始まりの合図
初めての作品になりますので読みにくかったり誤字脱字があったりするかもしれません。すみません。
それは最初の違和感
「あの、申し訳ありませんが、昨日こちらを落とされたのですけれどお渡しできなくて…。アナベル様のものですわよね?」
見せられたそれは確かに自分の万年筆であった。
「えぇ。ありがとうございます。全然気がつきませんでしたわ。」
最近使った記憶はないが筆箱に入れっぱなしにしていたし、単に自分が気づかなかっただけだろうとアナベルは気にもとめなかった。
「勤勉なアナベル様には大切なものですものね。」
「まぁ!ふふっ。勤勉だなんて。それしか取り柄がないのですわ。」
「またまたご謙遜を!」
ルシフェル伯爵家の1人娘
アナベル・ルシフェル
勉強熱心で努力家なため大変優秀であり、礼儀作法も完璧。見目も麗しいため周囲からは一目置かれる存在である。
「まぁほんと!それしか取り柄がありませんものね!王子妃になられるクリスティーナ様の様に光り輝くブロンドに壮大な海を思わせる様な青い瞳の美しさなんてお持ちではありませんもの!」
「ふふふっ。所詮伯爵家ですもの。私の様な美しさは手に入らなくってよ。」
そう言って現れたのはローズウェル公爵家のクリスティーナ・ローズウェル。
縦に巻かれた美しいブランドの髪は確かに光り輝き、少し吊り目な青い瞳は海を思わせ、思わず覗き込みたくなるほどであった。そしてその取り巻き、シャンタル伯爵家のブリジット・シャンタルとベルナデッド男爵家のカロリーヌ・ベルナデッドである。
「クリスティーナ・ローズウェル様においては今日も大変お美しくございます。ルシフェル伯爵家の代表としてご挨拶できますことを大変嬉しく思いますわ。」
「っ…!あまり調子にのらないことね!」
嫌味な態度を取られたにも関わらず、完璧な作法で挨拶をするアナベルにクリスティーナはぐうの音も出ず、取り巻き2人を連れてさっさっと行ってしまう。
「なんだったのかしら。」
一緒にお辞儀をして話を聞いていた彼女、万年筆を拾ってくれたアナベルと同じく伯爵家のエミリア・クレマンスは言った。
「最近、よくあるんです。」
「まぁ、大変!アナベル様が優秀だから目をつけられたんだわ!」
「そんなことありませんのに。」
「いいえ!この前提出された気候と農業の生産性に対する比率とその対策の論文は先生方も大変注目されておりましたもの!確か国政でも検討されるとか!」
「あれはたまたまなんです。うちの領地の気候変動での作物の生産量をどうにかできないかと思って考えただけで。」
「それがすごいのですわ!領地経営なんて殿方しかなさらないことですのに、負けず劣らずの政策を考えられるなんて、しっかり勉強なさっている証拠ですわ!」
「ふふっ、ありがとうございますエミリア様」
そうして2人は談笑しながら共に校舎の中へ消えていく。
ここ、王立学園高等科は貴族の通う貴族のための学校と言っていいほど社交性に重きを置いている学校であった。基本、身分は関係なく、皆平等な学び舎と言われているが実際は小さき社交場。上流階級の貴族との繋がりを作るために通うものが多い。そのため、令嬢はお茶会などの交流を、令息は今後の領地経営や商売のための政策やツテを、と社会そのものの構図が成り立っていた。また、婚約者が決まっていないものからしたらここは大切な婚約者探しの場所ともなっていた。
「そういえば今度ライオネス殿下がフェルメール侯爵令息様のサロンに行かれるそうですわ。是非とも殿下のご尊顔を間近で拝謁賜りたいものですわね。」
「まぁ、フェルメール侯爵様の…。たしかに、彼の方は優秀な方を好みますものね。女性は一度もそのサロンを訪れたことがないとか。」
「まぁ!それなら今年はアナベル様は呼ばれるかもしれませんわよ!だって大変優秀でいらっしゃるもの!」
「エミリア様ったら、また、」
「いえいえ、大真面目ですわよ!」
「失礼。談笑中申し訳ないのですがアナベル・ルシフェル様でいらっしゃいますか?」
くすくすと2人で笑い会っていたところに少し幼さのある低い声が割って入る。
「ま、まぁ!これはフェルメール侯爵令息のエヴァリュー様ではいらっしゃいませんか!」
噂の人物が目の前にいることに2人とも驚きを隠せずあたふたしてしまうも目上の方へのお辞儀を忘れない。
エヴァリュー・フェルメール
フェルメール侯爵家の長男であり、アナベルたちの一つ上。王家お抱えの鑑定士を輩出する名家さながらエヴァリューも最年少でありながら一流の目利きの腕前として有名であり、いくつか仕事を任されているほどだ。
「そんなに畏まらないでください。同じ学舎の生徒じゃないですか。」
「勿体無きお言葉、恐縮でごさいます。」
「それで、話しかけたのはルシフェル嬢に用事がありまして。」
「はい、如何致しましたか?」
「来月にうちで開かれるサロンに是非参加しないかと思いまして。」
「え…フェルメール様のサロンにですか?」
ついさっき話をしていた、女性は呼ばれたことのないサロンに招待されアナベルは驚きを隠せないでいる。
その横にいるエミリアも驚きのあまり口を開けたままになっていた。
「た、大変光栄でございますが、その、私なんかが参加してもよろしいものなのでしょうか。その、優秀な方のみのサロンだと伺っていたもので、」
「いえいえ、あなたほど優秀な方はそれほど居ませんよ。あなただからお誘いしているんです。先日の論文はとても興味深かった。殿下とも話していたんですよ。あなたともっと見聞を広めたいと。」
「すごいわ!アナベル様!こんなことめったにないことよ!是非参加なさるべきよ!」
エミリアにも背中を押され、分不相応なのではと思っていたアナベルもこれはありがたいことなのだと申し出を受け入れることにした。
「僭越ながら是非、参加させていただきますわ。」
「よかった。また招待状を送るよ。当日を楽しみにしているね。」
そういうとエヴァリューは踵を返して去っていく。
残された2人はその姿を呆然と見送っていた。
ややあって、口を開いたのはエミリアだった。
「ほ、ほんとにすごいわ!!アナベル様!!
まさか、まさかほんとにお呼ばれされるなんて!」
「自分でも驚いてるわ。夢でも見てるみたい。」
「来月が楽しみですわね!!是非ともお話お聞かせ下さいね!!」
「え、えぇ。」
エミリアのあまりの熱量に若干戸惑うも嬉しい気持ちでいっぱいなアナベルは嬉しそうに顔を綻ばせた。