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第34話 漆黒のダークネス②

「爆発スキルしか取り柄の無いお前が俺様を倒すだと? そんなの無理に決まっているだろう。まあ良い。適当に遊んでやるよ」


「そう言っていられるのも今のうちだけだぜ!」


 俺は呪文の詠唱を始める。魔法陣の用意もしてあるから問題なく魔法を使えるぜ。俺が駆けつけるまで別の冒険者がダークネスと戦っていたようで、その人が使っていた魔法陣を拝借させてもらう。


「ファイアーボール!」


 呪文の詠唱が済み、俺は手から炎の球を発射する。


「ふっ、その程度か。痛くも痒くもないわ。やはり爆発スキルが無ければ、お前はただの低レベル冒険者だな」


 全然効いてないみたいだな。だがそれは想定内だ。初めからこんな下級魔法で倒そうなんて思ってないさ。俺の目的はこいつの気をひきつけることだ。その間に仲間達が準備を整えてくれる。


「一度じゃ駄目なら何度でもやってやる!」

  

 ファイアーボールを連射する。ダークネスは避ける素振りもなく、全ての球が命中した。


「そんな攻撃、十回やっても百回やっても無駄だ! 今度はこちらからいかせてもらうぞ」


 風の動きで巨体がこちらに飛びかかってくるのがわかる。俺はとっさにその場を離れて攻撃を回避する。

 

「俺様の剣を受けてみろ!」


 体をくねらせて振り下ろされた大剣をスレスレで交わす。すかさず横薙ぎの二発目が放たれるが、大きなジャンプで攻撃を飛び越える。


「ぐぬぬ……小癪な!」


 目が見えなくなってから長いからな、視力に頼らない戦闘スタイルには慣れたんだよ。俺は音、におい、気配などありとあらゆる情報を瞬時に分析してその場に適切な行動をとれるようになった。

 しかし、それでも体力の限界は訪れる。敵の攻撃を何度も避け続けられるが、こちらから相手にダメージを与えられる手段が無いのだ。よって、戦いが長引けば長引く程、こちらがどんどん不利になっていく。


「ゼェゼェ……」


「息が上がってきているな。一度でも攻撃を当てれば俺様の勝ちだ。次で決めるぞ!」


 どうやら、そろそろ潮時のようだ。こんな時にとるべき行動は……


「もう勝ち目は無い! 逃げろー!」


 俺は体を反転させ、その場からスタコラサッサと逃走を始める。逃げるが勝ちっていうだろ?


「俺様は一度狙った獲物は逃さない主義なんでね。死んでもらうぞ!」


 大きな足音と地響きが俺を追いかけてくる。追いつかれる事は死を意味する。俺は全力で街の中を駆け抜ける。


「ふっふっふ、もう逃げられないぞ!」

 

 俺はついに行き止まりに追い込まれてしまう。これは絶体絶命か。ナンマンダブ、ナンマンダブ……なーんてな!


「お前達! 今だ!」


「うわぁ!? 前が見えん!」


 上空から大量の白い粉がばら撒かれ、漆黒のダークネスの視界を塞ぐ。


「何なんだ、この粉は!?」


「ただの小麦粉だよ!」


 俺は魔法で小麦粉を作れるので、家に大量のストックがあるのだ。仲間達に家まで小麦粉を取りに行かせ、それを持ってこの近くの建物の屋根の上に待機させた。そして俺の合図で小麦粉をダークネスの頭上にぶち撒けさせたのだ。


「目眩ましとは卑怯な……だが視力が回復すればお前は終わりだ」


「ここまで大掛かりな作戦の目的がただの目眩ましだと思うのか?」


「何!? いったいどんな目的があるというのだ!」


「まあ、じきにわかるさ」


「師匠! 魔法陣はこっちです!」


「おう!」


 俺はジェシカの声を頼りに、事前に用意しておいた魔法陣の上に乗る。そして早口で呪文の詠唱を済ませた。


「さあ、いくぜ! ファイアーボール!」


「だから無駄だと言っているだろう。そんな雑魚魔法を何度使ったところで俺様は倒せん!」


「そいつはどうかな?」


「ぬわぁぁぁぁ!」


 ダークネスの悲鳴と共に巨大な爆音が聞こえてくる。どうやら作戦は成功したようだな。


「くっ……ぐぅ……ぬはっ……」


「何だ。まだ生きてやがったのか」


「俺様の鎧がバラバラになっている……お前、何をしやがった? ファイアーボールではあんな威力は出せないはずだ」


「簡単だよ。粉塵爆発ってやつさ。学校で習わなかったか?」


 粉塵爆発とは、ある一定の濃度の可燃性の粉塵が大気などの気体中に浮遊した状態で、火花などにより引火して爆発を起こす現象である。

 仲間達に小麦粉をばら撒かせ、そこにファイアーボールで火をつける。このようにして俺は粉塵爆発を発生させたのだ。短時間で考えた作戦にしては上等だろう?


「なるほど、粉塵爆発か……俺様はお前をSランクスキルだけの雑魚だと侮っていた。ここまで頭の切れる奴だったとは」


「それじゃあとどめを刺させてもらうぜ。リュートを殺したお前だけは絶対に許せない」


「ああ、覚悟はできている。命乞いなどはしない」


「そうか。あばよ!」


 俺はゆっくりとアイマスクを外す。鎧を砕かれたダークネスは爆発して呆気なく死んだ。


「師匠、やりましたね! 大勝利です!」


「ダンテさん、見直しました! あなたは街の英雄です!」


「お前すげえよ! 俺も早くお前みたいな強い冒険者になりたい!」


 仲間達が俺を激励してくれる。普段から蔑まれてばかりの俺がこんなに褒められるなんてレアなことなんだろう。しかし、俺にはそれを喜ぶ余裕は無い。なんたって大切な友を失ってしまったのだから……


「ダンテ、勝ったんだね!」


 ん? この声は……


「リュートか!?」


「うん!」


「お前、死んだはずじゃ……」


「傷がそこまで深くなかったみたいで九死に一生を得たんだ。通りすがりの僧侶に回復してもらったし、もう大丈夫だよ!」


 はあ……良かった……

 俺は安堵したからか、全身の力が抜けて地面にへたり込んだ。

 マジで心配させんなよ。畜生……


「あれ? 師匠、泣いてます?」


「な、泣いてねーよ!」


「でもアイマスクから涙が漏れてますよ」


「これは涙じゃねえ! 目汁だ!」


「何ですか? 目汁って」


「うるさい、黙れ!」


「ひ、ひええ!」


 馬鹿な弟子のせいでせっかくのムードが台無しだよ! こういう時は酒に溺れるに限るな。


「お前達、今から皆で祝勝会にいこうぜ!」


「良いね! 今度は僕が奢るよ!」


 俺達は意気揚々と酒場へ向かった。


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