表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

上には上が居る。みんなそう言うけどさ、自分より自分なヤツなんて居ないんだから、誰よりも自分してりゃあそれでいいじゃん

 幼馴染ものは好きかい? 僕は好きだ。ただし幼馴染ざまぁはちょっと……って思うことがあるよ。や、だってさ、あれって明らかに主人公悪くない? 幼馴染が主人公を嫌いになった理由の大半が、主人公が頑張らなかった所為とかが多い気がするの。

 努力は好きかと訊ねられたら嫌いだと答える。

 好きな食べ物はなんだと訊かれれば、やっすい食べ物を挙げませう。

 世の中、対人において“無難”である方がなにより良しと、子供の頃に知った。

 何かに抗ったって良いことなんてねーぞー、なんて心の自分がよく言っている。だって面倒はその言葉の意味が指すように面倒でしかないのだ。わざわざそれを被る必要なんて、相手の勝手な都合と強引さ以外に有りはしないんだと思う。


  リカねー、おっきくなったらねー。しーくんとけっこんするのー!


 だから……まあ。勝手に押し付けられるものに、うへぇぁ……と思うことがあろうと、面倒が嫌いならばその場しのぎの言葉をいろんな人が吐くのだろう。その時の気持ちを、相手の気持ちなぞを軽く無視して。または、言ったことなどすぐに忘れて。もしくは覚えていても子供の頃の話でしょ? なんて、さも相手が悪いかのように見下した目をしながら鼻で笑って。

 そのくせ、自分に都合のいい約束だけはきっちり果たせだの続行しろだのと、こういう輩は言うのだろう。そういうふうに育つ幼馴染が居るとするなら、よっぽど家庭環境がよろしくないんだろうなと思う今日この頃。

 さて、そんなことをしみじみヌボォと考えていた俺こと乾司(いぬいつかさ)は目が隠れるほどに伸びた天然パーマな髪の毛の下から、のんびりと教室を見渡した。もちろん動かすのは視線だけ。首を動かすなどあってはならぬ。


(時は昼。メシ時に机から動かないのもまあ久しぶりだ)


 視線はそのまま教室の引き戸へ辿り着いたものの、まあ来ないなら来ないでいいかと食事を開始する。おお、見よ、この綺麗に緑黄色で彩られた乾さん自慢のヴェン・トゥーを。むしろ見てください、今日のおべんとは会心の出来なのですよ。それを誰に渡すでもなく、数を用意するでもなく己のためだけに仕込み、作り、完成させ、食す喜び……!


「あぐ。もぐ。もぐ」


 まずは米から口に。わざわざ“あぐ”とか声を出して飯を食み、己を食事に集中させる。

 食事は好きだ。大好きだ。だって努力で味を変えられる素敵なものだ。

 努力は好きかい? 俺ゃ好きだ。訊ねられれば嫌いと答える。わざわざ訊かれるってことは面倒事を持ってきたってことだろう? 誰でも警戒する。

 好きな食べ物はなんだい? と訊かれりゃやっすい食べ物をもちろん挙げる。だって調理次第でやっすい食材でもたいへんおいしゅういただけますことよ?


(…………おいすぃぃ……)


 食に感謝を。そして両親よ……本日もあなた方のお陰でわたくし、乾さん家の司さんはガッコにも通えてるし勉強も出来てます。

 父よ、母よ、本日も司さんは元気ですぞ。

 などと感謝を心に食を楽しんでいると、なにやら引き戸あたりが騒がしく───


「ちょっと司! なんで来ないのよ!」


 ───見れば、どすどすどすどすといった感じに“怒った人はこう歩きますよ”をお手本にしたような歩き方で、窓際最後方の俺の席を目指す女生徒が居た。

 ラノベとかならここで、あの女生徒について説明せねばならんのだろう。なんか主人公がやたら詳しく髪型とか目鼻立ちについてを説明する感じで。しかしだ。俺は髪型に詳しいわけでも、服装に詳しいわけでもない。言ったら服装なんて我が校のフツーの制服だとしか言いようがないんだが。

 なので、えーっと。えーっと。……高校に上がると同時になんか茶色にした、ちょほいと長めな髪を揺らした幼馴染が歩いてくる。え、っと……あの髪型なんていうんだ? 司さんそんなの知らんよ。ボ、ボブ、とかいったっけ? え? なにそれ、どこのマッカーシーさん? いやいや髪型だ。ボブ……いや、ロング? や、ロングはなんとなく分かるよ? でもセミロングとかってどこらへんまでロングなの? 名前しか知らないよ俺。むしろそれ以外ってなにかあったっけ?


