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2-6


「ケンカバカリガニって、本当に喧嘩ばっかしてるんですか?」


 俺は興味本位で、網から次々に蟹を剥がしとっている髭もじゃの太った漁師に聞いてみた。


「ええ、もちろん。ほら、ちょうどこんな感じに」


 漁師の指さす先で、甲板に無造作に投げ捨てられた途端から、手当たり次第に他の蟹にむかって盛んに鋏を振り上げ、突き出し攻撃や威嚇をしている。

 とても獰猛な性質の蟹のようだ。


「この蟹がメインの材料なんですね」


「ええ。味も栄養も一級品ですから。だけど今期は異常に漁獲高が減っていて。例年、過去の水揚げ記録に則って漁場を決めて刺し網してるんですが、

どうにもスカが多い。ほら、今来たグモア見てくださいよ。本当はあの籠が一杯になって溢れるくらいに獲れるはずなのに、どうです。三分の

一くらいでしょ」



 今朝の製缶ラインの忙しさでも、いつもの三分の一なのか......気温によるものとは別の寒気が俺を襲う。



「レーダーとかは?」と俺がごく普通な感じで尋ねると「はい?」と頓狂な声で目を丸くされた。


「れ、レーダー。魚群探知」


「なんですかそれは」



 ――え。


 まさか、ないの? ここ。

 曲がりなりにも漁船ですよね? この飛行船。



「魚の群れがどこにいるのか、超音波の跳ね返り......か磁気だかなんだかで、おおよその位置を探る機械だよ」


「なんですかその秘密道具みたいなもん。そんなもんあったら漁なんて苦労しませんよ。どこの国の魔法のアイテムですかぁ。冗談やめてもらえますぅ」



 傍らで網をほどいていた前歯の無い初老の漁師がゲラゲラと笑った。


 うわ、この世界の技術力ってよくわかんねえな。文明的にどの程度のものなのか推し量れない。


 そういやこの船も、グモアもなんかやたら古風な感じだし、服とかも結構古い時代の感じするもんな。

 元の世界でいう二十世紀初頭とかかも。日本が昭和初期くらいの時の感じ。


 

「はあ。参ったな、こりゃ」



 仕事用の作業帽を脱いで頭を掻きながらふと海面を見ると、また、いくつもの赤い点々と共に

『チョコバシリガニ  推定五百キロ』

 という文字が視界に浮かび上がった。


「そこ、そこ、すぐそこに網を入れて!」


 俺は自分の身に起こっているこの異変を確かめたい気持ち半分、間違いないぞ、という気持ち半分で漁師に掛け合ってみた。


「ええ? どうしてです? こんな近く、エンジンの音で蟹なんて逃げたり岩やサンゴに隠れちゃってますって」


 アンタ何言ってんの、と表情で抗議してくる。


「ケンカバカリガニはそうかもしれません。だけど、ツォコ......チョコバシリガニ? は今、この下に集まってきてるんです」


「え? 滅多に獲れない高級蟹ですけどそれ……本当にこの下に居るんです?」


 髭もじゃの漁師さんは釈然としないながらも、ちょうど蟹の網を届けに来たグモアに指示を出し、俺の指さした所に網を刺してもらった。

 グモアのエンジンはパタパタと元気な音を立てて回っているが、この世界もガソリンとかあるのかな。

 今度、エンジンの仕組みとか聞いてみようと思う。



 そして、暫くしてから網を上げるため、髭もじゃの漁師と共にグモアに乗せてもらって、俺も海面近くまで下りた。


 水揚げ用のウインチに網の金具を繋ぎ、「それ引け、そーれ!」の掛け声で、刺し網を上げていく。

 網が絡まらないようにドラムに絡めながら巻き取っていくと……



 居るわ居るわ、もう色鮮やかな蟹たちがモリモリと網に足を引っかけて水面から現れた!!

 これがもう楽しいのなんの。子供の頃に虫取りに夢中になった時の、あの興奮が蘇ってきた。



「うおっほほほほほ!! 大量大量ぉぉぉ!!  うひゃお!! 大漁じゃんかこれ!!」


 髭もじゃの漁師さん、キャラ崩壊しかけてる。


「よっしゃ! これ、使える」


 俺もひそかにガッツポーズをした。


 なんか知らんけど、海の底にいる獲物の名前とか、数とか分かるスキル。


 これって、この職業的に最強の能力じゃね?


 もう俺自身が魚群レーダーじゃんこれ、草。



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