俺、戦場にドナドナされます。
助手席に座れと言われたので素直に座った。そして、頼まれていたスポーツ飲料のレシートを渡した。すると、彼女は胸の谷間から財布を取り出し、料金をたてかえた。あ、因みに荷物は後部座席に置きました。彼女の胸の谷間は四次元ポケットなのだろうか?そして車が動き出した。
「お使い頼んじゃってすまんな。」
「いえ、朝飯買えたんで別に良いですよ。さっき、食べましたけど。」
「朝飯は何を買ったんだい?」
「ツナマヨおにぎり1個です。」
「全く食わないよりはマシだが、身持つか?」
「ええ、大丈夫です。」
「もし、無理っぽそうだったら言いなよ。途中コンビニに寄るから。」
今気が付いたのだが、天王寺麻友のしているシートベルトが彼女の巨乳と合わさり見事なパイスラッシュを作っていた。
「あ、そうだ。フィールドについたら私の甥と待ち合わせしているから。」
秋葉原を出て少しした時、彼女が言った。
「店長の甥もサバイバルゲームをやっているのですか?」
眠気覚ましのミントタブレットを噛み砕いた後俺は聞いた。
「ああ。私が教えて今年で二年目だ。2~3ヶ月に1,2回のペースで行ってるがそれなりの強さだ。」
「え、甥がいるのですか若いのに。」
すると、天王寺麻友は顔が明るくなり言った。
「私を『若くて美人でスタイル抜群なお姉さん』と言ったな。」
美人とスタイル抜群なお姉さんは言っていませんと言うと面倒くさそうになりそうなので「はい。」とだけ言った。
「お姉さん気分が良いから教えるよ。私の弟の息子だ。あ、そうそう。今後私のことを「麻友さん」って呼んでいいよ。又は「お姉ちゃん」でもOK。」
さ、さいですか・・・・・・。
「んっじゃ、麻友さん。」
するとどうだろう。今までの女マフィアのボスの様な雰囲気が一気に崩れ、超ブラコンの姉のような感じになった。まあ、俺、一人っ子なんで姉とか分からないけどね。
「なあに、高野君。お姉さんに何でも聞いて?」
「今日行くフィールドってどんな感じのフィールドなんですか?」
ニコニコ顔を崩さずに天王寺麻友は答えた。
「今日行くフィールド、高野君にとって人生初のサバゲーデビューのフィールドはな森林フィールドである。とだけ言っておく。私も数年ぶりのサバゲーなんだよね。」
車を走らせて50分ぐらい経過した時、彼女が言った。
「道の駅に寄るぞ。」
「どうしたんです?何か買うのですか。」
「小便」
「あの、麻友さん、女性ならせめて花を摘みに行くと言ってくださいよ。」
すると、彼女は車内に自分と俺しかいないことを良いことに、両手で握っていたハンドルから片手を離し、自身の鼻をほじくりながらこう言った。
「えー、別に今この空間に亮君と私しかいないんだからいいじゃん。」
「鼻ほじくるのもやめてくださいよ。」
うげ、天王寺麻友鼻をほじった指を舐めた。うん、何も言わないぞ。
道の駅に着いた。
「~っ、ちょいと休憩。」
車から降りた天王寺麻友が伸びをしながら言った。巨乳である彼女が伸びをすると胸が目立つ。モデルのようなスタイルなので伸びのポーズも様になるのだが、
「んじゃ、亮君。私、小便してくるわ。とりあえず亮君も小便に行っておけば?」
言動が残念なことがあるのだ。
少し並んだが用を済まし、車の前に行くと彼女が待っていた。
「お待たせしました。」
「遅かったじゃないか亮君。もしかして、個室で私をオカズにしてた?」
見た目からは全く想像も出来ない発言をしたぞ。この女。
「す、するわけないじゃないですか。少し混んでいたんで並んでいたんですよ。」
「ははは、冗談だよ冗談。あ、でも、もしオカズにしたくなったらいつでも言ってくれ。脱ぐから。」
残念な美人だ・・・・・・。サバゲーに行く前から疲れました。
道の駅での小休止も終わり、車を走らせること10分。天王寺麻友が言った。
「後、20分ほどでフィールドに到着する。覚悟は良いかルーキー?」
先程のふざけた表情が消え、きりっとした表情に変わった彼女が言った。車内で鼻をほじりその指を舐めたりした人と同一人物に思えない。思いたくない。
「イ、イエス、マム。」
ギャップに驚きつつも返事をした。
「あの、麻友さん。質問なんですけど。」
「何だ?」
「今日のサバゲーは何人ぐらい集まるのですか?そして、その内何人ぐらいが初心者だったりしますか?」
