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 比奈さんとおしゃれなお店にいる。

 女性と二人でこんな小粋なお店に入ったらもう、これはデートです。

 神様、僕は帰り道に車にはねられるんでしょうか。その節は、どうか軽自動車でお願いします。


「一度来てみたかったんだけど、一人だと入りにくいし、きっかけがなかったの」

「僕で良かったんですか?」

「何が?」

「いや、人選的に」


 比奈さんはまた、クスリと笑った。


「デートに誘ったのは、誰かな?」


 これはやばい。大天使が小悪魔になった。天使と悪魔の両属性持ちとは、比奈さん、強すぎる。

 店の雰囲気が加わって、比奈さんの表情がいつもより大人びて見える。いや、正真正銘、大人の女性なのだが。


「普段は自分で作るから、外で食べるなら、自分で作れないものがいいじゃない?」

「ああ、なるほど。でも、比奈さんなら、フレンチぐらい作れちゃいそうな気がしますけど」

「……それは、わたしに対する挑戦かな?」

「え?」

 比奈さんに、なんか変なスイッチが入った。



 比奈さんは、負けず嫌いだ。


「前菜の鮮魚のマリネでございます」

 ダンディなギャルソンが皿を滑らせるようにテーブルに置く。白身魚を使った、色鮮やかな一皿だ。

「ちょっと、よろしいですか」

 比奈さんは去ろうとするギャルソンを呼び止めた。

「この甘みは、はちみつですか」

「ええ。マリネ液に加えています。甘みももちろんですが、魚の臭みを消す効果もあります」

「なるほど。写真を撮ってもいいですか?」

「構いませんよ」

 比奈さんはスマホで料理の写真を撮ると、メモを取り出した。


「牛頬肉の赤ワイン煮込みでございます」

 メインの料理が出てきても、比奈さんは味わうというよりも、吟味している感じだった。

 一口口に入れると、メモを取り、そのたびに何やらつぶやいている。


「あのう、比奈さん?」

「しっ」


 僕が話しかけても、比奈さんは斜め上を見つめて咀嚼しているばかり。余計な事を言ってしまった自分をとっちめてやりたいと思った。


 結局、デザートが出てくるまで、比奈さんの興味は料理のみといった様子だった。所詮、比奈さんとデートなど、儚い夢だったのだ。


「僕が払いますよ」

「わたしが来たかったんだから、いいよ」

 比奈さんが支払いを譲ろうとしない。男としてここは引き下がるわけにはいかないのだ。

「いやいや、払わせてくださいよ。元はと言えば、僕が連れ出したんですから」

「うーん、じゃあここはお願いしようかな」

 比奈さんはそう言うと、やっと財布をしまった。


「ごちそうさま、結城君」

「いえ」

 店を出ると、夜風がやたらと身にしみる。後は帰って寝るだけだ。比奈さんとデートと浮かれてしまった自分を呪いたい。


「ねえ、結城君。今度の週末、うちに来ない?」

「はい。……え?」

 最初、幻聴かと思った。隣を見ると、大天使の笑顔が僕を見上げていた。

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