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追放? や、いいけど、ケジメはきっちりつけさせてもらうぞ?

男女平等パンチ。……怒れる人類に性別は関係ないと思うの。


「ケビン・アルファート。今ここで言わせてもらうよ。お前はクビだ。お前はこの勇者パーティーに相応しくない」

「わかった。俺もこんなクソみたいなパーティーさっさと抜けたかったし。お前から言ってくれて助かったわ」

「は!? ク、クソ!?」


 パーティーホームにて、勇者ロラン、賢者シロン、剣聖ホルンが俺を前にニヤニヤしていたのでキッパリ言って返した。

 や、だってクソだし。隠すことなくクソなパーティーをクソって言ってなにが悪い。


「命令ばっかで態度ばっか大きいクソザコ勇者、連携も取れない猪突猛進のクソ剣聖、んでもってそんな勇者に囁かれてあっさり恋人を裏切ったクソ賢者。そんなクソしかいない面倒くせぇパーティーになんか居てられっかってのバカバカしい」

「……ぷはっ! なんだなんだお前、もしかしてひがみか? 自分に魅力がねぇからって俺やシロンを───」

「うーわめでてぇ思考回路……てかやめろ気色悪ぃ。あのな、一応言っておくぞロラン。これは本気の本気での助言だ。……一度でも浮気した女は何度だって同じことをするぞ。クソに落ちた女は二度と正常には戻らない。で、俺はそんなクズ女にこれっぽっちの未練もない」


 飾ることのないまっさらな本心にロランが「え」なんてこぼす。俺の冷めきっている反応に、なにかおかしいと感じている様子だった。で、溜め息を吐く俺に、見ていられないほどの醜いニヤケ面で俺を見下すように口を開くは元恋人。これで賢者っつーんだから世の中間違ってる。


「……はっ、なぁに言ってんのケビン? 私があんたを捨てたのなんて、あんたにただ魅力がなかっただけの話で、浮気がどうとか以前の問題なのよ。だから───」

「ほれ、聞いたかロラン。お前に魅力を感じなくなったら平気で裏切るとよ。早速本性現しやがった気色悪ぃ。てか顔すげぇな、どうやりゃそんな醜い顔出来んの?」

「はぁっ!? ちょっとふざけないでよ誰が醜いって!? だ、だいたい、勇者であるロランから魅力がなくなるわけ───」

「なんだお前、ロランが好きなんじゃなくて勇者って肩書が好きなだけか。よかったなーロラン、お前、勇者ってだけの理由でこいつに好かれてるみたいだぞ」

「ちょっと黙っててよ! ~……ロ、ロラン? 違うからね!? 私は、あなたがいつだって愛を語ってくれたから───」


 焦った様子でロランを口説こうと必死な姿にドン引きした。

 剣聖ホルンも若干引いてる。

 と、そうやって必死に弁解して、ロランの表情にホッとした安堵が戻ってきたところで───


「ところでさぁロラン? ロランがモノにしたかった、彼氏が居るって知ってるのに口説いてでも欲しかった女性って、そんなクズ女? 俺の隣でおしとやかに穏やかにクスクス笑ってた可愛い女の子じゃなかったの?」

「!?」

「はぁっ!? ちょっ……ケビン!? あんたなに言って───!」

「いやー、不思議だよなー。あんなに清楚可憐だったシロンがさ? お前に口説かれてお前に相応しく~なんて行動を始めた途端にこんなクソに早変わり。なにお前、こんなクソを隣に立たせて、“お前はクビだぁ~、ウェ~ッヒャッヒャッヒャッヒャ!”とか自分が言ってる隣で信じらんねぇバカヅラしながら笑う女が欲しかったの? いやうん、俺本気でもうそのクズいらんからそれはそれでいいんだけど。いいの? 丁寧な口調で見惚れるほどの笑顔に顔を赤らめてたお前がさ? 今じゃそんな他人を見下して、人を呼ぶ時は“あなた”だったソレが今じゃ“あんた”なクズでクソで醜い“聖女……?” がツレで。正直醜いよ? お前のために変わった性格が顔に滲み出ちゃってて、清楚可憐なんて言葉が裸足で逃げてくわ。そう思わないかロラン」

「………」

「黙れっつってんでしょ!? ていうか追放っつってんだからとっとと出ていきなさいよ!」

「へー。いいの? 会話終わらせて。まあそっちがいいならいいけど。んじゃあこのパーティーホーム、買ったの俺だからとっとと出てけ」

「「───え?」」


 ぴしりと固まるクズ三人。てか喋れよ剣聖。なんなのお前。


「な、なに言って───」

「お前ら金遣い荒くてとっとと金滅ぼして、ホームが買えないからって全額俺に出させたの忘れたのか? 名義も俺だし家具の全ても俺のだ。お前らのものなんてここには一つとしてねぇぞ?」

