(15)
「小さい頃は大変な思いもしたけれど、今は個性だと思って受け入れているんです。幸い、普通に生活も送れるようになりましたしね」
比奈さんがこれまでどんな人生を歩んできたのか、まだ僕は知らない。でも、彼女が会社で表情に乏しかったり、自分の主張をしないのは、病気と無関係とは思えない。
「結城さん。この事をお話ししたのは、あなたにお願いがあるからなんです」
画面越しだが、おばあさんが姿勢を正したのがわかった。
「あの子の両親は早くに他界していて、わたしがずっと側にいました。だから、ひとりで暮らすことも初めてなんですよ。大人なんだから大丈夫なんて言ってましたけど。寂しがり屋で、甘えん坊で。わたしから見たら、まだ子供なんです」
比奈さんは本当にひとりだったのだ。寂しがり屋な面も、甘えん坊な面も、僕には見せてくれていた。あれは、本来の彼女の姿なのだ。
「出来れば、あの子の側に、いてあげて頂けませんか」
おばあさんと画面越しに目が合う。
比奈さんが望むのなら、僕は最初からそのつもりだ。僕は彼女の推しなのだから。
「それはもちろんです」
「……よかった」
おばあさんはホッとしたように頭を下げた。
「でも、僕でいいんでしょうか」
「あなたしかいないと思うわ。楓がいつも楽しそうに話してくれる〝推し〟っていうのは、あなたの事でしょう」
「そっ、そんな話を?」
一体、比奈さんは何を話したのだろう。会社で脱がされたり、推し宣言をしてしまったり、恥ずかしいエピソードだらけだが。
「自身を持って、結城さん。あの子の見る目は本物よ」
「いやいや、僕ごとき、まだまだ風間翔太朗には及ばないというか」
ベタ褒めされて恥ずかしさで一杯になる。
「ところで、〝推し〟というのは、ラブでいいのかしら。それともライク?」
「え?」
急に聞かれて、脳内の処理が追いつかない。ラブにライクとは英語の事か。つまり、おばあさんが聞いているのは、僕が比奈さんをどう思っているのかという事に。
「一般的な推しは、ラブ寄りのライクですかね……」
「ふふ、聞くまでもなかったかしら」
おばあさんは比奈さんとそっくりな小悪魔の表情でこちらを見ていた。




