貧乏子爵家次男のオープニングセレモニー6
チラチラと目に入る黄金の魔力に気を取られながらも昼食を食べ終え、店を出た直後の事だった。
悲鳴と馬の嘶き、そして何かが砕け壊れる音が聞こえてきた。
何事かと俺が視線を向ける前にエリカが駆け出す。
エリカが動き出した瞬間に自動的に追いかけだした自分の身体に我ながら感心する。
何が起きたかは一目見れば明らかだった。
荷馬車の車輪が壊れて事故を起こしたのだ。
道の真ん中で馬と荷台が横転している。
さすが冒険者が多い区画である、巻き込まれた人間はいないようだった。
冒険者もそうでない人間も、良い意味でも悪い意味でも慣れているのだろう。
もう真夏と呼んで差し支えのない暑さの中で、普通の汗ではない汗を浮かべて地面に少年が倒れていても平然としている。
馬車の同乗者か御者だったのか、倒れた人間の側に少女が額から血を流しながら駆け寄り大声で助けを呼ぶ。
「誰か! 回復魔法を使える人はいませんか!」
倒れている少年と助けを呼ぶ少女は見た目からして明らかに冒険者だった。
年齢は俺と近そうだ。
エリカと共に彼女達に近づく俺の耳が周囲の呟きを拾う。
「なんだ屑拾いか」
若い冒険者なら確かにその可能性もあるなと思いながらも、そう言った冒険者の言葉に侮蔑の感情を感じて小首を傾げる。
助けに行こうとしないのは不思議じゃない、冒険者は基本的に自己責任の世界だ、助けない事を責める奴がいたらそいつは冒険者じゃない。
屑拾いに対して侮蔑の感情があるのが不思議なのだ。
エリカが服が汚れるのを気にする風も無く少年の側に膝を突く、躊躇の無さが美しい。
俺はそれを横目に荷馬車に繋がれたまま倒れて暴れる馬に近づき、馬を気絶させる。
そのままエリカの横に膝を突く。
「大丈夫か?」
ちなみに生きてるか? という意味である。
エリカほどの魔法の使い手なら死んでないなら殆どが助かる範疇だ。
左脇腹からその下左半身を血塗れにしている少年は一目で重傷と分かるので、馬車から落ちた拍子に死んでいても不思議じゃ無いと思ったのだ。
「この前のシンよりかはずっとマシですわよ」
そう言ってエリカが回復魔法を使う。
少年の顔色が目に見えて回復する。
「回復魔法ッ」
突然近づいてきた俺達に戸惑っていた少女が小さく息を飲む。
当然のように回復魔法を使っているとつい忘れがちになるが、回復魔法は世間一般では大変難しい魔法とされている。
覚えるのも自在に使えるようになるのにも長い訓練が必要になる。
だからこそ冒険者からは後回しにされるし、教会のシスター神父がパーティーに加わるというのは冒険者にとって大きなメリットなのだ。
擦り傷を治せるようになるのに半年以上かかるというのは割と正確な表現だ。
少年が血の混じった咳をする。
「いや、この前の俺より苦しそうだが?」
オーガナイトにボッコボコにされた時の事を思い出しながら言う。
今更な話だがエリカに無様な所を見られたなと恥ずかしくなる、いつかリベンジしてやる。
「岩と紙を比べて頑丈さを評論するような暴挙ですよ? あの時は本当に心配したのです、シンはもう少し苦しそうにする、というのを覚えるべきですね」
少年を心配したら何故か怒られた。
「ありがとう御座います! 魔石屑を拾っている時に魔物に急に襲われて、なんとか追い払ったんですけどエッズが私を庇って!」
そいつは災難だったな――俺がそう言う前に少年が再び血の混じった咳をする。
今度は盛大に。
「割と死にそうでしたがもう大丈夫です」
咳で飛び散った少年の血を風の魔法で綺麗にひとまとめにして地面に捨てるという絶技を平然とこなしながらエリカが言う。
あまりに凄まじい事を平然とやっているので、誰もその事に気が付かないのが逆に恐ろしい。
「な……何が、ここは? パル?」
意識を取り戻した少年は戸惑ったように俺とエリカの間で視線をさ迷わせながらそう言った。




