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青春のかたちは人それぞれ。それでいいじゃない。

 俺の親は両親ともにオタクだった。

 一口にオタクと言ってもそのジャンルは様々、方向性も様々で、なんと両親の両親たちもがオタクだとか。オタクのサラブレッドとか冗談めかして父さんに言われた時は、そういやなんでサラブレッドなんだろうなぁとか思ったもんだ。だって馬じゃないの。俺どうせなら馬よりもキン肉メンがいい。超人レスラーね。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    

 まあともかく、親がオタクだからどーだの言うつもりはこれっぽっちもない。だって人それぞれの趣味だもの。その趣味が高じて会社立ち上げたり、ある意味有名になったりと、まあいろいろあるのだ。

 アイドル好きが高じてアイドルになった親戚まで居るくらいだし、まあウチの家系はそんなやつらばっかなのだろう。

 ちなみに俺はラノベオタである。や、もちろんアニメとか漫画とかゲームもお嗜みいたすのでござーますが、中でもラノベが好きなのだ。なので前髪カーテンヘアーやってみたり、陰キャぼっちの真似してみたくてそんな風になってみたり、かといっていじめられたい訳でもないから体を鍛えてみたり、超一流のラノベ主人公を目指し、ファッションの勉強もした。

 ……? ラノベ主人公にファッション関係ないだろって? とんでもない! ラノベ主人公って言ったらお前あれだぞ!? 重要人物を視界に納めたら、ファッションの勉強をしているわけでもないのに髪型から服の名前、着こなしの美的センスまで全てを評価しなきゃなんないんだぞ!? 服の名前も髪型の名前も知らないでラノベ主人公とか笑わせるわ! わらっ……ワ…………笑えねぇよちくしょうファッション難しい……! どうなってんだよラノベ主人公の頭の中……!

 髪型とかなんなんあれ! 別の本では別の名称で書かれてた髪型が他の雑誌だと違う名前で紹介されてたし! 勉強したって分かりきれねぇよなんなのあれ! 服装だってさぁ! パンツはパンツでいいじゃん! なんでパンツなのにズボンなんだよなんなのアレ! かと思ったらパンツじゃなくてショーツがどーたらとか! タートル仙人だったらパンティーって言ってるところなのに、じゃあそれをタートル仙人に言わせたらどうなるの!? ショ、ショ……ショー……思いつかねぇよちくしょう!


「太郎~、そろそろ帰るべ~」

「おー」


 おっと申し遅れた。某、山田太郎と申す者。

 母は花子、父は一郎と申します。

 オタク一家なのに、山田の姓を冠しながら子に太郎を名付ける親をどう思いますか?

 ラノベ主人公なら、〇〇ヤとか定番なのにね。なんなのあの名前の最後が“ヤ”率。ヤかトかジあたりが定番だよね。

 なのでラノベ主人公を想いながらも既に名前で敗北しているのが俺です。や、めっちゃ好きなんだけどね? この太郎って名前。だってラノベ界隈じゃモブしてそうな名前じゃん。ラノベ主人公は目指してるけど、なにも異世界転生系の“強敵が出て来た! これどうなるの!? ……あ、そういやタイトルに最強とか書いてあったわ。勝つわこれ”な主人公を目指しているわけじゃない。モブでいいのだ。モブ主人公で。でも、勘違(かぁんちが)いしないでほしい。主人公が最強なラノベタイトルであっても、強敵集団に襲われれば負ける時はそりゃあある。だって個人として最強なのであって、じゃあ万体1で勝てるかっていったら、そうじゃないかもなのだから。

 でも常々思ってしまうのだ。そんな最強の傍に常に居るおなごたちは、彼奴の腕力とか怖くねーのかなぁと。降って沸いた最強の力を信じられんくらいにコントロールする主人公くんもだけど、普通に考えてヒロインも結構なメンタルしてると思うの。


「しっかし前髪伸びたよなー。てかまだ続けんの? 陰キャごっこ」

「ご、ごっこなんて、し、失礼だな、オ、オボ、オボベバーニョくん……!」

「やめぃ。なんか俺が謎の生命体みたいに聞こえるから。どもるフリしてヘンテコな名前で呼ぶんじゃねぇ」


 彼は幼馴染のイケメン男子、天堂(しょう)。ラノベ主人公にありそげな名前を冠した、俺の親友だ。しまった、これじゃあ“○○ウ”もラノベ主人公にありがちかもしれない……!

 まあそれはともかくだ。過去、ラノベ主人公を目指し、密かに鍛錬をしつつも家族の財産たる漫画ラノベアニメなどを漁っていた俺を、“山田ー! サッカーしようぜー!”とおてんとさんの下へと引きずり出そうとした勇者である。

 その時の俺らの対応。「じゃあ明日は天堂くんが俺の趣味に合わせて」「えー? だって本って読んでてだるいじゃん」「言ったなお前ー! じゃあサッカーで負かしたら漫画だラノベだアニメだゲームだ絶対逃がさねーからなコノヤロー!!」「おうっ! 言っとっけど負けねーかんな!」……で、楽勝でした。


「しっかし、今でこそ漫画とかには慣れたけどさー。最初はまさか自分が提案したサッカーで負けるとは思わなかったぜー……」

「いついじめっ子に絡まれてもいいように、万能的に鍛えてたしね」

「ま、今じゃ負けないけど」

「ポォーゥ……ヒョウテキトウジョウダナ?」

「てかさ、お前その厚着やめない? 夏本番はこれからって時にそんな厚着、見たくもねぇ」

「ダボついてた方が陰キャ感ない?」

「……腹筋見せてくれ」

「見よっ! この腹筋!」


 頼まれたので、厚着しているそれをずらし、ムキーンと引き締まった腹筋を見せる。

 言った通り、俺の家系はオタ集団だ。筋肉オタクも居れば勉強オタクも居るし格闘オタクだっている。ので、そんな彼ら彼女らに囲まれて育った俺は……まあ、うん。逃げられるわけないよね。背の成長を妨げない程度にビシバシ育て上げられたさ。その上で厄介なのは、あくまでそれらが“オタクの趣味”の範疇であり、格闘だって筋肉だって、それで金を得るような仕事をしているわけじゃないってこと。

 なので……ハイ、別に暴力沙汰になって道場が潰れます~なんてリアルな話はない。道場なんて持ってないし。なのにサイズの合ってないダボった服の下は細マッチョさんだし、相手を攻撃する時の身の振り方なんかもしっかり叩き込まれた上に親戚相手に実戦させられれば、プロ並みとはいかなくても素人相手じゃ危険だってのは俺でもわかるよ……。

 しかし。ファッションオタクも居る中で、俺はファッションを記憶しきることは出来なかった。や、だって正直わからんくない? あの世界って髪型にセンチ単位で名前つけてるようなモンに思えて、正直教えてもらってもウヘェ……としか感じなかった。


「……高校で唐沢さん並みの腹筋とかどーなんだよ……指でノックしてコンコン鳴るなんてやべぇだろおい……」

「ああこれね、腹筋鍛えた上で、外側から腹に衝撃を加えることで皮膚も変質してるって特殊例だから、腹筋だけ鍛えたってこうはならないらしいよ? むしろ中年以降に筋肉衰えたら、腹の皮膚だけ妙に硬いままダル~ンってなるからオススメしないって」

「あー……そういや“はじめの五十歩百歩”の唐沢さんも、腹筋しながら腹にバスケットボールとかぶつけてたっけか……なるほどなー……てかお前その鍛錬法やったんかい」

「おう。腹筋固めながら腹パンとかもしてもらって皮膚を固めてった。粗塩をスリ込みながら」

「お前どこのビスケットさん?」


 けど実際にかなり固くなった。オタクの憧れへの執着や情熱は半端ではないのだ。……ええはい、居ます、ヴァキオタ、五十歩百歩オタ。主人公ではなく、ビスケット・オリヴァーさんに憧れるオタ親戚や、腹筋がステキな唐沢さんに憧れるオタ親戚、ほんとに話題には事欠かない騒がしい家系でございます。なにせみんながみんなそういった知識に理解のある人と付き合ったり結婚したりするわけだから、オタの幅は広がっていくばかりだ。

 そんな家に産まれた俺は、教えられたことを吸収することをなにより好む、知識欲オタ、といえばいいのか。誰かが夢中になっていることを大好きになれる騒ぎ好き……騒ぎオタ? なのだ。や、その中でもラノベにハマってるラノベオタであると自負してるんだけどね? えと、分かるだろうか。ラノベオタだからこそ、物語の中の、こう……“自分でも出来るかもしれない”に憧れる気持ち。

 あ、ただしチャラリーナさん的な方向では絶対無理。人を見下してウザ絡みする人にはなっちゃだめ。そういうのは、先に相手がそういう目的で近づいてきた時や、ならばこちらとて容赦せんンンン!! と心に誓った時だけだ。人に“楽しい”を伝える時は、心を込めて、迷惑にならないようにね。これ、我がオタ家系の家訓。来る者拒まず去る者追わず。冷やかすために内側に潜り込んでくる奴も居るけど……まあ途中から目的忘れてどっぷり楽しむお仲間になってたりするから、問題なんてないない。

 そしてラノベオタのくせに、俺はキン肉メンが大好きです。

 と、他愛ない話をしながら昇降口まで来て、さあいざ靴を履き替えようとしたら……


「……ややっ?」

「ん? どしたー太郎~」

「……下駄箱の中に、オテガーミが」

「オテガーミ!? ……マサーカ……!」


 そう、そのまさかだ……! まさか……OHマサーカ……! 俺の下駄箱に置かれている我が靴の上に、オテガーミが置かれていたのだ……! 靴の上、っていうか……まあ、うん。でも、でもだ! き、きた! ついに来た! 陰キャ名物嘘告白伝説!


「どどどどうする翔ちゃんやばいぞ翔ちゃん! これあれだよね! 嘘告だよね! うわぁどうしよう! ついに俺にも陰キャを堂々と名乗れる時代が来た! ヒィヤァアッホォオオオゥィッ!!」

「嘘告だと決めつけて、なおかつそこまで喜べる男、初めて見たわ俺……てか本物である可能性も考えてやれよ……」

「え? 本物? これが? っははないない。だって適当なノートを破いて書きましたって紙だし、置き方も雑of雑。心の籠ったルァ~ヴ・レトゥァ~ってのはね、翔ちゃん。置かれた靴の上に、キレェ~に、受け取る側に向けた置き方をするもんだよ? けど靴の上にもきちんと乗ってない、奥の方に端がヘコんだ状態であったこれは、ギャハハとか笑いながら雑ゥウウに投げ入れたものだ。それが本物? ヌッハハハ絶対ない!」

「お前そういう勘繰りほんと好きな……まあ納得出来たけど。で、どうすんの。行くの? 行かないの?」

「行く! 全力で嘘告受けてくるよ! それで“お、俺も○○さんのことが好きだったんだ!”とか言ってくるよ! ……あっ! それとももじもじしてから“ま、ままままずはお互いを知るところからってことでしょの……ととと友達からで……!”とかの方がいいかな!」

「……いっそ相手の方が哀れだよなぁこれ」

「翔ちゃんはどうする!? 俺がされる嘘告見に来る!? 来るなら───……よく見ろ。地獄に行ってもこんな面白い告白ショーは見られんぞ」

「んー……俺なぁ、友人の恋愛を面白そうだから~なんて理由で引っ掻き回す奴って好きじゃねぇんだよ……。なんだよあれ、失敗すりゃ下手すりゃトラウマだって出来るかもしれないし、一生モンの心の傷を負うかもしれねぇのに“面白そうだから”? あれって協力するフリして嘘告レベルの外道対応してるだけなんじゃねぇか……?」


 翔ちゃんは誠実な女の子が好きなのだ。人を笑いものにして見下す奴は大嫌い。つまり人の人生に左右するようなことが起きる、恋愛などに関する悪戯はとことん嫌いなのだ。イコール嘘告も嫌い。

 なので最初は見に行くことも躊躇っていたものの、最後にはついてきてくれることになる。

 男友達思いって……なんかいいよね。まあ、離れた位置でソッと見守る、って方向らしいですはい。


「あ、来たんだ。来ないかと思った」


 なので校舎裏に来てみれば、ニヤニヤさせていた表情を人懐っこい表情に瞬時に変える……同じクラスの金髪ギャルさん。

 うわー、嘘告隠す気これっぽっちもないじゃないか、だめだなぁこの人。嘘告を楽しむ気がゴシャーと滅んでしまった。どうしてくれるんだちくしょう。


「えっと、糸井さん? 俺になにか用かな」

「……女の子が校舎裏に男子呼んだんだよ? することなんて決まってるっしょ?」

「…………そっか」


 それもそうなのかもね、とにっこりと笑ってから、ファイティングポーズを取った。

 生存競争曲・仁王(ファイティング・ニモ)にも負けん勢いで、心に熱き闘志を宿す。さあ……いつでも来るがいい……! ……ちなみにファイティングニモとは、魚であるニモが金剛仁王拳という武術を学び、強敵と戦う熱き生存競争を描いたアニメである。殴る時だけなんか胸鰭(ムナビレ)が人の拳みたいに大きくなってドゴォと相手を殴ったりビンタしたりするのが親しまれている。


「……は? や、なにその構え。え? なに?」

「うん。もしこれが嘘告白だったら、俺糸井さんの顔面全力で殴るね?」

「─────────…………はぁ!?」

「人を急に呼び出して、急に告白して、急に笑いものにするなんて、人間のクズのやることだもんね。それでその人がどれだけ心に傷を負うか~とかこれっぽっちも考えず、下手すりゃ人の一生に傷をつけるかもしれないことを仕出かそうってんなら、顔面潰れる覚悟くらいしてもらわなきゃ。……ていうかさ」

「あ、あ? あによ」

「なんで自分はからかえて、相手はなにもしない~なんて思ってられるんだろうね、嘘告する人ってさ。人を傷つける覚悟があるなら、傷つけられる覚悟も持っておかなきゃね。相手のことろくに知りもしないで踏み出したんなら余計に」

「っ……」

「はい、というわけで。俺は糸井さんの行動がそうだと分かった瞬間に顔面を殴り抜きます。たとえば糸井さんの仲間が茂みにでも隠れて楽しんでるんだとしても、出てくる前に顔面潰すから覚悟してね?」