「今日は日曜日ということもあり70~80人ぐらいだな。初心者は10人ぐらいはいてもおかしくない。」
思っていたよりも、全体の参加者数と初心者の割合だった。森林フィールドということと、その参加者数ということもあり、俺の人生初のサバゲーがどんな感じになるのか想像がつかなくなってきた。少し緊張とワクワク感が体中を支配していると、天王寺麻友が言った。
「他に質問はないか?」
特に無いので戦争映画に出てくる新兵の様な感じで
「無いです。マム。」
と答えた。すると天王寺麻友は
「よし、気に入った。帰ったら私を○○○〇して良いぞ。」
と言いやがった。
先程のやり取りから数分後彼女が口を開いた。
「さあ、ついたぞ高野君。お前の人生初の死なない戦争・生存遊戯・サバイバルゲームのフィールド『アクシズ』だ。」
フィールドのスタッフに誘導され車を駐車場の真ん中ぐらいに止めた天王寺麻友。この時間でも10台近くの車があった。駐車場からフィールドがどんな感じなものか分かるかと思ったら周囲を大木やコンテナで隠されていて見えなかった。しかし、時折だが小さい硬い物が金属に当たる音が奥からカーン、カーンと聞こえてくる。
「さて、もう甥が待っているはずだから荷物を持ったら奥に進むぞ。」
と、後部座席から荷物を取り出しながら天王寺麻友が言った。車から荷物を出し、奥へと続く砂利道を1分ほど歩いた。すると、木々しかなかった空間から受付と書かれた看板が立てかけられてあるプレハブの小屋と長テーブルと椅子がいくつも置かれたのが何セットもあるのが出てきた。
「さてと、先ずは受け付けに行って参加料金の支払いと予約の確認だ。」
と天王寺麻友が言った。彼女の後を歩き、先程見えたプレハブ小屋の前についた。
「おはようございます。予約していた天王寺です。」
「おはようございます。お待ちしておりました天王寺様。二名で昼ごはんも二名分でお間違えないですね。では、参加料金の支払いをお願いします。」
と、白髪交じりの挑発を束ねた男性が対応した。俺と天王寺麻友が参加費と昼飯代を支払ったのを確認したら男性が言った。
「では、奥の方から席を譲り合って座ってください。」
受付を済まし、席のある方を彼女が少し見渡している。
「甥が先に来ている筈なんだけど。」
セーフティーと呼ばれているエリアには他の参加者が何人も装備に着替え談笑している。皆、場数を踏んでいるようにしか見えなかった。中には女性の参加者もいた。
「あ、いたいた。伯母さん。こっちですよ。」
と、左奥の方から声がした。
「おーい。今行く。」
と彼女が返事した。
「んじゃ、高野君。行こうか。」
彼女がセーフティーエリアに足を入れた瞬間、周りの参加者が異様な包まれた。
「おい、あの女って伝説の女サバゲーマー天王寺じゃないか?!」
「隣にいる若いのはSPか?」
「天王寺のいるチームは勝率がやけに高くなる。しかも、彼女の参加した定例会で彼女のいたチームの合計の敵を倒した数の3分の1は彼女一人の手柄って噂だぞ。」
なんて声が聞こえてきた。
「お待たせ。」
と、先に来ていた天王寺麻友の甥の待つ席にたどり着くと
「せ、先輩?!お久しぶりです。」
「お、元気にしてたか高野。お前がサバゲーを始めるとはな。伯母からLINEで今度のサバゲーに初心者一人を連れて行くと連絡があったが、まさかお前だったとはな。」
なんと、彼女の甥は高校時代の先輩(帰宅部。アニメショップで知り合った。)だったのだ。
「先輩こそ元気で何よりです。」
「ん?二人は知り合いだったのか。じゃ、紹介は要らないね。」
と荷物を席に置きながら天王寺麻友が言った。
「んじゃ、私は更衣室で着替えてくるから。」
「男性はどこで着替えるのですか?」
すると、先輩が彼女に代わって答えた。
「それなんだがな高野、男性は更衣室が無いんだ。席で着替えるんだ。」
先輩が答えた。いつの間にか天王寺麻友はいない。
「マジですか。」
「ああ、マジだ。」
着替えている最中、先輩が聞いてきた。
「そういえばなんだが高野、何でサバゲーを始めようと?それと、何故伯母と知り合いだったんだ?」
「ああ、それはですね・・・、かくかくしかじか・・・・・・。」
