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1-異世界転移は突然に




 またスカだ。


 あー。


 はいはい。


 おけ。




 うん。





 まぁうすうすわかってたけどね。

 






 スマホのトーク画面では、俺が最後に送ったメッセージ「着きましたよ! ハチ公像の

前に居ます。服装は青のパーカーに黒のジーンズ」に既読が付いたまま、四十五分の時間

が経過した。


「よくある手口ね。クソが」


 所詮、マッチングアプリにいるような奴だ。

 遠くから人込みに紛れて俺を観察し、タイプじゃないからそのままお買い物にでも出かけたんだろう。こっちもそれなりにプロフと写メを盛ってはいるから、お互い様かもだが。


 俺はスクランブル交差点の近くにあるスタンドバーで深酒し、ベロベロに参ってしまって、京急線の車両内で居眠りしてしまった。



 

 ――記憶はそこで途切れている。






「うぅう……さっぶ……」


 ものすごい寒気で目が覚めた。


 全身がゾクゾクッとする。頭も割れそうなくらい痛い。


「おお、目覚めましたか?」


 野太いオッサンボイスがして、俺はハッと目を開けた。


 何やら驚いたような、心配そうな顔をした七、八人の男や、中学生、高校生くらいの女

子らが地面に転がっている俺を見下ろしている。


「あ……すいません、あの……俺、どうなっちゃったんだろ......飲みすぎて……あ~気持ち悪……」


「ああ、喋らなくて大丈夫ですよ。雑務長(ざつむちょう)、医務室へ運びます。肩を貸しますぞ、さあ」


 ザツムチョー? 


 なんだその海外の香辛料みたいな名前。


「さあほら、肩を」

「う、うん。ありがと......」


 それに、流ちょうな日本語をしゃべってはいるが、俺の脇に屈んだその男は、作業服を

着た金髪の外国人だった。「ヨッコイショ」って、掛け声まで日本語じゃんか。なにそれ。

ウケるんですけど。


「大丈夫ですか? 今日は未明から風が強いから皆、用心しながら作業してたんですが、

よりによって雑務長殿が階段から落ちなさるとはな。やはり自然は侮れません」と話し続

けるこの屈強な男が右肩を、「我々もこのくらいの強風と揺れは今まで経験した事がありま

せん。無理も無いかと」という黒髪で細身の青年が左肩を支えてくれ、危ない足取りで俺

は医務室に運ばれた。


 驚いた。


  医者も外国人なのだがもちろん日本語を話すし、壁に貼ってあるポスターやら本棚にある本の表紙も全部、日本語で書かれている。


 これは幻覚の一種か?

 それとも白昼夢の類か?


「カイル雑務長どの、私がわかりますか?」


 白髪を上品にセットした六十過ぎくらいのハンサムな医者が俺に問い掛ける。トム・ハ

ンクスに似ている。


「え、カイル? 俺ってカイルなんです? ハルキです、高岡春樹。籠目制作所第二製造

部の高岡です」


 医者と、俺を連れて来てくれた作業服の男二人も怪訝な表情をする。


 そして、すぐにその表情が絶望の色を呈してきた。


「ヒルマン先生、もしかしてカイル雑務長も......」と、屈強な作業員がその見た目に似合

わない悲痛な声を漏らす。


 ヒルマンという老医師は三回、小刻みに頷いてから

「あぁ……そうみたいだな。今、こっちの世界でやたらと増えている、転生者または転移者というヤツだろう。しょっちゅう話は聞いていたけれど、こうして自分の身に起きてみると本当なんだと、改めて実感が湧いてくる......私も医師人生で初めてだよ」

 と腕を組んで唸った。


 とても苦々しい目つきだ。


「うあああ、マジっすか? やっば、俺鳥肌立ってきたよ! ほんとにいるんだ、こんな

人!」


 若い黒髪の作業員が自分の両腕を擦り、やたらと色めきたった。いやいや、怖いからや

めて頂けたら。


「厳しいかもしれんがこれは現実だよ。医学でも化学でも説明がつかない、新しい現象だ。

学会でも話題になってた。まさか一介の船医である自分が直面するなんて、夢みたいだよ」


 なんだか、まな板の上でまじまじと観察される調理前のごちそうになった気がしてどう

にも気分が悪い。

 ごちそうっつーか食材か。うん。


 さらに言うなら、自分らだけで勝手に納得してくれないで頂けたらと。

 アウェイ感が……うん。つらい。


「あの、俺っていったいどうなって......」



 言い掛けた時に、ソレは来た。




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