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白のアザレア  作者: HK
3/9

いのちの糧は

同居人

〈敷島家〉

母(一名)、妹(一名)、ぬいぐるみ(複数)。

〈桐島家〉

父母(各一名)、猫(一匹)。

 帰路。西陽を浴びつつ煩い大通りを行く。安請け負いしたもんだなぁと思い返しつつ、自分の本質は月日を重ねても変わらないことが身に染みて苦しい。

 勘違いするな。

 誰もわかっちゃくれないんだ。

 近しい人を作っても何もいいことはないと知っているはずだ。ぼくの脊髄の芯でまでもが知っているはずだ。スマホをポケットの中に感じつつ、断ろうかなぁ……なんて思ってみる。気分屋で嫌になる。気分屋というよりは八方美人なのかもしれない。

 結局、ぼくは何も変わっていないんだろう。


「ぼくはみんなが大好きです。だからみんなもぼくを愛してください。」


 その場を繕い流し、自分も集団の一員です、という顔をする。自分が特別だなんて思ったことはないけれど、どうにも馴染めないような感じがつきまとう。楽しそうな顔をしている人を見るだけでも背筋が冷えるし、その輪に入るのを申し訳なくも思う。

 ぼくのような汚いモノがぼくには眩しい世界にいる。それは間違いだ。過ちだ。若さ故の……なんて言葉じゃ済まない大罪だ。

 望まれて生まれた、愛されて生まれた人。望まれず、生まれて来たことを恨まれる情欲の残り香。

 誰かに触れられ、触れるたびに感じる劣等感。

 

 その先の踏切の前に、いつものように立ち止まった。程なくして電子音がなり始める。そのテンポに合わせて、どくん。どくん。と空っぽの心臓の鼓動が早くなる。視界が狭くなり、世界から心臓と荒い吐息以外の音と一切の色が消える。


 一歩踏み出せ。あと一歩。

 

 鉄の塊が風を切る音は、荒くなったぼくの呼吸の音さえかき消していく。

 

 あと一歩踏み出せば楽になれる。

 

ぎぃ、ぎぃ、ぎぃと嫌な音を立てて遮断器が降りた。しばらく、衝突すれば確実に人間に致命傷を与え得る速度で電車は走り去った。

 降りるときよりもぎこちなく遮断器が上がり、ぼくはまた歩き始めた。

 その後、桐島との約束を思い出すと、また自分のことを嫌いになった。

________________________


 人は評価されることによって存在する。存在すると同時に評価され、認識される。

 私のクラスメイトで敷島に言及する人は全くと言っていいほどいない。入学したばかりの頃は話しかけに行く人もいたけれど、一週間もすると彼の周りに人はいなくなった。

 私は次の席替えで隣になったことで少しは縁があった。私しかあいつを知らない。私以外にはきっと見えていない。そう考えると自分はなにか秘密の宝物を見つけたように思えて、ささやかな優越感を感じた。

 恋愛感情ではないと思う。ただ、あの幸薄そうな顔をした、私に似た傷をもった少年のことを知りたいと思った。

________________________

 ぼくは家に入ると靴を玄関の棚に隠し、散乱するゴミを避けて階段を登っていった。

 靴を隠すのは万一あの女が帰ってきた時に自分が居るのを気取られないためだ。男を連れてきているときに、ぼくたちが家にいると露骨に不機嫌になる。家族の前で──あまり家族とは呼びたくないが──できないことを家でしなければいいだけの話だ。

 ラブホ代ケチるような男なんかやめておけばいいのにと、いつか血の繋がらない妹は言っていが、ぼくはもうなにも思わなかった。

 自室のドアを締め、制服を脱いだぼくはベッドに倒れ込んだ。意識が白んでいく、人生の中では珍しく心地よい感覚に溺れた。西日は暑かったがもう気にならないほど疲れていた。

________________________

 私が家につくと、いつものように愛猫が出迎えてくれた。ただいま、といい甘い声で鳴く猫を抱き上げて部屋に向かう。

 スマホを開いて通知を適当に流し、友人たちに敷島と約束を付けた報告をする。普段派手ではない私が行動力を発揮したのが意外だったのか、称賛半分驚き半分のコメントが寄せられた。

 そこまでのコミュ障じゃないのになぁと思いつつ猫を撫でた。ちょうどいいぬくもりと心臓の鼓動が心地いい。

 車の音が庭から聞こえ、私は重い体をベッドから持ち上げる。窓の外に母親の車を認め、適当な参考書とノートをテーブルに広げてシャーペンを転がし、私はリビングに降りていった。

________________________

 目を覚ますと日はとっくに沈み、月は我が物顔で空に浮かんでいた。

 なんもしてねぇ。

 宿題はもちろん、妹の晩御飯も作っていない。

 午後の数時間を無為に過ごした罪悪感。一生溜めればどんなものだろう。一生を棒に振る。その罪悪感と後悔とに押し潰されながら死ぬよりは、今死んだほうがいいんじゃないのかなぁと益体のないことを考える。

 時計を見ると、短針は8に差し掛かろうとしていた。1階が静かなことから見るにどうやらうちの親はいないようだ。のっそりと起き上がると酒と煙草の匂いが染み付いたリビングに降り、キッチンに立った。


 ぼくが両親と呼ぶべきであろう人は、ぼくが産まれてすぐに離婚した。この家はもともとぼくの実父の名義で買ったものらしいが、今の家主は母だ。ほどなくして母は別の男と再婚。その連れ子がかわいい妹の美笠というわけだ。ぼくが小学生の頃だったと記憶している。

 新父(?)は嫁を早くに亡くし、娘の母親役を探して婚活をしていた、というのが妹の談だ。

 二人の二度目の新婚生活は最悪のものだった。新父はぼくを嫌っていたし、母も妹を疎んでいた。自分が愛した人が、別の人間と結ばれた象徴のようなものなのだ。邪魔で当然だろう。そこまで考えが回らないあたり、流石はぼくの親とぼくの親が選んだ人だ。

 互いの連れ子へのヘイトは、いつしか愛したはずの人へと向かった。悪意は形となり、力の強い者から弱いものへと流れる。

 新父は母とぼくを殴った。

 母は美笠とぼくを蹴った。

 温かい家庭なんてものはどこにもなく、張り詰めた冷たい空気だけが満ちていた。

 幸か不幸か、美笠はぼくに懐いてくれていた。ぼくの鬱憤は妹ではなく、中学で行われていたいじめに注がれた。


「嫌な顔。だんだん晃人さんに似てきたね。」

「あんたなんか産まなければ晃人さんと一緒にいられたのにな。」

「なんで生まれてきたの?」


 母はぼくが顔も覚えていない実父の名前を呼び続けていた。

見切り発車ってよろしくないですね。

着地点は考えおいたしなんとでもなるだろうと思い書き始めたこの話、時系列やキャラの肉付けをもっと細かくしていこうとない頭を捻っていました。

そうしたら既に書いた部分と追加設定の矛盾、その消費のための話……僕の見通しのなさが招いた結果です。いい薬になりました。

付けた肉が腐らないうちにお出しできるように力をつくす所存です。

あれも違うこれも違うってひぃひぃ言いながら書き続けたい所存です。

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