「あっ…………あ、いや、その……」

「追放、だったっけ。いいよ? 出ていくのお前らだけど。あ、でも出ていく前に───」


 汗をだらだら流す三人が、俺を前にごくりと喉を鳴らした。


「お前らの持ってる全装備全アイテム、置いてけよ? それは俺の金で買ったもんだ」


 ケビン・アルファート。ジョブ、商人。ただし子供の頃から己を鍛えることが好きだったバトル商人である。歌って踊れる商人、ケビンさんとは俺のことだ。

 というわけで承認(商人)スキルを発動。貸し与えているものを所有者権限を使って、全部装備解除させる。


「「「ああぁっ!?」」」


 途端、彼と彼女らの装備が体から弾かれるように外され、俺のインベントリに便利に収納される。全裸ではないが、随分とまあ涼しそうな格好だ。


「で? なんの相談から追放なんて話になったんだっけ? ……あー、次に向かうダンジョンでのアイテム分配効率と経験値効率がどうとか言い出したんだっけ。いいよ? お前らだけでダンジョン行ってきなよ。武具は貸さないし、ホームには二度と入らせないけど」

「ふ、ふざっ……───、───!?」

「ホーム権限でホームマスターに暴言を吐けなくした。ほらほら行ってこいってもう面倒だなぁ。俺無しで出来るんでしょ? 行ってきなって。俺が目障りなんだろ? なにを思って残ってんだよ早く行けって」

「~……!!」

「あ、でも」

{?}


 声をかけ、ハテ、と振り向いたシロンの顔面を思い切り殴り、床に叩きつけた。

 で、悶絶するそいつに、ダメ押しの下段突き。

 ゴパキャア、と音が鳴って、痙攣するだけで動かなくなった。


「っ……お、お前、なに───」

「恋人を裏切って好き勝手に暴言吐きまくっといて、なぁんで仕返しされないって思ってたんだろうね、この女。賢者っつっても常識が頭から抜けてるんじゃないかね」

「ケ、ケビン……」

「お前もだぞロラン。人の恋人だって分かってたのに口説いて、一緒になって人のこと馬鹿にして。好きになったってんなら正々堂々口説いていきゃあいいのに、悪口吹き込んで嫌いにさせて、とか性格歪んでるよな。お前ほんとに勇者?」

「お、お前こそっ……元とはいえ恋人だろ!? 好きだったんじゃ───」

「……ロランさぁ。本気で殴りたいって思った相手に、お前わざわざ性別求めんの? 元恋人だからなに。裏切られて、殴りたいほどクズだって思ったら、そこに過去の関係とか必要あるか? 俺が好きだったのは、俺と恋人関係だったシロンだ。お前に無いこと吹き込まれて性格が捻じ曲がったこのクズじゃねぇんだよ」

「…………え?」

「クズに性別求めるなよ。馬鹿なのか? 人として怒って、それをぶつける相手が人ならなんでわざわざ性別を求めるんだ? 女だからなんだよ。殴る事実が変わらないのに気にしてどうする? 女だから見逃せってか。じゃあお前、毒のナイフ持って殺そうとしてくる女に黙って殺されるか? 違うだろうが。“武器持ってりゃガキだろうが老人だろうが敵”だ。言い出したのはお前だったよな? ロラン」

「う、ぐ……」

「で、性別求めたとして、そいつがクズであることが変わるか? 変わらないだろ。可愛ければ許される? ないね。体を差し出せば許す? あるわけがない。俺はね、ロラン。女が体を開けば男がなんでも言うことを聞く、なんて思ってる女が反吐が出るほど嫌いなんだよ。裏切り者には名前も性別も必要ないだろ? 裏切り者は裏切り者でしかないんだ。そんな邪魔な思考を間に挟んだ所為で思い切り殴れなかった、なんてことになったら殴る意味すらない」

「…………じゃあ。お前はこれから……」

「いや、お前殴る価値すら無いゴミクズだし。ここまで関心が向かなくなるとは思わなかったよ。クズとお幸せにね? 俺ね、人の幸せぶち壊して、さらにそいつを見下して笑うゴミクズが心の底から嫌いなんだ。だからお前の本性知ってからはさっさと死なないかなぁって素直に思ってたよ」

「死……って……」

「人の幸せ奪っておいて、祝福されてるとでも思ってたのか? ほんと救い様のない馬鹿だな。お前らみたいなやつってさぁ、対人に関する常識とか何処に置き忘れてきたの? 自分が良けりゃそれでいいならさぁ、わざわざ他人様が笑顔で過ごしてる場所にまでしゃしゃり出てくるなよ鬱陶しい。自分一人で俺様スゲーとか言って笑ってろよ、生きてるだけで害悪だよお前ら。ほんと死ねばいいのに。……というわけで、ダンジョン向かってくれよ。このクズには俺がポーション飲ましておくから」

「………」


 ボロクソに言われても返事もせず俯き、俺に関わり合いたくなかったのか、ロランはホルンを促して移動を開始した。

 それを横目に上級ポーションの口をパキンと開け、気絶しているクズに飲ませていく。

 変化はすぐに訪れて、傷はみるみる治っていく。一応聖女ってだけあって、回復効果向上のスキルは持ってるらしい。


「ん、う……、ぅ……?」


 やがてうっすらと目を開くシロンは、俺を認識した途端罵詈雑言を───吐いた途端に下段突きキメた。気絶したそいつにシペペペペペペと連続弱ビンタをかましまくり、目を覚ました途端にまた下段突き。


