39:立ち入り禁止になった教室
休日明けの月曜日。日曜日に大学の教室で起きたジャングル事件の噂が、すでに学院内に広まっていた。大学側は真偽を計り兼ねているようだったけれど、わたしたちがせっせと準備していた教室は、一時的に立ち入り禁止になってしまった。
学院祭に向けて、お化け屋敷の準備は追いこみ段階だったのに、この仕打ちはつらい。
お化け屋敷を担当するグループで、どうするか話しあってみたものの、機材の運びだしも出来ない状態なので、このままではお化け屋敷の開催を棄権することになりそうだった。
「あーあ、まさかこんなことになるなんて。学院際の準備がなかったら、後期がはじまるまで学校に来る必要ないかも」
友人の里香が残念そうに口を尖らせている。
立ち入り禁止の教室を前になす術もなく、お化け屋敷のグループはひとまず解散になった。
「でも、他の係の手伝いに回るのもありだよ」
教室がジャングルとつながる前、目玉のイタズラ騒ぎで血糊だらけになっていた園子が、わたしの隣から里香に声をかける。
「それもアリだけど。せっかく作っていたのに、もったいないなって」
里香がはぁっとため息をついて「明日からどうしようかな」と肩を落とした。
前期試験が七月末で終了後、後期開始の十月まで講義は行われない。九月に入ってから登校日を設けて徐々に進めていた学院祭の準備は、十月上旬に開催される本番に向けて、九月下旬の今、連日白熱していた。
わたしは一郎さんの助手を体験するという特別授業を受けていることになっていたけれど、みんなは講義もないので、準備に集中していたはずだ。
落胆するのも無理はない。
わたしは里香と園子と共に、ひとまず学食へ行くことにした。
スイーツでも食べて気持ちを切り替えようと言う、安易な提案だった。
学院名物の焦がしマシュマロあんみつを注文して、わたし達は空いている席についた。
「わたしは血糊で汚れて着替えに出ていたから、ジャングルを見ていないんだよね。着替えて戻ってきたら、みんなが騒然としてるんだもん。でもさ、わざわざ大学に報告しなきゃ良かったんじゃない?」
園子は目撃していないせいか、わたしたちより現実味が希薄みたいだ。ジャングルに遭遇したわたしでも、次郎君の事情がなかったら半信半疑だっただろうから、気持ちはよくわかる。
「そうだよね。報告しなきゃ良かったのかも。……でも、あの時はみんな動揺してたから、仕方ない気もする。にしても、集団幻覚? みんなでジャングルを見るなんて、どう考えても意味不明だけど」
手元にあんみつを引き寄せながら、園子がため息をついた。
「あの教室が立ち入り禁止になるなんてね。まさか大学側が信じるとは……」
「それはたぶんコレのせいじゃない? 二人とも見て」
がっくりしながらも、手元のあんみつを口に運ぶ里香とわたしの目の前に、園子がスマホを差し出した。
小さな画面に映るのは、見慣れたSNSのタイムライン。
「!」
思わずびくりと肩が上下する。
昨日、次郎くんが見せてくれたのと同じ動画だった。
「#今日の奇妙な出来事」で投稿された数々の内容は、昨夜よりも更に拡散されたらしく、桁違いの数字を叩き出していた。
「あー! 私もこれ見てたよ」
里香の反応に園子が頷く。
「すごい拡散されてるもんね。最近、わりと話題になってるタグだったし。この動画の動向も鑑みて、大学側もジャングルの報告を聞き流すわけにはいかなくなったんじゃないかって……」
「そういうことか。タイミングが悪すぎたんだ」
「うん。もし何か問題が起きたら、責任をとるのは大学側だから。報告があった以上は無視できないってとこだろうね」
教室がジャングルとつながりました。
嘘みたいな報告なのに、翌日には教室を立ち入り禁止にした迅速な大学の対応に、実はわたしも少し不思議な気持ちがしていたのだ。園子の話で謎が解けた気分だった。
里香が改めて園子のスマホを覗き込みながら感嘆する。
「このタグの動画、ほんとにすごいよね。でも、こんなに出て来ると、ほとんど作り物じゃないかなって思う。今って何でも作れるだなって、だんだん白けてきた」




