近づく距離
2人で見つめ合ったあの日からライオネスは積極的にアナベルと共に行動するようになった。正義感からアナベルを守るため、延いてはクリスティーナの悪事の証拠を掴むためだとわかっている。わかっているがこうも毎日側にいて、あの柔らかい笑みを見せられ、優しくされると勘違いしてしまう。頬を染めながら窓の外を見つめ懸想する様は恋する乙女そのものであった。悶々としていた時、エミリアの声で唐突に現実に引き戻される。
「身分を超えた真実の愛、素敵ですわ〜!」
「え、エミリア様!」
「うふふっ。聞きましてよ!ライオネス殿下とのラブロマンスを!」
「ち、違うのよ!!私とライオネス様はそういう関係じゃなくて!ライオネス様は…、正義感の強い方だから私が困っているの放って置けないだけなのよ。」
「そんなことありませんわ!確かに真面目な方ではありますけど、アナベル様を見つめる瞳がもう饒舌に、その胸中を語っていらっしゃるもの!あんなのアナベル様だけしか見られませんわよ!」
そう、真面目で浮いた話一つないライオネスは堅物として有名でもある。婚約者とのデートの話一つもないのだ。アナベルと学年は違うものの、その噂は学園だけではなく、王都でも知れ渡るほどに。しかし、最近のライオネスはアナベルと話す時の表情が柔らかく、いつもと違う表情を見せることから真実の愛を見つけたと噂されていた。それを知りつつアナベルと仲のいいエミリアは幾度も間近でライオネスの変化を見て確信していたのだ。
「巷でも真実の愛と言われておりますのよ!身分を超えたラブストーリー!まるで観劇のようではございませんか!!」
「落ち着いてエミリア様!」
「もうっ!アナベル様はどう思われてますの?」
「え…、わたし?」
「そうですわ。アナベル様自身がライオネス殿下のことを。」
「それはもちろん…」
不意に自分のことを聞かれ、一瞬どきりとするも、アナベルは一臣下として尊敬するお方であると答えようとして、そこでふと考えた。真面目で正義感が強くはっきりとものを言う殿下は一臣下として尊敬するお方であるが、いつも学園やサロンで無邪気に話してくれ、自分に柔らかく笑ってくれ、いつも守ってくれる優しい殿下は別の存在なんじゃないか、と。
「アナベル様は殿下と一緒にいてどう思われますの?ドキドキしたり、もっと話したいとか一緒にいたいとか思ったり、何も感じませんの?」
そう言われると言葉が出てこない。確かに殿下と一緒にいると胸が高鳴る。もっと話したいしもっと一緒に居たくなる。この人のためにできることをしたいと思ってしまう。自分だけをもっと見つめて欲しい、と———。
その瞬間。ブワッと頬が、体が、熱くなるのを感じた。自覚してしまったのだ。自分が殿下を好きだと言うことを。アナベルのその様子を見て、うふふふっとしたり顔でニヤつくエミリアを尻目に手で顔を覆う。
そんな折、ふいに声がかかる。
「すまないが、アナベルを昼食に誘ってもいいだろうか。」
「殿下!は、はい!もちろんですわ!どうぞお二人でごゆるりとなさってくださいませ!」
「え、エミリア様!」
「では。アナベル、一緒に食事に行こう。」
「は、はい…。」
いつもの昼食の誘いなのに、先程のエミリアとの会話でライオネスへの気持ちに気付いてしまったことで顔を見れなくなる。俯くアナベルにライオネスは不思議そうに、心配そうに声をかけた。
「大丈夫か??顔が赤いようだが、熱があるんじゃないか?」
「だ、だ、だいじょ、ぶです。」
「?。そうか?しんどくなったら直ぐに言うんだぞ。」
「は、…はい。」
優しく心配してくれるその声音も表情もエミリアの言う様にもし自分だけだとしたら…。そう考えると余計顔に火がつきそうになる。違うことを考えようと周りを見回して気が付いた。いつも行く食堂ではなく、中庭方面に来ていることを。
「あの、ら、ライオネス様?どちらに行かれるのですか?」
「あぁ、すまない。言ってなかったな。今日は趣向を変えて東屋で食事をと思ってな。昼食をそっちに用意させたんだ。」
「そうなのですか。」
「あぁ。あと——。」
「あと?」
「いや、なんでもない。」
そう言ってライオネスは悪戯っぽく笑った。
その表情をみたライオネスへの思いを自覚したアナベルはますます顔を赤くするのであった。