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 比奈さんの耳は顔の横についている。


 当たり前である。いくら猫っぽいとはいえ、彼女は人間なのだから。その彼女に、先輩が面白がって猫耳カチューシャをつけた。

 これがとんでもない破壊力だった。似合い過ぎるというか、元々そういう生き物なのではと思えてしまう可愛さだ。

 本人は特に気にする様子もなく、その姿のまま仕事をこなす。周りに癒しを振りまき、ちょっと仕事の手を止めているが、本人は気づいているのだろうか。


「くしっ」


 いつものくしゃみの後、いつもの大きめの弁当を食べる。歯を磨いて戻ってくると、そのまますとんと寝てしまう。

 猫だ。比奈猫がいる。可愛すぎて写真に収めたい衝動が溢れ出てくる。こうなったら、市原に言って写真を撮ってもらおうか。

 いやいや、まずは本人の許可を取るのが先だ。などとぐるぐる考えていると、カシャリと音がした。


 僕の頭越しにスマホで写真を撮ったのは、四つ上の川島先輩。猫耳をつけた張本人だ。


「寝姿も可愛いよね」


 彼女は小声で僕に囁いてくる。


「はい。同じ生き物だとは思えませんね」

「お、話がわかるね」

「でも、勝手に撮っていいんですか?」

「わたしは許可貰ってるからね。見る?」


 彼女は自分のスマホの画面を僕に見せてきた。撮ったばかりの比奈猫の写真。欲しい。


「他にもあるんだよ」


 そう言って、先輩は画面をスワイプした。


「こっ、これは」


 新人の頃と思われる、髪が少し長い比奈さん。スーツ姿が初々しい。


「これなんかオススメだよ。新人歓迎会の時の写真」


 飲み会が行われている店内で、出し物を披露中の比奈さん。比奈さんが空中に浮いているような気がするが、イリュージョン的なやつだろうか。


 それ以外にも、比奈さんの写真が沢山ある。正直うらやましい。だがしかし。


「川島さんって比奈さんのストーカーですか」

「失礼だな。比奈ちゃんが新人の時にトレーナーをやってたんだよ。今はまあ、サポーターみたいなもんかな?」

 そう言えば、川島先輩はいつも率先して比奈さんを愛でていた。最もうらやましいポジションの人だ。


「君もサポーターやるかい、結城君」

「やりたいのはヤマヤマ……いやいや、何言ってるんですか」

「これはあくまで社内活動だから。写真は門外不出。SNSとかに上げたりもなし」

「当たり前でしょう。変な事したら、僕が通報しますからね」

「あれ、結城君って比奈ちゃんの何?」

 川島先輩がニヤけた顔で僕を見てくる。少々うかつな発言だったか。

「べっ、別に。ただのしがない後輩ですよ」

「ふーん、なるほどね」


 僕は咳払いをして誤魔化した。あまり感情を表に出さない比奈さんが、本音では嫌がっていないかが気になるだけなのだ。


「だけど、どれも仏頂面なのがね」


 確かに、どの写真の比奈さんも、いつもの虚無の表情だ。


「これでも可愛いんだけどさ、一度ぐらい笑ったところも見てみたいよね」

「見たことないんですか?」

「みんなそうじゃない? 結城君もだよね?」

「……ええ、まあ」


 僕は大天使比奈さんを何度も目撃している。あれは僕の前にしか現れないのだろうか。まさか、そんな事はないと思うが。

 僕は、隣ですやすやと寝ている比奈さんの横顔をそっとうかがった。

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