第39話 迅雷のライトニング
「間もなく着陸いたします」
「あれ? 魔王城っぽいものは見えないけど」
「ここからしばらく歩いたところにあります」
「せっかくだから城まで連れて行ってくれよ」
「ジェットドラゴンはスピードはありますが、耐久力がペラッペラなんです。魔王城に近づいて殺されでもしたら国の大損害です」
「なるほどな。それは仕方ないわ。ここから歩いて行くよ」
俺達はジェットドラゴンから降りると、クロウリーから魔王城までの地図を受け取った。魔王城はそこまで遠くないようで、ここから数十分で行けそうだ。
「ご武運を!」
そう言い残すとクロウリーは空に飛び立った。
「さてと、行きますか」
「はい!」
「絶対に勝つぞ!」
「おー!」
俺とジェシカは自らを奮い立たせると魔王城目指して歩き始めた。
「地図によるとこの辺のはずだが……」
「師匠、見てください! あれじゃないですか?」
確かにジェシカが指さすその先には禍々しいオーラを放つ城がある。都にある城を全体的にドス黒くした感じの見た目だ。
「さあ、どうやって攻めよう?」
「クロウリーさんが城の構造を描いた紙を渡してくれました。王国のスパイ達に下調べさせていたようです」
あいつマジで有能だな。何で自分で魔王を倒しに行かないのか謎だわ。
「えーっと……魔王城は二重の堀に囲まれている頑丈な造りになっていますね」
「ふむふむ……」
「更に北と東と西は低地となっているので、城から見下されてしまいます。遠距離攻撃の格好の的にされますね」
「なら守りの手薄な南から行くか」
「南には手薄な防備を補うために出城があります。名前は『サナダ丸』とかいうらしいです。そこに幹部の一人が詰めているみたいですね」
「なら南からサナダ丸を攻略して幹部を一人ぶっ潰す。そして本丸まで攻めこみ、魔王を倒す。これでいこう」
「ラジャー!」
俺達は敵に気づかれないように、こっそりと城に近づく。魔女の元でかくれんぼをしまくった成果がここにきて発揮されたぜ。
「これがサナダ丸か。出城ってよりは突貫工事で造った臨時の砦って感じだが」
「見た目で判断しちゃ駄目ですよ。きっと中にはすごい仕掛けが……」
「あー、中入らないから大丈夫」
「え?」
「外から爆破すれば良いんだよ」
俺はアイマスクを外してスキルを発動させる。久しぶりの爆発はとても気持ちが良い。出城が跡形もなく吹き飛んだぞ。
「な、何だお前は!? 俺の出城をたった一発で破壊するなんて」
粉々になった出城の瓦礫の山から何者かが這い出てきた。恐らくあいつが魔王軍の幹部なのだろう。
真っ赤な体、二本の角が生えた頭、黄色と黒の縞模様のパンツ、あれは「鬼」という生き物だな。話は聞いたことがあるが、実際に見るのは初めてだ。
「相手のことを尋ねる前にまずは自分から名乗るってマナーを知らんのか?」
「俺は迅雷のライトニング、魔王軍の幹部だ!」
名前と見た目からして雷属性使いっぽいけど、どうせ氷属性使いなんだろうな。魔王様は謎の氷属性縛りをしてるっぽいし。
相手が名乗ったんだし、こっちも名乗っておくか。
「俺の名はダンテ・ウィリアムズだ。お前も魔王軍の幹部なら名前くらい聞いたことあるんじゃねえのか?」
「いや、知らんな」
「知らんのかい! 幹部を二人も葬った男だぞ! 情報共有どうなってんだ?」
「会議では毎回居眠りしてるんでな、お前のことが議題に上がってたかもしれんが全く聞いてないんだわ。というか幹部が二人やられたこと自体、今初めて知った」
う〜わ、すごい無能そう。会議中に居眠りなんてして、どうして魔王はこいつを解雇しないんだ? 縁故採用か何かなのかな。
「とりあえず俺は魔王を倒さなきゃいけないんだわ。邪魔しないで通してくれるなら見逃してあげるけどどうする?」
「見逃してくれるの? なら、お好きに通っちゃって。邪魔しないから」
魔王軍幹部とは思えない臆病さだな。やっぱり縁故採用だろ、こいつ。まあ余計な戦いを避けられるならそれがベストだから良いか。
俺達は迅雷のライトニングの横を素通りして本丸へ向かう。そろそろ、魔王との戦いのイメージトレーニングをしておくか。
「な〜んちゃって! 素通りさせるわけないだろ!」
「げふっ!?」
突然、背中に強烈な蹴りを入れられ体が宙を舞う。全く警戒していなかったので、ろくに受け身も取れず、大ダメージを受けてしまった。
「不意打ちとは卑怯じゃねえか!」
「これはスポーツじゃねえ。戦いにはルールなんて無いだろ? どんな手を使ってでも勝てば良いんだよ!」
「会議で居眠りという嘘のエピソードで俺の油断を誘うとは、なかなかの策士だな……」
「いや、会議で居眠りしたのは本当」
「本当なんかい!」
「無駄なお喋りはここまでだ。ここをお前の墓場にしてやる」
奴の攻撃が来る! 俺はいつでも躱せるように身構える。先程は不意をつかれたが、今度はそうはいかないぞ。
「喰らえ! ライジングパンチ!」
え、雷属性だと? 氷属性じゃないの? 煉獄のインフェルノも漆黒のダークネスも氷属性だったのに、迅雷のダークネスは雷属性、見事な三段落ちを喰らったぜ。
困惑のせいで反応が遅れて、雷を纏った拳が命中してしまった。その衝撃で再び俺の体は宙を舞った。
「師匠、何やってるんですか!」
「だってあいつ雷属性なんだぜ。今まで氷属性の幹部ばっかりだったからビックリしちゃって」
「そんなことどうでも良いですから、集中!」
「ああ、悪い悪い」
気を取り直して、こいつをパパッと片付けちゃいますか。
俺はアイマスクを外し、迅雷のライトニングを凝視する。巨大な爆発が彼を襲った。
「ぐぁぁぁぁ! ハァハァハァ……」
何だ、まだ生きてやがるのか。すごい耐久力だな。なら、もう一発。
「うぐっ!? まだだ……まだ死なん!」
じゃあ三発目をぶち込みますか。苦しそうだし、そろそろ楽にしてやろう。
「……」
流石に動かなくなったか。こいつの耐久力は化け物だったな。もし爆発スキルが無ければ危なかったかもしれない。
「師匠、先に進みましょう!」
「そうだな。まずはあの堀を泳いで渡るぞ」
「え?」
「どうした? 何か問題でも?」
「私、泳げないです」
あー、そうだった。こいつ、身体能力が壊滅的だったな。それなら泳げないのも無理はないな。
「よし、俺の背中に乗れ」
「良いんですか?」
「俺がどれだけ厳しい修行を積んできたと思っている。お前一人を運ぶくらい、朝飯前だよ」
「頼もしい! お言葉に甘えて乗せてもらいますね」
「ああ」
俺はジェシカを背中に乗せたまま堀を泳ぎきった。めちゃめちゃきつくて溺れかけたけどな。
魔王城の周辺の造りは豊臣期の大坂城をモデルにしてます。(二重の堀や真田丸など)
画像をググってみるとわかりやすいかもしれません。