「が、顔面潰すって……ぷふっ! あははははは! そんなの山田クンみたいな細い人が出来るわけ───っはぁ!? な、なに!? なんで脱いで───……ぇ……」

「これは───『試練』だ」


 ズ……ズズズ……ゴゴゴゴゴ……! とばかりに、ゆっくりとダボついた制服と、


「過去に打ち勝てという『試練』と…………俺は受け取った」


 重ねて着ていたシャツを脱ぐ。と、そこには今まで鍛えてきた自慢のマッスルが。


「人の成長は……未熟な過去に打ち勝つことだとな………………え? お前もそうだろう? 糸井さん……」

「…………!!」


 上半身をシャツまで脱いだ俺の体を見て、糸井さんが顔を青くする。

 そして俺が軽く前傾の姿勢になると、体を震わせた。そう……もはや言うまでもないが、ダボついた服を着ているのは、マッスルを見せた相手の反応が面白いからだ。


「さあ……覚悟の準備をしてください。嘘告ならば貴様には綺麗な女としての最後をくれてやる。言っておくが糸井さん。俺の下段突きはコンクリートブロック3枚を粉砕するぜ」


 嘘である。などと頭の中で寂海王がナレーションをしてくださっていると、そんな俺の心の中とは裏腹に、糸井さんは余計に顔を青くした。


「な、なんで陰キャなんかがそんなっ……卑怯じゃんよ!」

「いや、別に俺自分が陰キャなんて言い広めた覚えはないぞ? ふざけて翔ちゃんと話題にすることならあったけど。そっちが勝手に見下して陰キャ陰キャ言い出したんだ。話したこともない相手にさぁ。勝手に序列作って勝手に見下して、なにが卑怯だって? あぁ、あとさ、ほんと今さらでもーしわけないんだけどさぁ。……陽キャ名乗るのやめてくんない? お前ら勘違いしてるみたいだけど、おたくらのそれ、陽キャじゃなくて“ただの不良集団”だから」

「………………は? ……はぁ!? なにっ───」

「え? 違うとでも言えるつもりなの? 考えてもみなって、校則違反で髪染めてチャラチャラとしたアクセサリーつけて、堂々と不純異性交遊は当たり前。勝手にカースト~なんて言いつつクラスメイトに主観の順位をつけて見下しては、気に入らなきゃいじめに走るわ蹴りも入れるわ。話しかければ“あぁ?”なんて睨んで威圧してくるし、言葉への返事には決まって“はぁあ!?”とか“ワケわかんないんですけどー”とか。会話はいっつもそっち優先じゃなきゃ許さない。注意されりゃああっさりキレて威圧的。さ、ここまでの例えで、キミの不良のイメージと違わないとこってどこかなぁ」

「ふざけんなっ! そんなの───! ……、………………え? …………ぇ?」


 はい。ここテストに出るからよく聞いておきましょう。

 ラノベのウザ絡み陽キャの大体は陽キャ分類じゃなくただの不良です。

 たまに不良枠が出てきても、カツアゲするか否か……とか思われがちですが、陰キャに対する陽キャとか普通にそういうこともやらせてるし、なんならいじめに走って教科書ノート筆記用具に体操服や靴、様々なものを台無しにする最低のクズどもです。それに比べりゃパン買ってこいだののパシリ&カツアゲ代金なんてねぇ? へそで茶ァ沸かしますよ? え? 考え方が古い? 初めて見たヤンキー漫画があばれ花組だったから仕方ない。

 ということをサワヤカスマイルで告白した。


「つまりキミらウザ絡み陽キャは不良以下のクズってことで。で、なんだっけ。嘘告だっけ? 嘘告だよね? 顔面殴らせてくれるんだよね? ほらほら早くしよ? ね? 殴り抜いたあと地面に叩きつけて、手首掴んで頭浮かせた後、地面目掛けてゴシャメシャ踏み潰しまくってやるからさ! ね!? 嘘告しよ!?」

「…………」

「ちなみに俺、中学の頃に似たようなことされたんだけどね? あ、その時は嘘告じゃなかったんだけどさ。筋肉付けるための土台作りとして当時デブだった俺、いじめっ子に囲まれて突き飛ばされたりしてたのね。その時は“やべぇ俺今いじめられてる……! これがIJIMEか……!”なんて感動してたんだけど、金よこせーとか言い出してきたから一人一人潰した経験があるんだ」

「…………なにそれ」

「だって俺自身への行動なら俺が我慢すりゃいいけどさ、教科書もノートも筆記用具も、親が金出してくれたものだし、金寄越せなんてそれこそ親が出してくれるものだ。小遣い含めてね。それは俺が我慢すればいいなんて領域越えちゃってるだろ? そりゃ潰すさ。……いじめってほら、結局集団心理っていうか……一人じゃ滅多にやらないだろ? だから、デブだった俺、蹴られても殴られても気にせず相手に抱き着いて、その勢いのまま前方へジャンプ」

「……へ?」

「どっかーんって教室の床に叩きつけられたそいつ、俺の全体重を受けて悶絶してね。その隙にマウントポジションとって顔面を叩きまくった」

「た……は? 叩く? 殴るじゃなくて?」

「格闘経験無いなら殴るより叩いた方が強いぞ? 同じとこ執拗に叩くの。嫌がって防御に入ったら思いっっっっっきり顔面の皮膚を掴んでギミチチチィイイイって抓るんだ。で、その手をなんとかしようと防御がおろそかになったところで腹を思い切りブン殴る。あぁ、相手が男なら金的でもいいね。大変にバトルに慣れたらプロレス技も大変にオススメだ。パロスペシャルとか確実に相手を仕留められると思うよ?」

「───…………」

「で、なんだっけ。嘘告? それとも嘘告? 嘘告だったっけ。嘘告だよね?」

「い、いや、あの……ちが、これ……ちがくて……」

「あ、そうだ。俺さ、いじめとかする奴とか、人の心を平気で潰して笑うようなやつに性別はないって思ってるから、どれだけキミが女だから~とか女なのに~とか言おうが全力で殴り抜くから安心して言って? だって女性って男女差別嫌いだもんね。まさかこんな時だけ女の子として見なさいとか言わないよね? ていうかまぁ、人間、本気で怒ったら目の前の相手にいちいち性別なんて求めないんだけどね。クズ相手にいちいち性別云々を考えて、気が晴らせますかってんだいチキショイ」

「ぁ……ぅ……」


 糸井さんがチラチラと茂みを見ては不安そうにしている。なにかしらの合図があれば茂みから仲間が飛び出してくる予定なんだろうか。茂み怖いでしょう。

 しかし茂みから出てくる仲間がいる時点で嘘告決定だと思っているため、味方を呼ぶことも出来ない。シゲミの皆様も、こんな声が聞こえているからか出て来ようとしない。ならば?


「───! ち、ちがっ……違うの! 嘘告とかじゃなくて!」

「そうなのか。じゃあ嘘だったのはラブレターの方で、来た時点で俺は罠に嵌められてたってことだな……?」


 納得しながら、【ケンシロー】ばりに拳の指をコロキキキ……と鳴らす。地味に痛い。

 途端に慌てた様子でパタパタと手と首を横に振って否定する糸井さん。だがこの嘘呼び出しは【純情男児】ウイ悲しみ。1が1歩ずつしっかり噛むのが極上です。


「いじめに対する仕返しってさ、全員にやろうとするから失敗するんだ。相手連中が一人の時に、絡んできたら抱き着いてダイビングプレスから全力地獄ビンタでいいと思うの。ああ、先に教師連中や親たちに言っておくのも忘れないほうがいいかな。あ、親ってのはいじめっ子の親でも効果的。いじめられる度に言おうね? 次やったら全力で反撃しますって言うのもいいね。もうこれ以上は我慢とか無理っす……! 次絡まれたら全力で仕返しするんで、そこんとこよろしくって」

「だっ、だから、ちがくて……」

「ねぇ糸井さん、知ってる? キミが相手してる存在ってね、人間なんだよ? キミらが勝手に決めて押し付ける陰キャだ陽キャだなんて関係ないの。やられりゃ仕返ししたいって思うし、なんで俺がこんな目にって思えば、我慢の限界が来れば全力で抗う。そっちがどれだけイジメじゃなくてイジリだーって言おうが、そんなもんはやられた方が決めるもんで、じゃあたとえばクラス全員で糸井さんの肩を軽くパンチするいじりを毎朝始めましょうって決めたら、糸井さん、我慢出来るのかな。全員に、毎朝。ふざけて強く殴る男子だっているだろうなぁ。実は生意気だって思ってた~とか言って、キャハハ笑いながら蹴りまでしてくる女子も居るかも。それが面白くて、朝だけじゃなくていつでも殴ってくるヤツも居るかもね。で、やめてって言ってもイジリだからで返される。こっちがやり返したら嫌悪感丸出しの集団イジリが余計に始まる。やってらんないよね」

「………」

「で、なんだっけ。なんで呼んだんだっけ。嘘告? それとも別の告白かな。もうこんなことはしません的な。や、それ俺に言ってもしょうがないと思うけど」

「あ、の……」

「うん」

「その……」

「うん」

「───……ア、アニメ? で……面白いのあったら、教えて……って」

「ようこそ」


 満面の笑みで迎え入れた。

 ようこそ、自らは決して動かぬ娯楽の世界へ───!


「なんだ糸井さんアニメに興味持ったんだ! いいよいいよ全力で教える! むしろキミに伝えたい! 髪を染めるでも爪を整えるでも装飾に金を使うでもない、テレビさえ付けられれば曜日と時間を待つだけで心を満たせる世界を! 今から時間ある!?」

「え、えぁ、ある、ケド……」


 ちらりと茂みを見る糸井さん。茂美怖いでしょう。

 恐らくここで無いなんて言えば、どうなることかと考えてのこと。

 だが大丈夫! そんな事情も受け取りつつ、今こそ“君の心を茂みに戻さないRPG”を始めよう!


「よし、じゃあちょっと家に来てくれ! 大丈夫! 必ずやキミにうってつけの世界を用意すると約束する! 離れた場所から勝手に嫌悪していた世界は、いろんな人が“楽しんでもらうため”に作った世界なんだってきっと分かってもらえると思う!」

「は!? ちょ……家って、アンタの家!?」

「あ、大丈夫。男が女を家に連れ込む=……なんてことは絶対にないから。親戚に警察官も居るし、犯罪になるようなことなんてしないししたくもない。ていうか本音を言うなら嘘告して人を笑いものにしようとか企んで歪んだフェイス見せるような奴に異性云々なんて求めてない」

「なっ……こ、このっ……! ……~……警察って……なんだよくそ……!」


 ちらりと再び茂みを見る糸井さん。イジメは犯罪です。茂美怖いでしょう。

 あ、でも犯罪に該当するのは“暴行、脅迫、傷害、強要、名誉棄損、性犯罪”あたりらしいから、そこらへんは注意。殴られたりして金よこせコラーはもう完全にアウトなので嬉々として通報しよう。

 では嘘告白は? ……や、普通に名誉棄損だよね? 自分らの楽しみのために、公然で晒し者にしてウェ~ッヒャッヒャッヒャッヒャって笑うんだから。


「だからダイジョーブ! 糸井さんは安心して楽しんでってくれ!」

「そういう問題じゃ───あぁああもうわかったよ行くよ! どーせ逃げらんないんだから! け、けど長居とかするつもりねーから!」

「それは糸井さん次第だと思う」

「はぁ!? なにそれ! 意味わかんないんだけど!」

「……自称陽キャってその言葉好きだよねー……面白みのカケラもねーや。もうちょい語彙増やしてみない? ていうかワケわかんないって自分で分かってるなら知る努力しようね? 前々からツッコミ入れたかったんだけど、知ろうともしてないくせに堂々と分かりませんアピールとか相当悲しい人間だと思うよ? なんで分からないことにそんなに自信持ってんのキミら。ちっとばかし知る努力すりゃ分かることだろうに、相手を馬鹿にしたいからって分かりませんアピールって……あの、どっちが馬鹿だか傍から聞いてりゃ分かるよね? どんだけ馬鹿アピールしたいの? ていうか話の流れとかちゃんと聞いてりゃ分かること多い筈だよね? 真剣にアホなんですかキミら。子供だってまだ“わかんないからおしえて~”くらい言えるのに。それでよく他人を見下せたもんだ、おおサムいサムい」

「んぬぅううごごぎぎぃいい……こここコンニャロ優位に立ってっからって好き放題言いやがってエェェェ……!! ……ッ……はぁああ~……!! ……~……る、るせェーっての!! てか服着ろ服!」

「ややっ!?」


 これは失敬と言いつつ服を着て、我が家へGOした。もちろん途中で翔ちゃんも合流して。

 しかし糸井さんは案外イイ奴なのかも。DQNのお歴々(笑)はとりあえず自分が優位に立ちたいからって、人の意見はなんでもかんでも怒鳴って否定して、気に入らなければ圧力暴力で片付けるお方々だからなぁ。ああいう喚き散らしとか録音して後で聞かせてやりたいって凄い思う。自分の言動を振り返るのってとっても大事。

 糸井さんもね、ここで喚き散らして逃げ出すくらいはやろうと思えば出来たろうに、怒りを飲み込んで、服を着ろおっしゃった。うん、きっとキミはイイやつ。


「ところで糸井さんさぁ」

「な、なんだよ」

「キン肉メンに興味ない?」

「なんでそこでキン肉メン!? な、ちょ、男が急に一人増えて焦ってる女に対して言う言葉かよそれ!」

「? べつに俺、糸井さんに女性としての性的興奮なんざこれっぽっちも抱いてないけど? あっはっは、俺年上で落ち着きのあるお姉さんしか興味ないから範囲外にも程があるので勘弁してください」

「……なんか一週回ってブン殴りたくなってきたわ」

「試してみろ。その瞬間、ぼくの丸太のような足蹴りがキミの股間をつぶす。それでもいいのなら!」

「お前はアタシの股間のなにを潰す気だ!? てかお前のそれのほうがよっぽど脅迫罪みてーなもんじゃねーか!!」

「しっ……失礼な! 俺はただ俺の中の紳士の真似をしただけだよ!?」

「うそつけお前! 紳士がンなこと言うわけねーだろ!」

「なんだとてめぇ! 訂正するのだ今すぐ! でなければ明日の朝刊載ったぞテメー!!」

「だから! その場合捕まるのお前じゃねーか!」

「グ、グムー」


 翔ちゃんが合流したことで、なんか本気でビクビクしだした糸井さんは、キン肉メンのお陰で緊張がほぐれたようだった。こんなにも元気に叫んじゃって! さすがやでキン肉メン! というわけで糸井さんと翔ちゃんを我が家へ連れ込み───


……。


 ほたぁーるのぅ、ライト! まーどーのー……スノウ!