「ぶ、ぇぐっ……けっほ……! ぁ、ぁぅぁ…………も……やめ……」

「その言葉ね、お前の口から俺の悪口が出るたびに言ってた言葉なんだ。お前やめてくれた? むしろ俺がそんな視線を向けるたびにクズい顔して笑ってたよな?」

「ごめ……ごめ、んな、さ───」

「悪いことをしたらごめんなさい。……基本だよな。でもさぁ、今さら謝られても俺の幸せって二度と戻らないんだ。そもそも悪口吹き込まれて、恋人の言い分じゃなくて“悪意を口にする馬鹿”を信じるってどんだけアホなのお前。こっちの言い分ちっとも聞かれずに、身勝手に悪者扱いされた俺の気持ち、分かる? そんで自分がその状況になってみりゃ一方的に許せってか。痛くなければ覚えませんってまさにその通りだよな。……あぁすまん、言葉をちゃんと返さないのは相手に失礼だよな。うん、“ごめんじゃ済まねぇよタコ”」

「っ……!」

「人の幸せぶち壊しておいて謝れば許されるって真正のアホかよお前。ど~せ執拗に殴られなけりゃあ、その場しのぎだろうと謝まりもしなかっただろ? もっと自分を客観視してみ? お前の憧れた大人の女性ってそんなクズだったの? リアおばさんとレニおじさん大号泣だわ」

「───!」


 自分の両親の名前を出されたからか、びくりとシロンの体が跳ねた。そして、なにやら苦しそうに胸を抑える。

 今頃罪悪感でも滲み出て来た? いや、ないか。両親がどうとかって言葉なら散々言った。それでも響きもしなかったからこんな、人が変わったようになっちまったんだ。


「ほれポーション。さっさと勇者様と一緒にダンジョンでもなんでも行きゃあいい。そして二度と戻ってくんな。おじさんおばさんには起こったことをありのまま伝えるから、村にも帰ってくるな。あ、帰ってこないか、お前勇者サマと結婚するんだもんな。色を好みまくる勇者サマのことだ、他の女性にもたっぷり手ェ出すんだろうな。お前“何番目に一番愛してる女”にされるんだろうな。まあ今となってはどーでもいいか」


 溜め息ひとつ、しっしっと手を振って出て行けと促す。


「じゃーな。俺の人生の中で、てめぇを信じててめぇを好きになったことが最低最悪の汚点だわ。好きになった人のために変わっていく女性ってもっと眩しいもんだと思ってたけど、勇者ってほんと性格歪んでるよな。好みに合わせた結果がそれなら、誰がお前を好きになってくれるんだか」

「~……こ、まで……! そこまで言わなくてもいいじゃない!」

「身に覚えもないことで罵倒されてこっちの話も聞かないまま裏切って、勇者の恋人さんになったヤツにそう言われてもなぁ……。そこまで言わなくてもって、じゃあ俺言われる覚えもないことでお前に捨てられたんだけど? どのツラ下げてそんなこと言えるのお前。聖女は純潔を守らなきゃいけない~とか言われてんのにコロっと騙されて散らしちゃってさぁ。ていうかそれわざわざ俺に報告するって頭おかしいって思わない? お前勇者が言うならなんにでも従うの? イカレてるよ本気で。今使える法術だってだましだましやってんのに、こっから先どーすんの。俺には役目を果たすまで、頑張っていこうね、なんてやさしい笑顔を見せてくれてたのになぁ」

「っ……! だ、だって……! 勇者様が、聖女の力が、そんなことくらいで消えるはずがない、っていうから……っ……!」

「聖女の祝福を受けた女性が勤めを終えるまで、何年純潔を貫いてると思ってんだ。そういう理由があるから、誰もが二十歳まで役目を続けたんだろうが。歴代の聖女の中でも一番の才能が~とか大神官様喜んでたのに……あーあ」


 俺の言葉にシロンはしゃくりあげ、ぼろぼろと涙をこぼした。泣きたいのはこっちなんだが。

 

「あのタコの性格からして、歴代一の才能が消えたと知れば、お前の体を味わい尽くしたらポイと捨てるぞ。お前も口約束とはいえ結婚の約束をしてた上に、お互いの両親も認めてくれてた相手を裏切ってまで関係を持ったクズとして認識されてる。そんな相手をあの名声にだらしがない勇者が手元に置いておくと思うか?」

「……ぇ…………ぇ?」

「純潔散らして力が消えていくお前は、聖女として聖堂教会のメンツに泥を塗ったし、人間関係って意味でも勇者に騙されて純潔を散らした尻軽女だ。俺の両親もお前の両親も、言っちまえば村全体がお前って存在に呆れ果てるだろ。……お前さ、本当にこれからまともに生きていけるって思ってるの?」

「───、───……あ……」


 逸らしていた目を、向けたのだろう。途端にこいつは頭を抱え、震え出し、耐える間もなくぶちまけた。

 マイホームになにさらすんじゃい。


「う、ぅえっ……げぇっ……! や、やだ……やだぁああ……!! たすけて……たすけてケビン……!」

「どうやってさ。俺、何度も否定したよな? 間違ったこと言ってるお前に対して、そうじゃない、そんなことはない、俺を信じてくれって」

「ち、が……ちがう、の……! お願い……たす、けて……!」

「……?」


 なにかおかしい。先のことを考えて吐いたのか、と思ったが、今のこいつの声色は……俺がよく知るこいつの声色で。……まさか? いやいやまさか。でも───まさか?


