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37.処分

 数週間後。ラザフォード邸の執務室にて。

 恐る恐る入室したイザベルを見るなり、バルトは怒号を上げた。


「貴様……! 自分がどんな失態をしたか分かっているのか!? どの面を下げて戻ってきたのだ!?」


 バルトはイザベルを糾弾する。


「も、申し訳ございません……」


 イザベルはその場に跪き、床に額を擦りつけるようにして謝罪をする。


「言い訳は無用だ! この役立たずめ!」


 バルトは吐き捨てるようにそう言うと、怒りに満ちた表情で彼女を睨みつける。


「ひっ……」


 イザベルは恐怖に顔を引きつらせ、縮こまる。

 しかし、バルトの怒りは収まることを知らず、さらに熱り立つ。


 イザベルは、バルトが憤慨している理由に心当たりがあった。

 それは、数週間前に起こったウルス領での魔物襲撃事件でのことだ。

 避難する際、イザベルはコーデリアを罵倒した挙句、囮にしようと魔物たちに差し出した。

 そのことがラザフォード家にとって非常に大きな痛手となったのだ。


「ウルス公爵は、ラザフォード家への援助を打ち切ると言ってきた。一体、どうしてくれるんだ! お前のせいだぞ!」


 バルトはイザベルの襟元を掴むと、乱暴に揺さぶった。


「も、申し訳ございません……!」


 イザベルは、震える声で謝罪の言葉を繰り返すことしかできない。

 本来ならば、イザベルはそれ相応の処分を受けるはずだった。しかし、ジェイドはどういうわけかラザフォード邸に戻るように命じてきたのである。

 イザベルは不思議に思いながらも、怪我の治療を終えるとラザフォード邸に戻った。

 そして、今に至るのだが……案の定、バルトは大激怒した。


 それもそのはず。バルトは、ウルス家からの経済的援助を当てにしていたのだ。

 唯でさえ、ビクトリアやヘレンは浪費癖があるというのに、ここ最近は高価なものを買い漁っていた。

 ドレス、宝飾品、家具、有名な画家の絵画等々──買ったものを挙げればきりがない。

 加えて──バルト自身の散財、新規事業への投資。ラザフォード家の財政が逼迫していることは明らかだった。


(このままでは、解雇されてしまう……)


 イザベルは蒼白になりながらも、必死に弁明する。


「で、ですが……旦那様も仰っていたではありませんか! 『コーデリアのことは、いくら虐めても構わない』と……! 私は、その命令に従っただけです!」


 イザベルは震える声で叫んだ。


「愚か者!!」


 バルトはイザベルの言い訳を一蹴すると、頬を平手打ちした。パァン、という乾いた音が室内に響き渡る。


(痛い……!)


 イザベルはあまりの衝撃に床に倒れ込みそうになるが、なんとか堪える。


「それとこれとは話が別だ! 時と場をわきまえろ! 今のコーデリアは、仮にも公爵夫人だ! 向こうはいくらでも難癖をつけられる立場にあるのだぞ!? 下手をすれば、この家ごと潰されかねん!」


 バルトの言う通りだった。

 けれど、まさかイザベルもあのやり取りをジェイドに聞かれているとは思わなかったのだ。


「お、仰るとおりでございます……」


 そう返すと、イザベルは項垂れる。


「とにかく、今回の件でラザフォード家は経済的窮地に立たされた。……ここまで言えば、もう分かるな?」


 バルトはイザベルの顎を掴むと、強引に視線を合わせる。


「は、はい……?」


 イザベルは震える声で返事をした。


(一体、どうすれば良いの……?)


 そう考えながらも、次の言葉を待つ。


「貴様の処分はもう決まっている。──娼館送りだ」


 バルトは冷酷な表情でそう告げた。

 その言葉に、イザベルは愕然とする。


「それも、ただの娼館ではないぞ。毎日のように拷問され、奴隷同然の生活を送ることとなる──そんな場所だ」


 バルト曰く、その娼館は人を人と思わないような、非人道的な場所らしい。


「そ、そんな……! そんなの嫌です! どうかお許しを……!」


 イザベルは必死に懇願するが、バルトはそれを許さなかった。


「黙れ! もう決まったことだ!」


(どうして、私がこんな目に遭わないといけないのよ……!)


 しかも、イザベルは魔物に襲われた際に負った怪我の後遺症で足に麻痺が残ったままなのだ。

 そんな状態で、娼館でまともに働けるはずがない。イザベルの瞳からは大粒の涙が流れ落ちた。

 きっと、ジェイドはこうなることを見越してイザベルをラザフォード家に送り返したのだ。

 そう考えると、イザベルは悔しくて堪らなかった。


「嫌です! どうか、それだけはご勘弁を! 旦那様……!」


 イザベルは、泣き叫びながら何度も許しを請う。

 しかし、抵抗も虚しく、そのまま部屋に入ってきた使用人たちに引きずられるようにして連れて行かれたのだった。



 ***



 イザベルが連行されていく様子を物陰に隠れながら見ていたクリフは、思わず顔を引きつらせた。


(嘘だろ……? まさか、イザベルが娼館送りになるなんて……)


 クリフは動揺のあまりその場に立ち尽くし、呆然としていた。

 あの日──ウルス領で未知の魔物による襲撃事件が起こった日。

 イザベルはいつの間にかはぐれてしまったらしく、気づいた時には姿が見当たらなかった。

 だが、ビクトリアを追いかけなければいけなかったため、クリフは彼女を捜すことを諦めざるを得なかったのである。


 その後、なんとかビクトリアに追いついたクリフは彼女を連れ戻そうと説得した。

 ──その時だった。あの未知の魔物たちが現れたのは。

 逃げ惑う人々。飛び交う悲鳴。そして、恐怖に歪んだ顔──その全てが鮮明に脳裏に焼き付いている。


(あれは、一体なんだったんだ……)


 クリフは呆然としたまま、あの時の光景を思い返す。

 生きて帰ってこられて本当に良かった。改めて、そう実感する。

 結局、レオンは見つからなかった。それらしき目撃情報は得られたが……きっと、別の犬のことだったのだろう。


(まあ、あのレオンが人を噛むわけないよな……。あいつ、犬とは思えないほど賢かったし)


 ビクトリアは、あの日以来ひどく塞ぎ込んでいる。そんな彼女に、クリフはかける言葉が見つからなかった。


「はぁ……もう、一体なんなんだよ!」


 クリフは頭を掻きむしると、苛立ちをぶつけるように叫んだ。

 いなくなったレオンのこと、塞ぎ込んでいる妹のこと、ウルス領を襲った未知の魔物のこと、父を怒らせた挙句娼館送りになったイザベルのこと──色々と考えることがありすぎて、頭がおかしくなりそうだった。


(なんだか、疲れたな……)


 クリフは自室に戻ると、ベッドに横になった。

 そして目を閉じると、すぐに眠りに落ちたのだった。

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