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エピローグ

 諸悪の根源である魔王が倒されてからかなりの月日が流れた。

 

 魔王を倒した俺達は王様から報酬をもらえることになったが、その額は一億ゴールドだった。

 一億は大金だが、世界を救った報酬にしては少な過ぎる気がする。何でも最近は国民がうるさいので、税金を使い過ぎると良くないらしい。だから、俺の報酬が大幅にカットされたというわけだ。

 何でも好きな物をくれるって約束してたのに酷い話だぜ、まったく。

 

 国からの報酬は期待できなさそうだったので、俺は自分の力で金を稼ぐことにした。

 どんな方法かだって? 聞いて驚け、俺は自伝を書いたんだ! 魔王を倒した英雄の自伝だぜ。爆売れ間違いなしだろ。題名は「最強で最弱の賢者」、この俺を表すのにぴったりの言葉だとは思わないか? 全国の書店で好評発売中なので、見かけたらぜひ買ってみてくれ。


「師匠、もうそろそろ時間ですよ!」


「お、そうか!」


 ジェシカに呼び出された俺はリビングへ向かう。今日は俺の十七歳の誕生日だ。去年は誰も来なかったが、今年こそは街中の皆が来てくれるだろう。なんたって、魔王を倒して世界を救った英雄の誕生日なんだなら。


「それで招待客は何人来た?」

 

「ゼロです」


「うん? 聞き間違いかな?」


「ゼロです。だ〜れも師匠の誕生日を祝いに来ません!」

 

「お前、また招待状を勝手に捨てたのか!」


「捨ててないですよ! 今回は街の全員に配りました!」


「なら、どうして……」


 俺達が誕生日パーティーのことで揉めていると、セシリアが不機嫌そうな表情で自室から出てきた。


「ダンテさんが嫌われてるからですよ!」


「俺が嫌われてるって? セシリアさんよ、冗談きついぜ! 俺は世界を救った英雄だぞ。嫌われてるわけがないだろうよ」


「日頃の行いが悪過ぎるせいで、元々の好感度がマイナスなんですよ。世界を十回救ってようやくプラマイゼロといったところでしょう」


 マジかよ。俺ってそこまで嫌われてたのか。なんかショックだわ。


「でもよ、リュートと拓人はどうした? あいつらとは仲が良いから必ず来てくれると思っていたんだが」


「あの二人はあなたと違って働き者なので、重要なクエストを任されて都に遠征中です!」


 俺が知らない間に随分と出世したんだな。元々優秀なリュートならまだしも、俺より後に冒険者になった拓人にまで抜かされるのは複雑な気分だ。


「ジェシカ、二度寝するか!」


「そうですね!」


「そうはさせませんよ!」


 部屋に戻ろうとする俺達の首を、セシリアは思い切り掴んだ。


「この怠惰な生活をいつまで続けるつもりですか? そろそろ働いてきたらどうなんです?」


「一億ゴールドもあるんだし、しばらくはダラダラしてても罰は当たらんだろ。金が底をついたら、また働くよ」


「もうそろそろ底をつきそうなんですけど!」


「え? 嘘だろ!?」


「あなた、あのゴミみたいな自伝をどれだけ刷りました?」


「国内のどこの書店に行っても平積みされるくらいにはたくさん刷ったな」


「あの自伝、一冊も売れてませんよ。そのせいで大赤字になってます!」


「おいおい、いくら何でも一冊も売れてないなんて……」


「こちら、ここ最近の売り上げを表したグラフです!」


 セシリアは俺に一枚の紙を渡す。しかし、そこには何も書かれていない。


「え? グラフなんてどこにもないけど」


「だから、売り上げがゼロだからグラフが書けないんです!」


「そんな……あれ、自費出版だからけっこう金使ってるよな」


「もうほとんど貯金を使い果たしてますね。またクエストをやって、お金を稼ぎましょう!」


「あ〜、畜生!」


 魔王を倒した報酬でニート生活という俺の完璧な人生計画が崩れてしまい、絶望して膝から崩れ落ちた。


「師匠、久しぶりにクエスト行きましょう!」


「仕方ない。やってやるか!」


「今日は私も一緒に行きましょう!」


「セシリアも? お前、戦えるのか?」


「こう見えても私、十代の頃は冒険者やってたんです。あの頃はけっこう頑張っていて、いつの間にかレベル99まで上がっていました」


「嘘!? めちゃめちゃ強いじゃん! どうしてギルドの受付嬢なんてやってるんだ?」


「昔、色々とありまして、冒険者は引退することに決めたんです。ですが、久しぶりに体を動かしたくなってしまって」


 セシリアがレベル99の冒険者だったとは驚きだ。こいつを連れて魔王城まで行けばもっと楽に勝てたのではないだろうか。

 なにはともあれ、俺とジェシカだけじゃ心許ないからな。一流の冒険者がついてきてくれるなら大歓迎だ。


「それじゃあお前ら、出発だ!」


 俺が英雄になれる日はまだまだ遠そうだ。もしかすると、一生英雄にはなれないかもしれない。

 だけど最近、こんなことを考えるようになった。例え全世界の英雄になれなくたって、仲間達との小さな幸せを守れればそれで良いのではないかと。

 何気ない日常を守るための俺の戦いはこれからもまだまだ続いていくだろう。第二、第三の魔王が現れたっておかしくないんだ。だがそれまでは、ジェシカやセシリア、リュートや拓人などの友人達と楽しい生活を送っていきたい。


〜完〜


 ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。私がここまで書き続けられたのは皆さんのお陰です。心より感謝申し上げます。

 面白いと感じていただけましたら、☆評価していただけると幸いです。


 また、私は「JK四天王のゆるふわ学園生活」という作品を連載しております。四人の女子高生の高校生活を描いた日常系コメディ作品です。

 本作品の魔王「滝川」についても触れられているので、興味のある方は読んでみてください。

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