「糸井さん、っていったかしら。まだお家、大丈夫なの?」

「あっ、は、はい、すんませんス、ダイジョブっす! 電話してあるんで!」


 お外もすっかり暗くなった頃。彼女ならきっと理解してくれる系のものを厳選、親戚も呼んでの選択が始まり、とうとう糸井さんに見てもらったら……あっさりハマってくれた。アニメとは、かくもスバラゴイ。

 母さんにやさしく声をかけられれば、既に親には電話してあるという糸井さん。まあ、実際してたしね。ていうかのめり込み具合がすごい。傍から見てるだけでもどんどん世界観に惹き込まれていってるのが分かる。……しかし、ここで声をかけるのはノン。ハマってくれたなぁとかもノン。なにかを楽しむ時はね、誰にも邪魔されず自由で……なんというか救われてなくちゃあだめなんだ。一人で孤独で豊かで……。そこんところは食事だってアニメだって漫画だって変わらない。

 それぞれの感想を心で温め、形にしたら、初めて誰かと感想をぶつけあって楽しむ……それがこの世界の在り方なのだと思います。もちろん人によってだけど。

 あ。あと楽しかった~とか、あそこ、よかったよね~って感想よりも、作画がどうたら~しか言わない人との感想戦はあまりオススメしない。得るものが大してないからね、ほんと。いやね? 感想もきちんと言ってくれるならいいんだよ? でも作画のことしか言わない人と感想交換なんて出来ますかい?


「やべぇよ……アルフレードどうなっちまうんだよ……! つ、次! 山田っ、次は!?」

「そう来ると思いまして、懐で温めておきました」

「なんでBD温めてんだよ!」


 懐からズズ……とBDパッケを出す俺に、糸井さんは驚愕した。翔ちゃんは笑っている。

 しかしながらしっかりと受け取り、緊張した面持ちでBDを交換セット。再生を押すと、はふーと息を吐いた。分かる分かる、レンタルショップのものでもない限り、他人から借りたディスクとかの扱いってスゲー気を使うよね。


「ところで糸井さんや」

「な、なんだよ。もう始まるから手短にな?」

「キン肉メンに興味ない?」

「お前ガッコで一緒に歩き出してからなんなんだよそのキン肉メン提案率!!」


 や、だって。好きなものはたとえ嫌いなヤツにだろうと知ってもらい、俺のことが嫌いでもいいから作品のことは好きになってもらいたいなーって思わない? 俺は思う。

 DVDとかBD特有の飛ばしたくても飛ばせないアレが始まり、OPが始まる中しみじみと語り合う。


「……てかさ。あんたン家にある作品とかって、あのー……なに? 店とかで見るあー……なんっつったっけか。あのー……い、いー……異世界? 転移? 転生? モノとかってないのな」

「ああうん。俺努力が好きだから、労せず力貰える系って好きになれないんだよね。てかさ、もう一度記憶持ったまま人生やれるだけで十分すぎん? 俺、それこそが最大のズル……チートだと思うよ? だって他の人にそんな機会があるかなんて知らんのだし。チート能力あげるから魔王をなんとかしてください系の神も女神もさぁ、なぁんで現地人にその能力選ばせて贈ってやらないのかなぁって。だから現地人が努力して成り上がっていく系は好きかな。むしろ神様が、“現地人が【お前天才か】ムーブする系知識”を現地人にさっくり教えちゃえば、魔王討伐とか案外なんとかなりそうな気がするんだけどなぁ……。あ、でもハーレムは無理。奴隷みたいな、他に行く場所がない子とかを引き取った結果~とかだったらいいけど」

「へ? ……オタクって問答無用でハーレムとか好きなんかと思ってた」

「冗談でしょ? 人・数人と関係を持つって、想像でにんまり出来るほど楽なことじゃないよ? 人一人だって幸せにできずに離婚してる人が居る世界でさぁ、そんな複数人と関係作って平穏無事に老後まで~とか出来るもんかい。好きってだけで必ずハッピーエンド迎えられるなら、親の忠告無視して駆け落ちした人オールハッピーでしょ。無理だからこそ漫画で~とか、まあ分からんでもないけどさ、そういうのって大体考えちゃうもんでしょ? ……言いたいこと、わかる?」

「……あー、よーくわかった。そらそーだ、人が増えたら弱い奴の意見から大体食われてくんだ。んなもん、アタシだってよく知ってる。ウチん家だって親の関係が冷え切ってるから“楽しいこと”を求めたんだし」


 駆け落ちの果ては大体後悔が付き纏う。幸せになれる可能性なんて運でしかない。

 真面目に人間関係構築してる人だって“毎日が辛い!”って思う人の方が多いだろうに、人間関係捨てた先で幸せになれるかって? そりゃ難しいだろ。無理とは言わんけど。じゃあその人間関係が一人どころじゃ済まないハーレムはどーなんさって話。や、無理でしょ。絶対に誰かが強烈な我慢を強いられるわ。


「まあ逆に、ちゃんと関係維持しつつ養えるくらいに財力もあって、愛もあるならいいんじゃないの? ハーレム」

「いいのかよ……」

「だって複数人が一人を好きっていうなら、“まあ、争うよりは”~とはどうしても思っちゃうしねぇ。推しのキャラクターには幸せになってもらいたいもんだ。俺はやっぱ無理だけど。親にさぁ、好きな人紹介する時にさぁ……私、あの人の〇番目の恋人なの! 私、〇番目に愛されてるの! ……とか、実の娘から聞きたい親なんて絶対居ないぞ……? あとハーレムもの見てると主人公が偉そうすぎるとか万能すぎるとかどっかで見下してる感じがあるとかいろいろあるし、なにより女キャラが努力しまくってて男の方が女を大事にしてない感満載すぎて腹立つ。女キャラの好き好きアピールすげぇのに、男キャラがちっともそんな感じしてないのな。ハーレムものの主人公の性格、機会があったらじっくりと、そいつが女キャラを好きでいようとする努力をしているか見てみるといい。あれ? なんだこいつ、じっくり性格見てみるとろくでもねぇぞ、って思えるから」

「やめろ耳が腐るっつの! 集中させろよもー!!」


 糸井さんは、ギャースカ言いつつも結構楽しそうでした。

 翔ちゃん? 笑いっぱなしである。


……。


 嘘告伝説殺人事件・前編!(嘘)から一ヶ月が経過した。

 あれから僕と糸井さんの距離は一気に縮まって、僕にもとうとう彼女が───……出来るわけがねぇ。

 趣味と人生は別もの。面白おかしく生きていきたいとは思っても、人と付き合うなら話は別だ。

 じゃあ糸井さんはドゥーなってるかというと……翔ちゃんと付き合ってます。

 ある日に糸井さんからアタックしたら「誠実な女性じゃないと無理。てか人の心を弄ぶやつとか太郎と同じで顔面ストレート出来るほど嫌い」と言われ、ギャルな容姿はあっさり捨てて、黒髪に戻した彼女はさらに猛アタック。その回数と真っ直ぐさにあっさりやられた翔ちゃんと付き合っているのだ。なんか真っ直ぐな告白と笑顔を見てて惚れたんだって。さっすが翔ちゃん! 懐広い男やでぇ!

 でも糸井さん、ギャルの頃の癖が抜けないのか、ケッコーギャルがするポーズみたいなのしてる時がある。あのポーズなんなんだろ。名前とかあるの? え? 裏ピース? 写真映りがいい? へ、へー……そうなんだ。なんか外国の映像で怒り狂ってた誰かがカメラに向かってそれやってたんだけど、それの真似かと思ってた。

 などという少し前の出来事を、放課後だっつーのに動こうともせずに考えているオイラに、翔ちゃんが世話話の延長で話題を投げてきた。


「ていうかさ、太郎。な~んでお前は隣に女が居るのにアピールしないのかね」

「アピールならしたって。キン肉メン、興味ある? って」

「お前にとってのアピールそれ!? それで付き合う男女が居るなら見てみてぇわ!」


 でもキン肉メンだし。奨めたいじゃない。

 ちなみに糸井さんはギャル友とウッケッルー!! とギャル言語で喋ってる。


「普通の会話をするにしたって筋肉鍛えようばっかだし。それ以外っつったら何かとネタばかり。お前なんなの、意地でも女に嫌われたい系男子?」

「まあ元々俺になんて興味なかったしねぇ糸井さん。翔ちゃんを見て動きを止めてからというもの、なにかとチラッチラしてたし」

「そうかぁ? なんだかんだ真っ直ぐ言葉かけてたお前のことは、結構気にしてたように思えるんだけどなぁ」

「はいはい、もう自分の恋人な人のことを今さら人にオススメするんじゃござーせん」

「寝取られの趣味はないからなぁ」

「ていうか男子高校生の青春が恋愛だと思われているその流れが気に食わん。俺は俺で青春してるからいいって。誰かに絡まれてハラハラドキドキ……今日も陽キャを騙るDQNの葛野くんに呼び出し喰らってるから、行ってくるつもりだし」

「行ってくるつもり、って……おい、葛野っていえば集団で人にタカるクズって有名な……! 一人で行ってどうするつもりだよ」

「キン肉メン推してくる!!」

「……あ。なんか今俺、素直に葛野逃げてくれって思ったわ」


 筋肉を鍛えること。それは頭脳の活性化にも繋がるのです。脳筋という言葉があるけれど、脳味噌まで筋肉って最高の誉め言葉だと思いません? 脳に筋とかシワが増えるのは、考える力が活性化されていることと同じなのです。つまり筋肉さんは馬鹿じゃない。筋肉以外を学ぶ時間が惜しいだけだ。考えたことはございません? いわゆる脳筋~とか言われているキャラとかって、勉強以外の体を動かすものだと、モノスゲく吸収早くね? って。つまりね、そういうことなのです。つまり───脳筋さんの意識が筋肉から他に向いた時、それは凄まじき頭脳の実力が発揮される時に他ならないんだよ!(な、なんだってー! と続きたい)

 ……あ、関係ないけど活性酸素って言葉、俺最初はとても素晴らしい酸素のことだと思ってました。きっと誰もが通ってくれる道だと信じてる。

 では行かねば。きっと葛野くんも待っている───!


「ウルターメーン! マッソー!!」

「あっ、おい太郎!?」


 そんなわけで葛野くんとキン肉メンについて語り明かさねば!

 もしくは筋肉! でも大丈夫! 葛野くん、なんかぶつぶつ剣道部のお面がどうとか言ってたからピックザ武道かストロンクザ武道のファンなんだよ!


「おっすー、翔ー。今日もタロん家集合でおけ?」

「あー……ユナ、悪い。ちと遅くなるかも。今太郎が葛野に呼び出されたとかで走ってったから」

「……まじ? やばいじゃん」

「ああ……葛野がやばい」

「あ、そっち? てかヴァキでもやってたっしょ、人ひとりじゃ数人の連携にすら勝てないって。タロんこと心配したほうがいいんじゃ……」

「あいつな、一人を狙ったら一人しか狙わないから。狙った一人を潰すまで他はどうでもいいし、なんならいっそ捕まえた一人を盾にしてでもそいつ狙うから」

「………………」

「嘘告、しなくてよかったな、ほんと」

「や、うん、まあ……グループの男子の一人……ああ、アタシに惚れてたっぽいやつでアツシっての居たんだけど、あいつ、タロがアタシんこと脅した~とか言い出してつっかっかってって、血祭りにあげられてたし……」

「あー……あいつから殴ったんじゃしょうがないもんなぁ。……傷が目立たないように腹を殴って~とかイジメであるけどさ。あいつの場合、ンなもんするより関節技キメに入るから性質悪いんだよ……。中学の頃のイジメの話、聞いたか? あいつ、主犯格にパロスペシャル決めて号泣させて、親呼び出すほどの問題になったにも関わらず“俺は殴ってません! 命懸けます!”って堂々と言い切ったほどだから」

「……ホントに嘘一切言ってないのが逆にスゲーヮ。……で、どうなったん?」

「太郎の服の下には傷とかアザがあって、主犯格にはなかったから、そりゃ太郎が信じられるわな」

「ウワー……」


……。


 で。


「おーお、来てくれたなぁ陰キャくんよぉ。テメェ俺が狙ってたユナちゃん脅して、家に連れ込んでタラしたらしーじゃん。ズイブンなことしてくれたよなぁ……」


 指定された場所に行くと、葛野くんとその仲間たちが居た。

 アンヘル伝説ならここで北能くんが“きっと寂しがり屋さんなんだな”とか思うところだけど、俺は違う。……ところで、あれ? ケンドーブのお面は? 武道のコスプレとかないの!? ……あ、もしかして顔を隠してタカりたかったけど、思いの外に臭かったのでやめたとか、そんなとこかな? そしてユナちゃんってのは糸井さんのことで合ってるよね?


「そんなイカつい顔して意中の女の子をちゃん付けで呼ぶなんて……葛野くんって結構ウブなんだね」

「ぶっ殺すぞてめぇ!!」


 怒られてしまった。


「愛だ恋だなんてどーだっていンだよ……顔が良くて体もいいなら抱いてみてェだろうがよ」

「顔が良くて体もいい……ハッ!? まさか葛野くん、どこぞの外井さんのように、俺の素晴らしい肉体に目が眩んで、あげなことそげなことをしたくてここに呼び出したんじゃ……!?」

「だからぶっ殺すぞてめぇ!!」


 怒られてしまった。


「えーとつまりはBSSってことでいい? 僕が先に好きだったのに、翔ちゃんに取られちゃったよオロローンってことで」

「ハッ、ンなもんは拉致って抱いて写真撮りゃ一発だろが。取られただとかはどーだっていンだよ……」

「あっはっは、やったこともないのに常習犯みたいな言い方しちゃってー♪ ……あのね? 脅迫とかで女性をモノにしたい~なんて、ほぼ男の妄想だよ? 実際は死ぬよりゃマシ精神でハチャメチャに抵抗されたのちにキミが断頭台に送られるだけだから。女性を辱しめました。写真撮りました。脅します。で?」

「で、って……拡散されたくなけりゃ───」

「拡散したら捕まるのキミだけど? まあ画像とか動画を拾った人は鼻の下だらしなく伸ばしてラッキーだとか思うのかもしれないけどね。じゃあそれの出所は? なんてことになりゃ、誰もがキミを指差す。ネットならバレない? んーなわけないでしょが。誰もが名前だ住所だいろんなもんを対価にしてネットやってんの。おたくが持ってるスマホから、PCから、いかがわしい画像や動画がアップされました。はい疑われるのは誰でしょう? ……みんなみぃんな、個人個人と関わるのが面倒だから行動に出ないだけで、犯罪にどっぷり関わってんなら踏み出すに決まってんでしょーが。これまでの無自覚ネット犯罪者がなんで捕まったのかとか考えたことなかったの?」

「………」

「人を追い詰めるってのは、相手を男でも女でもない“人間”にするってのと同じなのよ? で、そうなった人間ってのは遠慮もしないし躊躇もしない。……はい、ここで質問です」

「……んだよ」

「キン肉メンに興味ある!?」

「ぶっ殺すぞてめぇ!!」


 怒られてしまった。

 なんて失礼なヤツなんだ、キン肉メンに興味がないか訊ねただけなのに殺すなどと!


