第13話 オカ研の歴史
「なあ、いったい何冊あるんだ?」
「何ですか、先輩もうギブアップですか?」
横山は机の向かいに座りノートに目を向けている。
「横山こそ、さっきからノートに隠してスマホをいじってるの知ってるからな」
「私がそんなことするわけ……」
横山が右手を素早く後ろに回し、スマホなんてないと左手でノートを見せてくる。隠せていると思っているんだろうが、背中からスマホのストラップが見えていることに本人は気づいてない。
一時間までは、真剣に取り組めていたが、二時間を過ぎると最初のやる気は消えていた。
段ボールから出した時点で薄々気づいていたのだが、昔の部員が多かった時期は人数に比例するようにノートの冊数増える。そしてものによっては右読みで書かれていたりと時代を感じるノートまで混ざりこんでいた。
見たところでは、学校の創立した次の年くらいからノートがある。オカ研という名前からここ二十年くらいにできた部活で、長くても二十年はないと思ってた。オカ研は途中で変わった名称であり最初は物語研究会だったらしい。その頃は超常現象を調べるというよりもこの地域の言い伝えなんかをまとめる活動を行っていたみたいだ。
「オカ研は伝統のある部活だったんだな」
「そうですね、私もびっくりです」
現在、唯一の部員である横山も全く知らなかった。
「オカ研がいつできたかも知らなかったのか」
「はい、何しろ引き継ぎもこのノート達、渡されただけでしたから」
「それだけ?」
「はい」
もう少し、部活として活動していたのなら伝えるべきことがあるはずだと思うが。そこまで意欲的に行っていなかっただろうか。ここ近年になるとあからさまにノートの量は減っていた。今はオカルトなんてそこまで流行ってないからな、仕方ないのか。
いや、もしかすると、ノートが減っているのは理由は、ここ最近の部員の意気込みが少ないのがというのは、フェイク!そして、裏でなにか研究の途中で知ってはならない情報を、知ってしまったために記録を残せなかったのか!
「横山、オカ研を受け継ぐとき、先輩たちはなんか言ってなかったか?」
「ああ、たしかに言ってました」
思い出したように、手をたたいた。
たしか、と横山は声を低く、ひきついだ先輩に似せたトーンにして、
「「ここ、活動なんてないから、やりたいことやっとけ」って」
やっぱり、サボってただけだわ。先輩たちは、やばいことに巻き込まれてなんていなかった。よかった!
それからもなんやかんやで、放課後を使い切ってノートをめくった。
「今日は何も見つかりませんでしたね」
学校から出た帰り道、少し残念そうに横山は言った。
「そうか?確かに今日は見つからなかったかも知れないけど」
「けど?」
「絶対あの中に手掛かりはあることが分かった」
「理由は、勘ですか?」
「もちろん、せっかくみんなが協力してくれてるんだし、『何もありませんでした~』なんて嫌だからな」
自分があると思っているのは根拠も何にもない、でも、言い切れる自信がなぜだかある。ただの勘かもしれないし、もっと広く言うと雰囲気を感じて言っただけかもしれない。でも、彼女を探す理由もこんなもんだから、絶対に何かあると思う。
「先輩、ほんとに楽しそうですね」
「そう見えるのか」
「だって、すごく笑顔なんですもん、楽しんでいる人のそれです」
ここまで熱中しているのは久しぶりだ、思いのほか自分はこの状況を楽しめているのかもしれない。
「これからもよろしくな、横山」
「急にどうしたんですか、当たり前ですよ」
当たり前だったのか、そう言ってくれるのはとても嬉しいことだ。でも、本当に彼女が見つかったとき、横山はどんな反応をするのだろうか。
それからの毎日は充実した日々だった。例のノートを調べ気になったものは端から試していく、失敗に終わればまた他の物を探して実践していくその繰り返しだった。
まず初めに試したのは近くにある神社の犬の像の前で三度回ってワン鳴くというものだった。これを見つけたのは横山だった。
「先輩これ見てください!」
「何か見つかったのか?」
放課後、部室でいつものようにノートをめくっていると、横山が声を上げた。
横山の見せてきたページには一つの噂と思われるものが書かれていた。
『太郎の犬
明穂神社の犬の像のまえで三度回りワンと鳴くと、自分の仲間だと思った太郎が一つ助言をもらえる。数年前に実際に行った男子高校生は翌日に、犬の糞を踏むと助言を聞いたといっていた。その翌日、登校中に犬の糞が本当に落ちていたが、助言をもらっていたので踏むことを回避することができたそうだ。
とても気になるので明日調べようと思う』
と書かれていた。
「太郎の犬って、近くの神社にの端に祀られてるってあれか?」
「そうですよ、そやって書いてあるじゃないですか」
「これがどうしたんだ?特に彼女に関わりはないだろ」
これは声を上げるほどの発見なのか、イマイチわからない。
「先輩、同じことをしたら助言がもらえるんですよ?もしかしたら、彼女に関することも貰えるかもしれませんよ?」
「そうか、でもほんとに助言なんてもらえるのか」
「わからないから試すんですよ、じゃあ明日実際に行ってみましょう」
勝手に予定を決められてしまったが、最近は座っていることが多かったから体を動かすのもいいだろう。
ノート、は基本手書きなので、読めないのもあるっぽいです。
次は、犬に犬の犬をしてみたりします。