「私にお弁当を持ってこないで自分だけ食べてるなんて、いーぃ度胸じゃない、司!!」

「………」

「………」

「…………(もぐもぐ)」

「無視して食事再開すんなぁっ!!」


 頭大丈夫かこいつ。

 俺は食事をしていた。そこに他人の許可なぞ必要ない。何故なら今は食事を摂るべき時間であって、他のメイツでさえ食している時だというのに。

 食事の時は喋らず、食事に集中しましょうと言われたこともないのかこいつは。

 ……うむ、やはり三角食べはいいな。ていうか味噌汁もいい感じに出来た。ワカメ、ニラ、微塵切り長ネギ、そしてとき玉子。ふんわり仕上がり、味噌汁を彩る玉子がまた素晴らしい。まろやかになるよね。


「だから堪能してんじゃないわよ! 私の分は!?」

「…………ん、く。……なんで俺がお前の弁当作らなきゃならん」


 きちんと飲み込んでから言葉を返す。べつに作るなんて約束はない。こいつが一方的に言ってきただけだ。


「なんで、って……作ってきてってわたし言ったわよね!?」

「ああ。俺は断ったな」


 司さんは嫌なことは嫌と言う男子高校生です。子供の頃にオールワークスメイドを知る機会があって、男はメイドにゃなれんと知って、ならばとステキな執事さんに憧れて、形から入ったもののなにか違って、なにが違うのかを考えた結果……俺は主婦である母の姿に憧れていただけで、誰かに仕えたいなんて思うこともなければ、べつに金で雇う相手を尊敬したりとかはしないかなぁ……と妙にしみじみ思いつつ生きて来た。

 俺の心の根幹は感謝だ。たぶん。母に感謝してるし父に感謝してる。それを一番感じた瞬間っていうのは、それぞれのガッコ……小中高大だの、それらにかかる入学金だのなんだのをたまたま気になってHPで見た時だった。すっげぇ額だった。実際なんだこりゃって思う金額が必要であることを知って、以降───親の“勉強をしなさい”を右から左へする理由は滅んだ。

 遊びたいだけならガッコに通う必要なんざこれっぽっちもない。遊びたいだけなら高い金払って入学させた意味もない。運動をしよう。勉強をしよう。青春を謳歌しよう。あ、ちなみにこの青春の中に恋愛が含まれるかどうかは微妙である。

 なんかさ、青春=恋愛って、したくてもそれが出来ない人にとって、ひっどい言葉だと思うんだ。だから俺は青春=恋愛とは思わない。友情でもいいじゃない。ユウジョウ!


「なぁ、フレデリック殿下」

「フレデリカよ! フ・レ・デ・リ・カ!!」

「トゥェールゥールゥー・ルゥェ~ルル~レール~・ルル~ルル~♪」

「それク■マティ高校のフレディーのテーマ!」

「俺さあ、ケッコー前から不思議だなぁと思うことがあったんだよ」

「……なによ」

「いやぁさぁ、小説……まあラノベだけど。あれらでさ? 学校一の美少女ってフレーズ、あるじゃない」

「まあ、あんたの部屋で見せてもらったことあったわね。WEB小説……だっけ?」

「そそ。俺さ? あれでロシア人ハーフの子が……ああまあロシア人ハーフに限ったことじゃないんだけど、あれらが学校一の美少女~っていうの、納得いかんのだ」

「なんでよ!!」

「考えてもみてくれ。ハッキリと言うが、俺は日本人で、日本人顔の女の子が好きだ。外国人の、特にアメリカとかロシア人とか、そっちの国の美人さんとか見ても芸術品見てるみたいでさ、なんかこう……違うんだよな。それを語った上で言うけど、俺は自分の好みと合わない女の子を学校一の美少女とは断じて認めん」