「───シロン! 自分に鑑定を使え! 結果が見えるように!」

「……っ……『鑑定』っ……!」


 言われるがまま鑑定をしてくれたシロンの前に、ステータスウィンドウが出てくる。

 そして、彼女の名前の隣に、『状態異常:洗脳』の文字があり───いや、それもだけど、これって……。


「わ、たし……! ケビンとの約束……っ……わすれて、なんか……ない、よ……っ……!」


 『純潔の聖女』───称号のところにある、いつか顔を真っ赤にさせながら俺に見せてくれた文字が、そのまま残っていた。……え? じゃあ……?


「あ、はは……! モ、モンスターにもあんなにされたことない、ってくらい……殴ってくれたから、かな……! ちょっと、洗脳の、力がっ……はぁ、っ……弱まってた、みたい……!」

「シロン……じゃあ……」

「っ……気を、付けて、ケビン……! ロランじゃない……! わたしも、ロランも、ホルンが使った……よく、分からない……笛みたいなものの所為で……!」

「…………」


 笛って。


「この、さっきホームマスター権限で奪った笛?」

「!? こ、壊して! 早く!」

「ふん!!」


 無遠慮にごしゃーんと叩きつけた。割れた。途端、笛からドス黒い煙みたいなものが散って……やがて、消えた。途端、苦しそうに頭を抱えていたシロンが、一気に脱力。


「あぁっ! は、はぁっ……はぁ、はぁっ……ん、ぐっ……! はぁっ……! ~……ケビンッ……!」

「シロnドゥウウウエッ!?」


 息も絶え絶えだったのに、ものすげぇタックルが俺の腹部を襲った。


「シ、シロ───」

「う……ひぐっ……ぁっ……あぁあああああああああっ!! うわぁあああああああっ!! ひぃっぐ……うぁっ、あぁああっ!! ごめっ……ごめんなさい! ごめんなさい、ごめんなさい! けびんっ……ごめんなさいっ……ごめんなさいぃいぃいっ……!! わたしっ……あなたになんてことをっ……うぁあぁぁぁぁぁ……!!」

「………」


 洗脳が、あった。パーティー内で。それはホルンがやったことらしく、ロランさえもが操られていた……? んなアホな。てかレジストしろよ勇者。なにやってんだよアホかお前アホだったすまんアホだった。アホじゃなかったら冒険の始まりから今まで、散々とあいつのアホやポカに振り回されてねぇよ。それらをサポートするのが俺やシロンの役目だったくらいなんだから。

 でも……マジか。洗脳って。そんなん本当にあったのか。いや、実際にあったんだから納得しなきゃいけないんだろうけど……そう頭ではなんとか確信を刻もうとしながらも、胸にすがりついて、やべぇくらいの号泣をする娘をほうっておけるわけもなく。


(洗脳って…………まじかー……)


 ……俺の心境は、勘弁してくれ、だった。だって、今の今までクズ認定してて、心の底から嫌ってたんだぞ? 言ってみればまだ信用すらしていない。そんな俺を見越してか、シロンは「ぐすっ……『鑑定』っ!」と、俺に自身のステータスを見せてくるのだが。

 確かに洗脳の文字は消えてるし、純潔の聖女の文字もそこにある。なんなら人物説明的な欄に、魔王軍幹部:『牽制のホルン』に勇者とともに洗脳されていた、とか書かれちゃってるけど。

 ……ん? ……んんん!? 魔王軍幹部!? 剣聖……じゃなくて牽制!? なんかあいつ妙に喋らねーなって思ったら、ボロ出さないためだったとか!?


「シロン……お前、ホルンが魔王軍幹部だって───」

「……うん。知った途端、笛の音色で洗脳されて……。言いたくもないことを言わされて、近くに居たくもないロランの傍に居させられて……」

「うわあ……えと、じゃあなんだ? ロランがお前に俺の悪口みたいなことを言ってたのも……?」

「あ、ううん? あれは素だと思う。……それと。わたし、一度たりとも他人の口から出るケビンの悪口とかよくないこと、信じたことなんてないからね? 洗脳なんてされない限り、誰が好きな人じゃなく、他人の言葉なんて信じるもんですか」

「…………シロン。それ、なんだけどさ」

「……ん、わかってる。ケビン、もうわたしのこと……好きじゃない、よね。そりゃそうだよね、あんなこと言われ続けたら、洗脳されてたって言ったって……。で、でも……うん、それは、うん、辛いけど、受け入れるよ。仕方ないって、分かってる。でも……さ。わたしが好きでいて、もう一度好きになってもらう努力するくらい……いい、よね?」

