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「あぁ、こんなとこに。一体どうされたんですか、急に走り出したりして。危ないですぞ」


「すいません。あの、あなた誰です……?」


 少しアルコールの匂いがするごついオッサンは黒髪青年と顔を見合わせて、ハアとあきらめたような残念な溜息をついて(さっきからネガティブリアクションほんとやめてほしい)


「自分は、第一製缶班の職長レックス・ハーバーです。こっちの若いのはまだ新人の漁撈(ぎょろう)(ちょう)マードック・ニコライジニ。貴方の直属の部下にあたります」


「……全くさっぱり初対面だわ、これ」

 俺の言葉に、二人とも「でしょうね」とハモった。




 俺は片手を挙げて、待ったをかけてから事態を整理しようとする。ギブアップじゃないぞこのサインは! 違うからな!


 脳味噌のキャパがやばいだけで諦めてないんだからね!!



「あのさ、タンマ。まず教えてほしい。よくいるわけ? こういう……なんか世界戦が歪んだというか、魂が入れ替わったとか、お前の名は? 的なこう、前世の前世の前世をどうとかの感じの人っていうのはさ」



 レックス職長は鼻で笑いながら、「記憶障害起こす前の、鬼のような貴方からは想像できない物腰なので、自分は信じる気になりましたよ。確かに最近増えてるらしいですね、こういう人」と壁に凭れてしみじみ。


 なんか、ここの人らって、みんな揃って少し回りくどい口調だよな、洋画の吹き替え字幕みたい。



「これが本当に、あの鬼のカイルさんなんですか……?」



 年下っぽいコイツはなんだっけ、漁労組合っていったっけ? 

 ちょうど目が大きいからギョロ目のマードックでいいか。



「この体に以前入ってた魂は、とんでもない荒くれものだったってことだけは、察した」



 俺は独り言というか、いちおう今は自分の身体であるこのかなりごつい身体に語り掛けた。

 これから、この男として生きていくことになるのか。



 そんなことが、本当に俺にできるの?



 不安だ。






「ぬくぬくぱぁ!」






 突如、甲高い子供の声が上から降ってきて、それを合図にでもしたのか、機体が大波に煽られたようにぐわぁんと捩じれた。

 俺はよろけて、手すりに腹をぶつけた。



「おえ!? な、なにななののあ!?」



 ――そして、さっきまで轟轟と吹き荒れていた風が静かになり、プロペラの風切りの音とエンジンの音がより一層大きく聞こえた。





「あ、ミーシャだ。風邪、治ったのかな?」



 ギョロ目のマードックがやけに色めき立った。



 自分から一番近い鉄のドアが勢いよく開き、パジャマ姿の幼女が現れた。

 いきなりだったので、面食らってリアクションがとれなかった。




 こんな工場みたいな無骨なところに幼女?




 パジャマ姿の幼女はパタパタと足音を弾ませて俺がいる手すりの所までくると、そこから半分身を乗り出して、空に向かって両手を広げ、再び「ぬくぬくぱぁ!」と小さい身体に精一杯という位の大声で叫んだ。




 驚いた。  


 分厚い雲がすーっと流れ始めて、その間から眩しい日差しが差し込んできて、海面が日光をキラキラと反射し始めたんだ。




「な、な、えええええ!? すごい能力、ワザ!! チート!? なにそれ!?」と度肝を抜かれる俺に少し呆れながら苦笑いつつ、レックス職長は控えめに拍手して「よかった、やっぱりミーシャが居てくれないとこの船は操業できないよ」とその幼女の頭をごつい手でワサワサと撫でた。


 すると幼女は「ぐるるのる!」と頬を膨らませ、変な声を上げて手をバタバタと振り回した。


「ハハハ、心配すんなってば。今は手は綺麗だからさ」


 レックス職長の声を聞いて、ミーシャはホッとしたのか、黙ってぐしゃぐしゃと撫でられるままにされていた。


「さ、もう少し休んでな。病み上がりが一番油断しちゃいけないんだからね」


 マードックに背中を押され、再び部屋へ戻っていくミーシャ。



「……さて、カイル雑務長。改めハルキ雑務長。これから、忙しくなりますぞ」


 戸を閉めて振り返った彼のギョロ目が、きらりと光った。

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