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2-4


「きゃあっっっ!!!」


 不意に船体が大きく揺れ、何人かが悲鳴を上げた。実際、数人がよろけて転んだり、機械の枠にぶつかったりする。


 それが、だいたい二時間に一回くらいの頻度で起きるのだ。


「もう、いい加減にしてよね~!」


「また急加速してる。機関の調子が悪いのね」と、フレアが天井を見上げて溜息交じりに憂う。


「故障? こういう事って、よくある事なの?」


「この工場室の真上が機関室になってる。工場内は騒音も酷いし振動も直に伝わってくるの。すごい

音でしょ、ここ」


「あー。確かに。工場ってうるさいイメージだけど、真上にエンジンがあるから余計にひどいねわけね」


「......こんな鉄格子みたいな所で立ちっぱなしの一日十時間労働。たった一度だけの青春がこんなんじゃ、さすがに笑うしかないわよね」



 フレアは黙々と手を動かす仲間らを横目に自嘲気味に呟いた。


 どの子も、休みなくひっきりなしに流れてくる缶に蟹の肉を詰める作業をしながら、陽気に隣の子と会話したり笑い合ったり、時々手を叩いて大きな声を出したりしている。



 ――喧しく生臭い工場ではなく、日当たりのいい教室で、そうやって談笑しているはずの年頃。


 ――蟹の汁で汚れたペラペラの作業服ではなく、可愛らしい制服を着ているはずの年頃。



 だけど不思議なくらい、悲壮感が漂っていないんだ。


 俺はその横顔に、なんて言っていいか言葉が出てこなかった。

 ただただ、痛ましいのひとことだ。



「俺が前にいた世界での仕事も似たようなもんさ。しんどいし、つまらないし、扱い悪いし給料安いし休み少ないし、そのくせなんでもやらされるしさ」


「あら、そうなの? じゃあ都合いいわ。部下の気持ちが文字通り身に染みて分かるでしょ。誰よりも苦労した人間じゃないと人の上には立ってはいけないのが本来だからね」


「うん。もう自分事のようにね。他人事と思えないし、いたたまれないもん」


「そう思える人じゃないと、そもそも上に立つ資格なんてないから……でも気を付けて。そういう人ほど……自滅するから」



 ドキリとした。



 すっげーフレアちゃん。中身マジで大人。姉御!


 この子、十七って言ってたよな確か? ほんとに俺の八個下なの?


 もう俺もオッサンだからして、自分の身を恥ずかしく思うようになってきたぜ......。



「…………まあそれも言えてるね……」


「あなたならこの船を……変えてくれると期待してるから」



 そう言って俺に背を向けると、フレアは作業が遅れてるコンベアの応援に入り、「酔ってきた? 水飲みな、アタシ回しておくから」と、手回しが遅れてきた一人の女子に声を掛けた。


 そして、俺に目配せする。

 飲料水タンクの所まで連れて行けという事だろう。



「水分補給は確かこっちだったな」


 俺は枯れた花みたいにシナシナになった女子工員の背中を押して、給水タンクのところに連れて行った。


 鉄製のカップみたいなのが五、六個置かれているが、どう見てもこれ、カップじゃなくて不良品になった缶詰の缶に針金で持ち手を付けただけのものだ。


「うえ、錆塗れじゃんか。なにこれ、粗末だな……」


 ボロボロに錆びているうえに、水垢だらけ。衛生状態どうなってんの。

 倫理観とか色々とバグりすぎでしょ。


「こんなのでみんなが使いまわして飲んでんの?」


 女子工員はこのカップ......っていうのかわかんねーシロモノでも構わずに水を汲み、夢中で呑みながら「ほお」とだけ応える。


「えええ......劣悪過ぎる......ブラックどころじゃねえぞこりゃ」


 工場の中は外と違って暑いので、やたら水分が欲しくなる。俺も喉を潤しておこうと、タンクのコックを捻ってみると……



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