3話
何もない白い世界に天使と呼ぶにふさわしい女性が佇んでいた。
まるで元々真っ暗なこの空間を彼女を中心に白く輝かせているようだ。
来た、と心の中でガッツポーズする。夢にまで見た異世界転生だ。
その後の展望を考えあれこれと考えているうちに天使が一言、「それでは」とった。
なにやら呟いているようだったが妄想に夢中で気づかなかった。
「それで何のチート能力をもらえるんで?」自分は尋ねた。
「は?」天使が呆れと怒りが入り混じった声を上げる。
「あなたに与える付加能力はありません」
「それまたなんで」
「あなたは何かをなした偉人でも逆境を跳ねのけたわけでもないでしょう、前方不注意による交通事故ではとても・・・」
はぁ、と気のない返事をしてしまう。
「これから送られる所について教えてくれないですかね」
「先程説明したのですが・・・・・・〇〇という場所です、貧困が深刻で5歳以下の死亡率が8割を超えていますね」
「それは大変だ、死んでしまう」
「他人事ではありませんよ?」
「他にはないのか?そのようなところへ飛ばされるなら元の世界に生まれ変わりたい」
「人としては無理ですね、よくて虫がいいとこでしょう」
「虫・・・ですか?」はい、と天使が頷く。
「なら蝶なんかにはなれないですか」5歳くらいの頃、蝶に憧れていたことを思い出した。
「ええ、いいですよ、それでは」そう言うとすぐ天使が何かを唱え、自分が何か言う暇なく意識が遠のいていく。
目覚めたら自分は蝶だった。
天気は快晴、広がる花畑にひらひらと舞う蝶たち、その一羽になっていた。
差し込む太陽の温かみを全身に受けながら空を漂っていると、人がぞろぞろと花畑を歩いているのが目についた。
恐らくここはどこかの観光地なのだろう。彼らの中にいる小さな子供が自分を指さしているのに気づく。
自分は目一杯に羽を広げ優雅に飛んで見せた。彼はきっと羨ましがるだろう。
自分はきっと、この花園で何よりも輝いていただろう。