「大体さぁ、こんなネット社会で拡散がどーのって。撮られてる時点で大して変わりゃしねーでしょ。そういうことを考えるクズが、手持ちのお宝自分だけのもので済ませておくわけがない。だったら地獄に突き落とした方がよっぽどいい。好きな男にこれを見せられたくなかったらーとか、それ自体が犯罪の証拠になってるってなぁ~んで分からないかねぇ。クズ教師がカップル相手に男子側の○○をバラされたくなかったら~とかあるけど、あれって警察行って脅迫されてますって言えば脅迫罪成立するだけのお話だからね?」

「っ……!?」


 ……いや、なんで驚いてんの。なんのために脅迫罪、強要罪なんてものがあると思ってんの。

 脅迫恫喝恐喝、みぃんなちゃんと解決法はあるし、まあ人間関係は諦めた方がいいかもだけど、それなりの強引なやり方ってのもあるのだ。


「2年以下の懲役か30万円以下の罰金とか払いたい? あんまり自分を怖いヤツに見せたいからってデカいこと言わない方がいいよ? それ逆にちっさく見えるから」

「……ウゼェ」

「ホ?」

「ウゼェってんだよクゾが! テメェなに偉そうにセッキョーたれてやがる!」

「昔っから思ってたけど、“テメェなに偉そうに”って言う人の方がよっぽど相手を見下した上から目線で偉そうなのってどうなんだろうね。言ってて恥ずかしくない? 逆に訊きたいんだけど、おたくがどんだけ偉いのさ。“こうしたほうがいいんじゃない?”っていう人の忠告さえ説教って受け取っちゃうからダメなんだと思うなぁ。説いて教える、って言葉をどうしてそう悪い印象に受け取るのかなぁ。言われるのが嫌なら直せばいいじゃないのよとか、幼馴染の子が居たら言われそうだ」


 そんな言葉に、周囲がクスクスと笑う。即座に「笑うんじゃねぇよくそが!」と怒鳴り散らす葛野くん。


「キミって漫画とかで絵をつけられたら、ほぼ全てのコマでニヤケ剥き歯やってそうだよね。こう、口をニターって三日月風に開いて、歯はずーっとイーってやってんの。漫画キャラのワルぶってるキャラとかってなんでずっとニヤケ剥き歯なんだろね? あれ結構頬肉ダルくなるんだけど、頬筋めっちゃ発達してそうだよね。あ、知ってる? 表情が笑顔に近ければ近いほど目尻は下がって、目尻が下がると副交感神経がうんたらかんたらで……便通が良くなるらしいよ!? やったね葛野くん!」

「てめぇぶっ殺すぞ!?」


 怒られてしまった。もしや毎日が快便なんだろうか。だったら余計なことを言ってしまった。


「あ。あと言い忘れてたんだけどね? 周囲にしてみりゃ“ウザい”って言う奴の方が倍ウザいから気をつけた方がいいよ? 馬鹿って言った方が馬鹿なんてレベルじゃ足りないくらいにウザいから」

「あぁ!?」

「いやいや思い浮かべてごらんよ。“ウゼェ~”とか、“は? ウッザ”とか言ってるヤツって普通に腹立たない? 相手してるのも嫌になるし、ウザいとか言いながら自分から絡んでくるのアレなんなの? とか普通に思わない?」

「はっ、思わねぇなぁ! 弱者の屁理屈にしか聞こえねーよターコ!」

「は? ウッザ。なにこいつウザ。ウザいんですけど。うーわウッザ。は? は? はァ~? クズがなんかタコとかウザいこと言ってますけディョ~ンォ」

「テンメぶっ殺すぞ!?」

「怒ってるじゃん」


 周囲が普通に笑いだした。

 や、うん。普通に思うよね? そりゃウザいもの。


「おいおいどしたよ葛野、陰キャくんに随分ナメられてんじゃん」

「るっせぇ粕宮! 笑ってんじゃねぇよ!」

「は? ウッザ。なんか急に怒鳴り始めたんですけどウッザ」

「だからうるせぇ! てめぇは黙ってろクソが!!」


 怒られてしまった。ほら、やっぱりウザい言うヤツのがウザいじゃないか。


「でー? 葛野ー? どーすんのよコイツ。俺らの人数みても怯えるどころか楽しんでるよーだけど?」

「ッチ……おい。詫びィ入れンなら今の内だぞ陰キャ。土下座して命乞いでもしてみろや」

「は? なんかこのタコウザいこと言い始めたんですけど。っはァ~……ウッザ」

「それはもういいっつーんだよ!!」


 怒られてしまった。


「命乞いって。俺を殺す気なのか。そりゃしょうがない、ポリスにご相談だな」

「はぁ!? ちょっ……ふざけんななに考えてやがる!」

「や、だって命狙われてるなら警察呼ぶだろフツー。呼ばないの? 葛野くんさぁ……頭ダイジョブ? あ、もしかして“自分がそこに居たら強盗とか斬り付け魔とか軽くツブしてやれんのによォ~ンォ”とかニュース見てると思っちゃうタイプ? ンヌゥッハァ~ンァッ……現実見よーよ葛野くん……。キミ絶対、腕とか軽く斬られただけで、“ウヒィ!? ヒヤァッ!? 痛ァ~ンゥィ!!”とか言って真っ先逃げ出すタイプだよ?」

「ご、ごご、ご……!!」


 顔を真っ赤にしてぷるぷる震える葛野くんの図。大体、刃物持った相手には格闘技経験者だろうがプロレスラーだろうが殺されたりする世界です。なんとか出来るのは運がいい人か、フィクションの中だけ。OK? 人間、“刺そう”ってそれだけに意識集中出来たら、殴られようが蹴られようが刺せるんです。OK? 覚悟キメた人間は後先は考えず、やると決めたことを死んでも遂行する。邪魔されれば刺すに決まってるじゃないか。迷惑な話だけどね、ほんと。


「ところでさ、詫びってなにに対して? 俺、キミに殺すってもう何度も言われてるんだけど。それに対する詫びすら貰ってないのに、なんで俺が、殺人予告してくるキミに詫び?」

「さっ……殺人予告って……こんなもん言葉遊びの一種だろ……」

「俺、キミに対してキン肉メンはオススメしても、詫び入れなきゃいけないことをしたつもりはないよ? 言葉遊びに付き合ったりはしたけど。で? なんで詫び?」

「てっ……テメェが……むかつくからだよ」

「うーわー、出ました自分が陽キャだと勘違いした陽キャモドキのDQNさんお決まりの言葉。相手が陰キャと見るや、別にそいつが迷惑かけてるわけでもないのに自分から嬉々として絡んでは周囲に俺TUEEEEをアピールしたがる。ウッハァちっせぇちっせぇ。陽キャは名乗れてもお天道様の下を堂々と胸張って歩けないクソ野郎どものお決まり文句、よぉく言えまちたぬぇ~? で? 言われた通りむかついてくれると思うキャラで返してみてるけどどう? こんなキャラならむかついてくれ───あ! これキミの真似だったね! ごぉ~めんごめん! キミならきっとこんなクソ歪みした顔で人をナメくさってくれるって信じてるからやってみたけどこれめっちゃくちゃ恥ずかしいね! どのツラ下げて、自分をどんな棚に上げればこんなこと言えるようになるの!? はぁ~……しっかし陰キャは居るだけでメーワクとか言いつつウザ絡みしたり蹴ったり殴ったり金品巻き上げたり。ぷっくふふどっちが生きててメーワクなんだかぶふっふ……!!」

「───」


 拳が飛びました。受け止めました。


「お前、ウザいわ。マジで。死ねよ」

「俺、普通だわ。マジで。生きる」


 もう片方の拳が飛びました。受け止めました。


「っ……てっめ……!」

「陰キャが居ると陰気臭くて嫌だわ~、とか言ってる奴ってさー、それ別に声に出して言うほどのことじゃないよね。なんでいちいちマウント取りたがるんだろね? あ、ちなみに陰キャとか見下してる相手から金品奪うことって、それ陰キャじゃないそいつの親まで侮辱してることになるって分かってる? だってDQNどもが気に入らないのは陰キャだけであって、小遣いだお昼代だを渡してる親には関係ないもの。なのに金品取り上げたりしてる奴ってさ、矛盾してるよね。小遣いが無くなりゃ親の財布から~とか言ってる奴も頭イカレてるよね。陰キャが気に入らないのに陰キャじゃない親に迷惑かけてりゃ世話ねーわいウハハハハ、そういうこととかちぃっとでも考えなかったのかなぁそのテの人。ねぇ葛野くん。そういうこと考えなかったの?」

「っせぇなクソがっ……! ~……っこンのっ……くそ……!」

「ほーらー、リギーくーん、がんばってー♪」

「っ! っの……! はなっ……せよ!」

「え? やだ。自分から突っかかって来ておいて思い通りにならなきゃ威圧的に命令とかぶふっ! ほんとキミ頭だいじょぶ? ……あーあーぜはぜはいっちゃってー。リギーくーん、落ち着いてー? ほーらー、リギーく~ん♪ りぎぃ~くぅうう~ん♪」

「っがぁあああ殴るぅ! テンメ絶対殴ってやるぅうあぁあ! 誰だよリギー知らねぇよクソがぁ!!」

「もう手が殴られてるんだけどなぁ……」

「クソがっ!!」

「あ」


 足を蹴られた。なんとまあ……。


「殴るとか言っておいて蹴るとは……もしかしてキミ、赤坂流柔術を習っていたり……?」

「知らねーよ! ンだそりゃ!」


 げしげしと蹴ってくる。……うん、不良ってなんか強いイメージとか勝手に持たれてるけどさ、あれって喧嘩経験した不良だけが喧嘩慣れしてるから強いだけであって、べつに不良どもって体鍛えたりとか案外してなかったりするんだよね。だからこうして拳掴まれちゃえば案外腕力もフツーだし、蹴りだって一般人がやるのと大して変わらない。そこに“思い切り蹴ったら可哀想だ”ってパワーセーブが無いだけの話だし。


「グワー、足を蹴られてしまったー、これはお返しせねばー。フンッ!!」

「いがぁぁっ!? ~っ……ぁっ……!」


 で、鍛えてあって、バトル経験もあるとこうなります。

 そして足を蹴り返されて、大変驚いた顔で俺を見る葛野くん。


「ねぇねぇ葛野くん葛野くん! どうしてそんな驚いた貌してるの!? もしかしてやり返されないとでも思った!? そんなわけないじゃないかキミが相手にしてるのはキミが勝手に決めた陰キャ陽キャの枠の生物じゃなくて人間ですよ!? ていうかどうして相手が陰キャなら仕返しはされない、なんて思ったの!? 人間ですもの、やられりゃやり返すよ!? 当たり前じゃないかばっかだなぁ! 強気に出れば相手が押し黙ると思ったの? 人間だもの、たまに黙ることはあっても、怒りで性別なんぞ忘れりゃなんでも出来るよ!?」

「~……てっめ……!」

「え? はい手前ですが? キミさ、何回人のこと呼ぶの? いいよもう認識してるんだから呼ばなくても。ほ~れほれほれテメェ様だよ~? 目の前に立ってるのに何度もてめぇてめぇ呼ばれてる俺ですよ~? ホ? 用件なに? もしかして恥ずかしくてお口開くとクソがって出ちゃうお子ですか? ン? ンン~? ンーフン? ンーフン?」

「クッソがぁあああっ!!」

「はい質問。クソがってどういう意味?」

「てめぇがクソみてぇな野郎だってことだよ!」

「えぇ……? キミもっと自分の性格見直してから口開いた方がいいよ……? 俺がクソならキミなんて便所のネズミのクソにも劣る最低のクソカス野郎じゃないか……! キミが陰キャを見下して、陰キャは口から陰気を吐き出す~なんて言うなら、キミなんかマイコプラズマ肺炎とか蔓延させてそうじゃないか……! ……あのー、ねぇ? 葛野くんさ、陽キャモドキさんらって心無い言葉で人を傷つけてくるから返してみたけど、どう? 心平気? いっつも陰気臭いとか言ってくれるけどさ、今どんな気分? 俺ちっとも楽しくねーや。これで楽しめるって相当心が歪んでなきゃ無理だよね? そんな陰湿な性格しといてよく他人を陰キャとか呼べたね、人として大丈夫? どんだけ容姿が見れる連中同士でツルんでコヨシしちゃってもさ、心が激烈ドブスや炸裂ブサイクじゃ性別云々より人として終わってると思うよ? キミってその典型だよね、今まで他人に向けてた言葉、今度から鏡を見ながら言った方がいいんじゃない? キミ今立派に陰湿炸裂ブサイクハートキャラクター、略して陰キャやってるよ?」

「~……んんんんんぐぐぐぎぃいいいいいいっ!!」


 拳を掴まれたまま顔を真っ赤にさせて血管ムキムキで怒る葛野くんの図である。手を振るっても拳が解放されないから、なんか手をぶんぶん振って“僕怒ってますからアピール”する童子のようだ。

 周囲の人たちはもう爆笑中である。


「てめぇらなに笑ってんだよ! さっさとこいつボコれよ!」

「や、てめーこそなに命令してんだよ葛野。俺ゃなんとなーく一緒には居たけど、てめぇに命令されるような役割なんざ担った覚えはねぇぞ?」

「そーそー。……てかさぁ、自分で呼び出しといてこうまで振り回されてるって……ぶふっ! だっせえの……!」

「ンだと烏丸ァ!!」

「だからさー、会話って言葉の意味くらい考えろよお前ー……。はぁ、これほんと、そこのえーっと? 山田クンの言う通りじゃねぇか。なんでいちいち叫ぶ? なんでいちいち怒鳴る? 普通に喋れよ口開けばクソがクソがってうるせぇなぁ」

「あ……? テメ舐めてんのか烏丸……」

「正論言われただけで舐められてるって、お前の頭ン中どうなってんだよ……」

「よーするに俺達のこと見下してたってこったろ。ナメてんのはどっちだよ。クソってのはてめぇみてぇなのを言うんだよ」

「あー……悪いな葛野。俺らそもそも別にそこの山田クンのことボコりたくて来たわけじゃねーんだわ。ていうかすまん、会話の流れ的に“悪いな”とか出たけど、これっぽっちも悪いとか思えねーわ」