「───…………」


 ───………………ああ。

 シロンだ。

 仕草も、言葉遣いも、本当に辛い時でも無理に笑おうとするところや、本音を誤魔化そうとすると、髪の毛を小指でいじる癖も……変わらず、そこにある。

 俺はこいつが……この人が、好きだった。…………好き、だった。

 けど……そうだ。また好きになる努力をするくらい、自由な筈だ。


「…………シロン」

「っ!」


 声をかけると、びくん、と肩が跳ね上がる。そして、表情では平気そうな顔を作っているけれど、手は法杖をぎゅうっと掴んでいて、肩はかたかたと震えている。目には涙が滲み…………───ぁぁ、もう……なにやってんだよ、俺。割り切れないのは分かるよ。本当に、クソみたいなことを何度もされた。言われた。好きでいる努力をどれだけしようが真正面から否定され続けた。けど、それがなんだよ。俺はこの娘を幸せにするって決めたろうが。裏切りは、そりゃ辛いよ。けど、望んでないことを無理矢理言わされて、したくもない行動を無理矢理させられ続けたのはシロンだ。辛かったのは俺だけじゃない。現に、洗脳から解放されたら、こいつは叫ぶように泣いていたじゃないか。


「……ひどいこと、言うな。お前が俺に、ロランに純潔を捧げたって報告した時、確かに宿のシーツに血があった。あれは……」

「まだ洗脳が弱い時だったから、全力で抵抗したの。押し倒されて、服をはだけさせられて……そこまで見たら、監視してたホルンにロランが言ったの。ここから先は恋人同士の行為だ、いつまでそこに居る気だ、って。たぶん、違和感を残すような行動をすると、洗脳も弱まるんだと思う。ホルンは黙って出て行って、その後」

「その後?」

「ホルンが離れたからなのか、洗脳とか関係無しにだらしのない顔になったロランに心底に嫌悪感が出たからなのか、……うん、たぶん全部。体が動いたの。その瞬間、同じことをされたらたまらないからって……」

「…………」


 ひゅっ、と……下腹部が冷却された気分になった。

 たぶんあれ、純潔の消失の証とかじゃなく、ロランのジュニアが再起不能になった証なんj───


「法術を込めた膝で、一切の容赦なく」


 ───マジで容赦なかった。


「ロランは白目剥いて、押し倒してたわたし目掛けて倒れてきたけど、触れられたくもなかったからショックウェーブで吹き飛ばして……でもさすがにあそこまで血まみれだとホルンに洗脳を重ね掛けされると思って、排泄機能だけ癒して……その」

「───」


 現在の勇者は、おっきしない状態だそうです。


「そのあとすぐにあなたに会いに行こうとした。洗脳が解けたんだって思ったから。でも……ロランから離れすぎると洗脳が強くなる、みたいな効果があったんだと思う。結局、解放されたって喜びで気が緩まってたわたしは、また洗脳に飲み込まれて……」

「…………今は? いや、さっきまで、か。ロランと相当離れてる筈なのに、どうして抵抗出来たんだ?」

「全力で殴ってくれたでしょ? あれのお陰。元々、洗脳って能力自体が強い衝撃には弱かったみたいなの。そして、ケビンと二人きり、なんて状況にも恵まれた。ううん、言っちゃったら、ケビンがこのホームマスターだったってことが最大の勝利条件だったのかも」

「……あ、笛か」

「うん。ホルンは……楽器、笛みたいなものに魔力を込めて、洗脳の音色を行使するみたい。それは自分が持っていたものじゃなく、誰かに買い与えられたものでも可能で……今回のはケビンが買ったものだったから……」


 え? じゃあなに? 今回のこれ、お前らの浪費癖がなければ完全にアウトだった? 俺、無実の婚約者を洗脳の事情も知らないままに捨て去るところだった?

 ……いやっ……自分を正当化したいから言うわけじゃないけど、これ怖いっ……! 洗脳なんて能力、本当にろくなもんじゃないなおい……!


「い、言っておくけど! わたし、浪費癖なんてないからね!? あれは、ロランがわたしのお金まで奪い取って使い切っただけだから!」

「わかってる。ていうか浪費癖のある聖女とか修道女とか怖いわ。でも……そっか。そっか……そっか」


 じわじわと、罪悪感が滲み出てくる。さっきまでは“こんな奴がどうなろうと知ったことじゃない”と思っていたのに、その全てが洗脳によるものだったと知って。適当な魔物の洗脳なら、軽い衝撃でも解ける。けど、相手は魔王軍の幹部とくる。そんな相手に、ずっとずうっと抵抗してくれていたのだ、この娘は。

 それを認識した途端、激しい後悔が喉を塞ぐように溢れてくる。罪悪感からか俺と目を合わせようとせず、俯いてしまっている彼女を……そっと、胸の中に抱き寄せ、心から……ごめん、と口にする。


「ケビン……?」

「ごめん……頑張ってくれてたのに、俺……っ……俺……!」

「……うん。そうだね。ひどいこといっぱい言われたなぁ。わたしも言っちゃったけど。思いっきり殴ってくれたよね。それ以上のこと、ロランと一緒にしちゃったけど」

「……うん」

「……あのね、ケビン。聖女さん、これからひどいこと言います。でも、本心です。……魔王討伐の旅のことなんて忘れてさ、故郷の村に……帰っちゃわない? だって、勇者様が洗脳されちゃってるんだもん。それも、国が用意してくれた剣聖様が魔王軍幹部だった、なんて話の先でだよ? こんなの、もう王様だって洗脳されちゃってるんじゃないかって……そう思わない? このまま旅を続けてさ、また洗脳されて、なんて……わたし、もう耐えられないよぅ……! ごめん……ごめんね、ひどいこといっぱい言った……! 何度も何度も違うって言ってくれたのに、本当はわかってるよって言いたかったのに、ケビンをいっぱいいっぱい傷つけた……!」

