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「それなんだよ、それ。おまえに事情聴取した兵は、なんとおまえの顔を知らなかったらしい。ちょっとばかし腕の立つ被害者の関係者、というふうに処理しちまったそうだ。当然、報告書にはおまえの名前は載っていなかった」

「それは……なんと言うか、運が悪かったな」

 言葉を濁したアルシスに、バートが苦笑する。

「他所から来た新人だったそうだ。後で話を聞いて泡を食ってたが、まあ、知らなかったんだから仕方がない。だがそいつのせいで、あんたの捜索は続くことになった」

「……そうか、だからサナハイドを潰したのか」

「端的に言えば、そういうことだな。王都の端にあった根城、街道沿いにある隠れ家と待機場所、盗んだ物の保管庫と、攫った女性を閉じ込めていた小屋の計五箇所だ」

 バートが指折り数えながら言うのを聞きながら、アルシスは眉間に深く皺を寄せた。

「……あの連中、人にも手を出してたのか。胸糞が悪い。もう少し痛めつけておくべきだったな」

「気持ちは分かるが、破落戸のやることだ。それも想定の範囲内だろう。ともあれサナハイドは片っ端から捕らえて、残党も残していないので安心してください」

 後半はダニエルとドナに向かって言う。

 警備兵たちから報告は受けていても、詳細は分からなかったのだろう。作戦に参加したバートから話を聞いて、ダニエルは深く息を吐いた。

「ことの成り行きはともかく、連中が消えてくれたならなによりだ。あいつらにはドナも迷惑を被っとったからな」

 お茶のお代わりを淹れていたドナが、困ったような戸惑っているような複雑な表情を浮かべる。

「でも、私はアルシスさんに助けてもらったから……」

 被害にあった誰かがいると聞いて、心からは喜べないのだろう。しょんぼりと肩を落とすドナを見て、バートがにっこりと微笑った。

「きみは良い子だね。でも無事だったことを後ろめたく思う必要はない。良かった、と思ってくれる人がいるからこそ俺たちは仕事を頑張れるし、きみを助けたアルシスだって嬉しいはずだ。……なあ、そうだろ?」

「俺はおまえたちみたいな、崇高な生き方はしてねえよ」

 だが、と言って顎をしゃくってバートを示した。

「こいつの言っていることは間違っちゃいない。余計な責任を背負い込んでも疲れるだからな」

 そう言い切ったアルシスに、バートが半眼になる。

「あんたはもう少し、責任を感じた方が良いと思うぞ。そもそも、あんたがなにも言わずに消えるから、俺たちは右往左往させられる羽目になったんだ。しかも見当をつけた場所には影も形もなくて、ここで呑気に鍛冶をやってやがる。あんたに似た男が鍛冶屋の工房にいると聞いて、どれだけ脱力させられたことか」

「おいおい、おまえらの探索の甘さを、俺のせいにするなよ。それに、鍛冶は呑気にやれるほど甘くはねえぞ」

 聞き捨てならなかった一点を指摘すると、バートが軽く両手を挙げてみせた。

「これはすまない。失言だった」

 あっさり言って、バートはちらと窓の外に視線を向ける。それから戻した視線をアルシスに当てて、ほんの少しだけ改まった口調で言った。

「取り敢えず、おまえの居所は報告させてもらう。そうすれば、うちの姫さんも落ち着くだろうしな。……しばらくは、ここに居るんだろう?」

「修行が終わるまでは、そうだな。いずれ独り立ちできた暁には、どこか別の土地に工房を構えたいとは思っているが」

「……そうか。それじゃあその日が来たら教えてくれ。独立祝いに、客の第一号になってやるからさ」

 バートは席を立つと、ダニエルに向かって言った。

「失礼、そろそろ戻らなくてはならないようです。いきなり訪れた挙げ句、騒がしくして申し訳ない。――ああ、そうだ。時々で良いので、アルシスの様子を見に、部下を寄越しても構いませんか?」

「ああ、仕事の邪魔をするんでなけりゃあ構わんよ」

「もちろん、心得ています」

 当然のように監視の許可を取り付けたバートは、無駄に爽やかな笑みを浮かべてみせた。

「それじゃあ、アルシス。またな。修行が落ち着いたらで良いから、今度どこかに飲みに行こう」

「おまえの奢りならな」

 そう返したアルシスに笑ったバートは、礼儀正しく暇を告げてからダニエルの家を後にした。

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