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いきなりだった。
医務室の外側から、異様に自分を求めるような、自分を探しているような、なんだか外
に飛び出さずにはういられないような、不思議なものを感じた。
それは言葉にするなら〝気配〟とも表現できるし、〝電波〟とも、なんなら〝妖気〟と
でも言ってやろうか。
身体が先に動き出した。
そう、これだ――衝動――だ。
「あ、ちょ、むやみに動き回りなさんな、旦那ァ!」
俺はヒルマン船医の制止を振り切り、医務室を飛び出した。
――わかるわかる。この建物の外だ。
外から俺を呼ぶ、無数の妖艶な声がする。
居ても立っても居られない。なんなんだ、この感覚。
絶対に逃しちゃいけない気がする!!
逃したら一生後悔しそうな、そのくらいの勢いのこの衝動!!
やたらと狭く金属だらけの通路を抜け、これまた重厚な扉の、金庫のソレみたいな把手をクルクル回して外へ飛び出すと――
「ええええええええええ!? なんじゃこれええええええええええええええ!?」
高い、高すぎる!
……いや違う、飛んでるんだ。
俺は今、飛行機か何かに乗っているんだ……
斜め上の方で唸りを上げるエンジンが巨大なプロペラを回し、それが幾つか繋がってい
て、眼下にはどこまでも続く広い海原が広がっていた。
風がゴウゴウと唸るほどきつく、小雨も混じっており、空は鉛色の分厚い雲がどこまでも続いている。
「な、なんで、なにこれ......えぇ......」
絶句していると、再びさっきの声が聴こえた。
眼下に広がる海面を見下ろすと、どういう訳かまるで何かの画面をのぞき込んだみたいに、視界に幾つもの赤い点々が現れ、
『ケンカバカリガニ・推定六トン』
という情報が視界に浮かび上がった。
「なに、ぎょぴ、なんこれ、うおおおお!?」
瞬きしたり飛び跳ねてみたい、一度違う方向を見てから同じ場所を見ても、まるでレーダーのように、そこにだけ情報が表示される。
――なんか転移した付録としてワケ分からんスキルまで付いてきたようだ。
ほんとゲームみたいで面白いんだけど、想像の通りそのまんま過ぎて逆に笑えないんですけど......。
これって、それ相応のなんか、哀しき運命みたいなのももれなくついてきたりするんすか?
問い合わせたいぞ、カスタマーセンターはどこ!?
俺が激しくパニクってると「雑務長どの~!」とさっきの黒髪の青年と金髪のゴツいおっさんが俺に追いついた。