「粕宮……?」

「コーコーに上がってまで他人にメーワクかけて自分は強いアピールとかさぁ、いい加減卒業しようぜ? 義務キョーイク終わってんだからよ、大人になれよもう」

「……は?」

「あ、詳しく言わなけりゃ分かんない感じか? マジか、分かってくれない感じかよ。……んじゃ、言うけど。俺、もうお前とツルむのやめるわ。前々から思ってたんだけどさー、お前イッタイわぁ……。人ンこと陰キャ陰キャ言って絡むけどさ、その……お前言うところの陰キャクン? がお前になにしたっての。ただフツーに高校生活満喫してるだけだろ」


 なんか流れが変わった。粕宮くんが苦笑しながら葛野くんに語るけど、葛野くんは信じられないものを見る目で粕宮くんを見る。


「俺も。お前と一緒に居ると息苦しいんだよ。なんでやりたいこと我慢してまで息苦しい奴と一緒に居なきゃなんねーんだよ。どんな会話投げても怒鳴るし腹立つ返ししかしねぇし。なんなのお前、マジで頭大丈夫か?」

「俺もー。もうこういうの卒業しようぜ? てか結局暴力振るって迷惑かけて、連帯責任に持ち込んでるのお前だけじゃん」

「ほんとそれな。毎度毎度なんもやってねーのに親に連絡来てさー、正直……あ、なるほど、こりゃ確かにウザいって言うヤツのがウザいわ。葛野、お前ほんとウザい」

「あ、山田クン? 俺キン肉メン好きだから一緒に語ろうぜっ!」

「マジかい粕宮くん!!」

「あ、俺も!」

「烏丸くん!」

「俺も俺も! ゴッドブレスリヴェンジャー、よかったよなー!」

「服部くん! そこを突いてくるとは!」


 キン肉メンと聞いて、葛野くんの拳をパッと離してスマートフォを取り出した。連絡先交換のためである。粕宮くんも服部くんも烏丸くんもすちゃりとスマートフォを出して、スタンバってくれた。

 ……? スマホ? NO,スマートフォだ。間違えるな、スマートフォ、だ。フォンじゃないのか? 違う、スマートフォ、だ。


「おい……おいっ!!」

「え? ……葛野くん、まさかキミも!?」

「知らねぇよキン……!? なんざ! それより!」

「「「「……あ?」」」」

「ぅひっ……!?」


 俺と粕宮くんらの睨みに、葛野くんがヘンな声を出して一歩引いた。

 いや、知らないのはしょうがないよね。だって知識にないんだから。でもさ、自分が知らないからって“なんざ”はないんじゃない? 許されざるよ? 許されざるでしょこれは。


「へ、……へへっ、いいかぁ? 俺ゃ拳にゃ自信があるんだ……! さっきは距離の所為で蹴りも威力が弱まっちまったが、距離さえ取れりゃあ……っ!!」

「………」

「なんだよ、なんか言ってみろよ。ひょっとしてビビっちまったか? っへへぇっ……おぉらぁっ!!」


 葛野くんが助走付きで殴りかかって来る。テレフォンパンチってやつすぎて、わざと当たらない限りは当たりませんよって感じのあんまりにもあんまりな拳だった。

 それをパンッと横に弾くとともに自分も横に移動することで、勢い付きすぎていた葛野くんはあっさり前のめりになる。なんとか足を踏ん張って倒れるのは防いだようだけど、綺麗なガニマタチックな姿勢につい、肉ソウルが走った。ので、俺も走った。

 背を向け、蟹股な彼に向って駆け、身を捻るように跳躍。彼の腰の両脇から足を通すように飛びつくと、体重移動のために後ろに向けていたらしい葛野くんの腕を取って、足は彼の太腿に引っ掛け、腰は彼の背に預けるようにして一気に仰け反る。


「オォラァアアップ!!」

「いぎぃっぎゃぁあああああああああああっ!! ぇぁがっ……あぁぁぁぎぎぃいあぁあああっ!!」


 技の名を、OLAPといいます。

 ぎしぃ、と何かが軋む音が聞こえたけれど殴りかかられたのはこちらなので知ったことではない。


「おおおすげぇ! 生OLAPだ!」

「あれマジで出来るんだな! あっ、おーい葛野ー! 倒れるなよー!? 倒れたら腕が粉砕骨折するのと顔面が筋肉スパークされたみたいにひっでぇ状態になるからー!」

「んぎぃいいいいいいぎぎぎぎぎぎぃいぃいがぁあああああっ!!」


 服部くんが忠告してくれるけど、それどころじゃないらしい。

 ……まあその、言った通り、不良だからって腕力があるわけじゃないからね?


「ていうかさ。俺、中学ン時に他校の噂、聞いたんだけど」

「あー、なんかイジメっ子にパロスペシャルかけたとかいう話だろ? そんなの───…………あ、やれる奴目の前に居るわ」

「お、おーい、山田ー? お前ってさー、中学の時にイジメっ子にパロスペシャルとか───」

「ああうん、やったやった」

「「「ご本人様だったぁあああーっ!!」」」

「ちょ、やばいやばい! 山田ストップ! 腕ほんと折れるから!」

「だめだ! 俺はまだこいつからギブアップを聞いていないー!!」

「葛野のヤツ泣いてるから! な!?」

「だめだー! こいつは泣いたフリをしているのかもしれーん!!」

「疑心暗鬼時のロヴィンマスクかお前は! ほ、ほら、ゆっくり、ゆっくりな!? ほらっ……そ、そーそーそー! ゆっくりゆっくり……!」


 粕宮くんらに言われたので、ゆっくりと技を解除する。と、蹲って泣いてしまう葛野くん。


「悲しいな……争いはいつもこんな虚しい気持ちを与えてくれる……」

「いや……泣かせたのお前だからね? 正当防衛だし自業自得すぎて笑えもしねぇけど」

「や、でもこうして泣いてる相手に追い打ちかけるようなことしてたんでしょ葛野くん」

「あー……蹲ってる奴の腹を横から蹴ったり、とかはあったなぁ……胸糞悪かったけど、止めなかったら俺らも同罪か。正直俺ら、葛野が来てくれって言うから来ただけで、脅しもしてなければ暴力も振るってないんだよなぁ……。こいつ集団で居ると気がデカくなるタコスケみたいでなー……」

「不思議なんだけどさ、世にはこうしてクズであることを知れる機会が随分と溢れてるのに、なんでこういうクズは自分がクズって自覚がないんだろうね。漫画だろうがなんだろうが、知れる機会はある筈なのになぁ」

「そりゃ、そういうのが好きな奴の意見だからだろ。そういうのを見ない聞かない知らないヤツには、そういうのは通用しねーんだよ」

「えぇ? 今は漫画見なくたって、子供の頃は漫画とか見ないと話題に乗り遅れたりとかなかった? “キン肉メン”世代、“ドラゴソボーノレ”世代、“ツーピース”世代、“鬼のメンツがヤバい”世代は絶対あると思うんだけど」

「その中でなんでお前が肉世代なのかが謎だ。俺は“完全始祖編”から入ったクチだけど」

「いやぁ、俺の家族って全員が全員オタクだから、漫画とかいろいろ揃ってるわけで」


 などと誇らしげに言った途端、蹲ってた涙目葛野くんが俺を睨みながら「ほらみろやっぱオタク一家じゃねぇか」と口にした。


「うん。だから格闘オタクも居ればトレーニングオタクも居る。オタクでなにが悪いのかなぁ葛野くん。そういうオタクが居るお陰で、俺は今キミのくだらないイジメから自分を守れてるわけだけど。人に迷惑かけるばっかで、オタクみたいに極めようって気概もないキミって、何に胸張ってオタクを見下せる人間なのかな」

「っ……っくそ……くそ、くそっ……! ちくしょうがぁ!」

「ン? 悔しい? ホ? 悔しい? 言ってみれ? ホレ、キミと違ってちゃんと相手の言葉は聞くからホレ、言ってみれ陽キャくん? ンーフン? ンーフン?」

「ウゴロギギギギギィイイイイイィィィィーッ!!」


 変顔をしながら彼と目線を合わせてしゃがみ、シペペペペペペと両の頬を小刻みに叩いた。その反応がこれである。


「葛野さぁ。お前ほんとその癖やめとけ? なんでわざわざ怒鳴るんだよ。ちゃんと聞く姿勢で返事待ってんだからフツーに喋れようるせぇなぁ」

「るせぇよ裏切り者!」

「裏切りって。ぶはっ……都合悪けりゃ命令してくるような、人を対等に見れないクズのくせして人のこと裏切り者ってよく言えたよなお前……くっははは……! あーもういい、わかった、お前ほんとクズだわ。ちっとは話聞く姿勢持ってくれるかとか思ったけど、結局最後までダメなままとかないわー……。お前さぁ、人に裏切りだどーだって言う以前に、俺の信頼勝ち取れるようなことしたことあんの? 俺はお前となんとなーく一緒に居て、不快に思うことだらけだったわ」

「そだなー。短気だしすぐ喧嘩売るし、そのくせすぐ人を巻き込むし」

「その性格がめんどくせーから今まで黙って見てたけどさ、正直さっさと縁切りたくて仕方なかったわ。あ、ここでなんでだよとか訊かないでくれよ? これ分かんないならほんとやべぇぞお前。これからまともな人付き合いとか出来るとか考えないほうがいいわ」

「最後だから言っとくけどさ。……葛野さぁ、ほんと、さっき言ってたこと、マジでやらかしたりするなよ? 女襲って写真撮ってーとか。捕まるのはお前でも、襲われたやつが可哀想でならねーよ」


 ふむ。そりゃ確かに。ここでオタクに負けた~なんて事実を苦に、人を襲うなんて馬鹿な行為に出ないとも限らない。じゃあ?


「あ、じゃあそんなことしようとしたらBLのオタクの親戚紹介するよ」

「へ? びぃえる? ……って、たしか……」

「ヴォォ~ウィ~ズ……ルァ~ンヴ♪」

「いや、オタク趣味にどーこー言うつもりはねぇけどよ。それで葛野が大人しく───」

「男色の知人が居ます」


 びしりと空気が凍った。

 蹲っていた葛野くんが、ひぃ、と小さな悲鳴をあげて尻を守りに入った。


「女の子襲って、写真撮って脅迫したいんだよね? やられる気持ち、教えてあげよっか? 写真撮ってその人に送ってあげれば、翌日にはキミの出口が入り口になって汁を注がれてその写真を撮られて脅迫されることになるんだけど……あ、これ脅しとかじゃないからね? キミがやったら確実にそうするよって言う、確約みたいなものだから」

「っ……!!」


 葛野くんは涙目で、蹲ったままに後退った。どうやら腰が抜けているらしい。


「あぁもちろんおホモな方々は一人じゃないから、よかったねー、こういう時の陽キャグループがどぅあ~ぃ好きな愛あるシェアをしてもらえるよ? ちゃんと太腿に“正”の字い~っぱい書いてもらおうね!」

「……、……、ご、ごご……っ……ごっべっ……ごべん、ばざい……!」


 ……にっこり笑って言う俺を前に、葛野くんは涙で土下座してきた。

 俺が悪かったです、助けてください、許してください、ごめんなさいごめんなさいと。

 そんな彼を前に、悲しい風に体を撫でられつつ……もう一度彼と同じ目線で屈むと、彼の肩にやさしくポムと手を置いた。そんなことでさえビクゥと肩を弾かせた彼に、すぅっ……と優しく笑みながら言葉を贈った。


「……なんで自分は謝れば許してもらえるって思ったの?」

「───────────────っへ……、───へ?」


 俺が言った言葉が理解できない、って顔の葛野くんが震える声をこぼし、周囲の皆様が顔をザァアアアアと青くさせた。


「いやいやいやいやいや山田クン!? さすがにそれはヤバい!」

「屈強なおホモ達たちにマワされるとかトラウマってレベルじゃ───」

「それを、この人はキミらとやりたかったみたいだけど? 得意そうなニタついた笑顔で言ってたじゃんか」

「無理! やらねぇしやりたくもねぇわ! 俺は不良であっても心はピュアなの! 惚れた女と恋愛結婚してーんだわ!! こいつらは必死こいて陽キャウェーイとか言ってっけど俺ただの不良だから!」

「えっ……粕宮お前不良だったの!? ぁでも俺も純愛派! てかなんか集まったらそうしなきゃいけない気がしてそうしてただけで陽キャとかそういう枠付けどーでもいいっつの!」

「驚くとこっつーかツッコむとこそこかよ服部!! あと俺も純愛派! 強姦とか女のキモチ無視した行為とかないわ!!」

「だよな! な、なんっつーかこう……! いやキモいとか言われっかもだけどさぁ! ~……っは、初チューはそのっ……レモン味がいいっつーか……!!」

「「わかるっっ!! それなっっ!!」」


 陽キャさんらは実はピュアだった。しかし彼らが金を強請っていたのは確かなわけで。


「あのー、おたくらには他生徒から金品を強奪していた容疑がありますが?」

「あ、いや、こいつがかっぱらったものとかはあとでちゃんと返してたぞ? てか人数居たし、だせぇから参加してなかったけど、主犯は葛野だからな? 傍観してたし同罪かもだが、奪っちまったものは可能な限り返品しといた」

「だから、ってわけでもねーけど、金品巻き上げるって噂はあっても暴力沙汰とかモノは返ってこないとかそういう噂はないだろ?」

「あ、なるほど」


 確かにそうであった。なるほど、こんなヤツの尻ぬぐいとかされてたんじゃ、そりゃあ友達やめたくもなる。


「尻ぬぐいが激化しないためにも、尻ぃ詰めてもらって別世界見てもらったほうが良くない?」

「いやさすがに知人の出口が入り口になるのはちょっと……」

「中学の時のイジメっ子は“やってみろよオタクがよぉお!”とか言ってて、連休明けには奇妙に乙女チックになってたけど」

「ひぃっ!?」

「実例があるのかよ!?」

「パロスペシャルでも懲りないツワモノだったんだけどね。さすがに何度も何度も服の下にアザ作られるのも嫌だったし、あんまりしつこいと最終兵器使うよ? って言ったんだけどね。そしたらやってみろよと言われたので、まあ」