「……ハ、ハーフでも、だめなの?」

「バイトの後輩でハーフの子が居るんだけど、んん……やっぱ、な~んか違うんだよな。その子目当てで来る男の客も居るみたいなんだけど、気持ちがこれっぽっちも分からん」

「………」

「まあ、美人ではあるんだろう。俺の好みじゃないけど。でもさぁ、別に好きでもないやつと話してるだけなのに、なんで男どもに睨まれなきゃならんのか。コレガワカラナイ」

「しーくんのばかー!!」

「なにっ!?」


 怒っていたと思っていた幼馴染が急に人を馬鹿にして駆けだした!

 お、おのれ人を馬鹿呼ばわりして一方的に逃げるとは!


「なにをこの! 馬鹿って言うほうが馬鹿だ! ばっ……このっ……ば、ちょっ、いや足早いなおい! せめて馬鹿くらい言わせて!? 待っ……ちょっ……ば、ばかー!」


 幼馴染の加藤・F・フレデリカが物凄い速さで駆けていってしまった。入れ替わりに教室に入ってきたのは、俺の級友の佐羽(さば)タクマだった。


「ちっすー、戻ったでーカンジー。てか殿下走ってったけどどないしたん?」

「タラール語が分からなかったんだって」

「あちゃー、そら殿下としてはやばいわー。ってそない冗談とかええから」


 カンジ。乾司をそのまま読むとカンジになるので、親しい奴なんかはそう呼んできたりする。

 タクマ……タクはミスターカラテとか一時期呼ばれたりもしたけど、中学の修学旅行の時にアレがハチャメチャビッグであることが知られ、天狗とかてんぎゃんとか呼ばれるようになった。まあ、ミスターカラテも天狗面だし、いいんじゃないでしょうか。


「やー、しっかし相変わらず殿下はきゃわいいなー。ワイがもーちょいイケメンやったら校舎裏に呼び出して告白してフラレとったわー」

「フラレるのかよ」

「そらそうやろ。やって殿下、間違いなくカンジのことラヴやし。お前さんももーちょい殿下と向き合ってやったらどーなん?」

「いやいやいやいや、俺もうフラレてるぞ? 向き合ってどーなるんだ」

「え? マジ? フラレとるん? ほいじゃあなんであないカンジに絡んでくるん? てか、めっちゃ甘えたがっとるやん」

「甘え? え? あま……どこが?」

「か~んちゃ~ん……。女が周囲の目ぇも気にせず男におべんと作ってきて~なんて、そらお前、気になる男に甘えたいからに決まっとるやろ。おとんでもおかんでもない、お前に作ってーゆーとるんやで? そぉ~らお前、カンジに甘えたいんとちゃうん?」

「俺に甘えたい……? っはは、まっさかぁ」


 言いつつ、気になることはやってみる。努力は好きかい? 出来ることはやるよ。訊ねられれば嫌いと答えるけど。なのでスマフォをいじって、殿下にENIL(エニル)メッセを飛ばす


  【殿下】


        【だから殿下じゃなくて! なんなのよもう!】


  【甘えたいなら今すぐ戻ってきて俺に抱き着きなさい】


 ───。

 いつもなら、分とかからず返事がくる殿下から返事がこない。

 代わりにどすどすではなくタンッタンッタンッという、あ、これ誰かが超全力で廊下を駆ける音だ、なんて思える音が聞こえてきて、ズシャアアアアシャシャシャシャシャと廊下を滑るおなごの姿を発見した。


「……カンちゃん。おんどれなんてメッセしたん?」

「甘ドゥウウウエッ!?」


 甘えたいなら云々を口にしようとしたら、甘の部分でタックルめいた抱擁をされた。

 拍子に窓枠にゴドンゴと頭をぶつけるが、なんのこれしき、全面のやーこい感触に比べればヘノヘノカワッパにござる。ちなみにカワッパとは河童という名前から来ていて、河のわっぱ、つまり河童を差す。いや今はそんなんどうでもよくて。


