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次元境界管理人 〜いつか夢の果てで会いましょう〜  作者: 長月京子
第十一章:心はいつでも、矛盾を抱えている
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49:眠る兄弟

 時計の針が午後の九時を回っても、次郎君と一郎さんがリビングに現れることはなかった。先にジュゼットを寝かしつけた瞳子さんが、二人のチラシ寿司をもって一郎さんの部屋を訪れようとしたので、慌てて阻止する。


「わたしが持って行きますよ」


 万が一、都合の悪い会話を聞かれでもしたら大変だ。

 瞳子さんはわたしの申し出を不審に思うこともなく、夕飯を届けることを任せてくれた。

 一郎さんの部屋を訪れて扉をノックしてみたけれど、中からは反応がない。

 扉に顔をくっつける勢いで室内の様子をうかがってみるけれど、話し声も聞こえてこない。


(まさか、二人でどこかに出かけたとか?)


 わたしは真鍮でできた扉のレバーに手をかけた。鍵がかかっている気配はなく簡単に開く。

 逡巡したけれど、思い切って中をのぞいた。


「失礼します」


 わたしの声にも返答がない。


「え!?」


 不在だと思っていたのに、室内には一郎さんと次郎君の姿があった。

 リビングに似た白い印象の部屋模様。奥にはベッド。手前の壁側には本棚やデスク。

 ベッドとデスクの間には、ゆったりとした白いソファが陣取っている。


 動きのない部屋。

 二人は眠っていた。


 奥のベッドで次郎君が仰向けに横たわっている。白いソファには一郎さんがすこし足を投げ出すようにして身を預けていた。


 予想外の光景にうろたえて、思わず瞳子さんを呼びそうになったけれど、なんとか思いとどまる。

 時任兄弟が揃って眠っている理由。


 冷静さを取り戻すように努めると、心当たりがあった。

 彼らは夢を渡り歩くことができるのだ。以前わたしの夢に次郎君が入って慰めてくれたように。そして、高次元の存在である管理局とも、夢の中でやりとりを行うといっていた。


(普通に眠っているわけじゃない?)


 デスクの上にチラシ寿司を置いて、次郎君に歩み寄る。

 わたしが近づいても起きる気配はない。整った顔には、無邪気な寝顔とはいいがたい険しさ浮かんでいた。うなされていないのが不思議なくらいだ。


(嫌な夢を見ているのかな)


 気持ちが暗くなる。

 次郎君の手にはピンクのカバのぬいぐるみが握られていた。愛嬌のある顔。さっき見た時と変わらず、お腹は不自然に膨らんでいる。

 もしかしてカバさんが二人を夢に誘っているのだろうか。


 わたしはゆっくりと次郎君の傍を離れて、もう一度デスクの上からチラシ寿司を持ち上げて抱える。

 二人を起こすわけにもいかない。そっと部屋を出て、瞳子さんにはありのままを伝えた。


「二人で寝ていたの?」


 リビングのソファで瞳子さんは手帳を見ていた。明日のスケジュールを確認していたみたい。わたしが一郎さんと次郎君の様子を伝えると、こちらを向いたまま首を傾げた。


「呼ばれたのかしら」


「呼ばれるっていうのは?」


「管理局に」


「あ、管理局の出てくる夢を見ているってことですか?」


「そうね。次元エラーも頻発していたみたいだし、何かあるのかも」


「……そうですね」


 カバさんが関わっていると管理局にも変化が把握できない。一郎さんはそう言っていたけれど、あれも嘘なのかな。どこまでが嘘で、どこまでが本当のことなんだろう。


 カバさんのお腹の中にある世界。

 管理局が把握しているのなら世界は復元するはず。でも、未だにジュゼットは帰れないままだし、次元エラーも頻発していた。


 すべてカバさんのせいなのかな。

 管理局も把握できないジョーカーのような存在。


 一郎さんは、本当にそそのかされて繰り返していたのだろうか。


 瞳子さんを失うたびに。

 いつか瞳子さんのいる世界が手に入ると。


 そう信じていたのだろうか。


「あやめちゃん?」


「あ……、えっと」


 いけない。チラシ寿司を抱えたまま黙り込んでしまっていた。


「これ、冷蔵庫になおしておきますね」


「そうね、ありがとう」


 瞳子さんの微笑みを見るのが辛い。キッチンへ向かって、冷蔵庫を開けながら唇をかんだ。

 本当だろうか。本当に瞳子さんは死んでしまったのだろうか。

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