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次元境界管理人 〜いつか夢の果てで会いましょう〜  作者: 長月京子
第三章:高次元の管理局

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13:愛する弟への真心

「兄貴! そーゆーとこだよ、兄貴のダメなところ!」


「そうよ、最低だわ!」


「説明不足にもほどがある!」


「無神経よ!」


 呆然とするわたしの周りで、一郎さんへの非難が集中する。

 一郎さんは少し眉を動かしただけで、この場の様子を面白がっているっぽい。


「えっと、それはさすがに少し話が変わっていませんか?」


 一郎さんを責めるみんなの様子で、すっかり冷静になってしまった。

 次郎君の助けになるために結婚っていうのは、話が飛躍というか、ずれている気がする。


「残念ながら、話は全然ずれていないんだよ、あやめちゃん」


「もう兄貴は黙って! 話がややこしくなる! 俺から説明するから!」


「はいはい、じゃあ、ここからは二人でどうぞ!」


 一郎さんはこの成り行きを狙っていたのか、不敵な笑顔でソファから立ち上がった。


「瞳子も無粋なことはするなよ。次郎君の一世一代の告白なんだから! はいはい、邪魔者は退散! 退散!」


「本っ当に一郎は最低だわ!」


「失敬だな。愛する弟への真心だろうが! さぁ、ジュゼットも部屋に戻ろうか。あと、そのピンクのカバのぬいぐるみは俺のラッキーアイテムなんだけど、そろそろ返してもらえないかな」


「駄目ですわ! わたくしのお友達ですもの!」


 ひしっとジュゼットがカバのぬいぐるみを抱きしめる。


「いいじゃないの、一郎」


 瞳子さんがそっとジュゼットの背中を叩く。


「お友達だから大切にしてくれるわよね。いちど、お部屋に戻りましょう」


「はい! ありがとう、トーコ」


 ジュゼットが嬉しそうに笑う。天使の笑顔。一郎さんはやれやれと吐息をついて、次郎君に嘲るような微笑みを向けると、ひらひらと手を振りながら自分の部屋へ引きあげた。


「あとは頑張ってね、次郎君」


「瞳子さんまで、兄貴の調子に乗ってくるのやめて!」


「あら? ごめんなさい。じゃあ、頑張って説明してあげてね」


 瞳子さんも「また後でね」と、ジュゼットを連れて別の部屋へと戻っていく。


 意味が分からないまま、わたしは次郎君と二人でソファに残された。


「えっと?」


 どういうことでしょうか。結婚がほにゃららと言われて、二人きりにされるのは、ものすごく恥ずかしくて、気まずいのだけど。


「なんか、ごめん。あやめ」


「いえ、別に次郎君が悪いわけじゃないですし」


「――それが、そうでもないかも」


「え?」


 わたしは次郎君を見た。目があうと、やっぱり恥ずかしい。


「兄貴が言っていたことは、少し当たってる。ジュゼットの事を見られた時、思ったんだ。このまま巻き込んだら、あやめと仲良くなれるかもしれないって」


 次郎君は自分がイケメンである自覚がないのだろうか。わたしはいつでも喜んで仲良くなりますけども。


「あやめには記憶が変わってしまうっていう、嫌な思いをさせたのに、それでも巻き込んで良かったって、やっぱり思ってる。本当に俺は自分勝手だなって思うよ。だから、ごめん」


 そんなふうに思ってくれていたなんて。次郎君は素直な人なんだな。


「でも、それはジュゼットが元に戻っていたら、助手の体験学習で一週間お世話になったっていう状態で過ぎていたはずだし。次郎君がくれたきっかけは、わたしにもお得感しかないわけで」


 あまり気に病んで欲しくない。次郎君が巻き込んでくれたおかげで、わたしはこの一週間とても楽しかった。多少びっくりするような事情があったけど、それを差し引いても、やっぱりお得感の方が勝っている。


「お得感って」


 次郎君がふっとおかしそうに笑う。ああ、笑ってくれると、とても嬉しくなる。はじめは憧れだけだったかもしれないけど、今は少し違う。次郎君と一緒にいるのが嬉しい。笑顔を見ると、胸がキュッと詰まる。


「そう言ってもらえると、俺もちょっと救われるかな」


「良かった」


 わたしも笑顔を返す。


「ジュゼットのことが解決して、忘れちゃうのは残念ですけど……。わたしが管理局に関われば、少しは次郎君と同じ世界を共有できるのかなって」


「うん。ありがとう、あやめ。そう思ってくれたのは、すごく嬉しい。でもさ、駄目なんだ」


「駄目って?」


「管理局に関われるかどうかは、たぶん血なんだと思う」


「血?」


「そう。どこかで試験を受けたりするわけじゃないんだ。俺も兄貴も生まれた時から決まってた。俺たちの親父もじいちゃんも、家系が代々そうなんだ」


「血統で、決められているんですか?」


「それが血統なのか、遺伝子なのか、管理局の基準は俺たちにはわからないけど。でも、たぶんそういう事かなって思ってる」


「そうですか。……じゃあ、わたしには次郎君のお手伝いはできないのか」


 がっかりしてしまう。肩を落とすわたしの向かい側で、次郎君が「うーん」と唸る。


「――ただ、実は一つだけ方法がある」


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