俺は、今現在就職せずフリーターでコンビニでバイトをしていること、コンビニの客がサバゲーマーでサバゲーショップ鯖芸のチラシをくれたこと、んで行った店の店長が天王寺麻友だったということを言った。
「そういうことだったのか。人生、何が起こるか分からないな。」
「俺だって先輩とここで再会するなんて思っても無かったですよ。」
俺と先輩も着替え終わり談笑している。先輩の装備が凄かった。何か、こう、モジャモジャした緑の蓑のようなものを纏っているのだ。
「あの、先輩が着ているのは何ですか?」
「これか。これはギリースーツっていうんだ。森林フィールドで上手く使うと効果が発揮される。森の妖精さんなりきりグッズみたいなもんだ。スナイパーが使うと良いかも。」
「先輩はスナイパーなんですか?先輩の持ってきた銃は今現在のサバゲーで不利なボルトアクションですけど。」
すると、先輩は「分かってないなあ。」てきなジェスチャーをしながら続けた。
「確かに、お前の言う通りだ。しかし、サバゲーは一発でも当たれば退場だ。しかし、電動ガンよりも静音性で有利であるし、ほとんどのボルトアクションがエア―コッキング式だから季節を選ばず使える。そして何より」
「何より?」
「ロマンだ。カッコイイじゃないか。一撃必殺なんていいではないか。」
「ロマンですか・・・・・・。」
これから人生初のサバゲーである俺には正直分からない。脳内には?のお花畑が満開である。
「敵から分からない位置に隠れ、スコープを覗き標準を敵に合わせコッキングしトリガーを引く。40メートル先の敵に一発で当たりヒットさせたら気持ちが良いぞ。」
と、先輩は持ってきた銃を「このM40は良い銃だ。」と言いながら撫で始めた。
「お待たせ。」
と後ろから声がした。振り向くと後ろには、胸が強調されるコルセットリグ(後に彼女に聞いた。)を装備し濃い緑色が主な迷彩服に着替えた天王寺麻友が立っていた。
「さてと、揃ったところだし弾速計測に行くとしますか。」
と腰に両手を当てながら彼女が言った。俺はバッテリーを銃に入れた。そして、BB弾の入ったボトルの蓋を開け、ローダーに弾を流し込みマガジンにローダーを使い弾を入れた。
「高野は、初めての銃をM4SOPMODにしたのか。」
「はい。選んだ理由がただの見た目で選んだというか一目ぼれと言うかなんですけど。」
「いいんじゃないの?俺もM40を見た目で選んだし。まともにゲームで使えるようにカスタム代がかなりかかったけど・・・・・・。」
弾速計測は試射レンジで行われた。スタッフに弾の重さを申告し、数発撃ち規制値をオーバーしていないかを計った。三人とも無事に計測を終え、ホップ調整ということした。
ホップ調整とは弾に上向きの回転を掛けることで遠くまで飛ばすようにすることであり、弾の重さ・その日の気温・弾のブランド等の要素で変化するデリケートなもの(天王寺麻友談)らしい。
「皆さんおはようございます。」
先程、受付をしていた男性が、皆が弾速チェックを終えホップ調整を終えた頃、参加者を受付前に集め朝礼を始めた。
「本日はアクシズ定例会に参加していただき有難うございます。本日はサバゲーにもってこいのいい天気です。熱中症やけがに気を付けて存分に楽しんでください。因みに参加者は100人です。」
次にサバゲーの基本のマナーを説明した。これは、以前買ったサバゲー雑誌に書いてあった通りのことばかりだった。
「今日がサバゲー初めてという方はどのくらいいますか?手を挙げてください。」
すると、俺を含めて10人が手を挙げた。
次にチーム分けをした。赤色チームと黄色チームに分かれたのだが、俺と先輩と天王寺麻友店長は同じ赤チームに分けられ、赤いチームマーカーを左右の二の腕に巻かれた。更に、初心者は両チーム同人数になるように分けられ、初心者と分るように白い幅広のテープを腕に巻かれた。
「どんな気分だ高野?緊張してきた?」
先輩が話しかけてきた。ギリースーツのせいで声でしか先輩としか判断できないぐらいギリースーツを着こんでいる。。
「緊張しますし、周囲の参加者にも圧倒されます。なんか、ガチ勢って感じで。」
「誰だって最初はお前みたいに感じるもんだ。俺だって最初はそうだった。」
そういうと、先輩は他の参加者と談笑し始めた。お互いの装備について話し合ったり、銃のカスタム論について話しているようだ。