「い……いいの? 司、わたし、甘えていいの……? おべんとも作ってくれないのに……?」

「俺はツンツンした存在よりも素直に甘えてくれるおなごが大好物です。でも作ってきなさいとか命令口調で言われる覚えはない。なにかを作って用意してくれる相手にお前、命令とかアホか。俺は今、生かしてくれてる両親にめっちゃ感謝しながら生きてるんだ。そんな俺に命令とかアホか」

「だ、だって……ハーフもダメだって……。いっつもわたしのことになんか興味ない、みたいな顔してたから、気を惹きたくて……」

「いやいきなりそんな暴露されても。昔っから言ってるでしょーが、素直な子は誤解を生まないもんだって。毎日毎日ツンツンされて、それが素直な反応なら俺のこと嫌いなんだろーなってフツーなら思うだろ? 実際、俺お前が俺に甘えたかった~なんて気づきもしなかったし」

「え……? じゃ、じゃあなんで……」

「てんぎゃんの仕業じゃ」

「てんぎゃん……! Спасибо(スパシーバ)!」

「……なんやええ話にしとるっぽいけど、てんぎゃん言われて、いっとーワイ見られるてお前、えらい微妙な気持ちなんやけど。え? なに? ワイのアレのサイズ、女子にまで知られとるん?」

「───」


 殿下が顔をボフンと真っ赤にして、俺の腹に顔を埋める。タックルは腰から下とばかりのぶちかましハグだったために、そんな体勢になったのだから仕方がないのだが───


「あー、殿下ー? ワイのサイズとか暴露されとる仕返しでゆーたるけどな、カンジのサイズ、ワイとほぼ似た感じやで?」

「!?」


 腹から顔が離された。ハワワワワ……といった感じで、先程まで自分が抱き着いていた俺の下腹部あたりを見つめている。やめれ。


「タクよぅ……」

「なはは、巨乳ハーフ美女に抱き着かれる光景に一矢を入れたい男子高校生心や、まー気にせずハグせやハグハグ」

「まあ、するけど」

「ふみゅっ!?」


 物事は無難であればあるだけいい。

 けど、誰かが笑顔になる瞬間をわざわざ台無しにする気はこれっぽっちもない。

 はっはっは、同い年の男に甘えたいだなんて、きっとパパンが恋しいに違いない。……んん、まあ、父親が居ないってのはどんな気持ちなのかって言ったら……俺にも分かるから、なんとも言えない。俺も殿下も片親だ。母だけの家庭で育ち、片親同士で支え合って生きてきた。

 幸いにして父が残した保険金のお陰でやりくりしてこれた。だから、言った通り母に感謝してるし、当然父にも感謝している。けど、いつまでもそれに頼った生活が出来るわけじゃあない。俺も殿下……リカも、そんな家庭環境だからこそ、昔っから無難な生き方を選んできた。好き嫌いも無難。得意なものも無難。出されたものは残さないし、我儘らしい我儘なんて言うつもりもない。

 そんな家で、時に気持ちを押さえつけながら育ったからか、たまぁに発作的になにかを求めてしまう。そんな発作が甘えって形で出たのが、今のリカなんだろう。あ、ちなみにフレデリック殿下はデンマーク皇太子とはなんの関係もない。ラングリッサーⅣというゲームに出てくるキャラクターだ。