「ウアー……」

「あ、ちゃんと何度も確認したからね? なんだったらこれから起こることに自分はこの人に罪を問いません的な説明の書類にサインもしてもらって」

「途端の犯罪臭!!」

「いやー……ワル振りたかったのかねぇ……そういう、なんかワルそうなのは躊躇なく乗っかって来て、その果てに出口が入り口になっちゃったらしくて」

「葛野もうほんとワル振るのやめろほんとやめろ!」

「これ本気でシャレにならねぇから! そういや兄貴が今でも連絡とってるダチに、急に弟がオカマっぽくなったとか相談受けてたんだよ! 嘘じゃないならそれの可能性が……!」

「その友人の苗字って本宮くん?」

「───………………葛野。ヤメレ。コレ、ヤバイ」


 服部くんがカタコトになり、葛野くんの震えが最高潮に達した。


「HAHAHAHAHA、犯罪とかは一切してないから大丈夫だよ? 自分から望まない限りは絶対に手を出さないし、約束したなら守るっていうとっても誠実なナイスGAYだから」

「そこはナイスGUYって言おうな!? なにちょっぴりコナレてる感じの発音でヤバいこと言ってんだ!?」

「服部くん、キミってば結構ツッコミとか好きなタイプ?」

「昔っから周りに頭がちょっぴりおかしいやつばっかだっただけじゃあ! 好きでこんなんやってるわけじゃねぇよぉ!!」


 状況に応じた的確なツッコミ。上級者と見た。と思ったら上級者だった。周囲がおかしい人ばっかりだと苦労するよね。俺は順応したクチだけど。だって一族がオタクなんだもの、順応せずしてなにが一族か。や、そこから離れようとする一匹狼オタクも居たけどね? ちょっと、というかかなり中二病入っちゃってて、一匹狼を愛するあまりに一族から離れようとしてたなぁ。一匹狼は喧嘩が強いのが基本、とかいって格闘技オタクとバトルオタクに戦い方を習ってる内に強くなって、なりすぎて、友達も恋人も居ない大学生活を送っているとか。あ、でも後輩には相当慕われているらしい。人助けはめっちゃしているらしくて、一匹狼を装った呆れるほどの善人だのなんだのと言われている。

 や、まあ、雨の日に傘とエサを捨て猫に施す場面に憧れて、雨の日になると捨て猫探しに明け暮れたり、喧嘩してる奴らを見れば仲裁に入ったり、女の子に絡んでるチャラリーナさんは潰しにかかるし、弱気な少年少女や怖がっている人が絡まれているのを見れば助けずにはいられない、そんな人だったが。

 今現在はなにをやっているやら。最後に聞いた情報は、ある日に助けた女子高生がどこぞのお嬢様で、以降なにかと付き纏われてるとかなんとか。ラノベか。しかもそのお嬢様が隠れオタクだったらしく、一匹狼くんの素性を家の力で調べてもらっている内に同族であると知り、ますますお近づきになりたくなっただのなんだの……。

 オタクとオタク同士は引かれ合う……ただし属性の違いで相容れぬ時がどうしてもあるので、そこはきっちり話し合いましょう。

 ああ……どっかに年上で落ち着きのあるおっとり系のおっぱい大きいおねーさん居ないかなぁ。まあ一族の例というかオチとして、大体が好みの女性とは真逆な人とくっついたりするのだが。一族の大半がそうだったらしく、けれど全員が恋愛結婚だっていうんだから、理想ってのは大体愛には勝てないらしい。

 ……ハテ。そうなると俺の理想の女性というのは年下で、お胸がホライゾンなお方? まあ正直な話、俺に恋人が出来るなんて思ってないし、そんな出会いがあってもそこより先を築ける未来がまったく見えない。翔ちゃんの言うように、俺は趣味が偏り過ぎているのだ。なのでもう諦めている。相手に物怖じせずズバズバ言うのはその影響だ。人間関係にそこまで期待を持っていないのだ。

 と、思考が十二分に葛野くんから離れたところで、この話は終わりだ。


「じゃ、とりあえず葛野くんの写真だけ撮っとくね? 次なにか問題起こしたら、キミの出口が狙われることになるから、覚悟の上で不真面目に生きてね?」

「ヒィ!?」

「頼む葛野……本気でもう問題とか起こさねぇでくれ……。さすがに知り合いにおホモ達のお尻合いが出来るのは勘弁だ……」

「……いやでもホモってなんか、世界にはやさしいイメージないか? いっそのこと───」

「……あ、なんかわかる。ホモな人って基本やさしいよな。オカマはどうか知らんけど」

「いやいや、オカマは男で女なハイブリッド生命体だから、基本はやさしいよ? オカマオタクの親戚も、オカマっていうのは男の気持ちも女の気持ちも分かるから、不思議と相談役っぽい職業になることが多いんだとか」

「え? マジ? …………あ。なんかオカマって聞いて、やってそうな職業思い浮かべたら、人の話を聞いて行動する職ばっかだったわ……!」

「え? マジ? ……あー……服飾、理容師、バーに……うわマジだ!」


 や、言ったら大体の職業は人の話を聞く場面はあるんだけど。それを今言うのはきっとヤヴォってもんなのだろう。そしてなんか写真撮られてから魂抜けたみたいに固まってる葛野くんをそのままに、俺達は我が家へ直行。途中で翔ちゃんと糸井さんも合流して、キン肉メン鑑賞会を開催するのだった。連休っていいよね。疲れる人生の癒しです。


「あ、ところで三人はなにかこう、見てみたいアニメジャンルとかある? 普段は言えなかった、こういうものが好き~っていうのでもいいけど」

「あ、あー……俺、家では冷遇されてる子が外で頑張る話とかケッコー好きで……」

「あー、なんか烏丸はそんな感じするよな。子供とか見る目がスゲーやさしい」

「え? マジで? 顔に出してるつもり、なかったんだけどな……。そういう粕宮は?」

「俺は断然格闘技もの……って表向きはしてたけど……あーその、えーっと、なんだ。あるだろ? その……ま、魔法少女……っつーか……ゴジャキュアとか。……妹に一緒に見てってねだられてるうちに、気づけば俺のほうがどっぷりハマってた……」


 ゴジャキュアとは、金持ちお嬢様が魔法少女になって戦う、ゴージャスでキュアキュアな物語である。さて、残る服部くんは?


「そこで全員で俺を見るのやめよう? あーっと……そうだなぁ。好きなの、っていったらこう上手く挙げられねぇんだけど……あ、ほら、どれ、っていうのじゃないけど、ああいうのは好きだぞ? ベタだけど、猫語っていうのか? にゃはは~とか笑うキャラとか。わざとらしいって言ったらそれまでだけど、なんか好きなんだよな。なごむ」

「おお服部くん! そこをついてくるなんて!」

「おっ、やっぱオタクってそういう方向好きだったりするのか? もし知ってたら教えてくれるか? いや~、にゃはは言うキャラは好きだけど、だからってこう、パッケージっていうのか? 表紙っぽいアレにあからさまに猫耳女子が居るのが好きかっていったらそうじゃないんだよ。こう、ポッと出たのにやたらと心惹かれるキャラっていうのか? そういうやつの良さ。分かる?」

「分かる分かる! アニメ版のキン肉メンハイパーフェニックスだね!!」

「違ぇよ!? ちげっ……違ェよ!? いやなんでそうなった!? 違うから!!」

「いやマテ服部。思い出せ。アニメ版のハイパーフェニックスを」

「え? ハイパーフェニックスっていったら、王位を決めるって時になったらなんか急に現れて、笑う時っていったら……にゃあ~はははははって……───ち、違う! いやほんと驚くくらい条件ぴったりだけど違うからな!? ……山田! そこで真の友を得たみたいな眩しいものを見るようなしんみり笑顔とかやめろ! 俺普通に女キャラが好きだから!!」


 そんな風にして俺達の連休は始まった。


……。


 キン肉メン鑑賞会が終わって。


「うーお……さすがに連休徹夜でキン肉メン鑑賞会は目も頭もやべぇ……」

「でもスゲーッサワヤカな気分だ……干したてホヤホヤのパンツを履いた夏休み初日の朝のよーによォ~~~ッ」

「あー、分かる。やっぱ二世もいいよなー、俺ケイオス・アヴェニール好きだったわー」

「俺はあれだな。あのー……完全超人側か時計超人側かを迷ってる中で、なんか汗垂らしながら悪顔で語ってたのに、少し先のコマで“待ってくれ~っ、俺はまだ決めあぐねているんだ~”とか言ってたヤツ」

「それ好きっていうか笑えるだけだろ」

「や、超人として好きって意味じゃ全く同じだって」


 ていうか、と。我が家に集まった陽キャくんたちが、改めて部屋を見る。そこは俺の部屋ではなくて、アニメなどを鑑賞するために設けられた大きな部屋だ。巨大な画面、様々なスピーカー、完全防音仕様。なのでどんだけやかましくしても外には漏れない悟られない。


「アニメのためにここまでするって、お前の親すげぇな……これがオタクパワーか……」

「好きなもののために全力を尽くす。それがオタクだ人生だ。ちなみに好きなもの、っていうのはまず第一にお互いのことで、俺の両親や親戚全員、ラブラブ夫婦しか居ない」

「すげぇ」


 服部くんが素直な感想をくれた。言った通り、好きなもののために全力を尽くした結果なのだ。


「けど、改めて実際にハイパーフェニックスのにゃはは笑いを聞いた時は笑ったな」

「ラスボス扱いなのににゃはは笑いってある意味スゲーよな」

「しっかし、せっかくの連休だってのに女っけもなくキン肉メン鑑賞って……俺達、友情側に青春はしてるのかもしれんけど……男として、男子高校生としてはかなり寂しい方向で青春してねぇか……?」

「ちょっと粕宮? ここにちゃんと女も居るって分かってて言ってる?」

「糸井は天堂と付き合ってんじゃねーか。彼氏居るやつは女としてカウントされねーんだよ」

「純愛を望む高校生男子としては、彼氏持ちはちょっとなぁ……天堂すっげぇいいヤツだし。マジで居るもんなのな、打算無しのパーフェクトイケメンって」

「それ本人の前で言うこと? ……や、正直太郎とその家族に会ってなけりゃ、親からのアレやれコレやれでとっくの昔に潰れてたと思う。なんでも楽しく出来るようになったのは、あの日に太郎とサッカー勝負したからだな」

「へぇ、そんなことあったんか。ちなみに勝者はやっぱ天堂か? イケメンってなんか昔から強ぇイメージあるし」

「いや、太郎。サッカーには自信あったのにコテンパンにされた。で、勝った方が相手にアニメ見せるかサッカーするかとかで条件付けてたから、そこから俺と太郎の交流が生まれた」

「「「山田クンお前マジなんなん?」」」


 勝ててたのは本当に子供の頃だけだったけどね。


「しっかし天堂クンも変わってるよな。天堂クンならもっといい女、選り取り見取りじゃね?」

「顔だけ見て告白してくる女子と、ちゃんと一緒に居てみて自分が好きになった女子。粕宮くんならどっちがいい?」

「お前分かってるなぁ! だよな! 顔がいいから付き合うとかじゃないよな! ちゃんと自分が好きにならなきゃなぁ!」

「まあ、そうは言ってもそもそも出会いがないんだけどな。葛野の所為で嫌な噂ばっか回っちまったし、噂が出回った当初はそのー……そういうワルっぽい噂? がカッコイイなんて思ってた所為で、今現在がスゲー後悔の連続だ」

「わかるわー……俺らの認識、完全に不良グループって感じだろ……や、俺は自分を客観的に見て、あーこれ陽キャじゃなくてただの不良グループだわとは思ってたけど」

「あーなるほど、だから粕宮、自分で不良って言ってたのか。けど……ぶっちゃけどーなのよ山田クン。お前って彼女とか欲しいタイプ?」

「あー、なんか年上が好きとか言ってたよね、山田」

「ぬう、覚えてらっしゃったか糸井さん。まあ、落ち着いた年上女性とかいいと思います。あと大前提としてオタ趣味に理解ある子とかだね。大前提がそれだから、なかなか難しい。容姿とかどーでもいいんだ。ただ趣味を存分に語り合えて分かりあえて分かち合えてともに歩めるなら、それだけでいいじゃんってくらい」


 言ってみると、みんな少し黙った。黙って、あー、とかうー、とか言ってから、切り出す。まあ、たぶん、予想は出来てること。


「や、容姿どーでもいいて。さすがに多少は気にするだろ?」

「まあ、多少は。風呂には出来れば毎日入ってほしいな。軽い運動、ウォーキングくらいはしてほしい。でも、それだけ。一目で分かる不潔さがなければそれでいいよ」

「いやいやいやそーじゃなくて! ……ほら、最低限かわいいかどうか~とかさ」


 粕宮くんが言ってくるけど、ノン。最低限、清潔であって性格がクズじゃなければそれでいいと思います。出会いって大事。心を通わせ合えれば、容姿なんて最低限あれば十分なのだ。最低限っていうのは、事情が無い限りきちんと風呂に入っていること、とかね? あ、あと努力出来るひと。夫婦になるなら好き合う努力は続けていきたい。好き合えないならどれだけの美人だろうがフィギュアと変わらんだろ。こっちからしか愛情を向けられない。

 そういうことを言ってみると、うわちゃー……と皆様が額に手を当てた。


「フィギュア……フィギュアかー……! 確かにって思っちまったよちくしょう……!」

「なまじ造形とかが綺麗でも、愛情与えられるのってこっちからだけだもんなぁ……」

「いやマテ、綺麗なだけの恋人は、強請るぞ」

「…………え? なにそれ。愛を届けてもなんの害もない分、フィギュアの方が全然いいじゃん」


 烏丸くんの女子に対する評価が下がった!


