3-空中の鳥かご ~養分にされる才能たち~
「はへー……スチームパンクな飛行船の中に、こんな可愛らしい部屋があったなんて......」
ミーシャの部屋の扉を開けると、こんな工場船に似つかわしくないメルヘンチックな内装が
俺を出迎えた。
「ミーシャのね、お城」とはしゃぐ彼女は、自慢の部屋に客人を迎え入れられて満足そうだ。
「ごめんね、蟹臭いオジサンまで入っちゃって」
俺は自虐的に低姿勢で臨むが、幼女にはその辺の忖度みたいなのは通じないようで、真顔だったが、嫌がる素振りもなく、ピンク色の可愛らしい木製の椅子をすすめてくれた。
「ざむちょー、偉い人。ももてなしするの」
義務感溢れる口調でそう言いながら、俺の膝くらいの丈の黄色い箪笥からマグカップと小皿を取り出し、脇に佇んでいる無骨な金属の箱――驚いた、冷蔵庫だ――から瓶に入った黄緑色の飲み物を注ぎ、乾燥させた葉っぱみたいなのを提供してくれた。
冷蔵庫、あるのね……。
「え、俺に? ありがとう~嬉しい!」
「えらいね~ミーシャちゃん。おもてなしできたね~」
フレアさんは頬を赤らめるミーシャの頭をクシャクシャと撫でた。
「フレアしょくちょーにも、ももてなしする」
俺にしたのと同じように、飲み物と葉っぱを貰い、二人して向かい合う。九十度の位置にミーシャが座り、可愛らしいお茶会が始まった。
外は風が唸り、小雨が窓に打ち当たっている。
「ミーシャのお仕事は、お城に来た偉い人のももてなし。それからお日様を呼ぶ、嵐をやつける! あと、寝る前に歯を磨く、これがミーシャのお仕事!」
誇らしげにマグカップを掲げた。
そして、そのまま腕がプルプルと震えてる。
「あ、か、乾杯」「かか、かんぱい!」
わかりづらい乾杯の音頭だわね!
俺ですら会社の飲み会の時、もう少しうまいことやったわ......って、幼女相手になんてことを考えてるんだ俺は、罪深い――!!
「んまっ! なにこれ、めっちゃ美味いじゃん!」
黄緑色の液体が、想像以上に美味い。
酩酊状態の身体が水分を欲しているというのも相乗効果を演出してのことだろうが、なんていうんだろう、こう、身体の隅々にまでショワァァアアアって染みわたる感じ。
エナジードリンクとかの比じゃない。
「ねえ、めっちゃ旨くないこれ?」とはしゃぐ俺の向かいですました顔でカップを傾けるフレア。
あれ? もしかしてこれ、こっちの世界ではメジャーな飲み物なのかな?
「ミーシャオリジナルのポーソン!」と胸を張るミーシャ姫。
「ポーソン?」
青い看板のコンビニを思い浮かべてしまう。
この世界にコンビニとかあるのかな。
「ミーシャちゃんが作るポーションは特別おいしいもんね。異世界から来たこのオジサンもびっくりだってさ」
「ちょ、待って。オジサンって、自分で言うのはいいけど人から、ましてや年下の十代の女子に言われるとこう、結構クルものがあるんですけど」
「うんうん。ミーシャポーソン最強!」
とりあえず、よくゲームとかで出てくる回復薬的なもの、つまりは栄養ドリンク的なナニカらしい。
「確かに、これはすごい効き目を感じる。この細長いカップも飲みやすいし、匂いも気分がスーッとするし、身体の中が一気に洗われるような感じがする」
ミーシャとフレアは一気に飲み干し「ポーションしか勝たん!」「勝たん!」と拳を突きあげて、お互いに騒がしく笑いあった。
女性って、年齢の幅関係なく対等に付き合えてるよな。男性よりも。
「......」俺は頭をガシガシと掻いた。
なんだろうこの平和な感じ。尊い。ひたすら尊い。
それぞれの席の位置的に見ても、なんか、理想の家庭ってこんな感じなんだろうなと思わされる。
ミーシャは俗にいうお誕生日席で、俺とフレアの顔がよく見える。