Another side:探し物
筆箱も教科書もこの図書室にあったのだから鞄もここにあるに違いないと思っていたのだが、探しても探しても見つからない。テーブルの上にも本棚にもない。そんなに複雑な構造をしていないため、隠せる場所などたかが知れているはずなのに。
どこだ?何か手掛かりはないのか?
困っている彼女を助けたい一心で頭をフル回転させる。そこで思い出す。今まで探していたものと一緒にあったメモ紙と論文を。
確か筆箱と共にあったメモ紙はこのテーブルに置いてあった筈だ、とそのテーブルに手を着く。その時たまたま側にいたミセス・コンセイユがまた声を掛けてきた。
「あらあら。懐かしいですわねぇ。確かここにいつも座っていたわ。」
「誰がだ?」
「あら!ご存知なかったですか?幼かったルシフェル嬢ですよ。」
彼女がここに座っていた、と?
どうにも引っかかる。彼女の無くなったものが彼女と同じ字で書かれたメモ紙と共に彼女が座っていた場所で見つかるなんて。犯人が意図して置いたと考えざるおえない。しかも彼女をよく知る人物だと。
ならばと思いミセス・コンセイユに教科書のあった棚の場所にも縁があるかを尋ねてみる。
「あらあら!これまた懐かしいですわねぇ!やっぱり殿下もご存知だったんですね。」
「いや、申し訳ないがここで彼女と会ったことがなく、私にはわからないのだがここで何かあったのか?」
「何か、という程ではありませんが、この書棚の欄はルシフェル嬢がよく借りていたのですよ。あまりにも熱心だったので何か目的があるのかと聞いてみたら自分の領地を豊かにするための勉強をしていると言ったらしたわ。どんな災害にも負けない立派な領地にしてみせるって。ふふっ。幼いころから本当にお家思いで聡明でらしたわ。」
知っている。だから最近も気候変動での作物の生産量への対策とした論文を出していたのだから。だが、何故犯人は幼き日の彼女の行動を知っている?あの論文が出たからこの辺に置いておこうとでも思ったのか?
いや、と一人首を振る。この犯人がそんな浅はかな考えで置いたとは考えにくい。ならば何か意図があってのことだ。俺は他にも何処か縁のある場所を知らないかと尋ねてみた。
「そうですねぇ…。」
ミセス・コンセイユは、暫く逡巡したのちある場所を教えてくれた。
「彼女と深く縁のある場所としたらここですわね。」
そこは返却室であった。返却された本を一時的に置いておく場所とされ、確か関係者のみが入室を許可されている場所のはずだ。なぜこんな所に…。
「彼女、よくこっそりここに入って借りられていた本がないか探しに来ていたんですよ。意外とお転婆で、目当ての物を見つけるやいなや私に早く返却処理してくれって強請ってたんです。」
彼女にそんな一面が…と、自分の知らない彼女の新たな姿に胸をときめかすもミセス・コンセイユの言葉で我に帰る。
「あら?こんなところに鞄が…。誰のかしら。」
「すまない。それを探していたんだ。どうやら何かの拍子に紛れ込んでしまっていたみたいだ。」
慌てて鞄を取りに行き、ミセス・コンセイユに短く挨拶すると足早にその場を去った。
だから何かを呟くミセス・コンセイユの声を聞き逃していたのだ。俺はその呟きを知る由もない。