「あー……容姿だけの、心が激烈ドブスな女とかよりゃなぁ……」

「あ。この空気で訊いてみたかったこと思い出した。……ここだけの話、女子がバカデケェ声でギャッハッハウッケッルー! とか言ってるのが耳に入ると、なんかスンッ……ってならね……?」

「あー、なるなる」

「俺、親戚ん家のそば屋でバイトさせてもらってんだけど、酒飲んだ常連オヤジの笑い方と、好きだった女子の笑い方がすっげぇ似てて、初恋の熱が一気に冷めた経験あるわ……。楽しいことあって笑うなとは言わねえけどさ……せめてあの、周囲の迷惑考えねぇバカデケェ笑い方と、笑いながらズッパンズッパン手ぇ叩くのやめてほしいわ……」

「わかるわー……サイゼとか茶店でもさ、泣き出したガキよりやかましいってなんなのあいつら」

「不良は自覚してっけど、人様が食事を楽しむ場所にまで来て騒ぐとかねぇよなぁ……」

「そこんところはどうなん? 糸井」

「人様に迷惑とかこっちだって嫌だっての! ……嘘告しようとしたこっちが言うのもなんだけど……!」


 最後だけヒッソォと語る糸井さんは、俺をちらちら見ながらおっしゃった。大丈夫、あれが嘘告だってことはとっくに知ってるし、けれどあの場を乗り切るために見下していたアニメを提案、すっかりハマってくれた糸井さんは同志糸井だ。下種な裏切りをしでかさん限りはこちらも誠意を以って付き合うのです。


「と、いうわけで。キン肉メンをともに視聴した我らは肉メイツです。これからもともに、暇な時にでも語り合いませう」

「お。てか、糸井がロミウォの蒼い空好きだとは思わんかったなー」

「アルフレードが死んだ時は、翔ちゃんの胸で泣いたくらいだからね」

「なっ! ばっ! 言うなばかっ!!」

「へー……ちなみに天堂の好きなアニメは?」

「ロミウォだ。好きだから勧めた」

「「「あー……!」」」

「な、なんだよお前ら! こっち見んなよ! ~……そうだよまんまとアニメの世界に落ちたよ笑いたきゃ笑えくそー!」

「その上、天堂にも落ちたと」

「えーと、女子ならここ? ここでウッケッルーとか言って手ぇ叩く? やってみていいか糸井」

「絶対やめて! 鬱陶しい!」


 烏丸くんがスチャリと手を軽く持ち上げると、鬱陶しいとまで言われてちょっぴり傷ついていた。

 しかしこうして我が家に親族以外が集まって、趣味の話が出来るなどどれくらいぶりか……! 母さんも糸井さんが来た時は“あらまあ……!”とか言ってたし、やってみたかったお茶と茶菓子を持って息子の部屋に乱入、も出来て大変ご満悦だった。今回だって粕宮くんらに“うちの息子をよろしくねぇ”と言うだけ言って、ホホホノホやってたし。出ていったあとに服部くんに「茶菓子ママ……ほんとに居るもんなんだな」とか言われてたことを教えたら、なにやら喜びのポーズとってたし。


「いやぁ、けどいいよなぁこの環境。誰に遠慮することなく自分の好きを唱えられる。カーストがどうのって窮屈でしょうがねぇよ」


 と、烏丸くん。それに、そーそーと返すのは粕宮くんだ。


「金かけて身嗜み整えて、盛り上がるためにカラオケとか行っても“だからなに?”って言われりゃそれまでだし、金ばっかかかるくせに正直心から楽しめてねぇし。てかなんでカラオケ? 流行追ってると歌いたい曲ダダ被りだしさぁ、好きな曲歌ってみりゃあ引くやつ居るしさぁ、やってらんねーっつの。陽キャってすっげぇ窮屈だぜー? 金使ってまでなぁに見栄張ってんだかって自覚できるくらいには。そのくせその輪から外れる勇気がねぇのな。ほんとダッセェの」


 結構鬱憤は溜まっていたらしい。まあ、そりゃそうだって思う。


「俺正直、盛り上がりたいだけのやかましグループに居た頃より、キン肉メンの中のシリアスな笑いの方がめっちゃ笑えた経験ある」


 服部くんはしみじみとそう言った。「シリアスな笑いって?」と糸井さんに訊かれれば、「作者が狙ったギャグじゃなく、なんかシリアスな場面とか狙ったわけじゃない普通の場面でやたらと読者が笑える瞬間のこと」と説明する服部くん。そう、キン肉メンは案外そういった場面が多い。喋り方とか擬音がいろいろ特殊な所為もあってか。普通救急車の音とかってピーポーピーポーなのに、キン肉メンではパーホーパーホーだったりトーテートーテーだったりするところとか、妙な特殊感のある世界です。

 キミも見よう! キン肉メン! そして口から謎の汁をたらしながらグビグビ言おう!


「あーね。てか連休をアニメ鑑賞で潰すとか、本気で初めての経験すぎてヤバ……」

「糸井とか俺らよりどっぷりハマってそうなのに、それマジ?」

「ちょっと服部、あんた人をなんだと思ってんのよ」

「好きな相手のためなら徹夜でアニメ知識を頭に詰め込む一途ガール」

「「正解」」

「翔!? タロ!?」


 正解だから仕方がない。そう、翔ちゃんにホレてからというもの、彼女はモノスゲー速度でアニメやらなにやらの知識を頭に詰め込み、いわゆる“語れる相手”にジョブチェンジしてみせたのだ。あれには本気で驚いた。お陰で今ではいろんなことでツッコミが入ったりする。


「そもそもこの家どうなってんだよ……来客用に部屋がごろごろあるとか、普通の家じゃ考えられねぇぞ……?」

「両親の話だと、親族総勢で趣味全開で遊べる家がひとつ欲しいって言い出して、金出し合ってこの家を建てたんだって。その管理を両親に押し付けたから、ここがあるわけで」

「お前の親族何者揃い!?」

「趣味が高じて社長になったオタク親族、結構居るんだ。その関係で、結構ここに泊まり込みで追い込み作業とかする社員も居たりして。あ、食事は各自持ち込みな上に防音構造だから、こっち側に迷惑かかることもないし、男女のアハン行為や人を襲うことは基本禁止されてる。ていうか監視カメラあるしね」

「マジか!? ……うわマジだ!」

「悪いことしたらポリス突き出すからそのつもりで。知りなさい我らが同志たち……! この家は様々なオタク種族にとって、宝の山であることを……!」

「「「ああうん、それはスゲー分かる」」」


 今の世、限定グッズやもはや手に入らないものなどは金額がやばい。そして根っからのオタク気質な我らが一家は、産まれた子にもそれを仕込むため、たとえばカードゲーム大会等が開催され、商品に限定カードが貰えた時、その場で瞬時に傷がつかないように丁寧に仕舞う。なんなら特製金庫なんか持って行って、そこに封入する。そうして手に入れたものは、傷ひとつないプレミア価格で取引されていたりもするけれど、それを売るだなんてとんでもない!

 カードに限らず、無傷品として鑑定してもらった結果、家が買えちゃうくらいのブツとかが家の中に結構あることを知った。この家の価値はたぶん、家そのものよりもそういったものの方が確実に高い。……ちなみに、ゲーム等の枠に収まらず、いにしえのおもちゃとか切手とかもあれば、謎の壺等もあったりして、古い腕時計なんかが5千万以上したりするからちょっと本気でこの家は宝物殿だったりする。


「ちなみにそれぞれのグッズには特殊な加工がされてあって、持ち出すと様々な角度から激写、サイレンも鳴って、ポリスに通報されるから、間違っても持ち出さぬよう」

「「「「怖いわ!! それ先に言え!! いや盗まねぇけど怖ぇだろ!?」」」」


 糸井さんも混ざっての、粕宮くんグループの叫びであった。

 だって、思ったことない? 防犯カメラ~とか言っておいて、映像クッソ汚くて犯人特定出来ない案件が世界には多すぎるって。だから持ち出した時点で様々な角度からの激写が必要だって話し合った親の世代は素晴らしいと思う。


「いやしかし、あのツンケン糸井がこうも……なぁ」

「カーストがどうとか結構気にしてそうだったのに、今どんな気分なんだ糸井」

「お前って男を好きになっても、周囲には悟らせないタイプだと思ってたわ」


 散々騒いだのち、ふと冷静になると見えてくるものもある。現在は目を休めるためにのんびり茶菓子タイム中なんだけど、そんな中……糸井さんは慣れた調子で翔ちゃんの足の間に納まり、お腹あたりに手を回してもらい、甘えモード中だ。俺も最初見た時は、ポーゥ……と驚いたものだ。


「るーさい。いーじゃんべつに。あんたらが来るより先にあたしがここに来ること予約してたんだから。それなのにあんたらに遠慮とか、する理由ねーし」

「ほほう。ちなみにチッスはご体験済みで?」

「ばっか烏丸お前、あんな密着度考えればそりゃもう……!」

「いや待て粕宮、チッスご体験済みって部分でなんか微妙に赤くなってぷるぷるしてる。ありゃまだだ」

「るっせー! いーでしょあたしらのペースで! そーだよ彼氏できたらどちゃくそ甘えたいーとか思ってたよ正直キスとかてんで考えてなかったし!? いーじゃん恋愛は人それぞれで!」

「だそうです。我が友・翔ちゃん。なにか一言」

「恋人が可愛すぎて辛い……!」


 足の間で愛を暴露する恋人が可愛すぎて、口を押さえながらぷるぷるする翔ちゃんの図。もう片方の手では一層に糸井さんを引き寄せて、ぎゅーってしている。


「……これだけ男が居て、恋人が居るのが一人だけ……か。虚しい」

「イケメンはやっぱそれだけでお得だよな」

「ていうかさ、山田クン。オタク趣味走ってて、出会いとかあったりするのか?」

「ん、まあ。趣味が合うかは人次第だけど、不思議と我が家の親族はステキな人と巡り会ってる。俺がそうなるかはこれからの努力次第かなぁ」

「まあ、そうな。努力せずに出会いとか、無茶もいいところだ」

「あー、誰か俺と地味だけど幸せな恋、してくれる人いねぇかなぁ……」

「服部って地味系女子とか好き派?」

「喋るのが苦手でも必死に何かを訴えてくれようとする子とか、よくない?」

「まあそれは人それぞれだろうけど。俺は逆に自分のだらしないところはきっちり言ってくれる人がいいかな。自分じゃ見えてないところとか、自分だけじゃ治しようがねぇし。ただボロクソ言うだけで見下す奴はアウト。はい次烏丸」

「え? 全員言う流れなん? あー……図書室でよく見かけて、小柄で、髪もそんな長くなくて、内気で、でも胸が大きな女の子とか……!」

「烏丸ってたまにやべぇ路線走るよな……」

「え!? だめかなぁ! こう、小柄だけど胸おっきいってよくない!? 後ろから抱きしめて頭めっちゃ撫でたくない!? 腕にすっぽり収まる体とか最の高だと思うけどなぁ!」


 烏丸くんがロリコニアの名誉市民だった。


「ああまあうん、ロリコニアは年齢がどうであれ小柄な乙女を愛し愛でる尊民だから、そこは否定しない」


 視線から思考が読まれた。何者……!? などと「いやお前普通に声に出てるから」……なんとまあ。烏丸くんは苦笑で迎えてくれた。いい奴だ。俺はこんな性格だから、きっと女性には好かれないだろう。その分友人関係を広められるといいなぁ。


「あ、ちょっとお菓子持ってくるけど、みんな食べる?」

「お、食べる食べる。腹も減ってたし甘いものも欲しかった、助かるわー」

「腹減ってるのに食うのがお菓子って、なんつーかアニメに夢中でがっつりメシに行かないインドアイメージだよな。そして俺はそれでいい」

「服部って結構そういうところ見え隠れしてたよなー……案外いつ自分がアニメ好きかとかを言うタイミング探してたとか?」

「そういう烏丸もだろ?」


 服部くんと烏丸くんは結構仲が良いらしい。グループでなあなあつるんでた~とかではなく、相棒的な意味で支え合っている感がある。きっとハトとカラスで気が合うんだろう。鳥類としてって意味であり、元の鳥としてって意味ではない。

 そんなわけで菓子を用意するために部屋を出て無駄に広い家を歩き、キッチンに辿り着くと───菓子を用意した。みんなには好きなアニメ見てていいからって言ってあるし、急がず慌てず。

 そして───


「はい~ぃぃぃぃ、お菓子を用意したぜ~~~~~~~~~~~~っ!」

「なんでそんな語尾伸ばしてうぉおおおおいっ!? なんでワンホールケーキ持ってきてんのお前ーっ!!」

「作った!」

「なんか遅いなって思ったら! いや正直アニメに夢中で時間忘れてたけども!」

「お菓子を持ってくるって言ってたけど、そういえば作らないとは言ってねぇもんな……」

「糸井、天堂、山田クンっていつもこんなんなん?」

「割と。むしろ俺は絶対に作ってくるだろうなとは思ってた」

「あたしも初めてここに来た時は目ぇ疑ったしね。そして悔しいことに舌も疑った。こいつ菓子作りまで上手いんだよ」

「山田クンの親族、ほんといろいんなオタクが居んのな……」

「ケーキのザンデン、あれ俺の親戚にして俺にケーキ作りを教えてくれた人がやってるんだ」

「マジでか!? 俺ザンデンのケーキめっちゃ好きなんだよ! 不良だからってたまにそのー……妹に金渡して買ってきてもらうくらいには……!」

「ザンデン? ザンデン……ザン、山。デン……田園。…………山田かよ!!」

「はい服部正解。太郎のケーキは美味いぞー? あ、太郎、俺大き目で頼む」

「タロタロ、こっちも大き目で!」

「え? そんな注文ありなんか? ぁじゃあ俺も大き目で!」

「粕宮って結構食い意地張ってる方だよな。あ、俺は普通のショートケーキくらいの大きさで」

「遠慮はしねータイプだって言ってくれ。烏丸はどうする?」

「俺は余った分くらいでいいよ」

「お前いっつもそう言って妹とか弟に食う分分けてるらしいじゃん。こういう時くらい贅沢したら?」

「そういう暴露いきなりするのやめない?」


 やっぱり烏丸くんと服部くんはそれなりに相手の家庭環境も知り合う仲らしい。

 しかしそうか、余ったのでいいのか……。

 というわけで。


「余りました」

「この場の誰よりもケーキがデケェんだが!?」

「なに言ってんだよ烏丸くん! この人数でワンホール分けたらデカくなるのは当たり前じゃないか!」

「いやそうだけどもな!? もうちょい他の大き目って言った奴への心尽くしとかさぁ!」

「いや、十分に大き目だからいい」

「うん、このくらいでって初日以降に心に誓ったからじゅーぶんだし」

「……天堂、糸井、お前ら知っててあえて黙ってたな……!?」

「ちなみにお残しは許しません」

「ぐっ……! か、家族のために包んでもらう、って我儘は……!」


 !? な、なんという益良雄よ……! よもやこんな時にも家族のことを想うておったとは……!