「ところでだな、殿下」

「昔みたいにリカって呼んで」

「話聞いて納得出来たらなー。……で、だけど。なんで俺、お前に告白してフラレたの?」

「? 告白?」

「? 告白だが」

「…………………………? うそ。されてないわよわたし。そんなのされたら、1にも2にも嬉しいもの」

「……カ~ンちゃ~ん? おんどれどない告白したん? もしや女にしてみりゃ告白とも取れん、まがいもんの告白したんとちゃうん?」

「いやいやそれはないぞ? ちゃんとお前が好きだ、俺と付き合ってくれって言ったって」

「……などと供述しとるけど。殿下? 身に覚え、ホンマにないん?」

「……………………ないわ。ほんとに。……ほ、ほんとにないっ!」


 ないんかい。じゃあ俺が告白した相手、誰よ。


「ほならカンジ? 翌日の殿下の様子とか、どないやったん?」

「休んだ。てっきり顔も合わせたくなかったんかと思って、俺相当ショック受けてな……」

「休んだって……あー、殿下? なんやこう、心当たり~とかない? 実は前日高熱に苦しんでて、告白されても気づかれへんかった~とか」

「……………………そ」

「「そ?」」

「そういえば……昼あたりから調子が悪い日があって、その日は頭がぼーっとしてて、頭いたくて、家に帰ってゆっくり休もうって時に下駄箱に手紙があって……無視するわけにも、って思ったから指定の場所に行って……誰かが居て、なにか言われて、どーせ知らない誰かが適当な告白してきたんだーって思って……」


 みるみる殿下の顔が青ざめていく。そして俺を見上げると、


「ち、違うの!」


 浮気がバレた恋人みたいなことを言い出した。やめれ、なんか今まさに嘘つかれてるみたいだから。


「かんちゃ~ん? 努力とか好きかー?」

「どぅゎぃっきらいだ」

「殿下に好かれる努力はどない?」

「人に言われてやる努力なんて嫌いだよ。やるなら自主的に、無難にだ」

「ほなら擦れ違いも解決やな。殿下、努力は好きか?」

「つっ……司に、好かれる努力なら」

「ツン子さんやってた時点で逆効果やけどな。っはは、まあええわ。ほいじゃあワイと男女の関係になることが近道や~ゆ~たら、カンケイ持ってくれるん?」

「ぶち殺すわよエセ関西が……!」

「おっしゃよーゆーた! ここで少しでも迷うそぶり見せたら親友は任せられんかったわ! ワイなー、ちぃとのことでも重大なことでも、好いとる相手ェー裏切る奴とか大嫌いやねん。まあそいつがえっらい外道やゆーたらそらしゃーないとは思うけどなー? てかなー、殿下? たまにぽろりとこぼしみたいに“しーくん”でえーんやで?」

「…………!!」


 きゃらんと期待を込めた目で、抱き着きながら見上げてくるロシアハーフがおる。

 や、生憎な? ほんとな? 俺って日本人顔が好きなんよ。だからラノベとかで外国人ハーフが学校一の美少女認定されてるのって謎で仕方ない。日本人ってそこまで外国人の綺麗な顔に、綺麗って感情は抱けても、好きとかって感情抱けるかね? 俺にはちと信じられん。しかしだ。髪は銀髪でも日本人顔のハーフが居たらどうだろう。それってとっても可愛いと認められると思いませんか? 俺は認める。で、認めたからこそ告白したわけで。

 ……あ、ちなみに俺の名前は司なのに、しーくんと言われるのは“司”が“し”とも読めるからである。特別な呼び方がしたい! と幼き頃に言い出した殿下によって、殿下の母から殿下が教えてもらったのがしーくんだったわけで。突然呼ばれて、“え……なんでしーくん?”って思ったもんだ。


「あのな、リカ? お前はひとつ勘違いをしている」

「……しーくんが巨乳好きで、保存してある画像の傾向がそういうのばっかりなこと?」

「いや、俺は正しく巨乳好きでロングヘアーを愛する男だからそれは問題ない。ちっとも勘違いじゃない」

「じゃあ……そういう画像に、茶髪の人が多かったこと……?」

「や、それもだけどね? あの、画像の話から離れて? ね? そこつつかなくていいから」

「…………じゃあ。外国の女の子は、綺麗とは思えないって……さっきのあれ?」

「そ。ただし、俺の中の“男”ってのは、好きになった人こそがなにより一番綺麗で素敵。てかな、好きでもなければ告白なんかするもんかい。それでフラレたからダメージ負ってるんだろがい。なのにお前ときたら普段と変わらん調子で構ってちゃんしてくるし、こいつ俺の心を殺しに来てるのか? って本気で泣きそうだったんだぞ?」

