贈り物
東屋で昼食を取り終えると、不意にライオネスがじっと真剣な眼差しで見つめてくるのでさっと居住まいを正す。数秒見つめ合ってからライオネスが一つの箱を取り出した。
「アナベル。よければこれを受け取ってくれないか。」
「これは?」
差し出された箱を受け取りつつ不思議そうに見ていると、頬を照れたように掻きながらライオネスは言う。
「その、先日は君の16の誕生日だと聞いてな。祝いたくて用意したのだが、要らなければ捨ててもらって構わない。」
「ぇ…。あ、あの、開けても…?」
「あぁ。もちろんだ。もう君の物だ。」
まさかのことに驚きを隠せない。自分の誕生日を殿下が知っているなんて。ましてや贈り物を準備していたとは。そう思いながらも受け取った箱の包を開けていく。中には幾つもの輝く石を花形に嵌め込んだバレッタが入っていた。
「すごく綺麗…。」
手にとって見ると陽の光に照らされてよりキラキラと輝くそれは、まるで濡れたライオネスの瞳のようであった。
「喜んで貰えたようで何よりだ。」
「こんなっ、こんな素敵な物をありがとうございますっ!でも、こんなに高価なものは頂けませんっ!」
「いや、そんなに高いものではないんだ。」
「こんなに宝石がついているのにですか?!我が国での宝石の価値はライオネス様もご存知でしょう?」
そう。この国、レヴィストワール王国は他国に比べて極端に鉱物の採掘量が低い。また、特殊な含有物が含まれているとあってその貴重性により拍車をかけていた。それ故に自国で取れる数少ない宝石は他国に輸出する事なく、貴族のみが入手できるようにし、子どもが産まれたときにその子の瞳の色と同じものを渡すことでその子どもがこの国の、延いてはその家の本当の子どもであるという証にされてきた。
もちろん他国からの輸入で宝石を手に入れることは可能なため宝飾品として扱われることもあるが、そもそも、この世界では宝石となる鉱物自体があまり採れず、宝石そのものが貴重とされているのだ。そのため、宝石の価値があまりにも高くなっている。
「あぁ。知っているがそれは宝石じゃない。」
「え?」
「それは君が幼い時に発明した硝子細工だ。」
「がらす…?」
「そうだ。覚えていないか?君が5つか6つかのときだったと思うのだが…。君が硝子を宝石の様な形にすることで流通させたのが始まりじゃなかったか?そのおがけで今は我が国の硝子細工の技巧が世界に注目され、発展の立役者となったこと。まぁ君にもわからないくらい我が国の細工技巧は高度なものになっているようだが。」
「お、覚えておりますわ、」
アナベルは昔の記憶を思い起こす。それは確か6歳のときだ。真の石と言われこの国の産まれである証となる貴重な我が国の宝石で作られた自分だけのペンダント。どうしても見てみたくて父に我が儘を言って見せて貰ったことがあった。それがあまりにも綺麗なものだったから手元に置いておきたくて同じ物を作れないかと画策したのがきっかけだ。
「あれは当時まだ幼かった俺には衝撃的でな。俺より年下の、しかも女児がこんなことを考えつくなんて、と驚愕したものだ。だから君の思い出というか、まぁ君に関わりのあるものを贈りたかったんだ。」
「まぁ…。そうだったんですか。」
アナベルはもう一度貰ったバレッタをじっと見つめ、一拍置いてライオネスと向かい合った。
「こんなに素敵なバレッタを本当にありがとうございます。大切に、大切に使わせて頂きますわ。」
「あぁ…」
ライオネスは嬉しそうに微笑むアナベルをじっと見つめていた。