参加者全員が未だに銃にマガジンを入れていない。というのも、フィールド内以外では、試射場以外でのマガジンは常に暴発防止のための対策として外しておかなければならないからである。後は、セレクターの位置をSに合わせておくのがマナーというかルールなのである。天王寺麻友店長はというと
「ねえ?亮君。お姉さんが手取り足取り教えてあ・げ・る。」
なんて初対面の頃からは全く想像できない色っぽい感じに迫っていている。
「伯母さん、高野が困ってるから。後、お姉さんって年齢じゃないでしょ(笑)。」
と先輩が助け?を入れてくれたのだが、
「あ?お前、何言った?」
麻友さんが般若のような形相に代わり先輩に詰め寄った。そして、先輩のこめかみをこぶしでグリグリした。
「た、高野助けてくれー。」
と先輩が俺にヘルプを求めてきた。ヘルプにはいてしまうと面倒になりそうなので
「仲良きことは良いこと」
とヘルプには入らなかった。入らなかったから俺には何も無いと思っていたのだが、先輩をグリグリしていた天王寺麻友がグリグリを止めずに顔だけを俺に向け
「ねえ、亮君は私のことを『お姉さん』って思うでしょ?」
と聞いてきた。もし、彼女の頭上にゲームのキャラのように吹き出しが出現するならそこには『思いなさい。』と激しく強調された状態で出ると思う。
「えー、そーですねーお姉さんだと思います(棒)。」
と、適当に流し答えた。そして俺は、ブーツの靴ひもを結び直した。
「お姉さんは分かっていたよ。亮君が私のことを『美人でスタイル抜群なお姉さん』と答えてくれるなんて。」
と美人でスタイル抜群と余計なのを加えつつ言いながら俺にハグをしてきた。あ、いい匂いがする。
「や、止めてください。他の参加者も見ているじゃないですか。」
かなりきつめのハグに耐えていると、俺を見ていた他の参加者の内の一人が
「頑張れ青年。」
とグッドサインをしただけで助けてはくれなかった。
やっとハグから解放され「大変だったな。」「先輩こそグリグリ大丈夫でしたか?」なんて先輩と話していると、
「お待たせしました。本日最初のゲームはフィールドを知ってもらいたいので表裏各15分間の無限復活戦です。今から10分後にフィールドインを締め切ります。赤チーム黄色チームのそれぞれのスタート地点はフィールド入り口のホワイトボードに張ってありますので確認をお願いします。フィールドインの際はマスクやゴーグルの着用をお願いします。」
とスタッフからアナウンスがかかった。
「さて、行きますか。」
先輩が俺に声をかけた。いよいよ、人生初のサバゲーが始まるのだ。緊張してきた。セーフティーエリアとフィールドの境界のネットをくぐろうとした瞬間、後ろから天王寺麻友が
「大丈夫?緊張してる?オッパイ揉む?」
と言ってきやがった。
「緊張はしています。揉みません。」
「本当に?もし、揉みたくなったら言ってね。」
赤チームのスタート地点はフィールド奥の櫓付き二階建ての小屋の前で対する黄色チームのスタート地点はフィールドに入ってすぐにある竹で組み立てられた小屋の前である。
裏表とあるので、前半と後半で赤と黄色のスタート地点をチェンジするのだ。
「いよいよ始まるのですね。」
俺と麻友さんと先輩を含む赤チームの全員がスタート地点の小屋の前に到着した。前半戦のスタート地点の付近は木々が生い茂っているためか少しばかり薄暗い。
「俺は好きに動くけどお前はどうする?伯母に付いて行くか?」
先輩が俺の問いかけに答えた。
「そうですね。無限復活戦は伯母に付いて行こうと思います。」
「ん、分かった。だそうだけど、それでいい?」
先輩が伯母である天王寺麻友に聞いた。
「いいよ。むしろ歓迎しちゃう。亮君だもの。」
初対面での印象を失くしたくなかった。
向こうから蛍光オレンジの色のゼッケンを着たスタッフがやって来た。
「赤チームの皆さんお待たせしました。準備は良いですか?」
すると、他の参加者の何割かが「いえーい」と叫んだ。
「元気があって良いですね。では、銃にマガジンを入れてください。まだ、セーフティーはカウントダウン開始まで解除しないでください。」
心地良いそよ風が吹いた後、スタッフの無線に「黄色チームの準備OKです。赤チームどうですか?」と連絡が入った。