「や、てかこの前なんか急に涙こぼしとったやん」

「う、うるへー! 一度でも好きになった幼馴染が、そんな子になっちまったって思って、こいつの先のことを心配してたら泣きたくなっちまったんだよ! 心配だったんだからしょーがないだろが!」


 と、ここまで勢いで暴露すると、再び俺の体にきゅむと抱き着いてくるリカ───が、視界を埋め尽くし、え? なんて思っているうちに唇にやーこい感触。

 タクマが高音ボイスで「フワァ~ォ♪」ってあのちょっぴりエッチっぽいアレを奏でた途端、教室連中の目が集中。ハーフ美女さんが男子にキッスをしている場面を目撃したことで、その場は騒然となった。


「おいー! カンジが殿下とキスしてるぞー!」

「おいおいなんだよフラレたとか言ってなかったか!?」

「ワーオ、キスって初めて見た! ていうかタクマ、フワァ~ォの発音上手すぎ!」

「ぶはははは! カンジのやつ固まってる固まってる! キスくらいで───あ、あれ? なんかくちゃくちゃなってません? 音の発生源とか───ギャアーッ! フ、フレンチしてやがる!」

「キャー! フレンチよ! フレンチだわ!」

「フレンチでハレンチだわ! がっつり観察するけど!」


 脳が追い付かない。放心している間に初キッスと初ディープは奪われ、しかしハッとすると、離れそうだった舌に自分の舌を絡ませながら、リカを抱き締め、さらに抱き寄せるようにぎゅうっとした。

 ふわっ、と驚きに口が開いた瞬間、一層に口を押し付け、深く深く、舌を舌で撫ぜるように絡めていく。

 それで二人してスイッチが入ったようにマッチュモッチュとキスをし続け───……気づけば昼休みが終わっていた。リカはとろんとした顔で超名残惜しそうに俺から離れ、つうっ……と垂れる唾液の橋が途切れるのを見ると、もう一度軽くキスをしてから離れた。そして、低い位置でばいばい、とばかりに軽く手を振ると、幸せそうに教室を出て行ったのである。


「………」

「………」


 そして、俺とミスターカラテは……いや、のみならず、……のみならず? まあともかく、教室中が顔を真っ赤にしながら、残りの授業を受けることになった。

 やってきたセンセが戸惑うくらいには、まあなんとも……教室の空気はおかしかったと言っておく。

 さて。これからは両親だけじゃなく、リカにも、リカの両親にも感謝しながら生きなくては。好きという感情をありがとう。かなり回りくどい部分もあるけど、好きでいてくれる娘をありがとう。……や、この場合、相手の両親にとってはものすごく複雑か? や、小さい頃から“司くんがリカと付き合ってくれたらなぁ……”とか相手の両親には言われてたけど。

 後から聞いた話だけど、リカは家では隠すことなく“俺ラブ”がひどいらしい。

 そういえば昔、存命だったおじさんに“疲れて仕事から帰ってきたらそれを語られる身にもなってくれ……”と言われたことがあったっけ。なのでもらってくださいとのこと。同棲だろうが同衾だろうが認めるから、と。それってどうなの? とも思ったものの、一緒になってくれればきっと落ち着いてくれるから、と。おばさんもおばさんで、結構苦労しているっぽい。顔は楽しそうだけど。

 ……え? 落ち着くの? と疑問に思ったものの、一緒に居られるのは嬉しいので素直にありがとうございます言っておきました。


 それから俺の彼女がキス魔と化して、リップクリームが必須になるという未来に辿り着くことになるのだけれど。まあ、むしろカマン。キス、好きですとも。

 こういう話ってなんていうかそのー……相手と自分の片親が父と母で、再婚して義理のキョーダイに~とかありそうだけど、まあ現実なんてこんなもんだ。ママ友となって仲良くする母を見て、少し安心したのは確かだけど……仲良くしすぎてちょっと不安になる時がある。だ、大丈夫だよな? 百合ぃ関係になったりとか……な、ないない、ははは。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