第16話 ウェルカム トゥ 異世界!!
それからノートを見ているだけで特に変わったこともなく、あっという間に、実行の日である火曜日になっていた。
事前に今日は部室でなく、生徒玄関に来るように言われてた。玄関に向かうと何やら人が集まっていた。しばらくすると人が散らばっていった。その中から横山が出てきて、周りを見渡すようにきょろきょろと顔を振っていた。きょろきょろしていた横山は、俺を見つけると手招きをする。横山のところに行くとバケツと雑巾を持たされた。
「これは?」
「これから、鏡を見に行くのに必要な道具です」
「まるで掃除をしに行くみたいな道具たちだな」
手元を見て俺は答える。
「そうですよ、掃除しに行く名目で鏡を見に行くんですから」
「そうしないとは入れないのか」
掃除の目的じゃないと入れないところに鏡はあるのか。しかし、掃除の目的で入るような部屋は考えても出てこなかった。
「そうでした、まだどこに鏡があるのか伝えてなかったですね」
隣にいた横山が思い出したかのように言った。
「鏡の置いてあった部屋は、私の清掃分担になっている部屋なんですけど、いつもは鍵がかかっている部屋なので、週一回の当番活動の時しか入れないんです」
「その言い方だと、横山が清掃委員会に入っているみたいにきこえるぞ」
「何言ってるんですか、その委員会の委員ですよ」
「え、委員会に入っていたのか」
俺は横山に委員会とか面倒くさいからって入らないイメージを持っていた。横山が入った委員会の当番活動にしっかりと出ていることも驚きだ。
「なんか、先輩失礼なこと考えてません?」
軽く咳ばらいをして平然を装う。なんて勘の良さだ。
「そんなことないぞ」
「そうですか、そんな気がしただけです。じゃあ移動しますよ」
横山が連れてきたところは、一年から三年まで入っている棟の一階の階段だった。
「どこに、鍵がかかっている部屋があるんだ?」
「そこです」と言って階段の裏側を指さした。
指されたところには確かに扉があった。階段の下に壁付けて扉を添えた感じで倉庫になっている。階段の下のデットスペースを利用した物置なのだろう。階段の裏を意識したことなどなかったので物置があることは知らなかった。
「先輩、早く中に入っちゃいましょう」
「そうだな」
横山がポケットから鍵を出して取り付けられた南京錠を開ける。
中に入ると、少々埃っぽいが想像したまでではなかった。
「で鏡はどこにあるんだ?」
ぐるっと見渡した感じ鏡らしきものはなかった。壁に沿って設置された棚には教科者が積み上げられていて、部屋の奥には壊れた机などが乱立に置かれていた。
「布に包まれているこれですね」
横山は部屋の隅に置かれたものに巻かれていた布を勢いよくとった。
「おい、急に布をとるなよ。もっと慎重にだな……」
舞い上がった埃を払いのける。布を被せられていたものは扉大くらいの大判の鏡だった。確かに右下にひびが入っている。
「これがあの鏡?」
「はいこれが、あの鏡です」
「それこそ急に布をめくるなよ、もし本当だったら秒でウェルカムトゥ異世界なんだぞ」
「安心してください」
真剣に事の重大さを伝えようとしている俺の肩に横山が手をポンとのせた。
「その時は一緒ですよ」
「そうか、それは心強い」
横山はなんだかんだ頭よさそうだから、道中も大いに助けになるだろう。確かに横山がいれば一人よりも安心するし。
「って、違うわ。おれはファンタジーなんて求めていない」
肩に置かれた手をどかし、鏡に近づいてみる。鏡は長いことここに置かれているせいか、たくさんの埃がいていた。勇気を出して鏡に触れてみる……だが何も起こらなかった。
「やっぱりただの鏡だったな」
安堵の中に少し期待が外れた気持ちが残る。これがもし本当だったら何かが変わったかもしれないのに。
「布に包まれていたのによく鏡だって分かったな」
手についた埃を払いながら、横山に聞く。
「それは、前見たからですよ」
「前って、いつだよ」
「この委員会の初めての当番活動の時ですから、五月の初めくらいですね」
ずいぶん前から知っているんだな。
「初めての当番活動で布取ったのか?」
だって、と横山の言い訳タイムが始まる。
「もともと委員会なんて入る気なかったんですけど、委員会決めの時隠れてスマホいじっていたら勝手に決まってたんです。掃除なんてもちろんやりたくなかったんで、時間つぶそうとこの部屋うろうろしていたら、何か包まれているものがあったのでその時にバサッと、してもすぐに元に戻したんですけどね」
「興味がそそられてバサッとしちゃったのか」
「先輩も、同じことしますよね?」
するか、しないか、だともちろん後者だろう。しかし、さっきの考えは間違っていなかったようだ。やっぱり、横山は横山だわ。
「先輩また、失礼なこと考えてますね」
「いや、横山は横山だなって考えただけだよ」
「なんかバカにしているような言い方ですね」
ぶつくさ言いながらも鏡をもとのところに戻し、布を被せておく。鏡を元あったところに戻し、軽く掃除をして部屋から出た。横山が鍵をかけたことを確認すると掃除道具を戻しに生徒玄関に戻る。
道具を片付けると、横山はこの後用事があるのでオカ研にはいかないとのことだった。部室の鍵を持ってて一人でまた調べてもいいと言われたが、今日は俺も早めに帰ることにした。今の状況も踏まえてnonさんに相談したかったのでちょうどよかった。
主人公はここから、ステータスが見えるようになったり、魔剣を手に入れたり、幸運値がカンストしたり、誰かの生まれ変わりになったり、死んだり、生き返ったりするかもしれないです。っていう世界腺はずれましたね!
次は久しぶりのオンラインフレンズが登場です。