「いやうんそれはもういいっていうかむしろ無実だった恋人を渾身の力で殴り伏せて追い打ちの下段突きした罪悪感が半端じゃないですごめんなさい」

「言われてみるとひどい仕打ちだ!? …………ぷふっ、あはは……うん、でも……そのお陰で今こうしていられるから」


 でもポーションで癒したあとにもう一発って。鬱憤溜まった怒り任せとはいえ、さすがになぁああ……! いや、言い訳になるけど、ほんとクズ相手に性別なんて考えられないって、ああいう心境や状況になってみれば分かるって!


「じゃあ、もし逆に俺が洗脳されたら、もうこれでもかってくらい殴ってくれていいから」

「相手が洗脳を使ってくるって分かってるなら、もう油断はしません。んんっ……」


 シロンが、手に持った法杖をぎゅううっと握る。……ちなみに、さっきもこうして握ってたけど、この杖は聖堂教会が聖女用にって作った法力満載杖だから、俺のホームマスター権限じゃ奪えません。

 そんなことを考えていると、シロンは俺と自分になにかしらの法術をかけて……薄いけど力強く温かいなにかが、俺と彼女の体に染み込んでいった。


「シロン? これは……」

「はぁ、はぁっ……う、うん。今出せる全力で、洗脳とか……そういう状態異常を防ぐ法術と、わたしとケビンの精神を繋ぐ法術を……っ……はぁ、はぁっ……!」


 使ってくれたらしい。けれども相当に法力を使うようで、見るからに真っ青になって震える彼女は、もう一度、今度は自分から俺の胸にぽすんと納まり、脱力した。


「うぅうう……けびん、けびん~……好き……好きだよぅ……! もう一度伝えられてよかったよぅ……! 完全に離れ離れになる前に、誤解が解けてよかったよぅ……!」


 脱力して、ずびずびと子供のように泣き始めた。

 聖女の祝福が発現するまでは甘えん坊だった彼女だ。そんな彼女を甘やかすのが俺の仕事で、俺の生き甲斐で、聖女になってからも教会を抜け出しては家に戻り、こうして俺に抱きついては二十歳は長いよぅ嫌だよぅと愚痴をこぼしていた。

 ……ああ、そうだ、これが俺が好きだったシロンだ。

 さらりと頭を撫でるように髪を撫でれば、もっととばかりに頭を押し付けてくる。そのくせ、顔は俺の胸にぐりぐりしたいらしく、絶妙なポジションを探しては、俺の手を掴んでまでその位置へ誘導する。

 規律に従順、歴代最高の美しい聖女、なんて仮初だ。こいつは、こんなポンコツ具合が丁度いい。ロランが惚れたパーフェクト聖女様なんて、実際には何処にも居ないのだ。


「…………んんー……」


 安定のポジションを発見したのか、シロンは俺の胸……まあ衣服だが、に顔をうずめ、スー……と深呼吸を始めた。すると、大気中にあるマナがシロンに向かって集中、彼女の体の中に染み込んでいくと、ぷはっ、と顔を上げた頃には真っ青だった顔も血色のいいものに戻っていた。

 ……人の胸で深呼吸してツヤツヤになる聖女をどう思う? 俺に限っては素晴らしいお勤めだと思います。…………ああ、なんだ、俺、まだちゃんとこいつの好きなとこ、あるじゃないか。

 嫌いなところが見つかったからって、その数が尋常じゃないからって、こいつの全てを嫌ったわけじゃあなかったらしい。思い出は綺麗だもんな、そりゃそうだ。だったら……あの最低最悪のクソ聖女を忘れる努力をすれば、自ずとまた……ベタ惚れ出来るんだろう。もう、洗脳される心配もないのだろうから


「えと、それでね、ケビン」

「お、おう、どした?」

「この法術、ソウルコネクトって言ってね? 掛け合った対象が傍に居た方が、効力が高くて。だから、その」

「………」


 とりあえず……抱き締めた。抱き締めて、さらにぎゅーっとして、髪に顔をうずめて仕返しとばかりにクンカクンカする。


「ふぎゃー!? ちょだめだめ! わたし汗かいたから! 頑張って抵抗したせいでいろいろすごいことになってるからー!」

「大人しくしたら、今までのことを許すかも」

「……きゅう」


 条件を出してみたら、途端に大人しくなる聖女。元々そんな条件なんて関係なく、もう心の中では……複雑な心境を抱きながらも許しているだろうに、“言ってやりたい”という欲求がある自分をガキだなぁと呆れてしまう。

