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『第3回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』シリーズ

交差点で君に

作者: 佐藤そら
掲載日:2021/12/21

 わたしは、目の前の仕事や家事をこなし、何の変哲もない日々を暮らしている。

 それがただ続くと思っていた。

 続くはずだった。


 同じ部署に年下のフレッシュなイケメン君が配属されてきた。わたしも昔は、キラキラしてただろうか?

 彼は仕事の手際もよく、気配りもでき、いつも女性社員の視線を集めている。


「僕は、先輩にしか興味ありませんよ」


「馬鹿ね。こんなオバさん、からかわないでくれる?」


 彼はいつも、わたしに気があるそぶりをする。

 それは、お世辞だったとしても、嬉しかったのは事実だった。




 この日、心のゲージをすり減らしたわたしの心は弱っていた。

 そつなくこなして、騙し騙しでやってきた家庭の不満が爆発してしまった。

 そう。何の変哲もない毎日だったはずがない。

 一日耐えていたが、会社を出て交差点に差しかかった時、押し殺していた涙が溢れてしまった。



「大丈夫ですか?」


 振り返ると、彼がいた。

 こんな姿を見られるわけにいかないのに。



「先輩、無理しないでください」


「無理してないから!」


「先輩のそんな顔見てられないです」


「なら、見ないでよ! もともと、こんな酷い顔なのよ!」


 メイクが崩れ、涙でぐちゃぐちゃだった。


「こうすれば、見えません」


 彼はわたしを抱き寄せた。



 出逢う順が違ったら、今は違ったのだろうか。

 わたしの横にいるのは、君で……。

 ダメ! そんなこと、考えちゃいけない!


 わたしは自分にショックを受けていた。

 こんなことになると思いもしなかったからだ。


 落ちるのはいつだって一瞬だ。

 一度落ちてしまったら、もう引き返すことはできない。

 それは沼だ。

 足掻けば、足掻くほど、足は沼に沈んでいく。


 フィルターがかかると、それはもう何をしてもカッコイイ。何をしても可愛いのだ。


 仕事をする真剣な眼差し。

 無邪気でキラキラした笑顔。

 優しい声。

 ご機嫌な鼻歌。

 急な天然。

 寝癖のついた後ろ髪。



 あの日から、自分をとめられない。

 もう、認めざるをえない。

 必死に心に嘘をついてきたのに。

 ごまかしてきたのに。



 好きになってしまった。



 ここはオフィス。周囲からの目もある。

 だけど、このときめきを抑えられない。

 この気持ちを消さなければ。

 なのに、そばにいたいと思っている。


 この想いは、交わってはいけない。



 今夜も、互いの指が触れるか触れないかの距離で、並んで夜道を歩く。


 分かれ道の交差点まで来てしまった。



 彼は突然、わたしを後ろから抱きしめ、囁いた。


「今夜は、朝まで一緒にいませんか? 奥さん」

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