「大丈夫、そんな家族思いの烏丸くんのために、もうワンホール追加で作るから」

「お前有難迷惑って言葉、今すぐインプットしろ!!」

「イエッサ師匠」

「ヴァラクーダネタ振りたいわけじゃなくってだな!? けどちくしょう美味ぇ! なんだこのケーキすっげぇ美味ぇ!!」


 そんな調子でこの連休は大いに騒いで遊んで燥いだ。

 烏丸くんのご家族にもきっちりワンホールを包んだし、この連休はとても楽しいものになった。

 後日、烏丸くんのご家族から俺によろしく、という言伝を烏丸くんに伝えられた。

 うん、アイサツは大事。どこに書かれずとも忘れぬようにいたしましゃう。


 ……と、こんな感じの日常が俺にもやってきました。

 翔ちゃんと友達になってからどれほどの時間が経ったのか……ようやく俺にも新たに友達と呼べる人が出来たのだ。嬉しい。

 むさっくるしい男どもが寄って集って恋愛系アニメとかを見る。そんな素敵空間がここにはあります。あ~……俺も恋がしてぇ~……とか服部くんが言おうが、そもそも出会いもないのでどうにもなりませぬ。



  ───たとえばとある日。


「ここで急にナンパに繰り出そうぜ~とか言ったら、俺達こそが女性に絡むDQNとかになったりするんだろうか」


 と、烏丸くん。


「あーほら、〝男子高校生の生活”で出て来たあのー……アップルちゃんに道具借りようとしたらしつこいナンパに間違えられて〝主人公くん”にボコられたあの生徒会役員……みたいな?」

「なんだろう……喩えが無駄に長ぇのにすっげぇ分かる……」

「あ~……彼女ほし~……」

「天堂~……女子との出会いってどうすりゃ出来ると思う~?」

「嘘告白でもされてみればいいんじゃないか?」

「嘘でも俺達に告白してくる女子なんて居るもんかよちくしょう」


 時に自虐も混ざる俺達だけど、今日も今日とてみんなでワイワイやっている。

 人生恋愛が全てじゃないとはいえ、恋愛ものを見ているとまあ、恋愛をしてみたくなるのだ。俺だったらここはこうするのに~とか思いながら。

 そうした様々な方向から知識を固め、やがて一つの結論を出した俺達は強かった。


「ごめんなさい無理です」

「ごっはぁ!?」


 まあ強いかどうかは俺達の脳内のことなので、フられる時はフられるわけで。

 校舎裏にて、烏丸くんがザドッ! ズシャア! と膝から崩れ落ち、大地に諸手を着くまで、そう時間は要らなかった。


「よくやったな烏丸! ちゃんと相手が見えなくなるまで耐えたな!」

「見えなくなった途端に膝から崩れ落ちるとかある意味すげぇけどな!」

「てめぇら慰めるならもっと別の方向で慰めろよぅ!」


 粕宮くんと服部くんと烏丸くんは実に仲がいい。

 葛野くんはあれからとことん絡んでこなくなったし、なんならいっそ、“男色な人にも嫌われる容姿”等について、ネットで相談しているらしい。

 俺達は……まあ、元気にやってる。男子ぞろぞろ女子ひとり、なグループみたいな感じだから、糸井さんが女王みたいに見られがちなので、それをネタに俺の家でからかったりしているくらいの仲だ。


「女王~、もう宿題とかやった?」

「女王~、天堂の足の間の座り心地とかどう?」

「女王~」

「だー! うるせー!!」


 そしてキレられる。糸井さんは翔ちゃんと恋仲にはなったけど、口が悪いのはまだまだ直らんらしい。そりゃ男連中に囲まれた生活続けてれば、いろいろ引っ張られるよね。ちなみに家族構成も兄3人に弟一人らしいし。


「な、なんだよ、そんないきなり叫ぶように怒ることないだろ? もっと心に余裕を持たないと天のお堂に飛翔する彼氏に嫌われるぞ、女王」

「むっぐ……! だ、大丈夫だし? 翔はあんたらと違って、やさしいし余裕あるし。それにあたしだってそんな余裕無いわけでもないってゆーか。いきなり女王言われたから反発しただけで、ドシっと構えてれば余裕だっつの」

「なんと。それはなにを言われても明るい笑いを振りまけるカキさんのような心で居られると。しからば」

「女王さ~ん、ちょっとそれ取って?」

「あ、女王、新作のケーキ作ったんだけど、この味どうかしら」

「女王~、リモコン貸して」

「女王~、宿題やったなら写させて~」

「女王ー」

「おーい女王~?」

「じょ~お~うぅ~♪」

「うるせぇえええーっ!!」


 そして女王がキレた。


「「「「ほーら怒った女王怒った」」」」

「お黙れ男ども! 女王を顎で使うやつが何処に居んのよ!」


 などと言いつつ翔ちゃんによしよしされて、顔がどんどん怒り顔からへにょり顔に変わっていく女王。 


「すげぇなおい。阿修羅メンだってあそこまで綺麗に喜怒哀楽の切り替え出来ねぇぞ」

「ああまあでも嬉しそうだからいいんじゃねーの?」

「ククク馬鹿め……! 俺達が天堂に依頼されて動いておるとも知らずに……!」

「えっ!? うそっ!」

「「「「嘘だ馬鹿め!」」」

「あぁんたらぁあああああああああああああああああああああっ!!」

「うわちょっ! 女王怒った女王キレた!」

「わー! 馬鹿やめろ! そのクッション叔父さんのお気に入りなんだ! 投げるな叩くな武器にするなー!!」

「おぉおおお落ち着けぇえ! それ以上気|(怒気)を高めるんじゃない!」

「天堂! 天堂ー! ここはあれだ後ろから抱きしめるアレでなんとかしてくれー!」

「ぉおお知ってる! これなんか後ろから抱きしめたら急に背景が白だったりピンクだったりに変わって、なんかエコー付きの効果音とともに世界が静止するあれだよな! や、やれー天堂! 俺達に構わずー!」

「………………」

「あ。なんか期待してチラっと天堂のこと見てる!」

「女王のデレは分かりやすいなぁ」

「まったく。女王はまったく」

「~……!! ここここここんの野郎どもぉおおおおおおおおっ!!」

「ギャー! 女王が再びおキレあそばれたー!!」


 俺達は実に自由にそれぞれの好きを全面に出して楽しんでいる。

 そして、伊達にガキの頃から友達だったわけじゃない翔ちゃんも、タイミングというものを知っているものだ。再度怒り、クッションをグワァッと振り被ったタイミングで、糸井さんのことをガッシィイイ! ガッシィイ……ガッシィ……───と、なんかエコー入りそうな抱き締め方で、後ろから抱擁する翔ちゃん。


「───……」


 途端、振り被ったまま停止する糸井さんと、


「ブラボー……」

「ブラボ~……」

「ブラボ~……!」

「ブラボー……!」


 その光景を、タイミングの素晴らしさを称賛、拍手を贈る馬鹿ども四人。

 こうして怒れる女王は目をぐるぐる巻きにした真っ赤な顔のまま、ゆっくりとソファへ引き摺り込まれ、ぽすんと再び翔ちゃんの足の中に納まるのだった。


「ぬう、喩えもあげられぬほどの強敵であった……!」

「よもや我ら四天王がああも窮地に……!」

「女王の乱心とは、かくも恐ろしきものか……!」

「彼奴めこそ、万夫不当の豪傑よ……!」


 そんなわけで、案外楽しい毎日を過ごしている。

 トラブルはまあ、男女が居るんだから結構あったりはする。けど、むしろ俺達はこうしてからかい、翔ちゃんに助けさせることでの好感度を上げているわけで、ふと気づけば糸井さんは翔ちゃんにゲロデレレベルでデレンデレンになっていたりしたんだが───まあ、そこに後悔はない。

 こういう騒ぎが俺の家だけでなく、学校でも起きたり起こしたりしていたら、いつの間にか馬鹿者四天王なんて呼ばれることになって、むしろそれこそ“学生時代の青春の誉れ”といふものぞ、とばかりに俺達は笑って喜んだ。


「あ、あのっ! 山田クンッ! わたしっ───!」

「ややっ!?」


 そんな騒がしさの中、山田太郎こと俺が校舎裏に呼び出され、とあるオタク女子に想いを告げられる日が来るのは、まだ少々先の───


「キン肉メン好き!?」

「だっ、大好きです!」

「ホアッ!? ───…………」

「……? あ、あの、山田ク───」

「俺の生涯をかけてあなたを愛します幸せにしますあなたが好きですたった今心の底から好きになりました俺と付き合ってください愛してる!!」

「ふえっ!? えぇええええええええええっ!?」

「オワー! 太郎が暴走した! 暴走したー!」

「ちょ、お前ら覗き見てる場合じゃねぇ! 太郎止めるぞ!」

「やめちょ、やめろ太郎! キン肉メン許容勢を見つけた途端に暴走するなー!」

「なにを言うんだ服部くん俺は冷静だ彼女を愛してる! これは純粋なる俺の心さ彼女を愛してる!」

「語尾みたいに告白するなよ落ち着けいいから落ち着け!! てっ、天堂ー! 天堂ヘルプウィー!」

「ヘルプウィーなんて初めて聞いたぞ!? ていうか俺だってこんな太郎を見るのは初めてでっ……!」

「女王ー! 旦那のこと助けて! ついでに俺達も!」

「だだだ誰が旦那だし!? いやっ……そりゃいつかは、とか思ってるケド……」

「だー! 使い物にならねぇこの女王!」

「あー!? ンだと烏丸ァ!!」

「いや俺に怒ってる場合じゃなくてー!」

「ていうか同じクラスの里山さんだよな!?」

「同志太郎のいったい何処に惹かれたのかお聞きしても!?」

「えっ、あっ、す、好きなものを好きって堂々と言えるところとか……え? あれ? 惹かれ……? ───あ、あのっ!? なんか誤解してませんか!? わたしただ同じグループに入れたらって───」

「でも前髪暖簾ヘアーでオタク男子って女子から見てどうなの!?」

「コココ……! ついにこの時が来た……! 理想の女子が現れるまでは暖簾で居ようと誓ったこの前髪と、もっさい自分にいざさらば……! ここに取り出だしましたるは美髪ポマード。それを使って乱雑オールバックゥウウ……!!」

「なっ!? ついに太郎の封印が解けられた!?」

「やめろ太郎! ここで素顔で告白とか、最悪顔だけで惚れられる、なんてことにも……!」

「構わん! 山田家家訓! 惚れたおなごはどんな手段でも落として付き合い、そこから心底惚れさせるべし!! 過程や……方法など……! 外道に成り下がらなければどうでもよいのだァーッ!!」

「そこでネタに走るのも結構なんだけどな!? それ全部相手が聞いてるって知ってて言ってる!?」

「全力全開の俺を見てもドン引かない相手じゃないと意味ないじゃないか! むしろドン引いてもグループに入りたい……そんなあなたを全力で愛したい!!」

「「「太郎いいこと言った!!」」」

「そんな宅の太郎がこちらです」

「ふわわわわわ……!? え!? なっ……え!? なんでこんな……なんで顔隠してたの!? こんなすっごい整った顔なのに……!」

「山田家ってなんでか美男美女が異様に多いんだよなー。俺も太郎ん家行った時、おふくろさんとか親父さんとか、たまに見る親族さんとかの美形率に心底驚いたし」

「というわけで」

「……里山ゆかりさん……あなたに心底惚れました。いきなり彼女になってくださいなんてアホなことは言いません。どうか友達から始めてくれませんでしょうか」

「え、えっ、えぇっ……!? わ、わたしオタクだよ? オシャレとかにだって気を使わないし、っていうかオシャレなんて意味も分からなければ、そういう方向の流行にだって興味ないし……」

「あ、俺もそういうのこれっぽっちも興味ないんでいいです」

「えぇええええええっ!?」

「オシャレで楽しめることはオシャレを楽しめる人がすればいい。いずれ、いつか、そういうものに興味を持った時に、一緒に楽しめればいいなと思う俺です。どうか俺とけっこ……ゲフン! 恋び……ゲフン! 友達になってくれませんか……ッッ!!」

「おーい欲望漏れてる、漏れてるぞ太郎ー」

「…………あの。ほんとに、わたしでいいの? わたし、親にまであんたは結婚とか出来そうにないわねぇなんて言われるくらいなのに……」

「そんなあなたでいい。そんなあなたがいい」

「…………信じちゃうよ? 何かを信じたオタク女子が重いって、わかってて言ってる?」

「全部受け止めるので全部受け止めてほしいです! なにせ俺もオタク男子! 自分の愛がめっちゃ重いのは重々承知! むしろ想いを重くせずしてなにがオタクか! 好きのかたちにどっしり重きを置けるからこそオタクをやってイルノデス!!」

「───! だ、だよね! そうだよね! う、うん! じゃあ───」

「じゃあ───!!」

「わたしも、同じグループに入れてください!」

「───」

「……これ、太郎フラれたことになるん?」

「盛大に固まってるんだが」

「おーい太郎? 太郎ー?」

「太郎、一応友達から始められるってことなんだから、絶望しない」

「あーまあ、確かに流れ的に期待しちゃうのはわかるけどねー。ほらタロー? シャキっとしろし。……ってか里山さん? あんたも案外イメチェンすれば……」

「だだだだめです! わたしはなんと言われようがこの格好が好きなんです! オシャレ!? 知りません! 三つ編み眼鏡こそ至高! それを譲ってイメチェンして男子に好かれるラノベ女子など己に嘘つく極悪外道です! なんで好きなものを解くことをイメチェンなどと言うのか! オシャレなどと言うのか! いいですか糸井さん! これが! わたしの! オシャレです!!」

「う、うおう………………そ、そうなん? や、ポリシーあるならべつにいいんだけど……イメージチェンジするんだから、イメチェンで合ってるとは言いたい」

「あ、うん。なんか安心した。烏丸安心。里山さんも完璧にこっち側だわ」

「ようこそ、この騒がしくも理想の世界へ」

「は、はいっ、これからよろしくお願いしますっ」

「~……やばいもう好き愛してる……! ここまで自分にポリシー持って三つ編み眼鏡している女の子……! 好き……!」

「おわー! 天堂ー! 太郎が真っ赤な顔で涙流しながらマジ恋してるー!」

「太郎!? 一回落ち着け! な!? 太郎ー!」


 ……そんな大騒ぎから、一人のオタク女子が超絶猛烈アプローチの末、我が一家に加わるのは……まだちょっと先のお話。

*キン肉メン

超人と呼ばれる者たちがなんでかプロレスで物事を決めるやさしい世界。

でも結構ルールは無用バトルなので、死ぬ時は普通に死ぬ。

あとフォールで終わることが滅多にない。


*ドラゴソボーノレ

マゴゴソラくんがギャルのパンティ好きな豚と一緒に河童と玄奘を探して7つの試練を乗り越え、天竺に行って願いを叶える物語。


*ツーピース

ウシップが死ぬ。……死ぬ。


*鬼のメンツがヤバイ

鬼と呼ばれる極道組の長なのに、自分よりスゴい鬼の素質を持った人に出会ってしまい、やばいやばいと12人の構成員とともにいろいろ頑張るお話。

でもパワハラがひどすぎて慕われてない。

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