 そんな自分に溜め息を吐いたのだが、その吐息が丁度、シロンの耳に熱い息を吹きかける結果になってしまい、彼女はビクーンと肩を弾かせつつ、耳まで真っ赤になっていった。


「……もう、俺達だけで魔王、倒しに行こうか」

「……どれくらいかかるか、分からないよ?」

「このまま旅を放棄したって幸せには暮らせないだろうし、勇者はあんなだし剣聖は魔王軍だし。こうなったら旅を続ける中で、信頼出来る仲間を探した方がいいんじゃないかなって。幸い俺は商人だ、そういう人脈はあるつもりだよ」

「むー……仲間にするって、どんなの? 種族は? 性別は?」

「ロランみたいにシロンに言い寄られても困るし、女性で。種族は獣人がいいんじゃないか?」

「やだ。ケビンに言い寄られたらわたし、聖女捨ててでもケビンを守るよ? 男性がいいよ。ほら、種族保守以外に異性に興味がないエルフとかどうかな」

「却下。なにかの間違いでシロンがそいつに取られることになったら、今度こそ俺、耐えられないぞ」

「うゆっ……!? ~……じゃ、じゃあ人間の女の子なんて孫みたいにしか見えない、なんて言うドワーフとかどうかな!」


 嫉妬が嬉しいのか、口角をむずむずさせながら言うシロンさん。

 当然却下。なにかの間違いで父性を持って、そっちに行ってしまったら嫉妬どころじゃ済まない。

 そうしてその後もあーでもないこーでもないとお互いの嫉妬心と独占欲とを散々と暴露した結果───


「……二人で冒険しよっか」

「異議なし」


 勇者の居ない魔王討伐隊が結成された。

 まあ、レベルを果てしなく上げればきっといつかはいけるだろう。

 そんなこんなで寄り添い、ベッドに二人で腰掛け……恋心をきちんと取り戻せた二人のまま、俺達は口付けを交わした。


「……うれしい。嫌われちゃったら、もうこんなことも二度と出来ないって思ってたから。洗脳されてる心の中で、ずっとずっと、何度も何度も、違うよ、ケビンのことが好きだよって叫んでたんだ。……嫌われなくてよかった……ぐすっ……ううん、嫌われてはいたんだろうけど、ちゃんと誤解が解けてよかった……」

「シロン……」

「……ねぇ、ケビン。ちょっとさ、お返し、してやらない?」

「お返し?」

「うん。人のことを長い間洗脳してたホルンと、洗脳に抵抗もせず、わたしにべたべた触れて来たロランに。わたしね、洗脳の牢獄の中で、ずーっと二人に法術をかけてたの。あ、ロランにかけたのは、わたしを押し倒してきた時にだけど。ホルンは魔王軍幹部だって分かってたから、ずっと内側で」

「へええ……あ、で、法術ってどんな?」

「一時的に、すっごく弱体化させるの。代わりに、一時的にその弱体化させた分を誰かに渡すって能力。今頃馬鹿正直にダンジョンに行ってるだろうし、別れる前に特大の爆弾を置いていく、みたいな感じで」

「なるほど。それで、どうすればいい?」

「うん。えへへ、じゃあわたしの手、握って?」

「こうか?」


 きゅむ、と手を繋ぐ。握手をするように。しかしシロンは「むー」と頬を膨らませて、俺をジト目で見てくる。……なるほど、恋人繋ぎをご所望のようだ。


「そうそう、えへへ。じゃあ───ケビンもちょっと手伝って。相手は一応幹部と勇者だから、レジストが凄いかもしれない。だからケビンの生態マナも借りて……───すぅっ……んっ!」


 なにかを呟いていたシロンが、法力を解放。それは俺の体からも生態マナ……いわゆる氣だとか魔力だとか生命力だとかの総称を引き出し、吸い取り、力へと変化。ひとつの法術を完成させると、法術の発動を表す光の霧散を見せ───……


   ドゥテーテートゥートゥールレレットゥー♪

   ドゥットゥルルレー♪ ルレルー・レットゥットゥルレー♪

   デンテンテレンテテンッ♪ ワシャーンッ!


 !? なんか奇妙なファンファーレみたいなのが頭の中に鳴り響いて……!?


【魔王軍幹部:牽制のホルン、魔王軍幹部:幽者ロランを討伐した!!】


 ……………………ホ?

 …………ホッ!? ホォオオオオオオオオッ!?

 幽者!? 幹部!? え!? あいつもだったの!? ぇでぇえでででも洗脳されてたって! シロンと一緒にホルンに洗脳されて……え!? あれも相手の手の内というか、策みたいなものだったの!? それとも幹部なのにろくでもない奴だったから、ホルンに洗脳されて良いように使われてたとか!? なんにせよ討伐……討伐って。え? 弱体化させた途端、ダンジョンエネミーにでも潰された? …………潰されたんだろうなぁ。


【法術:力ある者の譲渡・力無き者の信頼の効果が切れます。───力を返す対象が既に死亡しています。対象の能力を被譲渡者の成長率に上乗せします】

【聖女シロンの限界突破! 全ステータスの上昇最大値と成長速度が上昇!】

【戦闘商人ケビンの限界突破! 全ステータスの上昇最大値と成長速度が上昇!】

【幹部討伐ボーナスで経験値上昇効果が発動します】

【聖女シロンのレベルが上がりました。レベルが276上がりました】

【戦闘商人ケビンのレベルが上がりました。レベルが256になりました】


 ……目の前にメッセージウィンドウが現れて、凄い速度で文字が流れていく。

 レベルが上がったことによって、急に筋肉がゴボォンと太くなったり、魔力やマナが増幅したりと体の方も頭の方も忙しい。


【ソウルコネクトの相乗効果が発動します。得た経験値が1.5倍分を上乗せ。レベルが上昇しました───】

【装飾品:強欲と私欲の指輪の効果! ステータスが大幅に下げられている分、経験値が倍加します! レベルアップ! ソウルコネクトの相乗効果が発動します。得た1.5倍分の経験値が強欲と私欲の指輪の効果でさらに倍に───】

