろう。気にしていなかった朝の自分を悔やみつつ、探す手は止めない。始業までまだ少し時間はあるし、さっき昼食をとった温室に行ってみることにした。
「申し訳ありません!先程気に入って大切にしていると言ったそばから…。」
「いや、いいんだ。こんなに必死に探してくれるのだから大切にされていることは一目でわかる。もし、みつからなかったら今度は君が気にいる物を一緒に探しに行こう。」
「まぁ!殿下、それはデートのお誘いですか?」
泣きそうな顔をするアナベルをライオネスが励まそうとし、その言葉に茶々を入れるエミリアにライオネスが恥ずかしそうにそうだと答える。二人のやりとりをふふっと笑いながら見るアナベルはもう先程の泣きそうな顔をしていなかった。
温室に着くと昼食をとったベンチに向かうもそこには人影があった。その後ろ姿は顔を見なくてもわかる。
クリスティーナ・ローズウェルであった。
人の気配を感じてクリスティーナが振り返るとちょうどクリスティーナの足元に光る何かが見える。目を凝らしてよく見るとアナベルのバレッタがそこにはあった。それは硝子細工が割れて破片が飛び散っており無惨にも壊れた姿となっているではないか。それを見たアナベルはわなわなと口元に手を当て、あまりのショックに涙を滴せた。エミリアはアナベルを気遣い、ライオネスは憤怒を露わにする。
「ち、違いますわ!私が来た時には既にこうなっておりました!私は断じて触れておりません!」
クリスティーナが慌てて否定するも、状況証拠だけ見れば誰がどう見てもクリスティーナがやったであろうと思われる場面であった。あまつさえ、クリスティーナは以前何度もアナベルへ苦言を強いていたこともあり、また、最近は不自然にアナベルの物が無くなる事件も多発していたためライオネスからの疑いは晴れない。
「ならば貴様がやっていないことを証明してみせろ。」
ライオネスの低く、凄みのある声にクリスティーナは怯え慄き、動けずにいた。証拠を、と言われてもあるわけが無い。何も言わないクリスティーナに痺れを切らしたライオネスが発案する。
「仮にバレッタを踏んで壊したとすると靴裏に硝子の破片が刺さる筈だ。それがない場合貴様は無実としよう。靴の裏を見せてみろ。」
そう言われ、大人しく従うクリスティーナであったが、その靴裏にはバレッタと同じ色の硝子の破片が刺さっていた。