【レベルアップ! 聖女シロンは───】


 ……気づけばレベルは500越え。

 俺とシロンは、これからじっくり慎重にレベルアップさせていこうな、なんて思っていたのに、なんだか急に大変なレベルとステータスになっていた。


「……ね、ねぇ、ケビン? 強欲と私欲の指輪、とかって」

「商人のツテと国王に無茶言って用意させた、経験値倍加の指輪。俺のステータスがヤバいくらい下がるけど、その代わり得られる経験値が上昇するってやつ。あとはステータス上昇時にランダムで数値がひとつ上がる装飾品多数。連携能力を増幅させるネックレスとか……まあ、追放される理由の裏にはこういうバッドステータス系アイテムがあったってわけ」

「そんな……じゃあケビンはずっと、パーティーのために無茶してたってことじゃない……!」

「パーティーのためじゃなくて、シロンのため、な? そこを間違われたら、頑張った甲斐がない」

「~……」


 ぎゅう、と抱き着かれた。途端、今まで感じたこともない尋常ならざる力の波動が、俺の体を襲った。あ、これレベルアップして腕力とかめっちゃ上がってるやつですね!? 聖女でこれってやばい! けど俺の防御力も上がってるから、ちょっぴり苦しいけど耐えられないほどじゃない。むしろ来るって分かっていれば全然幸せな抱擁だ。


「え、と……じゃあ、どうしよっか」

「このまま二人で旅をして、魔王軍幹部とか、それ以外にも強いやつを倒して経験値稼いで、レベルを上げていこう。レベルが上がれば上がるほど、余計な状態異常とかも効果が無くなると思うし」

「あ、じゃあ重ね掛けしていい? レベル上がったし……あ、いっそポイントとか、精神とかに多く振るっておこう?」

「賛成」


 精神のステータスを上げれば状態異常のレジスト確率が上がり、数値が相手の魔力等を上回っていればそもそも通用しない。ので、それは是非にも賛成だった。もちろん、魔法効果持続のアイテムも装備した状態で重ね掛けをしてもらえば、もう精神の数値がとんでもないことになり、俺もシロンも安心して行動出来る、といった感じになったのだけれど。


「……えと。欠点として、離れると効果が薄まっちゃうから……あの」

「お、おう」


 ソウルコネクトの効果に感謝しつつ、ラブラブベタベタな聖女と商人の旅が幕を開けた。

 これは、一度は本気で嫌いになった女性にあっさりもう一度恋した俺が、それまでの関係をきっちり清算される……まあ、奇妙な出来事がきっかけで以前よりラブラブになったお話だ。

 のちにレベルは1000を超え、時間をたっぷりかけて様々な町の事件や村の事件を解決しながら旅をして、魔王が実は国王であったことを知って、大変な大戦争が巻き起こることになるのだが……まあ、それはまた別のお話だろう。……いや別っていうか、普通に二人でブチノメしたけどさ。

 国王になって贅沢の限りを尽くし、激デブ国王になってた魔王に、今さら負けるかっつーの。


 そんなわけで俺達は、祝福によって決められた勇者じゃなく、勇気ある心を持つ者、という称号としての勇者を手に入れ、国の英雄となった。直後にシロンは聖堂教会に突入。聖堂教会に巨大な、悪を滅する強烈結界を張って───大神官に変身していた悪魔を滅ぼし、その褒賞として……聖女をやめた。

 シロンは言う。国王が魔王だったんだから、まさかとは思って結界を張ったんだけど、大神官様が……と呆れた様子で。聖女をやめられたのはただの副産物だなんて笑ってたよ。

 ……今度こそ国に真の平和が戻った~とかでお祭り騒ぎの中、俺はシロンと結婚。盛り上がっていたこともあってか様々な人に祝福され、夜にはどかーんとシロンに押し倒されて、互いの初めてを受け取った。いわく、二十歳まで俺が誰かに奪われやしないかって考えたら夜も眠れなかったんだとか。いや、魔王倒したのも悪魔大神官倒したのも結婚したのも今日なんですが。

 ざまぁではない。と思う。

 恋人や婚約者に裏切られて、人生もうどうでもいいや……と考える主人公たちってさ、どうでもいいなら裏切った恋人にカーフブランディングくらい決める度胸をつけるべきだと思う。

 それか前方回転ミサイルキックくらい顔面にブチ込まない? 回りくどいざまぁとかどうでもいいじゃないか、今、目の前のクズから人生なんてどうでもいいと思えるほどの屈辱を与えられているのですよあなたは。

 ざまぁものを見ると、なんかふつーにそう思ってしまう。

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